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アテローム動脈硬化

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アテローム動脈硬化(粥状[じゅくじょう]硬化)とは、脂肪性物質のまだらな沈着物(アテローム、あるいはアテローム硬化斑[プラーク])が、中動脈や大動脈の内壁で大きくなるため、血流が減少したり、遮断されたりする病気です。

ほとんどの欧米諸国で、アテローム動脈硬化は主要な病因および死因です。米国だけでも1996年のアテローム動脈硬化による死亡者数は100万人近くと、癌(がん)による死亡の2倍、事故による死亡の10倍を占めています。医学の著しい進歩にもかかわらず、冠動脈疾患(心臓に血液を供給する冠動脈に生じるアテローム動脈硬化(冠動脈疾患: はじめにを参照))による心臓発作と、脳卒中(脳へ続く動脈に生じるアテローム動脈硬化(脳の血液供給を参照))は、ほかのすべての原因を合わせたよりも多数の死亡の原因となっています。

アテローム動脈硬化は、脳、心臓、腎臓、その他の命にかかわる臓器や脚の中動脈や大動脈に損傷を与えます。アテローム動脈硬化は、動脈壁が肥厚して弾力性がなくなる病態の総称である動脈硬化の中で、最も重大で、最も多くみられる種類です。

アテローム動脈硬化がなぜ発生するかについては、2つの主な説があります。1つは、血液中に高い濃度で存在するコレステロールが、動脈の内壁を損傷して、炎症反応を引き起こし、そこへコレステロールや他の脂肪性物質の蓄積が促進され、アテロームが形成されるという説です。もう1つは、免疫系に関与するさまざまなしくみや直接的な毒性によって、動脈壁の損傷が繰り返される変化によってアテロームが生じるという説です。これら2つの説は相互関係があって、互いに矛盾するものではありません。

アテローム動脈硬化では、リンパ球、単球、マクロファージといった特定の白血球が、その発症・進展の過程を通して出現していることから、炎症反応が関与しているとも考えられています。これらの白血球は炎症が起きているときにのみ集まってくる細胞です。アテローム動脈硬化は、単球が活性化され、血流中から動脈壁内に入りこむことから始まります。単球は、そこでコレステロールやその他の脂肪性物質をためこむ泡沫細胞へ変化します。やがて、これらの脂肪性物質を豊富に含んだ泡沫細胞が蓄積します。こうして、動脈壁の肥厚を引き起こす、動脈内壁のまだらな沈着物(アテローム)が形成されます。

感染症も、アテローム動脈硬化の一因です。感染症には、肺炎を引き起こす肺炎クラミジア、胃潰瘍を起こすヘリコバクター‐ピロリ(H.ピロリ)などの微生物や、まだ見つかっていないウイルスによるものが考えられます。感染症が動脈内壁を傷つけることで、アテローム動脈硬化が始まります。

アテロームは中動脈や大動脈に広範囲に形成されますが、普通は動脈が分岐している部位に形成されます。おそらく、これらの部位では、絶え間なく血液の乱流が起こり、動脈内壁を傷つけることから、アテロームが形成されやすいのだと考えられます。

アテローム動脈硬化が起こるしくみ

動脈の壁はいくつかの層から成り立っています。正常な内膜はなめらかで無傷です。この内膜が傷害されたり異変が起こると、アテローム動脈硬化が生じます。まず、単球と呼ばれる白血球が活性化し、血流から出てきて動脈の内膜を通り抜け、動脈壁内に侵入します。内膜の中に入った単球は、脂肪性物質(主にコレステロールをためる泡沫細胞)へと変化します。やがて、平滑筋細胞が中間層から動脈壁の内膜の中へ移動し、そこで増殖しはじめます。結合組織および弾性組織を構成する物質も、細胞の断片、コレステロールの結晶、カルシウムとともに、内膜に蓄積します。脂肪分の豊富な細胞、平滑筋細胞、およびその他の物質から成るこの蓄積物は、アテロームあるいはアテローム硬化斑(プラーク)と呼ばれるまだらな沈着物を形成します。アテローム硬化斑が大きくなるにつれて、それは動脈壁を肥厚させ、動脈の内腔へと突き出るようになります。そのため、動脈が狭くなったりふさがったりすると、血流が減少したり途絶えたりします。

