メルクマニュアル家庭版
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事前指示書

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意思決定不能状態に陥った場合に、医療ケアに関する個人的希望を伝える法的文書には、リビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。どちらの文書も、意思決定に必要なコミュニケーションができなくなっている間に行われる医療ケアに対し、事前に(つまり決定能力があるときに)判断を決めて指示した書類なので、事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)と呼ばれます。事前指示書は、意思決定不能と診断された後でないと有効になりません。

事前指示書が作成されていない場合、医療に関する意思決定をコントロールする他のだれかを指名しなければなりません。この場合、医師や病院は最も親しい家族に頼むのが普通です。裁判に発展することはめったになく、通常は家族にコントロールが委ねられます。適当な家族が見つからない場合、ケアを監視する後見人あるいは保護者を裁判所が任命します。患者の友人が後見人に指名される場合もあれば、関係のない他人が指名される場合もあります。事前指示書があれば、裁判所が介入する必要はほとんどなくなるので、医療に関する患者の意思が確実に尊重されることになります。

リビングウィル

リビングウィルは、医療ケアに関する患者の希望を表明した文書です。患者が生きている間は有効なので、リビングウィルと呼ばれます。医師への指示書と呼ぶ州もあります。リビングウィルに関する米国の州法は、州ごとに大きく異なります。たとえば、終末期患者しか法的効力をもつリビングウィルを作成できない州もあります。

寿命を可能な限り延ばすために、必要になる医療手段や、その結果得られる生活の質の程度とは関係なく、ありとあらゆる手を尽くしてほしいと考える人はたくさんいます。それに対して、医療機器につながれたままで、ある程度の生活の質を取り戻せる見込みがないのなら、死んだ方がましだと強く考える人もいます。リビングウィルは、このどちらの希望でも表明することができますし、両者の間に位置する治療を受け入れて希望することもできます。

リビングウィルを有効にするには、米国では州法に従わなければなりません。標準化された書式で作成しなければならない州もあれば、適切に署名や連署がされていれば、言語も問わないという柔軟な考えの州もあります。

積極的な治療を希望するときは、「私には寿命を可能な限り引き延ばす意思があり、自身の状態、回復の見込み、治療による負担、治療にかかる費用は問わない」と文書で示します。

延命努力を拒否するときは、「私には延命の意思はなく、友人や愛する人を認識することができなくなり、回復して独立した生活を取り戻す見込みがなくなった場合には、延命治療(チューブでの栄養、水分補給を含む)の実施、継続を拒否する」と文書で示します。しかし、苦痛を緩和する処置は保証されている場合がほとんどです。

中間的な治療を希望するときは、「私には寿命を引き延ばす意思があり、昏睡状態または植物状態から回復不能であると主治医が判断した場合を除き、延命治療を希望する。私が回復不能であると主治医が判断したら、延命治療(人工栄養や輸液を含む)の実施、継続を拒否する」と文書で示されます。

医療判断代理委任状

医療判断代理委任状は、ある人(本人)が、医療に関連する意思決定者として(医療にかかわる決定のみ)、他の人(代理人)を指名するための文書です。本人の意思決定能力がなくなっても、委任状が法律的に有効な間は、その効力が持続します。

医療判断代理委任状はリビングウィルとは異なります。リビングウィルは治療に対する患者の希望を表明した文書で、いろいろな状況の下で、そのとき行われるべき治療に対して指示を与える役割があります。医療判断代理委任状は、代理人を指名して、その人に医療に関する決断を下してもらうための文書です。代理人は、事故や病気で本人に意思決定能力がなくなったときに、医師と治療の選択肢について話し合い、決断を下す権限を認められます。医療判断代理委任状には、治療法の選択に対する希望など、リビングウィルに関する記載も加えることができますが、それに拘束力はなく、代理人に対する参考資料としての意味しかもちません。

代理人の選択には細心の注意が必要です。たとえば、積極的な治療を拒否したいと強く考える人は、個人的な考えや宗教上の教義から、寿命を延ばすためにはあらゆる手を尽くすべきだと考える人を指名してはいけません。同じように、配偶者は非常に大きな感情的ストレスを感じているので、特に治療を制限したり、停止させたりするときなど、患者の希望を実行するのは難しいでしょう。強い希望はあるものの、リビングウィルほどの厳格さは必要ないという人は、信頼のおける仕事仲間や長年の友人を選ぶとよいでしょう。代理人として指名した人と、今後起こりうる医療的選択について詳しく話し合うことは大切です。この話し合いにより、代理人に自分の希望を伝えることができます。また、代理人がこの役を前向きに務めてくれることを確認しましょう。

医療判断代理委任状では、第1候補の人が代理人としての役目を果たせない場合や、その意思がない場合のために、代わりとなる人、あるいは後任者も指名しましょう。2人以上の人を指名して、一緒に代理人の役を務めてもらうこともできますが(連帯)、1人でも構いません(単独)。連帯代理では、すべての代理人が同意し、共同して役を務める必要があります。この形態の場合、すべての決定について、指名代理人全員が連絡を取り合い、合意に達しなければなりません。しかしながら、この形態は混乱を生じやすいため、確実に機能する保証がない限り、避けた方が無難でしょう。単独代理は、指名された代理人が1人で役を務めることができるので、望ましい形態といえるでしょう。

患者に判断能力があれば、医療判断代理委任状はいつでも撤回できます。代理人の選択は永続的なものではありません。事情が変わったときには、新しい代理人を指名する医療判断代理委任状を、新たに作成できます。

医療判断代理委任状を作成するときには、特別な事情についても注意を払わなければなりません。たとえば、多くの場合、病院での面会は家族に優先権があります。未婚のカップルや同性のパートナーがこのような特権を守るためには、特別な保護策が必要です。法律的には無関係な人に、特別な資格や意思決定権を与えたいときには、医療判断代理委任状が不可欠です。

入院するときに、自分の治療にかかわる医師全員と病院に、リビングウィルと医療判断代理委任状のコピーを渡せれば理想的です。コピーは自分の医療記録と一緒に保管してもらいましょう。自分が指名した代理人にもコピーを渡し、別のコピーをその他の重要書類と一緒に保管しておきましょう。関係書類はすべてコピーを取り、弁護士に渡しておきましょう。

事前指示書の書類の中には、あまりに複雑すぎ、医師や病院に不親切なため、混乱を招くものがあります。リビングウィルと医療判断代理委任状の両方を作成している場合は、これらの内容に食い違いがあったときにどちらに従えばよいかが特に重要になります。一般に、信頼できる人を指名可能ならば医療判断代理委任状の方が望ましいといえます。指名された人は患者の代弁者としての役を務め、医療スタッフに質問し、患者が望むであろうこと、患者にとってためになることを判断します。

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