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僧帽弁逆流

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僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症)とは、左心室が収縮するたびに僧帽弁から血液が逆向きに漏出(逆流)する状態です。

僧帽弁逆流では、左心室が大動脈へ血液を送り出すときに、血液の一部が左心房へと逆流し、左心房内の血液量が増加して内圧を上昇させます。左心房内の血圧が上昇すると、肺から心臓へ向かう肺静脈の血圧が上昇します。逆流がひどくなると、上昇した血圧によって、肺の中に体液が貯留します(うっ血)。

僧帽弁逆流の最大の原因は、レンサ球菌性咽喉炎を治療せずにいると発症する小児期の病気、リウマチ熱(細菌感染症: リウマチ熱を参照)でした。しかし、現在、こういった感染症を予防するために、抗生物質を広く使用している北アメリカ、オーストラリア、西ヨーロッパやそのほかの地域では、リウマチ熱はまれにしかみられません。これらの地域でも、若いころに抗生物質の恩恵にあずからなかった高齢者の間では、現在もリウマチ熱が僧帽弁逆流の大きな原因となっています。一方、抗生物質が広く使用されていない地域では、いまだにすべての年齢層で、リウマチ熱が僧帽弁狭窄や僧帽弁逆流の原因となっています。

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僧帽弁逆流を理解する

僧帽弁逆流を理解する

北アメリカ、西ヨーロッパ、オーストラリアでは、僧帽弁逆流の大きな原因は、僧帽弁の支持組織に損傷を与える心臓発作です。その他の主な原因は、組織にゼリー様の変化を起こす遺伝性の結合組織疾患である、粘液腫性変性です。その結果、心臓の弁は次第に張りがなくなった状態になりますが、裂けることはまれです。

症状

軽度の僧帽弁逆流では、特に症状はみられません。逆流がひどくなると、特に体の左側を下にして横向きに寝たときに、心拍をより力強く感じるようになり、動悸(どうき)を感じます。心拍が力強くなるのは、左心室が、左心房へ逆流した分の血液を補うために、より多くの血液を送り出さなければならないからです。左心室は、個々の拍動の力を強めるために、次第に拡張し、肥厚します。

同様に左心房も、左心室から逆流してきた余分な血液をためておくために、拡張する傾向があります。非常に拡張した心房は、異常に速く不規則に拍動(心房細動)し、心臓が血液を送り出すポンプ機能を低下させます。細動している心房は単にふるえているだけで、血液を送り出しません。その結果、血液は正常に流れることができず、血液のかたまり(血栓)が形成されます。血栓は砕かれて塞栓となり、心臓から送り出されて、動脈の閉塞を起こします。そして、脳卒中やほかの臓器の損傷などが起こります。

逆流が重度になると、血流量が減って心不全を発症します。この場合は、せき、運動時の息切れ、足のむくみなどの症状がみられます。

診断

僧帽弁逆流は、普通、聴診による特徴的な心雑音に基づいて診断されます。この心雑音は、左心室が収縮するときに、血液が左心房に逆流することによって生じる独特な音です。定期健康診断で医師がこの心雑音を聞くことにより、僧帽弁逆流がときに診断されます。

心電図検査(ECG)と胸部X線検査では、左心室の拡張が示されます。僧帽弁逆流が重度の場合は、胸部X線検査で肺への体液貯留(うっ血)が認められます。最も効果的な検査法は、超音波を使って、障害のある弁の状態を描写する心臓超音波検査(心エコー)(心血管系の病気の症状と診断: 心臓超音波検査とその他の超音波検査を参照)です。この検査法では、心房と心室の大きさや、逆流している血液の量が描出されるため、逆流の重症度を確認できます。

治療

心房細動がみられるときは、血栓の形成を防ぐ抗凝固薬の使用を含む治療(不整脈: 心房細動と心房粗動を参照)が要求されます。

軽度の逆流の場合は、心不全も軽症なので、エナラプリルやリシノプリルのようなアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を中心に、ジゴキシンを併用する場合もあります。しかし、中等度の逆流では、手術によって後の経過が良好となる可能性が増え、心不全が悪化する危険性が低くなります。

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人工の心臓弁

人工の心臓弁

逆流が重度の場合は、手術が必要です。手術は左心室の障害が修復不可能にならないうちに行う必要があります。そのためには心エコー検査を定期的に行って、左心室がいかに速く拡張しているかを測定します。手術には、弁を修復する弁形成術と、人工弁に置き換える人工弁置換術があります。弁形成術によって逆流は完全にみられなくなるか、あるいは症状が我慢できる程度、または心臓が損傷を受けない程度まで減少します。人工弁置換術により、逆流はまったくみられなくなります。損傷を受けた弁は、機械弁、またはブタの心臓弁を部分的に使用した生体弁と置き換えられます。どちらの弁にも利点と欠点があります。機械弁は有効で長もちします。しかし、血栓を形成するリスクが高いため、そのリスクを軽減するために抗凝固薬を一生服用し続ける必要があります。生体弁は有効で血栓を形成するリスクはありませんが、機械弁ほど長もちはしません。人工弁機能不全を起こした場合は、即座に再置換しなければなりません。

心臓弁の置換方法

心臓弁の置換方法

障害のある心臓弁は、プラスチックと金属から作られた機械弁、あるいは組織(通常はブタの組織)と合成素材の輪で作られた生体弁に置き換えられます。機械弁の種類はたくさんありますが、セントジュード弁が最も一般的に使用されています。

弁は、その特性を含む多数の要因を考慮した上で選択されます。機械弁は、生体弁よりも長もちしますが、弁上に血栓が形成されるのを防ぐために、抗凝固薬を一生服用し続けなければなりません。生体弁は、抗凝固薬が必要となることはまれです。したがって、患者が抗凝固薬を服用できるか否かが重要な要因となります。たとえば、抗凝固薬は胎盤を通過し、胎児に影響を及ぼす可能性があるため、出産可能な年齢の女性に適用すべきではありません。また、年齢、日常生活での活動状況、心臓の機能、心臓弁の障害なども考慮します。機械弁は普通、若い人に使われます。

心臓弁の置換のために、全身麻酔が実施されます。心臓を手術している間は、血液を送り出すために人工心肺装置を使用します。障害のある弁を切除し、そこへ置換する人工弁を縫い合わせます。切開創を閉じて、人工心肺装置を外すと、心臓は再び動き出します。手術には2〜5時間かかります。また、一部の人に対しては、より侵襲性の少ない方法で弁の置換を行っている病院もあります。

手術後、一般病棟に戻る前に、1〜2日間、集中治療室で経過観察されます。入院期間は個々人で異なります。完全に回復するには6〜8週間かかります。

損傷した心臓弁は、重症の細菌感染症にかかりやすくなります(感染性心内膜炎)。心臓弁に障害がある人や人工弁置換術を受けた人が外科的処置、歯科的処置、内科的処置を受ける前には、心臓弁の感染症の発症リスクが小さくても、そのリスクを減らすために抗生物質を服用すべきです(予防的な抗生物質の投与を必要とする処置を参照)。

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