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閉塞性末梢動脈疾患

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閉塞性の末梢動脈疾患は高齢者に多く、アテローム動脈硬化によることが多いため、年齢とともに増えていきます。70歳以上の人は15〜20%がこの病気にかかっていると思われます。この病気は特に、喫煙習慣のある人、1型、2型を問わず糖尿病の患者に多くみられます(糖尿病を参照)。

閉塞性の末梢動脈疾患はこのほか、アテローム動脈硬化の家族歴があり、血圧、コレステロール、またはホモシステインの値が高い人や、肥満の人、運動不足の人にも多くみられます。これらの状態はどれも閉塞性末梢動脈疾患を発症させるだけでなく、悪化させる要因でもあります。

閉塞性末梢動脈疾患は、動脈が徐々に狭まったり、突然ふさがったりして起こります。動脈が狭くなると、そこから血液を供給されている部位は十分な量の血液を受け取れなくなります。この状態は虚血と呼ばれ、突然起こることも徐々に起きることもあります。動脈が突然かつ完全に閉塞すると、そこから血液を供給されている部位の組織が壊死します。

動脈が徐々に狭くなるのは、普通はアテローム動脈硬化によるもので、動脈壁にコレステロールやその他の脂質が沈着していきます(アテロームあるいはアテローム硬化斑)。アテロームは動脈の内腔を徐々に狭めて、血流を減少させます(アテローム動脈硬化が起こるしくみを参照)。アテロームにはカルシウムも蓄積し、動脈を硬くします。

まれですが、動脈壁の筋肉が異常に増殖したり(線維筋性形成異常)、腫瘍(しゅよう)や嚢腫など膨張するかたまりによって外部から圧迫されたりして、次第に動脈が狭められることもあります。

すでに狭くなっている動脈に血栓(血液のかたまり)が形成されると、動脈は突然にしかも完全にふさがることがあります。このような突然の閉塞は、心臓や大動脈で形成された血栓が流れ出して塞栓となり、他の部位で動脈に詰まることによっても起こります。いくつかの病気では、血栓を形成するリスクが上昇します。たとえば心房細動などの心臓病、血液凝固障害、自己免疫疾患による血管の炎症(血管炎)などです。

アテロームからはがれ落ちた脂肪のかたまりが流れ出して突然、動脈に詰まることもあります。突然の閉塞は大動脈解離(動脈瘤と大動脈解離: 大動脈解離を参照)によることもあります。大動脈解離では大動脈の内層が裂け、その裂け目から血液が中間層に勢いよく流れこみます。解離が広がると大動脈から分枝している複数の動脈がふさがる場合があります。

閉塞性末梢動脈疾患は、胸郭出口症候群( 末梢神経の障害: 胸郭出口症候群を参照)によっても起こります。この症候群では、神経と同様に首と胸の間の経路にある血管が圧迫されます。

閉塞性末梢動脈疾患は体のいろいろな動脈でみられます。脚の動脈に多く、大腿動脈(太ももの動脈)、膝窩動脈(ひざの動脈)、頸骨および腓骨動脈(ふくらはぎの動脈)などです。頻度は低いですが、肩や腕の動脈でもみられることがあります。また、左右の総腸骨動脈(脚へ血液を供給する動脈)へ分かれる下部大動脈も含め、腹部大動脈(腹部を通る大動脈)やその分枝ででもみられます。腎臓へ行く分枝(腎動脈)がアテローム動脈硬化によって徐々に狭くなることは比較的多くみられますが、その片方が突然かつ完全に閉塞することはめったにありません。腸へ行く分枝(上腸間膜動脈)が閉塞することもまれです。肝臓へ行く分枝(肝動脈)や脾臓へ行く分枝(脾動脈)が閉塞することはきわめてまれです。