アテローム動脈硬化により、動脈は弾力性を失うため、それが高血圧の原因となる可能性があります。アテロームが大きくなるにつれて、動脈内腔は狭くなります。やがて、カルシウムがアテローム内に蓄積すると、アテロームはもろくなって破れます。破れたアテロームに血液が流れこみ、アテロームを増大させるので、動脈内腔はますます狭くなります。また、破れたアテロームから脂肪性の内容物も血流中に流れ出します。この脂肪性のかたまり(脂肪塞栓)が血流に乗って移動し、全身のどこかの動脈を詰まらせることになります。アテロームの破裂は血液のかたまり(血栓)の形成を誘発することも多く、心臓発作や脳卒中の主な原因となります。血液のかたまりは動脈内腔をさらに狭めたり閉塞させたり、あるいは血液のかたまりがはがれて塞栓となり、血流に乗って下流の動脈を詰まらせます。

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冠動脈の脂肪沈着物

冠動脈の脂肪沈着物
動脈硬化とは

動脈が硬くなることを意味する「動脈硬化」は、動脈の壁が厚くなって弾力性が乏しくなる複数の病気に対して一般的に使われている総称です。動脈硬化には、アテローム動脈硬化、細動脈硬化、メンケベルグ型動脈硬化の3つのタイプがあります。

最も多いタイプのアテローム動脈硬化は、脂肪性物質が沈着して形成されたアテロームと関連した動脈硬化です。この動脈硬化による損傷は、中動脈や大動脈に生じます。

細動脈硬化は、細動脈、つまり細い動脈に起こる動脈硬化です。それは主に細動脈壁の内層と中間層を傷つけます。細動脈の壁が厚くなり、内腔が狭くなります。その結果、細動脈が血液を供給している器官は、十分な量の血液を得られません。腎臓がよくこの悪影響を受けます。この細動脈の障害は、主に高血圧や糖尿病の患者にみられます。これらの疾患のある人では、細動脈壁に圧力がかかり、結果として細動脈壁が厚くなります。

メンケベルグ型動脈硬化は、細動脈や中動脈を傷つけます。動脈壁内へのカルシウムの蓄積が動脈壁を硬くしますが、内腔は狭くなりません。これは本質的には無害な障害で、50歳以上の男女に普通に認められます。

危険因子

アテローム動脈硬化の危険因子には、喫煙、血液中のコレステロール高値、高血圧、糖尿病、肥満、運動不足、血液中のホモシステイン(アミノ酸)高値などがあります。これらの危険因子は、普通、改善できます(冠動脈疾患: 予防を参照)。改善しようのない危険因子には、早期のアテローム動脈硬化の家族歴(近親者で若いときにこの病気を起こした人がいる)、加齢、性別が男性などがあります。冠動脈疾患を有する女性は、それを有する男性より死亡率が高いにもかかわらず、アテローム動脈硬化の発症リスクは、女性よりも男性の方が高くなっています。

喫煙: 最も重要で改善可能な危険因子が喫煙です。喫煙者が冠動脈疾患を発症するリスクは、毎日吸うタバコの本数と直接的に関係します。すでにハイリスクの心疾患を発症している人にとって、喫煙はきわめて危険です。

喫煙は、「善玉」コレステロールと呼ばれる高密度リポタンパク(HDL)値を低下させ、「悪玉」コレステロールと呼ばれる低密度リポタンパク(LDL)値を上昇させます。喫煙は、動脈内壁が損傷する危険性を高める一酸化炭素の血中濃度を上昇させます。喫煙は、アテローム動脈硬化によってすでに狭くなっている動脈を収縮させ、組織に供給される血液の量をさらに減少させます。加えて、喫煙は血小板の粘着性を高めることで血液を固まりやすくさせるため、末梢動脈疾患(アテローム動脈硬化は心臓や脳へ血液を供給する以外の動脈も傷害する)(末梢動脈疾患: はじめにを参照)、冠動脈疾患(冠動脈疾患: はじめにを参照)、脳卒中(脳卒中: はじめにを参照)、バイパス術(冠動脈疾患: 冠動脈バイパス術を参照、末梢動脈疾患: 脚や腕の動脈を参照)で移植したグラフトの閉塞などの危険性が高まります。

