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急性心膜炎

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急性心膜炎は、突然に発症する心膜の炎症で、痛みを伴うことが多く、フィブリン、赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔にたまる原因となります。

急性心膜炎は普通、心膜に炎症を起こす感染症やその他の病気が原因です。感染症の原因は、ほとんどがウイルスですが、細菌、寄生虫(原虫も含む)、あるいは真菌であることもあります。

都市部の一部の病院では、エイズが、心膜腔への余分な体液(心膜液)貯留を伴う心膜炎の最もよくみられる原因となっています。エイズ患者では、結核などの多くの感染症が心膜炎の原因となります。米国では、結核による心膜炎(結核性心膜炎)は、急性心膜炎の5%未満にすぎませんが、インドおよびアフリカの一部の地域では、急性心膜炎の大多数が結核性心膜炎です。

その他にも心膜に炎症を起こし、急性心膜炎を発症させる病気があります。たとえば、心臓発作、心臓手術、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、腎不全、外傷、白血病やエイズ患者にみられるカポジ肉腫などの癌、リウマチ熱、甲状線機能低下症、放射線療法、大動脈壁の膨隆(大動脈瘤)からの血液の漏れなどです。心臓発作後、急性心膜炎を発症する確率は、最初の1〜2日目が10〜15%で、10日から2カ月目が1〜3%です。急性心膜炎は、ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬、ペニシリン、抗不整脈薬のプロカインアミド、抗けいれん薬のフェニトイン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のフェニルブタゾンなど、一部の薬の副作用によっても起こります。

症状

急性心膜炎はたいてい、発熱と左肩まで、ときには左腕まで広がるように感じる胸痛を引き起こします。この痛みは、横になる、食べものを飲みこむ、せきをする、深呼吸をするなどによって悪化する傾向を除けば、心臓発作の痛みと似ています。心膜腔への体液や血液などの貯留は、心臓を圧迫し、心拍出力が損なわれます。あまりにも強く心臓が圧迫されると、命にかかわる危険な心タンポナーデを発症します。

結核による急性心膜炎は、ときに明らかな肺感染症の症状もなく、知らない間に発症します。発熱と心不全の症状がみられることがあります。心タンポナーデが起こることもあります。

心膜炎の最も重篤な合併症、心タンポナーデについて

心タンポナーデは、主に癌、外傷、手術の結果、2層の心膜の間(心膜腔)に体液や血液が貯留することによって起こります。ウイルスや細菌への感染、腎不全も主な心タンポナーデの原因です。心膜腔に貯留した体液や血液は、心臓を圧迫し、血液を送り出す心機能が損なわれます。その結果、息を吸いこむと、血圧が急速に異常なレベルまで低下し、脈拍が弱まります。息を吐くと、血圧が上昇して、脈拍が強まります。呼吸によって起こる血圧と脈拍のこのような異常な変化は、奇脈と呼ばれています。超音波を利用して心臓の像を描出する心エコー検査が、診断を確定するために用いられます。この検査では、呼吸によって起こる心臓の圧迫や心臓内の血流の変化といった特徴的な異常を検出できます。

普通、心タンポナーデには緊急治療が必要です。医師は、心臓にかかっている圧力を取り除くために、針あるいはカテーテルを使って心膜に貯留している液を取り除く心膜穿刺術をただちに実施します。時間があれば、心エコー検査で慎重に管理しながら排液します。また、先端にバルーンのついたカテーテルを皮膚から刺入する経皮的バルーン心膜切開術や、胸部の小さな切開創からチューブを挿入する剣状突起下心膜切開術によって、たまった体液を外科的に排液することもあります。心内膜炎の原因がわからない場合、心膜内から得られた排液試料を顕微鏡で検査します。この検査は、原因を突き止めるのに役立ちます。

心タンポナーデの再発に備えて、心臓にかかる圧力が取り除かれた後もしばらくは入院します。患者は普通、24時間の監視下に置かれます。入院期間の長さは、心タンポナーデの原因によって異なります。ドレーンを留置している場合、排液が完全になくなってドレーンを抜くまでは退院できません。

心タンポナーデが再発した場合は、再び同じ方法で排液することも、異なる方法を試みることもあります。他の方法としては、瘢痕組織を形成させて、心膜を取り除く薬液を注入する硬化療法や、心膜を切除する心膜切除術などがあります。