症状

症状は、どの動脈がどの程度閉塞しているか、そして徐々に閉塞したのか突然閉塞したのかによって異なります。普通は動脈の内腔の約70%がふさがれなければ症状は起こりません。たとえ最終的には動脈が完全に閉塞する場合でも、突然に閉塞するよりは徐々に狭くなっていく方が症状は軽くなります。徐々に閉塞していく場合は血液が供給され続けている間に近くにある動脈が拡張したり、側副血管が発達したりできます。しかし、血管が突然に閉塞すると側副血管が発達する時間がないために症状は重くなります。

脚と腕の動脈: 腕や脚の動脈が突然にしかも完全に閉塞すると、激痛、冷感、しびれが起こります。脚や腕の皮膚が青っぽくなるチアノーゼが生じます。動脈が閉塞した部分から先では脈を触れなくなります。手足への血流が突然にしかも劇的に減少した場合は、緊急に治療する必要があります。手足への血流が途絶えると、急速に感覚の消失や麻痺(まひ)が起こります。

間欠性跛行(かんけつせいはこう)は末梢動脈疾患の最も一般的な症状で、脚の動脈が徐々に狭くなるために起こります。うずくような痛み、けいれん、脚の筋肉の疲労感(関節には感じません)がみられます。間欠性跛行は運動中に定期的に起こることが予測でき、休息すればすぐに軽減します。歩行中の筋肉の痛みは、患者が速く歩いたり坂を登ったりすると、早く現れ、より悪化します。間欠性跛行の痛みは1〜5分休息すると(座る必要はありません)治まり、また歩き続けることができますが、それまでに歩いた距離と同じ距離を歩くと再び痛みが出ます。最もよく痛むのはふくらはぎですが、動脈のどのあたりが閉塞されているかによって太もも、腰、おしりなどが痛むこともあります。きわめてまれに足が痛むこともあります。

脚の動脈がさらに狭くなると、痛みを感じずに歩ける距離が短くなります。病気が悪化すると最終的には、横になって休んでいるときでさえも筋肉が痛むようになります。すねや足の甲から始まるこの痛みは激しくて和らぐことがなく、脚を上げるとさらにひどくなります。痛みのために眠れなくなることもしばしばです。痛みを和らげるためにベッドの横から両足を垂らしたり、脚が垂れ下がるように腰掛けた状態で休む人もいます。

腕の動脈が大規模に閉塞することはまれですが、閉塞した場合には腕を繰り返し動かすと筋肉の疲労、けいれん、痛みを感じます。

腕や脚は、血液供給量が軽度から中等度まで減少してもほとんど正常にみえます。足への血液供給量がひどく減少した場合は、足が冷たくなります。足やすねの皮膚は乾燥し、うろこ状にひび割れて光ります。爪は正常に伸びず、毛も伸びません。動脈がさらに狭まると潰瘍ができやすくなります。特につま先やかかとにけがをした場合が典型的で、ときにはすねにも起こり、なかなか治りません。また、感染症にかかりやすく、すぐに悪化します。重症の閉塞性末梢動脈疾患では皮膚の傷が治るのに数週間から数カ月かかり、治らないことさえあります。足に潰瘍が発生することもあります。脚の筋肉は萎縮します。大きな閉塞は壊疽(えそ)を起こすことがあります。

跛行が予測可能で安定していた人でも、突然に悪化することがあります。たとえば、それまでは10ブロックは歩けていたのに、1ブロック歩いただけで突然ふくらはぎが痛くなります。この変化は脚の動脈に新しく血栓ができたことを示唆します。このような場合はできるだけ早く専門医の診察を受ける必要があります。

下部大動脈と総腸骨動脈: 総腸骨動脈に分かれる下部大動脈が突然に閉塞すると、両脚が突然痛み出して青白く冷たくなります。脚では脈も触れなくなってしびれたようになります。

下部大動脈あるいは2本の総腸骨動脈が徐々に閉塞していくと、おしりと両方の太ももが痛くなる間欠性跛行が起こります。普段は正常にみえるにもかかわらず、両脚は冷たく青白くなります。このような状態はレリッシュ症候群とも呼ばれており、男性に多くみられ、インポテンス(勃起不全)の主な原因となっています。

