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肺高血圧症

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肺高血圧症とは、肺動脈内の血圧が異常に高くなる病気です。

血液は右心室から肺動脈を通って肺へ送られます。肺では、二酸化炭素を血液中から取り出し、酸素を血液中に取りこみます。普通は、左心室に比べて右心室の壁は薄く、これは右心室が血液を肺動脈へ送り出すのに、比較的少ない筋肉と労力しか必要としないからです。一方、左心室は血液を全身に送り出さなければならないため、より強固で筋肉も多くなっています。さらに、肺動脈を通る血圧は全身の血圧より低く、全身の血圧の正常値が約120/80mmHgであるのに対し、肺動脈の血圧は25/15mmHgしかありません。

肺動脈の血圧が異常に上昇することを肺高血圧症といいます。やがて上昇した血圧は、太さを問わず肺動脈を損傷させます。毛細血管の壁は厚くなり、血液と肺の間で、正常な酸素と二酸化炭素の交換ができなくなります。そのため、血液中の酸素濃度が低下します。酸素濃度の低下は肺動脈の狭窄を起こします。この変化によって、肺を循環する血管の血圧がさらに上昇します。

肺高血圧症では、右心室は肺動脈を通して肺へと血液を送り出すのが困難になります。やがて右心室は肥厚して拡張し、肺性心と呼ばれる心不全(心不全を参照)を引き起こします。

一部の患者では、血液中の酸素不足を補うために骨髄が大量の赤血球を産生し、赤血球増加症(骨髄増殖性疾患: 真性赤血球増加症を参照)という病気を起こすことがあります。過剰な赤血球のために血液はより高濃度に、より粘着性が高くなるので、心臓にかかる負担はさらに増加します。これらの変化によって、肺性心の患者では、肺塞栓症(肺塞栓症を参照)を発症するリスクが高まります。なぜなら、粘り気の強い血液は集まって、主に脚の静脈内に血液のかたまりをつくり、このかたまりが脚の静脈壁からはがれて肺へと運ばれるためです。

肺性心と肺高血圧症は同義語と思われがちですが、そうではありません。肺高血圧症は肺性心を起こす原因です。肺性心の患者はすべて肺高血圧症です。しかし、やがて肺性心を発症することが多いとしても、肺性心を発症していない肺高血圧症の患者もいます。

肺高血圧によって発症する肺性心について

肺性心は右心室が拡張し肥厚化する病気で、やがて心不全を起こします。

肺性心が起こる原因は肺高血圧症だけです。肺高血圧症は肺動脈を徐々に厚くして、やがて血管の通り道を狭くします。いったん肺高血圧症が発症すると、肺の機能低下を補うために右心室にかかる負担が大きくなり、そのために右心室は拡張し肥厚化します。これらの変化によって、右心室不全が起こります(普通、心不全は左心室に問題があって起こります)。右心室が拡張すると血液が右心室や脚にたまりやすくなるため、肺塞栓症が生じるリスクが高くなります。たまった血液によってかたまりが形成され、それらがいずれは運ばれて肺の内部にとどまり、最悪の結果を引き起こします。

肺性心はかなり進行するまで、無症状であることがほとんどです。症状は肺高血圧症と同じです。つまり、激しい運動をした際の息切れ、めまい、疲労感、胸痛です。脚の浮腫や段階的に悪化する息切れなど、心不全の症状がみられます。

肺性心の診断に役立つ検査はさまざまですが、まず診察所見から肺性心を疑うことが多いです。右心室の拡張で起こる特徴的な心音が聴診器で聞こえます。胸部X線検査では拡張した右心室や肺動脈が認められます。左心室、右心室の機能は、心臓超音波検査(心エコー)、放射性物質を用いた検査、心臓カテーテル法などで調べます。

治療は普通、原因となった肺疾患に対して行われます。右心室不全を改善するための治療も行われます。肺性心の患者は肺塞栓症を起こすリスクが高くなるため、抗凝固薬の長期間の服用が指示されることがあります。.

