メルクマニュアル家庭版
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高齢者の服薬上の注意

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高齢者は複数の病気、特に慢性疾患にかかる可能性が高いことから、若い人より薬を多く服用する傾向があります。米国では、高齢者は1人1日あたり平均で4〜5種類の処方薬と2種類の市販薬を服用しているといわれています。加えて、高齢者は若い人の2倍以上も薬の副作用を起こしやすくなっています(薬による有害反応: はじめにを参照)。副作用を起こすと重症になりやすく、生活の質(QOL)にも支障を来すようになり、医療機関の受診や入院が必要な事態になりがちです。

年齢を重ねるにつれて、体内の水分の量が減少し、代わりに脂肪組織の量が増えてきます。そのため高齢者では、薬を希釈する水分が不足しがちで、水溶性の薬は濃度が濃くなります。そして薬を貯蔵する脂肪組織が比較的多いため、脂溶性の薬は体内に多く蓄積するようになります。また、年齢を重ねるにつれて、腎臓は薬を尿中にうまく排泄できなくなり、肝臓が薬を代謝する能力も衰えます(薬の投与法と体内での動き: 薬の代謝を参照)。こうした加齢に伴う変化のため、多くの薬は若い人に比べて高齢者の体内にとどまる時間が長くなり、薬の作用を長びかせ、副作用のリスクを高めます。これらの理由から、高齢者ではある種の薬について、1回の用量を減らすか、1日量を減らす必要があります。また、より安全な他の薬に変更することもよくあります。

高齢者は薬によるさまざまな作用に敏感です。たとえば睡眠補助薬や抗不安薬を使用すると、眠くなりがちで、錯乱を起こしやすくなります。動脈を広げ、心臓の仕事量を減らすことで血圧を下げる薬を使うと、高齢者では若い人に比べて血圧が劇的に下がるようです。

一部の抗うつ薬やジフェンヒドラミン(不眠症の治療に用いられる薬)など、一般的に使用される多くの薬は、抗コリン作用があります。高齢者は特にこの作用を受けやすく、錯乱、眼がかすむ、便秘、口の渇き(口渇)、ふらつき、排尿困難、膀胱の制御喪失などを伴います。抗コリン作用の中には、ふるえや吐き気の軽減といった好ましいものもありますが、多くは望ましいものではありません。

薬は、治療対象疾患以外の病気との相互作用、薬と別の薬との相互作用、薬と食品との相互作用、薬とサプリメントやハーブとの相互作用などによる副作用を引き起こすことがあります(薬との相互作用のおそれがある主なハーブを参照)。高齢者は病気にかかりやすく、若い人よりもたくさんの薬を服用するので、薬と病気、薬と薬の相互作用を起こす可能性もそれだけ高くなりがちです。患者、医師、薬剤師が力を合わせ、これらの相互作用のリスクを抑える対策を講じることが大切です(薬の相互作用を防ぐにはを参照)。

医師の指示に従わないで薬を服用するのは危険です(服薬指示の非遵守)(服薬の指示を守る重要性: はじめにを参照)。高齢者だけが指示通りに薬を服用しないわけではありませんが、高齢者の40%は指示を守っていないというデータがあります。薬をまったく服用しない場合はもちろん、服用する量が少なすぎたり多すぎたりした場合にも問題が起こります。副作用が起こったからという理由で、指示よりも量を減らすのは理にかなっていると思うかもしれませんが、やはり薬の服用のしかたを変える場合はあらかじめ医師に相談すべきです。

高齢者でリスクが高くなる主な薬

薬の種類

薬剤名

問題点

鎮痛薬 インドメタシン インドメタシンはすべての非ステロイド性抗炎症薬の中で脳に最も影響しやすく、錯乱やめまいを起こすことがある
  メペリジン メペリジンはオピオイドの1種で注射用の強力な鎮痛薬だが、内服ではあまり効果がなく、錯乱をよく引き起こす
  ペンタゾシン ペンタゾシンは他のオピオイドよりも錯乱と幻覚を引き起こしやすい
  プロポキシフェン プロポキシフェンはオピオイドの1種で鎮痛効果はアセトアミノフェンに及ばない。他のオピオイドと同様に依存症を起こしやすく、便秘、眠気、錯乱、まれに呼吸抑制などの副作用を起こす
抗うつ薬
  • アミトリプチリン
  • ドキセピン
アミトリプチリンとドキセピンは強力な抗コリン作用と鎮静作用があり、高齢者への投与には適さない
抗糖尿病薬 クロルプロパミド 長時間効果が持続する薬で、高齢者ではその作用がより強く現れる。数時間にわたって血糖値を下げ、血液中のナトリウム値も下がることがある
制吐薬(吐き気を和らげる薬) トリメトベンズアミド この薬は吐き気を和らげるために使われる最も作用の弱い薬の1つで、副作用として腕や脚、その他の身体各部の異常な動きがみられることがある
抗ヒスタミン薬
  • クロルフェニラミン
  • シプロヘプタジン
  • d‐クロルフェニラミン
  • ジフェンヒドラミン
  • ヒドロキシジン
  • プロメタジン
  • トリペレナミン
  • 一部の総合感冒薬
抗ヒスタミン薬のすべての市販薬と多くの処方薬には、強力な抗コリン作用がある。抗ヒスタミン薬はアレルギー反応や季節性アレルギーの治療には有用な薬だが、高齢者のウイルス性感染に伴う鼻水などの症状には適さない。抗ヒスタミン薬が必要な場合は、抗コリン作用のない薬(ロラタジンやアステミゾールなど)を選ぶとよい。抗ヒスタミン薬を含まないせき止め薬やかぜ薬は一般に、高齢者にも比較的安全に使用できる。高齢者はジフェンヒドラミンが入った睡眠補助薬の服用は避けた方がよい
降圧薬 メチルドパ メチルドパは単独でも他の薬との併用でも心拍数を減少させ、抑うつを悪化させることがある
  レセルピン レセルピンは起立時のめまいや、抑うつ、勃起不全、眠気を引き起こすので、老年医学の専門家の多くは危険であるとみている
抗精神病薬
  • クロルプロマジン
  • ハロペリドール
  • チオリダジン
  • チオチキセン