腎動脈: 腎臓へ血液を供給している腎動脈の片方が突然、完全に閉塞すると、その動脈がある側が突然痛み出し、血尿がみられます。このような症状は、緊急に治療する必要があります。

腎動脈の片方あるいは両方がゆっくりと少しずつ閉塞していく場合は、症状がなく腎臓の機能も影響を受けません。非常にまれに、腎動脈の片方あるいは両方がほとんどふさがったために、腎不全や腎血管性高血圧が起こることがあります。腎血管性高血圧は高血圧の5%未満です。

上腸間膜動脈: 上腸間膜動脈が突然、完全に閉塞した場合は、緊急に治療する必要があります。この閉塞が起こると、初めは吐いたり、急激な便意を催します。上腸間膜動脈は腸の大部分に行きわたっているため、やがてひどく具合が悪くなり、腹部に激痛が起こります。医師の触診で腹部に圧痛を感じることもありますが、痛みがひどいために圧痛の範囲は漠然としています。腹部はわずかに腫れます。最初のうちは聴診器で正常よりも少ない腸音が聞こえますが、やがて腸音はまったく聞こえなくなります。便には最初は少量の血液が含まれているだけですが、すぐに血便となります。血圧が低下し、腸に壊疽が起こるとショック状態になります。

腸への血液供給が遮断された場合

腸への血液供給が遮断された場合

上腸間膜動脈は腸の大部分へ血液を供給しています。この動脈が閉塞すると腸の組織は壊死しはじめます。

上腸間膜動脈が徐々に閉塞していく場合は、毎食後30〜60分間ほど腹痛が起こるのが典型的で、これは消化のために腸がより多くの血液を必要とするからです。この痛みは一定した激痛で、へそを中心に感じます。この痛みを恐れてあまり食べなくなるため、体重がかなり減少します。また、腸への血液供給量が減るため、血流中に取りこまれる栄養素が少なくなることも体重減少の一因です。

肝動脈と脾動脈: 肝臓へ血液を供給する肝動脈や脾臓へ血液を供給する脾動脈の閉塞は、腸の主要な動脈の閉塞ほど危険ではありません。しかし肝臓や脾臓が部分的に損傷します。

診断

閉塞性の末梢動脈疾患は、症状と診察の結果に基づいて診断します。血圧や血流を直接測定する検査も行います。

オーディオ

血流の乱れ

血流の乱れ

医師や看護師は、まず左右のわきの下、ひじ、手首、脚の付け根、足首、膝の裏側の脈を調べます。動脈が詰まるとそこから先の脈は弱くなるか、まったく触れなくなります。たとえば、脚の動脈の閉塞が疑われる場合は、脚の特定の部位から下の脈をチェックします。腎動脈など脈拍をチェックできない動脈は、血流を画像化する検査を行います。聴診器で狭くなった動脈を血流が通過するときに生じる異常な雑音を聞くことができます。医師は手足の皮膚の色や温度をチェックし、皮膚を静かに押してみて手を離してからどのくらい早くもとの色に戻るかを調べます。これらの観察により、十分な血液が循環しているかどうかを判断できます。

末梢動脈疾患の診断に使われる検査のほとんどは非侵襲的で、外来で行うことができます。最も一般的なのは、標準的な駆血帯と特殊な電子聴診器を使って、両腕と両脚の収縮期血圧を測定することです。足首の血圧が腕の血圧よりも一定して低い場合は、脚への血流が不十分であり、閉塞性末梢動脈疾患と診断できます。腕の動脈の閉塞が疑われる場合は両腕の収縮期血圧を測定して比べます。片方の腕の血圧がいつも高ければ、低い方の腕の閉塞を示唆しており、診断できます。しかし、カルシウムが沈着して動脈が硬化している人や長年にわたり糖尿病をわずらっている人の場合では、血圧測定は必ずしも正確な検査法とはいえません。

