メルクマニュアル家庭版
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死期を迎える過程

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医師は患者の命がいつまでもつかを知っているのに、患者には隠していると考える人が多くいます。しかし、病人がいつ死ぬかはだれにもわかりません。患者の家族は、正確な予想を強いて求めたりしてはいけませんし、たとえ教えてもらったとしても、その結果を信用してはいけません。ときには、非常に重い病気の人が数カ月あるいは数年も生きることがありますが、このような人はそれまでが丈夫だったのでしょう。一方、すぐに亡くなる人もいます。患者が死の床に着くときに付き添ってほしい人がいれば、残された時間には限りがあることを配慮して、その人の付き添いの手はずを整えます。なお、患者が病気でいつ死ぬかを予想しなければならない場合もあります。医療保険は慢性疾患に対して高レベルの治療は補償していないことが多いのですが、ホスピスケアは例外です。ホスピスケアの補償には、余命6カ月未満との診断が必要になります。余命の正確な予想は難しいことですが。

特定の病状があてはまる平均的な患者なら、同じ条件の人の大規模な集団を統計分析した結果から、医師は短期間の病気の経過をかなりの精度で予想できます。たとえば、同じくらい生命が危険な状態にある人が100人いたら、そのうちの5人は生存し、退院するだろうという精度での推定です。しかし、特定の人がいつまで生存するかを予測するのはずっと困難です。医師が予測できる余命は確率に基づくもので、その正確さは医師が見込みにどれだけ自信をもっているかによります。6カ月生存する見込みが10%であれば、残りの90%は死ぬ可能性があるということを認め、それに応じた計画を立てるべきでしょう。

統計的情報がなければ病気の経過の見通し(予後)を予想することはできませんが、精度は低いものの、個人的な経験から推定する医師もいます。医師の中には、その病気の重症患者は死ぬ可能性が高いということは伏せておいて、目を見張るような例外的な回復例を挙げて患者に希望を与える方法を取る人もいます。危険な状態にある患者とその家族には、入手しうる限りの完全な情報と、最も現実的な病気の経過の見通しについて知る権利があります。患者や家族は、楽観的な説明ばかりでなく、このような情報を進んで求めることも必要です。

死期を迎えているということは、合併症や副作用に苦しみつつ、長い間に病気が悪化していく中で明らかになります。末期癌の患者は、死ぬ1〜2カ月前になるとエネルギー、機能、快適感が確実に低下します。その後患者は見た目にも衰弱していき、だれの目にも死が間近であることが明らかになります。しかし、通常はこれほどゆっくりと明瞭な経過をたどらずに死に至ります。ときには、入院して重症の病気を積極的に治療していた患者の容態が突然悪化し、数時間あるいは数日のうちに死ぬという場合もあります。

とはいうものの、重症の合併症を伴いつつ、長期間にわたり体力がゆっくりと低下して死に至るケースが増えてきています。アルツハイマー病のような神経系の病気は、肺気腫、肝不全、腎不全などの慢性疾患を併発しながら、このパターンをたどります。重症の心臓病では長い間に機能が低下し、断続的に重い症状を引き起こしますが、心臓のリズムに障害が生じて(不整脈)突然亡くなる方が普通です。

死期を迎えた人との対話

ほとんどの人は、死期を迎えた人と死について率直に話し合うことは難しいと感じます。死期を迎えた人は自分の状況について話したがらない、あるいはこうした話し合いによって傷ついてしまうと誤解しているのです。しかし、家族は死期に直面した人との話し合いを続け、一緒になってものごとを決めるべきです。次に挙げるアドバイスを参考にすれば、死期に直面した人ともっと気楽に語り合うことができるでしょう。

  • 死期を迎えた人の言葉に耳を傾けましょう。「そんな言い方をしないで」とコミュニケーションを中断してしまわずに、「何を考えているの?」と尋ねるようにしましょう。
  • 自分が亡くなった後、家族に何をしてほしいかをまず聞き、そこから逆算して死を迎える出来事に取り組みましょう。こうすれば、より間近の出来事である葬式の準備や愛する人のサポートについての相談がしやすくなります。
  • 死期を迎えた人と思い出を語り、その人の人生をたたえましょう。
  • たとえ死期を迎えた人が話せなくても、話しかけることを続けましょう。そのほかにも、手を握ったり、マッサージをしたり、患者のそばにいたりするだけでもコミュニケーションになり、心が安らぎます。

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