突発性難聴は,数時間以内に突然発生する,または起床時に認識される,中等度から高度の 感音難聴 病態生理 全世界で約5億人(世界人口の約8%)が難聴を有する( 1)。米国では,10%以上の人に日常のコミュニケーションを損なうある程度の難聴があり,難聴は最も一般的な感覚器障害である。新生児の約800~1000人に1人には,出生時に高度から重度の難聴がある。その2~3倍で,それより軽度の難聴が出生時にみられる。小児期には,さらに1000人に2~3... さらに読む である。毎年,約5000~1万人に1人が発症する。初期の難聴は通常片側性であり(薬剤性のものは除く),重症度は軽度から重度まで幅がある。多くは 耳鳴 耳鳴 耳鳴とは,耳に生じるノイズのことである。人口の10~15%が経験する。 自覚的耳鳴は,音刺激がない状況での音の知覚であり,それは患者にしか聞こえない。大半の耳鳴は自覚的耳鳴である。 他覚的耳鳴はまれであり,耳付近の構造により発生する雑音に起因する。ときに,この耳鳴は検者にも聞こえるほど大きいことがある。 耳鳴は,ビービー,リンリン,ゴーゴー,ヒューヒュー,シューシューのように表現され,ときに変化を伴う複雑な音である。他覚的耳鳴は,典型的... さらに読む を伴い,場合によっては浮動性めまい, 回転性めまい 浮動性めまいと回転性めまい めまいとは,以下のような互いに関連する様々な感覚を表現するために,患者が使用する,不明確な用語である: 失神感(失神が切迫した感覚) ふらつき 平衡異常感または不安定感 漠然とぼうっとする感覚または頭がくらくらする感覚 さらに読む ,またはその両方を伴う。
突発性難聴には慢性難聴と異なる原因があり,直ちに対処しなければならない(1 総論の参考文献 突発性難聴は,数時間以内に突然発生する,または起床時に認識される,中等度から高度の 感音難聴である。毎年,約5000~1万人に1人が発症する。初期の難聴は通常片側性であり(薬剤性のものは除く),重症度は軽度から重度まで幅がある。多くは 耳鳴を伴い,場合によっては浮動性めまい, 回転性めまい,またはその両方を伴う。 突発性難聴には慢性難聴と異なる原因があり,直ちに対処しなければならない... さらに読む )。
(難聴 難聴 全世界で約5億人(世界人口の約8%)が難聴を有する( 1)。米国では,10%以上の人に日常のコミュニケーションを損なうある程度の難聴があり,難聴は最も一般的な感覚器障害である。新生児の約800~1000人に1人には,出生時に高度から重度の難聴がある。その2~3倍で,それより軽度の難聴が出生時にみられる。小児期には,さらに1000人に2~3... さらに読む も参照のこと。)
総論の参考文献
1.Chandrasekhar SS, Tsai Do BS, Schwartz SR, et al: Clinical practice guideline: Sudden hearing loss (update).Otolaryngol Head Neck Surg 161(1 Suppl):S1-S45, 2019.doi: 10.1177/0194599819859885
突発性難聴の病因
突発性難聴の一般的な特徴を以下に示す:
大半の症例は特発性である(突発性難聴の主な原因 突発性難聴の主な原因 の表を参照)。
一部の症例は明らかに原因の説明となるイベントの経過中に起こる。
少数は,潜在性であるが,同定可能な疾患の初発症状である。
特発性:エビデンス(ただし相反し,不完全である)が存在する理論が多数ある。最も有望な可能性として,ウイルス感染(特に, 単純ヘルペス ヘルペスウイルス感染症の概要 ヒトに感染するヘルペスウイルスとしては,8つの型が存在する( Professional.see table ヒトに感染するヘルペスウイルス)。初回感染後,全てのヘルペスウイルスは特定の宿主細胞内に潜伏し続け,その後再活性化することがある。初感染による臨床症候群は,それらのウイルスの再活性化によって引き起こされるものとは大きく異なることがあ... さらに読む が関与するもの),自己免疫による攻撃,および急性の微小血管閉塞などがある。
明らかなイベント:突発性難聴の原因の中には容易に明らかになるものがある。
側頭骨骨折または蝸牛に影響する重度の振盪を伴う鈍的頭部外傷は,突発性難聴を引き起こす可能性がある。