ドップラー超音波検査(心血管系の病気の症状と診断: 心臓超音波検査とその他の超音波検査を参照)は、血流を直接測定して閉塞性末梢動脈疾患の診断を確定するために使われます。この検査では、血管の狭窄部位や閉塞部位が正確に描出されます。カラードップラー超音波検査では、血流が速度によって異なる色で表示されるため、診断に役立ちます。ドップラー超音波検査による血流の測定は、運動負荷試験(心血管系の病気の症状と診断: 運動負荷試験を参照)中に実施することもありますが、これは運動中にしか現れない異常もあるためです。X線検査やその他の非侵襲的な検査、たとえば血流量や血液中の酸素量を測定する検査なども行います。

侵襲度が大きい血管造影検査(心血管系の病気の症状と診断: 末梢血管造影検査を参照)は、普通は手術や血管形成術が必要となった場合にのみ行います。この場合の目的は、手術や血管形成術を行う前に、損傷した動脈の鮮明な画像を得ることです。まれに、手術や血管形成術が実施可能かどうかを判定するために血管造影検査が必要になることもあります。この検査はX線を透過しない造影剤を動脈内に注射して行うため、造影剤はX線画像上に動脈の輪郭を映し出します。血管造影検査では動脈の直径を正確に知ることができ、ドップラー超音波検査よりも正確に閉塞部位を確認できます。普通の血管造影検査の代わりに、デジタルサブトラクション血管造影検査を行うこともあります。この検査ではコンピューターを使って画像を増強するため造影剤をほとんど必要としません。したがって、この検査は標準的な血管造影よりも安全で、不快感も少なくて済みます。病院によっては、らせんCTを使ったCT血管造影検査や磁気共鳴血管造影(MRA)(心血管系の病気の症状と診断: MRI検査を参照)など、より侵襲度の少ない血管造影検査を行うところもあります。

アテローム動脈硬化の患者の場合、医師はコレステロール高値、高血糖、ホモシステイン高値、高血圧などといった危険因子を特定します。これらの濃度は血液検査で測定します。血圧が一貫して高いかどうかを判定するには、何回か血圧を測定します。

自己免疫疾患による血管の炎症など、他の原因による動脈の狭窄や閉塞を突き止めるために血液検査を行うこともあります。このような検査では赤血球沈降速度(ESR)や、炎症を起こしているときにだけ産生されるC反応性タンパク(CRP)を測定します。腕の動脈が閉塞している場合は、原因がアテローム動脈硬化か、胸郭出口症候群か、動脈炎かの判定を試みます。

脊椎管が狭くなる脊椎管狭窄症も運動中の痛みの原因となるので除外診断が必要です。しかし、この場合の痛みは間欠性跛行とは異なり、休息しても軽減しません。

予防

閉塞性末梢動脈疾患を予防するのに最も良い方法は、アテローム動脈硬化の危険因子を改善、あるいは取り除くことです(アテローム動脈硬化: 危険因子を参照、冠動脈疾患: 危険因子を参照)。それには禁煙する、糖尿病をコントロールする、血圧を下げる、コレステロールやホモシステイン値を低下させる、減量する、定期的に運動するなどの方法があります。糖尿病をうまくコントロールできれば、閉塞性末梢動脈疾患の発症を遅らせたり予防できるだけでなく、その他の合併症のリスクを減らすこともできます(糖尿病: 合併症を参照)。