ウイルス感染症による急性心膜炎は、普通、痛みを伴いますが、一時的で、長く続くことはありません。

心臓発作後の1〜2日目に急性心膜炎を発症しても、心臓発作の症状に主に気を取られているため、急性心膜炎の症状にはめったに気づきません(冠動脈疾患: 心臓発作(心筋梗塞)を参照)。心臓発作の10日から2カ月後に発症する心膜炎は普通、ドレスラー症候群(心筋梗塞後症候群)に合併して起こり、発熱、心膜液(心膜腔に貯留した余分な体液)、胸膜炎(肺を覆う胸膜の炎症)、胸水(2層の胸膜の間にたまった体液)、関節痛などの症状がみられます。

診断

急性心膜炎の診断は、患者本人による痛みの説明と胸部の聴診に基づいて行われます。心膜炎では、革靴がきしんでいるような音や枯葉がこすれ合っているような音(心膜摩擦音)が聞こえます。心臓発作の数時間後から数日後にこのような音が聞こえる場合は、心膜炎と診断されます。

胸部X線検査と、超音波を利用して心臓の像を描出する心臓超音波検査(心エコー)(心血管系の病気の症状と診断: 心臓超音波検査とその他の超音波検査を参照)は、心膜腔にどの程度の体液がたまっているか検出できるので、診断に有用です。心エコー検査では、たとえば癌など、体液がたまる原因も推定できます。心電図検査(ECG)(心血管系の病気の症状と診断: 心電図検査を参照)も実施されます。心電図検査の結果からも原因を推定できるかもしれませんが、この結果から心臓発作による心膜炎を判別するのは困難です。血液検査では、心膜炎を引き起こす病気の一部、たとえば、白血病、エイズ、その他の感染症、リウマチ熱などを検出でき、血液中の尿素濃度の上昇によって腎不全が起こっていることもわかります。

治療と経過の見通し

その原因にかかわらず、心膜炎の患者は入院して、アスピリン、イブプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(痛み: 非ステロイド性抗炎症薬を参照)などの投与によって炎症と痛みを軽減し、心タンポナーデなどの合併症の経過をみます。激痛がある場合は、モルヒネなどのオピオイドや、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬が必要になります。プレドニゾロンは、直接痛みを軽減するのではなく、炎症を軽減することで痛みを和らげます。心膜炎を起こし得る薬を服用している場合は、可能な段階で服用を中止すべきです。

その後の治療法は、急性心膜炎の原因によって異なります。腎不全の患者では、透析の回数を増やすことで症状の改善がみられます。癌の患者では、化学療法や放射線療法に反応する場合もありますが、しばしば心膜を外科的に切除します。細菌感染症が原因の場合は、抗生物質の投与と、心膜にたまった膿を外科的に排出する処置(ドレナージ)を行います。

先端にバルーン(小さな風船)のついたカテーテルを皮膚から挿入し、バルーンをふくらませて心膜に穴(窓)を開けて心膜から心膜液を排出させます。この手法は経皮的バルーン心膜切開術と呼ばれ、普通は、癌やその再発による滲出液がみられる場合に行います。また、胸骨の下を小さく切開し、心膜の一部を切除し、そこからチューブを心膜腔に挿入して心膜液を排出させる方法もあります。この手法は剣状突起下心膜切開術と呼ばれ、細菌感染症による滲出液がみられる場合によく行われます。どちらの方法も局所麻酔が必要ですが、病室で行うことができ、継続的に排液できて、有効です。

ウイルス、外傷、原因不明の病気の再発などによる心膜炎であれば、アスピリン、イブプロフェン、ステロイド薬によって症状を軽減します。一部の患者にはコルヒチンが有効です。薬物療法が無効な場合は、普通、心膜を外科的に切除します。

心臓発作から数時間あるいは数日以内に急性心膜炎が起こったときは、アスピリンおよびモルヒネなどの強力な鎮痛薬をはじめとする心臓発作の治療を行うことで、心膜炎の不快感を軽減できます。

心膜炎の経過の見通し(予後)は、その原因によって異なります。ウイルスや原因不明の心膜炎は、回復に1〜3週間かかります。合併症を伴う、あるいは再発性の心膜炎は、回復が遅くなります。癌が心膜に浸潤している場合、12〜18カ月以上生存できることはまれです。

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