周囲の大きな圧変化 耳および副鼻腔の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。耳(耳痛,難聴,および/または前庭症状が生じる)または副鼻腔(痛みおよび鼻閉が生じる)に起こりうる。診断にはときに聴力検査および前庭機能検査が必要となる。治療としては,必要に応じて,鼻閉改善薬,鎮痛薬,およびときにコルチコステロイド経口投与または内耳,中耳,あるいは副鼻腔の重篤な損傷に対する外科的修復などがある。... さらに読む (例,ダイビングにより引き起こされるもの)または激しい運動(例,重量挙げ)が内耳と中耳との間に外リンパ瘻を誘発し,突発性に重度の症状を引き起こす可能性がある。外リンパ瘻は先天性の場合もある;外リンパ瘻によって自然発生的に突発性難聴が生じるか,または外傷もしくは大きな気圧の変化に続いて難聴が起こる場合もある。
聴器毒性のある薬剤 薬剤性聴器毒性 様々な薬剤が聴器毒性を有する可能性がある。 聴器毒性に影響を与える因子としては以下のものがある: 投与量 治療期間 腎不全の併発 さらに読む は,特に過量投与(全身投与や熱傷などの広範な創傷部に使用した場合)により,ときに1日以内に難聴を生じることがある。アミノグリコシド系薬剤の聴器毒性に対する感受性を増大させる,ミトコンドリアを介するまれな遺伝性疾患が存在する。
一部の感染により,急性疾患の最中またはその直後に突発性難聴が生じる。一般的な原因は, 細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎は,急速に進行する髄膜およびくも膜下腔の細菌感染症である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は抗菌薬およびコルチコステロイドにより,これらを可及的速やかに投与する。 ( 髄膜炎の概要および 新生児細菌性髄膜炎も参照のこと。) 最も一般的には,細菌が血流を介してくも膜下腔および髄膜に達する。細菌はまた,感染した近傍の構造物から,あるいは先天性または後天性の頭蓋骨または脊椎の欠損を介... さらに読む , ライム病 ライム病 ライム病は,スピロヘータの一種であるBorrelia属細菌によって引き起こされるダニ媒介性感染症である。初期症状に遊走性紅斑があり,数週間から数カ月後には神経,心臓,または関節の異常が続発することがある。病初期では主に臨床所見から診断するが,疾患後期に発生する心臓合併症,神経系合併症,およびリウマチ性合併症の診断には血清学的検査が役立つ可能性がある。治療はドキシサイクリンやセフトリアキソンなどの抗菌薬による。... さらに読む ,および蝸牛(およびときに前庭器官)を障害する多数のウイルス感染などである。先進国で最も一般的なウイルス性の原因は, 流行性耳下腺炎 ムンプス ムンプスは,通常は唾液腺(最も多くは耳下腺)の有痛性腫脹を引き起こす,感染性の強い全身性の急性ウイルス性疾患である。合併症として,精巣炎,髄膜脳炎,膵炎などが起こりうる。診断は通常臨床的に行い,症例は全て速やかに公衆衛生当局に報告する。治療は支持療法による。ワクチン接種が予防に効果的である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウ... さらに読む および ヘルペス ヘルペスウイルス感染症の概要 ヒトに感染するヘルペスウイルスとしては,8つの型が存在する( Professional.see table ヒトに感染するヘルペスウイルス)。初回感染後,全てのヘルペスウイルスは特定の宿主細胞内に潜伏し続け,その後再活性化することがある。初感染による臨床症候群は,それらのウイルスの再活性化によって引き起こされるものとは大きく異なることがあ... さらに読む である。 麻疹 麻疹 麻疹は,小児で最も多くみられる感染性の高いウイルス感染症である。発熱,咳嗽,鼻感冒,結膜炎,口腔粘膜の粘膜疹(コプリック斑),および頭尾方向に拡大する斑状丘疹状皮疹を特徴とする。診断は通常,臨床的に行う。治療は支持療法による。予防接種が非常に効果的である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウイルスについては,... さらに読む は,人口の大半が予防接種を受けているため,非常にまれな原因である。