治療

末梢動脈疾患の治療の目的は、進行の予防、心臓発作・脳卒中・広範囲のアテローム動脈硬化による死亡リスクの減少、手足の切断の回避、間欠性跛行などの症状を軽減することによる生活の質(QOL)の改善などです。治療法には、跛行を軽減する薬や血栓溶解薬(冠動脈疾患: 初期治療を参照)による治療、血管形成術、手術、運動療法、足のケアなどがあります。どの治療法を選ぶかは、症状の重症度、閉塞している部位とその程度、治療に伴うリスク(特に手術の場合)、患者の総合的な健康状態によって決まります。特定の治療を行っているかどうかにかかわらず、総合的な治療成績を改善するためには、アテローム動脈硬化の危険因子を改善する必要があります。血管形成術や手術は、当面の問題を機械的に修復するだけで、おおもとの病気を治すものではありません。

血管形成術はしばしば血管造影検査の直後に行います。血管形成術は症状を軽減するために実施され、結果的に手術を延期したり回避したりできます。ときには手術と併用することもあります。血管形成術では、先端に小さな風船(バルーン)のついたカテーテルを動脈の狭窄部位に挿入し、バルーンをふくらませて狭窄部位を拡張します(血管形成術の方法を参照)。動脈を開通したままにしておくにはステント(耐久性のある金属メッシュの筒)を挿入します。血管形成術は外来で行うことができます。血管形成術による痛みはめったにありませんが、硬い台の上に寝ていなくてはならないため、いくぶん不快感はあるかもしれません。全身麻酔は行わずに弱い鎮静薬を使用します。

血管形成術がどの程度成功するかは、閉塞している部位と末梢動脈疾患の重症度によります。手術後はアスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を服用して、手足の動脈で血栓が形成されるのを防ぎ、心臓発作や脳卒中を予防します。また、ドップラー超音波検査を定期的に行って動脈を通る血流を監視し、動脈が再びふさがっていないかどうかを確認します。

動脈の狭窄個所が多すぎる場合、狭窄部位が長すぎる場合、動脈が広範囲にわたってひどく硬化している場合には、血管形成術を行っても効果はありません。狭窄部位に血栓が形成された場合、塞栓(血栓の破片)が流れ出して他の部位で詰まった場合、動脈解離(血液が動脈の内層にしみこんでたまり、血流を遮断する病気)がみられる場合、ひどい出血がみられる場合には、血管形成術の後に手術が必要となります。

血管形成術中にバルーンカテーテルの代わりに使用できる器具にはレーザー、機械的なカッター、超音波カテーテル、回転やすりなどがありますが、どれもバルーンカテーテル以上の効果はないようです。

血栓溶解薬が効果がない場合や危険すぎて使用できない場合には、手術を行って血栓を取り除きます(血栓内膜摘出術)。アテロームやその他の閉塞を取り除く手術(動脈内膜切除術)を行うこともあります。代わりにバイパス術を行う場合もあります。バイパス術では合成素材のチューブ、あるいは他の部位の静脈の一部を閉塞部位の前後で動脈とつなぎ合わせます。つまり、血液は閉塞部位を迂回することになります。また、狭窄部位あるいは閉塞部位を切除してその部位を移植片でつなぐ手術を行うこともあります。閉塞性末梢動脈疾患の患者は冠動脈疾患もあることが多いため、手術前に心臓の機能と心臓を通る血流の状態を調べて、手術の相対的な安全性を判定する必要があります。

脚や腕の動脈: これらの動脈が突然にしかも完全に閉塞した場合は、手足の不可逆的な機能不全や切断を防ぐためにできるだけ早く手術を行う必要があります。

脚へのバイパス術

脚へのバイパス術

バイパス術は狭窄や閉塞のある動脈を治療するために行います。この手術を行うことによって血液は動脈の病変部、たとえば太ももの大腿動脈の一部やひざの膝窩動脈の一部を迂回することになります。移植片には合成素材のチューブや、他の部位の静脈の一部を使用し、閉塞部位の前後につなぎます。静脈から移植片を切り取った場合には、静脈の切り口を縛って血液が他の脚の静脈に流れるようにします。