禁煙した人のリスクは、禁煙までの喫煙期間の長さにかかわらず、喫煙を続けている人の半分になります。また、禁煙は、冠動脈バイパス術や心臓発作後の死亡リスク、末梢動脈疾患の悪化および死亡リスクを減少させます。禁煙の有益性はすぐに現れ、時間がたつにつれて増大します。

他人が吸っているタバコの煙を吸いこむ受動喫煙もリスクを上昇させます。タバコの煙は避ける必要があります。

コレステロール高値: コレステロール高値は、もう1つの重要で改善可能な危険因子です。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)(主な脂質低下薬を参照)の使用によりコレステロール値を低下させることは、心臓発作、脳卒中、死亡のリスクを有意に減少させます。コレステロール値を上昇させる危険因子の多くは、アテローム動脈硬化の危険因子でもあります。それらには、喫煙、糖尿病、肥満、運動不足などがあります。脂肪分を多く含む食事によってコレステロール値が上昇する人もいます。コレステロール値は加齢とともに上昇し、正常な場合は男性の方が女性より高く、また、女性では閉経後に高くなります。

しかし、すべての種類のコレステロールがアテローム動脈硬化のリスクを増大させるわけではありません。LDL(悪玉)コレステロール値が高くなると、リスクは増えます。一方、HDL(善玉)コレステロール値が高くなるとリスクは減り、低くなるとリスクは増えます。理想的な数値は、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪を合わせた総コレステロール値が140〜200mg/dLの範囲にあることです。総コレステロール値が300mg/dLに達すると、心臓発作のリスクは2倍以上になります。LDLコレステロール値が130mg/dL未満になり、HDLコレステロール値が40mg/dLを超えると、リスクは減少します(成人における望ましい脂質値を参照)。総コレステロール値やLDLコレステロール値よりも、総コレステロール中に占めるHDLコレステロールの割合が、さらに信頼性の高いリスクの指標です。HDLコレステロールは総コレステロールの25%以上を占めていなければなりません。中性脂肪の高値は、HDLコレステロールの低値とよく相関します。しかし、中性脂肪値が高いだけでも、アテローム動脈硬化のリスクは上昇します。

コレステロールや他の脂肪性物質の血中濃度を上昇させる一部の遺伝性疾患も、アテローム動脈硬化のリスクを増大させます。たとえば、コレステロール値を極度に上昇させる家族性高コレステロール血症は、主に冠動脈にアテロームの形成を引き起こします。この病気の人が治療を受けずにいると、若いうちに冠動脈疾患で死亡します。

高血圧: うまくコントロールされていない高い拡張期あるいは収縮期血圧は、アテローム動脈硬化によって引き起こされる心臓発作や、脳卒中の危険因子です。

糖尿病: 1型糖尿病(糖尿病を参照)の患者では、眼や腎臓などの細動脈に影響を及ぼすアテローム動脈硬化が発生しやすくなっています。一部の1型糖尿病および大半の2型糖尿病の患者では、大動脈にアテローム動脈硬化が発生しやすくなっています。また、糖尿病患者は、糖尿病ではない人よりもより若い年代で、より広範囲にアテローム動脈硬化を発生しやすいとされています。アテローム動脈硬化の発症リスクは、糖尿病のある人、特に女性では2〜6倍高くなります。糖尿病の女性は、そうでない女性と異なり、閉経前でもアテローム動脈硬化を発症しやすくなっています。

肥満: 肥満、特に内臓肥満は、冠動脈疾患のリスクを増やします。内臓肥満はアテローム動脈硬化の他の危険因子、つまり高血圧、2型糖尿病、コレステロール高値のリスクも増大させます。減量によって、これらすべてのリスクが減少します。

運動不足: 運動不足は、冠動脈疾患の発症リスクを増大させることが示されており、定期的な運動によってそのリスクが低下するという多くの証拠が報告されています。運動はまた、血圧低下、コレステロール値低下、体重減少などによって、アテローム動脈硬化のその他の危険因子を改善する効果があります。