潜在性の疾患:突発性難聴はまれに,通常は別の初発症状がみられる疾患において,単独の初発症状として現れる場合がある。例えば,突発性難聴はまれに, 聴神経腫瘍 聴神経腫瘍 聴神経腫瘍(聴神経鞘腫とも呼ばれる)は,第8脳神経のシュワン細胞由来の腫瘍である。症状としては片側難聴などがある。診断は聴覚検査に基づき,MRIによって確定する。必要な場合の治療は,外科的切除,定位放射線治療,またはその両方による。 聴神経腫瘍はほとんどの場合,第8脳神経の前庭神経から起こり,全頭蓋内腫瘍の約7%に相当する。腫瘍が拡大するにつれて,腫瘍は内耳道から小脳橋角部に向かって突出し,第7脳神経および第8脳神経を圧迫する。腫瘍が拡... さらに読む , 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。一般的な症状としては,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度の認知症の症状などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法としては,急性増悪に対するコルチコステロ... さらに読む , メニエール病 メニエール病 メニエール病は,回転性めまい,変動性の感音難聴,および耳鳴を引き起こす内耳の疾患である。信頼できる診断検査はない。回転性めまいおよび悪心は,急性発作時に抗コリン薬またはベンゾジアゼピン系薬剤を用いて,対症的に治療する。第1選択の治療である利尿薬および減塩食によって,しばしば発作の頻度および重症度が低下する。重症例または難治例の場合,ゲンタマイシンの局所投与または手術により,前庭系を破壊することがある。... さらに読む ,または小脳の小さな血管障害の初発症状である場合がある。HIV感染患者での 梅毒 梅毒 梅毒は,スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)によって引き起こされる疾患で,臨床的に3つの病期に区別され,それらの間には無症状の潜伏期がみられることを特徴とする。一般的な臨床像としては,陰部潰瘍,皮膚病変,髄膜炎,大動脈疾患,神経症候群などがある。診断は血清学的検査のほか,梅毒の病期に基づいて選択される補助的検査による。第1選択の薬剤はペニシリンである。... さらに読む の再活性化が,まれに突発性難聴を引き起こす場合がある。
コーガン症候群 コーガン症候群 コーガン症候群はまれな自己免疫疾患で,眼および内耳を侵す。 コーガン症候群は若年成人に発生し,患者の80%は14~47歳である。本疾患は,角膜および内耳に共通する未知の自己抗原に対する自己免疫反応が原因であると考えられている。約10~30%の患者では重度の全身性血管炎もみられ,その中には生命を脅かす 大動脈炎も含まれる場合がある。 ( 角膜疾患に関する序論も参照のこと。) 主症状は,眼科系が38%,前庭聴覚系が46%,その両方が15%で... さらに読む は,角膜および内耳に共通の未知の自己抗原に対するまれな自己免疫反応である;患者の50%超に前庭および聴覚の症状がみられる。約10~30%の患者では重度の全身性血管炎もみられ,その中には生命を脅かす大動脈炎も含まれる場合がある。
一部の血管炎疾患は難聴を引き起こす可能性があり,中には急性のものもある。 ワルデンシュトレームマクログロブリン血症 マクログロブリン血症 マクログロブリン血症は,悪性の形質細胞疾患で,B細胞が過剰な量のIgM型Mタンパク質を産生する。臨床像としては,過粘稠,出血,繰り返す感染症,全身性リンパ節腫脹などがみられる。診断には,骨髄検査およびMタンパク質の証明が必要である。治療法としては,過粘稠に必要な血漿交換のほか,アルキル化薬,コルチコステロイド,ヌクレオシドアナログ,イブルチニブ,またはモノクローナル抗体による全身療法などがある。... さらに読む , 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症( 異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状... さらに読む ,および 白血病 白血病の概要 白血病は,未成熟または異常な白血球の過剰産生が起きることで,最終的に正常な血球の産生が抑制され,血球減少に関連する症状が現れる悪性疾患である。 白血化は,自己複製能が少し制限された造血前駆細胞レベルで生じることもあるが,通常は多能性幹細胞の段階で発生する。異常な増殖,クローン性増殖,異常な分化,およびアポトーシス(プログラム細胞死)の低下... さらに読む の一部の病型などの血液疾患が,まれに突発性難聴を引き起こす場合がある。