間欠性跛行がある患者のほとんどは、運動や薬の服用で痛みを軽減できます。運動は最も効果的な治療で、やる気があり処方された運動プログラムを毎日実行できる人にとっては適切な治療法です。運動によって跛行が軽減できる理由は正確にはわかっていませんが、筋肉の機能が改善されるためだと考えられています。運動によって血流が改善するという証拠も、新しい血管(側副血管)の発達を促すという証拠もありません。跛行のある人は、できれば少なくとも1週間に3回、最低30分は歩くようにすべきです。これを習慣にすることで、たいていの人は楽に歩ける距離を延ばすことができます。歩行中に感じる不快感は危険なものではありません。不快感を感じたら立ち止まり、不快感が消えるまで待ってから再び歩くようにします。歩ける距離を延ばすには、休息している時間を除いて30分以上は歩く必要があります。

普通は、訓練を受けた療法士の指導による心臓リハビリテーションプログラムが最も効果的な運動です。跛行がある人はリハビリテーションプログラムを始める前に、運動負荷試験(心血管系の病気の症状と診断: 運動負荷試験を参照)を行って、心筋に血液が十分に供給されていることを確認するよう勧められています。

安静時にも痛みがあったり、壊疽を起こしている、傷が治癒しないなど、非常に重症の閉塞性末梢動脈疾患の場合は、血管が収縮するような寒気にさらされたり、血管収縮作用のある薬を服用したりすべきではありません。こうした薬には、一部の頭痛薬やかぜ薬の成分であるエフェドリンやプソイドエフェドリンが含まれています。

跛行の治療にはペントキシフィリンやシロスタゾールを使用します。これらの薬は血流量を増加させるため、筋肉への酸素供給量が増えます。どちらの薬も2〜3カ月間服用しなければ有効かどうか判定できません。しかし最近ではペントキシフィリンの有効性に疑問がもたれるようになり、多くの専門家がこの薬の使用を推奨しなくなっています。対照的に、シロスタゾールでは痛みを伴わずに歩ける距離が50〜100%伸びるという結果が出ています。この薬は心不全のある人には使えません。カルシウム拮抗薬などの動脈を拡張させる作用のある薬も使われますが、これらの薬が跛行を軽減させることは証明されていません。カルニチンやイチョウ葉(ハーブとサプリメント: イチョウ葉を参照)のサプリメントに跛行を軽減する効果があるという報告もありますが、処方薬と比べるとその効果はわずかです。

血栓(血液のかたまり)の形成を防ぎ、心臓発作や脳卒中のリスクを減らすために、普通はアスピリンやクロピドグレルが投与されます。これらの薬は血小板に作用して、血管壁に付着しないようにします。正常な状態では、血小板は血液に含まれて体内を循環しており、血管が傷つくと出血を止めるために凝集して血栓を作ります。

ほかの治療では跛行が軽減しない場合は、血栓を取り除く手術かバイパス術を行います。これは普通、跛行がひどく耐え難くなる、安静にしていても痛みがある、傷が治らない、壊疽が起こるなど、血流がひどく減少しているという場合に、脚の切断を避けるために行います。

足を十分にケアすることは重要です。傷や潰瘍を防ぎ、そこから感染や壊疽が起こるのを防ぎます。ケアが良ければ、足を切断しないで済みます。感染症の治療にも、皮膚を損傷から保護するためにも、歩行能力を維持するためにも、ケアは必要です。

足の潰瘍は清潔にしておかなければいけません。刺激の少ないせっけんか抗菌作用のある溶液を使って毎日足を洗い、清潔な乾いた包帯で覆っておく必要があります。血流を改善するために、脚を心臓より低い位置に保つようにすべきです。糖尿病の人は血糖値をできるだけ良い状態にコントロールしなければなりません。脚の血液循環の悪い人や糖尿病の人はだれでも、原則として7日ほどたっても潰瘍が治らない場合には医師の診察を受けるべきです。しばしば抗生物質入りの軟膏(なんこう)が処方されます。

