分娩損傷

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 4月
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分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術,吸引分娩中位鉗子分娩または高位鉗子分娩に代わり帝王切開を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。

新生児が在胎期間に対して大きい場合(母体糖尿病に関連する場合がある)や,骨盤位や他の異常胎位である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。

頭部(頭蓋外)の損傷

頭部の損傷は,出生に関連する最もよくみられる損傷であり,通常は軽度であるが重篤な損傷がときに起こる。

顔面神経の損傷

顔面神経が損傷を受けることが最も多い。鉗子による圧迫が一般的な原因であるが,一部の損傷は胎位によって(例,頭部が肩,仙骨岬角,または子宮筋腫の方向に倒れていることによって)子宮内で神経が圧迫された結果であると考えられる。

顔面神経の損傷は通常,茎乳突孔からの出口部またはその遠位で生じ,その結果,特に泣いているときに顔面非対称となる。顔面のどちら側が損傷を受けているのかの判断に迷うことがあるが,神経損傷のある側の顔面筋は動かない。損傷は個々の神経枝に生じることもあり,下顎縁枝に生じることが最も多い。

顔面非対称の別の原因として子宮内での圧迫による下顎非対称があり,この場合,筋の神経支配は損なわれておらず,顔面の両側が動く。下顎非対称では上顎咬合面と下顎咬合面が平行ではなく,これにより顔面神経損傷と鑑別できる。非対称の笑顔を起こしうる先天異常に,口角下制筋の片側性欠損がある;この異常は臨床的に重要ではないが,顔面神経の損傷と鑑別しなければならない。

顔面神経末梢部の損傷または下顎非対称に対して,顔面神経損傷の検査や治療は必要ない。通常,生後2~3カ月までに消失する。

腕神経叢損傷

腕神経叢損傷は肩甲難産骨盤位娩出,頭位における頸部過外転による,分娩中の頸部の外側への伸展に続いて起こることが多い。損傷は,神経の単純な伸展,神経内出血,神経または神経根の裂傷,頸髄損傷を伴う神経根の引き抜きなどにより起こりうる。関連する損傷(例,鎖骨または上腕骨の骨折,肩または頸椎の亜脱臼)がみられることがある。子宮内での圧迫も一部の症例で原因となる。

損傷が影響する部位は以下の通りである:

  • 腕神経叢(C5~C7):肩および肘周囲の筋肉

  • 下腕神経叢(C8~T1):主に前腕および手の筋肉

  • 全腕神経叢:上肢全体およびしばしばT1交感神経

神経根損傷の位置および型によって予後が決定する。

Erb麻痺は,最もよくみられる腕神経叢損傷である。Erb麻痺は,前腕の回内を伴う肩の内転および内旋を引き起こす腕神経叢(C5~C7)の損傷である。ときに上腕二頭筋反射は消失し,Moro反射は非対称である。同側に横隔神経損傷による横隔膜麻痺もよくみられる。通常,Erb麻痺の治療は理学療法および保護的な姿勢による支持療法であり,腕を上腹部に固定することによって肩が過度に動かないように保護する方法,生後1週間から罹患関節に対する愛護的な他動的関節可動域訓練を毎日実施することにより拘縮を予防する方法などがある。

乳児におけるErb麻痺
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この写真には,Erb麻痺における,肩関節の内旋,肘関節の伸展,ならびに手関節および指の屈曲が写っている。
© Springer Science+Business Media

Klumpke麻痺はまれであり,手および手首の脱力または麻痺を起こす下腕神経叢損傷である。把握反射は通常消失するが,上腕二頭筋反射はみられる。しばしば,T1交感神経が罹患し同側にホルネル症候群(縮瞳,眼瞼下垂,顔面無汗症)が生じる。通常は他動的関節可動域訓練が唯一必要とされる治療である。

一般的に,Erb麻痺とKlumpke麻痺のいずれも,断裂または引き抜けを示唆する明白な感覚消失を生じることはない。通常,これらの病態は急速に改善するが,障害が持続することもある。障害がより重度である場合や1~2週間を超えて持続する場合は,理学療法または作業療法により適切な肢位を取らせたり,腕を愛護的に動かしたりすることが推奨される。1~2カ月にわたり改善がみられなければ,長期の障害および成長障害のリスクが上昇する。外科的検索と顕微鏡手術下に行う神経移植による腕神経叢の再建が予後を改善する可能性があるかどうかを判断するための小児専門病院での小児神経科医および/または整形外科医による評価が適応となる。

腕神経叢全体の損傷は比較的まれであるが,結果として上肢は弛緩しほとんどまたは全く動かず,反射の欠如,および通常は感覚も消失する。最重症例では,同側のホルネル症候群がみられる。同側性の錐体路徴候(例,動きの減少,バビンスキー徴候)は脊髄損傷を示唆し,MRIを行うべきである。

横隔神経損傷

ほとんどの横隔神経損傷(約75%)は腕神経叢損傷に関連する。通常,損傷は片側性で,頭頸部の牽引損傷により生じる。

乳児には呼吸窮迫および患側の呼吸音減弱がみられる。

横隔神経損傷の治療は支持的に行い,典型的には持続陽圧呼吸療法または機械的人工換気を必要とする。約3分の1の乳児は生後1カ月以内に自然に回復する。回復しない乳児は,外科的横隔膜縫縮術を必要とすることもある。

その他の末梢神経損傷

新生児では,他の末梢神経(例,橈骨神経,坐骨神経,閉鎖神経)の損傷はまれであり,また通常は分娩と関連しない。通常は局所の外傷的事象(例,坐骨神経内またはその近傍への注射)に続発するものである。