突発性難聴の評価
評価は,難聴の検出および定量,ならびに病因の特定(特に可逆的な原因)から成る。
病歴
現病歴の聴取では,難聴が突発性であり,慢性ではないことを確認すべきである。病歴の聴取では,難聴が片側性か両側性か,および現在の急性イベント(例,頭部損傷, 気圧外傷 耳の気圧外傷 耳の気圧外傷は,急激な気圧の変化によって引き起こされる耳痛または鼓膜の損傷である。 鼓膜の両側の等圧を維持するには,上咽頭と中耳の間で空気が自由に移動しなければならない。周囲の気圧が変化する中で,上気道感染,アレルギー,またはその他の機序により耳管の機能が妨げられると,中耳の気圧が周囲の気圧より低くなり鼓膜が陥凹するか,あるいは周囲の気圧より高くなり鼓膜が膨隆する。中耳が陰圧の場合,中耳に漏出液が生じることがある。気圧の差大きくなるにつ... さらに読む [特にダイビングによる損傷],感染症)の有無にも注意すべきである。重要な随伴症状としては,その他の耳科的症状(例,耳鳴,耳漏),前庭症状(例,暗闇での見当識障害,回転性めまい),その他の神経症状(例,頭痛,顔面の筋力低下または非対称性,味覚異常)などがある。
システムレビュー(review of systems)では,可能性のある原因の症状(一過性かつ移動性の神経脱落症状[ 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。一般的な症状としては,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度の認知症の症状などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法としては,急性増悪に対するコルチコステロ... さらに読む ]ならびに眼の刺激感および充血[ コーガン症候群 コーガン症候群 コーガン症候群はまれな自己免疫疾患で,眼および内耳を侵す。 コーガン症候群は若年成人に発生し,患者の80%は14~47歳である。本疾患は,角膜および内耳に共通する未知の自己抗原に対する自己免疫反応が原因であると考えられている。約10~30%の患者では重度の全身性血管炎もみられ,その中には生命を脅かす 大動脈炎も含まれる場合がある。 ( 角膜疾患に関する序論も参照のこと。) 主症状は,眼科系が38%,前庭聴覚系が46%,その両方が15%で... さらに読む ]を含む)を探求すべきである。
既往歴の聴取では,判明しているHIVまたは梅毒の感染歴,およびそれらの危険因子(例,複数のセックスパートナー,無防備な性交)について尋ねるべきである。家族歴の聴取では,難聴のある近親者(先天性の瘻孔を示唆する)に注意すべきである。薬歴の聴取では, 聴器毒性のある薬剤 薬剤性聴器毒性 様々な薬剤が聴器毒性を有する可能性がある。 聴器毒性に影響を与える因子としては以下のものがある: 投与量 治療期間 腎不全の併発 さらに読む の現在または過去の使用について,また,判明している腎機能不全または腎不全があるか否かについて特に尋ねるべきである。
身体診察
診察は耳および聴力と神経学的診察に重点を置く。
鼓膜を視診して,穿孔,分泌物漏出,またはその他の病変を確認する。神経学的診察では,脳神経(特に,第5,第7,第8)ならびに前庭機能および小脳機能に注意すべきである(これらの領域での異常は,しばしば脳幹および小脳橋角部の腫瘍に伴って生じるため)。
さらに,眼を診察して,充血および羞明(コーガン症候群 コーガン症候群 コーガン症候群はまれな自己免疫疾患で,眼および内耳を侵す。 コーガン症候群は若年成人に発生し,患者の80%は14~47歳である。本疾患は,角膜および内耳に共通する未知の自己抗原に対する自己免疫反応が原因であると考えられている。約10~30%の患者では重度の全身性血管炎もみられ,その中には生命を脅かす 大動脈炎も含まれる場合がある。 ( 角膜疾患に関する序論も参照のこと。) 主症状は,眼科系が38%,前庭聴覚系が46%,その両方が15%で... さらに読む の可能性)を確認し,皮膚を診察して発疹(例,ウイルス感染症, 梅毒 梅毒 梅毒は,スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)によって引き起こされる疾患で,臨床的に3つの病期に区別され,それらの間には無症状の潜伏期がみられることを特徴とする。一般的な臨床像としては,陰部潰瘍,皮膚病変,髄膜炎,大動脈疾患,神経症候群などがある。診断は血清学的検査のほか,梅毒の病期に基づいて選択される補助的検査による。第1選択の薬剤はペニシリンである。... さらに読む )を確認する。