足の潰瘍が治らない場合は、ベッドで安静にしている必要があります。その場合は足に褥瘡(床ずれ)ができないように、ヒールパッドつきの包帯をするか、フォームラバーのブーツをはく必要があります。ベッドは頭の方を約15〜20センチメートルほど高くして、脚が心臓の高さより低くなるようにして、重力の作用で脚の動脈の血液を流れやすくします。潰瘍に感染が起こった場合は、普通は入院して抗生物質を服用する必要があります。

まれに、感染した組織を取り除くため、長期間続く痛みを軽減するため、壊疽の悪化を止めるために、脚を切断しなければならなくなることもあります。外科医はできるだけ切断部分を最小限にとどめます。義足を装用するには、膝の関節を残しておくことが特に重要です。脚の切断後は、リハビリテーションが重要です(リハビリテーション: 腕や脚の切断を参照)。

足のケアをする方法

足の動脈に末梢動脈疾患がある人は足をケアする必要があります。以下にその方法と注意すべき点をあげておきます。

  • 毎日、足を観察し、ひび割れ、潰瘍、うおのめ、たこができていないかどうか注意深く調べる
  • 毎日、ぬるま湯と刺激の少ないせっけんで足を洗い、やさしく拭き取って完全に乾かす
  • 皮膚が乾燥しがちなら、ラノリンなどの潤滑剤を使用する
  • 足の乾燥を保つため、非薬用パウダーを使用する
  • 足の爪は水平に切り、短く切りすぎない(足の専門医に切ってもらう必要がある場合は、末梢動脈疾患であることを告げる)
  • うおのめやたこの治療は足の専門医にまかせる
  • うおのめやたこを取り除くために、貼り薬や刺激性の薬を使わない
  • 靴下やストッキングは毎日取り替え、靴はたびたびはき替える
  • ゆったりとしたウールの靴下をはき、足を暖かくしておく
  • きつい靴下止めやゴムがきついストッキングははかない
  • 足に良くフィットし、つま先に余裕がある靴をはく
  • サンダルや裸足で歩いたりしない
  • 足が変形している場合は、足の専門医に特別な靴を処方してもらう
  • 湯たんぽや電気あんかなどは使用しない

下部大動脈と総腸骨動脈: 下部大動脈や総腸骨動脈が突然にしかも完全に閉塞した場合には、即座に手術を行います。

腎動脈: 腎動脈が突然、完全に閉塞した場合は、即座に血管形成術あるいは手術を行うことにより、血流も腎機能も回復させることができます。

腎動脈が徐々に閉塞していく場合は、血圧がよくコントロールされ、血液検査で腎臓が十分に機能していることがわかっていれば、特別に治療する必要はありません。腎血管性高血圧を発症した場合は降圧薬(主な降圧薬を参照)を使用します。しばしば少なくとも3種類の降圧薬が必要になります。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は特に有効ですが、これらの薬を使用する場合は腎機能を監視する必要があります。重度の腎血管性高血圧が持続する場合や、腎機能が悪化している場合は、腎臓への血流を回復させるために血管形成術かバイパス術を行います。

上腸間膜動脈: 上腸間膜動脈が突然、完全に閉塞した場合は、即座に手術を行って血液の供給を回復することが命を救う唯一の方法です。救命できるかどうか、腸を救えるかどうかは、いかに早く血液供給を回復できるかにかかっています。貴重な時間を無駄にしないために、X線撮影もせずに患者を手術室へ送ることさえあります。

上腸間膜動脈が徐々に閉塞していく場合は、腹痛を軽減するためにニトログリセリンを使用しますが、動脈を拡張させるには血管形成術や手術を行う必要があります。動脈がどの程度ふさがっているかを確認し、手術が必要かどうかを決定するためにはドップラー超音波検査や血管造影検査を行います。