抗精神病薬は精神病の治療には効果的だが、痴呆に伴う行動障害(興奮や徘徊、何度も繰り返される質問、騒々しさ、ものを投げる、たたくなど)の治療への有効性はまだ確立されていない。これらの薬は一般に毒性があり、眠気や運動障害、抗コリン作用を引き起こす

高齢者への抗精神病薬の使用は、どうしても必要な場合でも少量にとどめるべきであり、治療上の必要性を頻繁に見直し、できるだけ早く投与を中止することが望ましい

胃腸の鎮けい薬(胃けいれんや腹痛の治療に使用される薬)
  • ベラドンナアルカロイド
  • クリジニウム・クロルジアゼポキシド
  • ジサイクロミン
  • ヒヨスチアミン
  • プロパンテリン
胃腸の鎮けい薬は抗コリン作用が強いため、高齢者に耐えられる程度の低用量では効果があるかどうか疑わしい
心臓病の薬 ジゴキシン 高齢者では腎臓がジゴキシンを排泄する能力が低下するので、投与量は少量とする
  ジソピラミド ジソピラミドは不整脈の治療薬(抗不整脈薬)で抗コリン作用が強く、高齢者では心不全の原因となることがある
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
  • シメチジン
  • ファモチジン
  • 二ザチジン
  • ラニチジン
一部のH2ブロッカーは通常用量でも副作用(特に錯乱など)を引き起こすことがある。特にシメチジンはリスクが高いが、ファモチジン、二ザチジン、ラニチジンもある程度は注意を要する
鉄分を含むサプリメント 硫酸鉄 毎日の投与量が325mgを超えると鉄分の吸収が不良となったり、便秘を起こしやすくなる
筋弛緩薬・抗けいれん薬
  • カリソプロドール
  • クロルゾキサゾン
  • シクロベンザプリン
  • メタキサロン
  • メトカルバモール
  • オキシブチニン
ほとんどの筋弛緩薬・抗けいれん薬は抗コリン作用があるため、眠気や脱力の原因となる。また高齢者に耐えられる程度の低用量では効果があるかどうか疑わしい
鎮静薬、抗不安薬、睡眠補助薬 フェノバルビタールやセコバルビタールなどのバルビツール酸 バルビツール酸は、不安や不眠の治療に使用される他の薬よりも副作用が多く、さまざまな薬との相互作用もあるため、てんかん性疾患の治療を除き、一般には高齢者に使用すべきでない
 
  • クロルジアゼポキシド
  • ジアゼパム
  • フルラゼパム
  • ニトラゼパム
ベンゾジアゼピン系薬は不安や不眠の治療に使用されるが、高齢者では長時間(しばしば96時間以上)効果が持続するため、単独投与でも他の薬との併用投与でも眠気が長びき、転倒や骨折のリスクを高める。高齢者への使用には、アルプラゾラムやロラゼパムなど短時間で作用するベンゾジアゼピン系薬が適している
  メプロバメート ベンゾジアゼピン系薬を上回る利点はなく欠点の多い薬。きわめて習慣性が高く沈静作用が強い
抗コリン作用とは

抗コリン作用はアセチルコリンの作用を遮断する薬が原因で起こります。アセチルコリンは神経伝達物質、つまり神経信号を近隣の神経細胞や筋肉または腺の標的細胞に伝達するために神経細胞が放出する化学伝達物質です。アセチルコリンは、心臓や気道などの平滑筋(不随意筋)細胞の収縮を刺激します。一般的に使われている多くの薬に抗コリン作用があります。これらの薬は通常、こうした作用を引き起こすことを考えて設計されたわけではないので、望ましくない副作用と考えられています。抗コリン作用には、錯乱、眼がかすむ、便秘、口の渇き、ふらつき、排尿困難、膀胱の制御喪失などがあります。また一方で、抗コリン作用薬にはたとえば、ふるえと吐き気を軽減するなど有用な作用もあります。

高齢者は年齢とともに体内のアセチルコリンの量が減少するため、抗コリン作用が起こる可能性が高くなります。その結果、抗コリン作用薬を服用するとアセチルコリンが高率に遮断されます。また、体の老化に伴い、アセチルコリンが少量しかないとうまく利用できなくなります。

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