警戒すべき事項(Red Flag)
特に注意が必要な所見は以下の通りである:
脳神経の異常(難聴以外)
両耳間における発話理解の著明な左右非対称性
他の神経症状および徴候(例,筋力低下,失語,ホルネル症候群,感覚または温度覚の異常)
所見の解釈
外傷性,聴器毒性,および一部の感染性の原因は,通常,臨床的に明らかである。外リンパ瘻の患者は,瘻孔が生じたとき,患耳で破裂音を聞く場合があり,突発性の回転性めまい,眼振,耳鳴もみられる場合がある。
局所性の神経学的異常には,特に注意が必要である。第5脳神経,第7脳神経,またはその両方は,しばしば第8脳神経を侵す腫瘍による影響を受けるため,顔面の感覚消失および噛み締める力の低下(第5脳神経)ならびに片側顔面の筋力低下および味覚異常(第7脳神経)は当該領域での病変を示す。
耳閉感,耳鳴,および回転性めまいを伴い変動する片側難聴は, メニエール病 メニエール病 メニエール病は,回転性めまい,変動性の感音難聴,および耳鳴を引き起こす内耳の疾患である。信頼できる診断検査はない。回転性めまいおよび悪心は,急性発作時に抗コリン薬またはベンゾジアゼピン系薬剤を用いて,対症的に治療する。第1選択の治療である利尿薬および減塩食によって,しばしば発作の頻度および重症度が低下する。重症例または難治例の場合,ゲンタマイシンの局所投与または手術により,前庭系を破壊することがある。... さらに読む も示唆する。炎症(例,発熱,発疹,関節痛,粘膜病変)を示唆する全身症状がみられる場合は,潜在性の感染または自己免疫疾患を疑うべきである。
検査
聴力検査を行うべきであり,急性感染または薬剤毒性の診断が明白でない限り,不明瞭な原因を診断するためにガドリニウムによる造影MRIが施行されることが多い(特に片側難聴の場合)。急性かつ外傷性の原因がみられる患者にもMRIを施行すべきである。外リンパ瘻は一般に誘発事象(例,過度のいきみ,気圧外傷)から疑われ,陽圧を用いて眼球運動(眼振)を誘発する検査を行うことがある。内耳の骨の特徴を調べるため,通常は側頭骨のCTが行われ,これは先天異常(例,前庭水管拡大症),外傷による側頭骨骨折,または融解性の病変(例,真珠腫)を明らかにする上で役に立つ。
危険因子または原因を示唆する症状のある患者には,臨床的評価に基づく適切な検査(例,HIV感染または梅毒の可能性を調べる血清学的検査,血液疾患を調べる血算および凝固検査,血管炎を調べる赤沈および抗核抗体検査)を実施すべきである。
突発性難聴の治療
突発性難聴の治療は,判明していれば原因疾患に焦点を置く。床上安静で症状がコントロールされない場合,瘻孔を探索し,外科的に修復する。
ウイルス性および特発性の症例では,約50%の患者で聴覚が正常まで回復し,それ以外の患者では部分的に回復する。
聴力が回復する患者では,通常10~14日以内に改善がみられる。
聴器毒性のある薬剤からの回復は,薬剤およびその用量に大きく依存する。24時間以内に難聴が消失する薬剤(例,アスピリン,利尿薬)がある一方,安全な用量を超過するとしばしば恒久的な難聴を引き起こす薬剤(例,抗菌薬,化学療法薬)もある。
特発性の難聴がみられる患者に対し,医師の多くは経験的に,1コースのグルココルチコイド(典型的には,プレドニゾン60mg/kg,1日1回経口投与を7~14日間およびその後5日間かけて漸減)を投与する。グルココルチコイドは経口および/または経鼓膜注射により投与できる。直接的な経鼓膜的注射では,経口グルココルチコイドによる全身性の副作用が回避され,重度(90デシベル超)の難聴を除いて同等に効果的であると考えられる。ステロイドの経口および経鼓膜投与の両方を用いると,いずれか片方の単独使用よりも転帰が良好であることを示すデータがある。単純ヘルペスに対して効果的な抗ウイルス薬を投与することが多いが(例,バラシクロビル,ファムシクロビル),そうした薬剤は聴覚の転帰には影響を及ぼさないことがデータで示されている。高気圧酸素治療が特発性の突発性難聴に対して有益な可能性があることを示唆する,多少の限定的なデータがある。
突発性難聴の要点
大部分の症例は特発性である。
少数の症例には明らかな原因(例,重度外傷,急性感染,薬剤)が認められる。
ごく少数の症例では,治療可能な疾患のまれな症状として現れる。