肝臓と脾臓の動脈: 肝動脈や脾動脈が閉塞した場合には、手術を行って血栓を取り除く必要があります。

ビュルガー病

ビュルガー病(閉塞性血栓血管炎)とは、脚や腕の細動脈から中動脈が、炎症を起こして閉塞する病気です。

普通は喫煙者に発症するまれな病気で、ほとんどが20〜40歳の男性に起こります。ビュルガー病は男性の病気と考えられていましたが、次第に女性にもみられるようになってきました。現在では患者の約3分の1が女性で、これは喫煙する女性が増えているためと考えられています。

喫煙がビュルガー病にどのようにかかわっているかはよくわかっていませんし、何が原因でこの病気が起こるのかもわかっていません。仮説の1つは、喫煙が動脈の収縮や炎症の原因だというものです。しかし、ビュルガー病を起こすのは喫煙者のごく少数であることから、未知の何らかの理由でこの病気にかかりやすい人がいると思われます。いずれにせよ、喫煙し続ければビュルガー病は悪化して、手や足を切断せざるを得なくなります。対照的に、ビュルガー病の患者が禁煙すれば、ほとんどが切断を免れることができます。

症状

腕や脚への血流が減少するため、冷感、しびれ、チクチクする感覚、熱感、痛みなどの症状が徐々に現れます。このような異常な感覚は指先あるいはつま先から始まり、腕や脚へと上っていきます。腕よりも脚が影響を受けることが多くなります。この病気では、医師が虚血(不十分な血液供給)や壊疽を含む何らかの皮膚の変化に気づく前に、感覚に異常を感じます。運動中にはレイノー現象(末梢動脈疾患: レイノー病とレイノー現象を参照) や間欠性跛行(筋肉に不快感を感じる) (末梢動脈疾患: 脚と腕の動脈を参照) がみられることもあります。脚に起こった場合はふくらはぎの筋肉がつったりします。腕に起こった場合は手や前腕がつります。

病気が進行するにつれて、れん縮による痛みが強くなり、長時間続くようになります。病気の末期にはつま先や指に皮膚潰瘍か壊疽が、あるいは両方ができる場合があります。手や足は冷たく青白くなりますが、これは血流がひどく減少するためと思われます。

この病気にかかっている人の一部では、表在静脈にも炎症(遊走性静脈炎)がみられることがあります。

診断

医師は普通、症状と診察の結果からビュルガー病を疑います。ビュルガー病の患者のほとんどは脈が弱くなったり、足や手首の1本以上の動脈で脈が触れなくなったりします。障害を起こしている手、足、指、つま先を心臓より上に持ち上げると皮膚の色が青ざめ、心臓より低くすると赤くなります。

超音波検査では、障害されている手、足、指、つま先の血圧と血流がかなり減少しているのを検出できます。血管造影検査 (心血管系の病気の症状と診断: 末梢血管造影検査を参照) はビュルガー病に特有の狭窄パターンを検出できるため、診断の確定に役立ちます。場合によっては、診断を確定するために障害された動脈の生検(顕微鏡検査用の組織標本を採取すること)や専門医への紹介が必要となることもあります。

治療

ビュルガー病の人はただちに禁煙しなくてはいけません。さもなければ症状は悪化の一途をたどります。切断が必要になることもあります。寒いと血管が収縮するため寒気にさらされないようにします。頭痛薬やかぜ薬に含まれるエフェドリン、プソイドエフェドリンなどの血管を収縮させる薬や、エストロゲンなどの血液を固まりやすくする薬の服用も避けるべきです。やけど、凍傷、簡単な手術(たこを削るなど)などを含め、外傷を予防するために障害された手足をケアする必要があります。うおのめやたこは足の専門医の治療を受けるべきです。つま先に余裕があり、足によくフィットする靴をはくことが、足のけがを防ぐのに有効です。

禁煙したにもかかわらず動脈が閉塞したままの場合は、切断を避けるためにバイパス術を行います。バイパス術の代わりに、血管が収縮しなくなるように近接する特定の神経を切断することもあります(交感神経切除術)。この手術による血流の改善は一時的なものにすぎないため、めったに行われません。

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