末梢神経損傷の治療には,麻痺した筋に拮抗する筋を回復まで安静に保つ方法がある。損傷神経の脳神経外科的検索が適応となることはまれである。ほとんどの末梢神経損傷で完全な回復が得られる。

脊髄損傷

脊髄損傷( see also page 小児における脊髄損傷)はまれであり,損傷の程度は様々で,出血を伴うことが多い。脊髄の完全な損傷は極めてまれである。通常,骨盤位分娩で脊椎に縦方向の過剰な牽引力がかかることにより損傷が生じる。硬膜外出血による脊髄圧迫または子宮内での児頸部の過伸展(「flying fetus」)が原因となる可能性もある。通常は下頸部(C5~C7)に損傷が生じる。高位に損傷が生じると,呼吸機能が完全に損なわれるため,通常は致死的である。分娩時にクリック音またはスナップ音が聞かれることがある。

まず損傷部位より下位に筋弛緩を伴う脊髄ショックが起こる。通常,損傷部位より下位では感覚または運動がまばらに存在する。数日または数週間以内に痙縮が発現する。横隔神経は起始が典型的な脊髄損傷部位より高位(C3~C5)に位置しており損傷されないため,呼吸は横隔膜性となる。脊髄が完全に損傷されると,肋間筋および腹筋が麻痺し,直腸および膀胱の括約筋の随意調節が発達しない。損傷部位より下位では感覚および発汗が失われ,環境の変化に伴う体温変動を引き起こしうる。

脊髄のMRIによって損傷部位を描出できることがあり,脊髄を圧迫している先天性腫瘍や血腫など外科的に治療可能な病変が除外される。髄液は通常,血性である。

ほとんどの新生児は,適切なケアによって何年も生存する。死因は通常,反復性肺炎および進行性の腎機能喪失である。脊髄損傷の治療には,看護による皮膚の潰瘍予防,尿路および呼吸器感染症の迅速な治療,閉塞性尿路疾患の早期発見のための定期的な評価などがある。

頭蓋内出血

脳内または脳周囲の出血はどの新生児にも発生しうるが,特に早産児によくみられ,1500g未満の早産児の約25%に頭蓋内出血がある。

頭蓋内出血の主要な原因としては以下のものがある:

  • 低酸素虚血

  • 血圧の変動

  • 再灌流を伴う低灌流

  • 分娩中の頭部にかかる異常な圧力

早産児では胚芽層(側脳室側壁の尾状核上を覆う胚性細胞の塊で,出血しやすい)の存在が,脳室内出血の可能性をさらに高くする。また,血液疾患(例,ビタミンK欠乏症血友病播種性血管内凝固症候群)によってもあらゆる頭蓋内出血のリスクが増大する。

出血はいくつかの中枢神経系の腔に生じうる。くも膜下,大脳鎌,およびテントでの小出血は,非中枢神経系の原因により死亡した新生児の剖検でよく得られる偶発的所見である。くも膜下もしくは硬膜下,脳実質,または脳室での大出血は,頻度は低いがより重篤である。

以下がみられる新生児では頭蓋内出血が疑われる

  • 無呼吸

  • 痙攣

  • 嗜眠

  • 神経学的異常所見

そのような乳児には,最初の評価の一部として頭部画像検査を行うべきである。頭部超音波検査はリスクがなく,鎮静を必要とせず,脳室または脳実質内の血液を容易に同定できる。くも膜下または硬膜下の薄い血液層および骨損傷には,超音波検査よりもCTの方が感度が高いが,CTは乳児を電離放射線に曝露させる。頭蓋内出血および脳損傷には,CTまたは超音波検査よりもMRIの方が感度および特異度が高いが,画像の描出にはCTより時間がかかる。頭蓋内出血を迅速に同定するためにはCTを行う。

頭蓋内出血の治療は出血の部位および重症度に依存するが,通常は支持療法のみを施行し,ビタミンKの投与(前に投与されていない場合),および基礎に何らかの凝固異常があればその管理などを行う。重大な出血(例,硬膜下出血)の場合は,介入を要する乳児を同定するため,神経外科へのコンサルテーションを行うべきである。

骨折

出生時に最もよくみられる骨折である鎖骨中央部の骨折は,肩甲難産のほか,外傷を伴わない正常分娩でも発生する。当初は,ときに易刺激性がみられ,自発的にもMoro反射が誘発された場合にも患側の腕を動かさないことがある。ほとんどの鎖骨骨折は若木骨折であり,速やかに問題なく治癒する。このような骨折は病院での診察時にはよく見落とされ,1週間以内に骨折部位に大きな仮骨が形成されてから診断される場合が多い。リモデリングが1カ月以内に完了し,後遺症は残らない。

特異的な治療は必要ないが,シャツの患側の袖を反対側にピンで留めることで1週間腕を動かさないよう試みることを推奨する医師もいる。鎖骨骨折のある乳児は典型的には痛みの徴候を示さないため,鎮痛薬は必要ない。

上腕骨および大腿骨は難産で骨折することがある。そのほとんどは骨幹部中1/3の若木骨折であり,初めに中等度の屈曲が生じても,通常は骨の極めて良好なリモデリングがこれに続く。長管骨の場合は骨端線を超えて骨折することがあるが,予後は極めて良好である。

軟部組織損傷

全ての軟部組織は,先進部であるかまたは子宮収縮力の支点である部位であれば,分娩中に損傷を受けやすい。損傷後,特に顔位では眼窩周囲および顔面の組織,骨盤位分娩では陰嚢または陰唇に,浮腫および斑状出血が発生することが多い。血腫が発生すると常に,その組織内の血液分解およびヘムのビリルビンへの変換が起こる。このビリルビンの追加負荷が,光線療法,およびまれに交換輸血を必要とするほどの新生児高ビリルビン血症を引き起こすことがある。他の治療は必要ない。

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