血中ホモシステイン高値(高ホモシステイン血症): 血液中のホモシステイン(アミノ酸)濃度の高値は、動脈内壁を直接傷つけ、アテロームが形成されやすくなります。さらに、ホモシステイン高値によって血液のかたまりも形成されやすくなります。加齢とともにホモシステイン値は高くなり、女性では特に閉経後に高くなります。血液中のホモシステイン濃度の高値は、ホモシステイン尿症(ホモシステインが尿中に過剰に排泄される遺伝性疾患)により起こります。この疾患の患者では若年者でも広範囲なアテローム動脈硬化がよくみられます。心臓に血液を供給する冠動脈だけではなく、さまざまな動脈にアテロームが形成されます。

高ホモシステイン血症の原因が遺伝性ホモシステイン尿症ではない場合、脳へ続く動脈や末梢動脈と同様に、冠動脈を傷害するアテローム動脈硬化が起こる危険性が高くなります。血液中のホモシステイン濃度を上昇させる原因には、葉酸欠乏症、ビタミンB6あるいはB12欠乏症、腎不全、乳癌など一部の癌、乾癬、大量の喫煙、特定の薬剤の使用などがあります。こうした薬剤には、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12と相互作用する癌を治療するメトトレキサート、抗けいれん薬のフェニトインやカルバマゼピンのような薬剤;脂質低下薬のコレスチポール、コレスチラミンおよびナイアシンのようなホモシステインの吸収に干渉する薬剤;抗生物質のイソニアジドのようなホモシステインの代謝に干渉する薬剤などがあります。

症状

アテローム動脈硬化では普通、動脈内腔が70%以上狭められるまで症状はみられません。症状は、全身どこにでも起こり得る動脈の狭窄や閉塞の部位によって異なります。冠動脈が狭窄すると、胸痛(狭心症)が起こります。冠動脈が閉塞すると、心臓発作が起こります。不整脈や心不全が起こることもあります。脳へ血液を供給する頸動脈の閉塞は、脳卒中を引き起こします。脚の動脈の狭窄は、けいれん(間欠性跛行(末梢動脈疾患: 脚と腕の動脈を参照))を引き起こします。55歳以上の人では腎臓へ血液を供給する動脈の片方あるいは両方が狭窄もしくは閉塞し、ときに腎不全や危険なほど血圧が高い状態(悪性高血圧(高血圧を参照))を起こすことがあります。

アテローム動脈硬化により動脈が狭くなればなるほど、組織はその動脈から十分な量の血液と酸素を受け取ることができなくなり、症状が現れます。動脈の狭窄による最初の症状は、組織が必要とする酸素の量を血流が維持できないときに起こる痛みやけいれんです。たとえば、運動中に胸痛が起こるのは、心臓へ供給される酸素が不足しているからです。また、歩行中に脚がけいれんするのは、脚に供給される酸素が不足しているからです。

普通、アテロームは動脈をゆっくりと狭めていくので、症状も徐々に現れます。しかしときに、アテロームによって狭くなった動脈に血液のかたまりが詰まるなどして、動脈の閉塞が突然起こった場合には、最初の症状も突然起こり、心臓発作や脳卒中を来します。

予防と治療

アテローム動脈硬化を予防するためには、喫煙、コレステロール高値、高血圧、肥満、運動不足などの、改善できる危険因子を認識する必要があります。その人の抱えている危険因子によって、禁煙(冠動脈疾患: 喫煙を参照)、コレステロール値の低下(コレステロールの異常: 治療を参照)、血圧の低下(高血圧: 薬物療法を参照)、減量(肥満: ダイエットと栄養カウンセリングを参照)、運動プログラムの開始(エクササイズとフィットネス: エクササイズプログラムを始めるを参照)などの予防法があります。

合併症を起こすほど、アテローム動脈硬化が重症化しているときは、合併症そのものも治療しなければなりません。アテローム動脈硬化の合併症には、狭心症、心臓発作(心筋梗塞)、不整脈、心不全、腎不全、脳卒中、けいれん(間欠性跛行)などがあります。

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