原因

肺高血圧症には、原発性と続発性の2種類があります。原発性肺高血圧症は続発性肺高血圧症ほど一般的な疾患ではありません。原発性肺高血圧症の発症原因は明らかではありませんが、肺動脈の筋肉層のけいれんや萎縮によって始まると考えられています。原発性肺高血圧症にかかる女性は男性のほぼ2倍に上り、診断時点での年齢は、半数が35歳以上です。続発性肺高血圧症は、肺の外観や機能に影響を及ぼす別の疾患によって起こります。

続発性肺高血圧症は、肺への血液の流れを妨げる疾患や、血液中の酸素濃度を持続的に低下させる疾患が原因で発症します。最も一般的な原因の1つは、慢性閉塞性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患を参照)です。肺がこの疾患にかかると、心臓は肺へ血液を送り出すのにいっそうの努力が必要になります。やがて慢性閉塞性肺疾患は、肺の内部の毛細血管や肺胞を破壊します。慢性閉塞性肺疾患によって肺高血圧症が起こる原因として最も重要なのは、血液中の酸素濃度が低下して肺動脈が狭くなることです。

肺高血圧症を起こす別の疾患には、肺の組織に広範囲の瘢痕化が生じる肺線維症(浸潤性肺疾患: 特発性肺線維症を参照)があります。瘢痕化した組織ではその部分を循環する血管が損傷を受けているので、血液が非常に流れにくくなります。肺高血圧症を起こすその他の肺疾患としては、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症を参照)や、アスベスト肺(職業性肺疾患: アスベスト肺を参照)、珪肺症(職業性肺疾患: 珪肺症を参照)など特定の職業性肺疾患があります。

あまりみられませんが、手術や外傷などで広範囲の肺組織が失われたり、心不全、強皮症、ピックウィック症候群(呼吸機能が低下するほどの肥満症)、呼吸筋を巻き込む神経疾患、慢性肝疾患、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、デクスフェンフルラミン‐フェンテルミン(食欲抑制薬)などのダイエット薬によっても、肺高血圧症は起こります。肺高血圧症が突然発症した場合は肺塞栓症(肺塞栓症を参照)が原因です。これは、肺動脈の内部に血液のかたまりが詰まる重大な病気です。

症状

肺高血圧症の最も一般的な症状は激しい運動時に起こる息切れで、この病気が進行した患者のほぼ全員にみられます。激しい運動で、頭がくらくらしたり疲労感を感じたり、狭心症のような胸痛もよくみられます。全身の組織に十分酸素が行きわたっていないため、患者は脱力感を感じます。せきや喘鳴(ぜんめい)など他の症状はたいてい、肺の原因疾患によって生じます。特に脚でみられる浮腫(むくみ)は、静脈から組織内へ液体が漏れ出すために起こります。普通、浮腫は肺性心が起きている徴候です。

肺高血圧症の患者の一部では、結合組織性の病気、特に強皮症(結合組織の自己免疫疾患: 強皮症を参照)がみられます。この2つの病気を発症すると、肺高血圧症の症状が現れる前にレイノー現象(末梢動脈疾患: レイノー病とレイノー現象を参照)を起こし、これは肺高血圧症が発症する数年前にみられることもあります。

原因は明らかではありませんが、肺高血圧症の患者は、肺高血圧症を発症する何年も前に関節痛を起こす場合があります。

診断

原因となる肺疾患がある患者では、症状をもとに肺高血圧症を疑います。胸部X線検査では、肺動脈の拡張が認められます。心電図や心臓超音波検査(心エコー)を行うと、肺性心の発症前から右心室に特定の病気が認められます。たとえば心エコーでは、右心室の肥厚化や、右心房と右心室の間にある三尖弁を通過する血液の一部の逆流が確認できることがあります。肺機能検査では、肺の損傷の程度がわかります。腕の動脈から血液を採取し、血液中の酸素濃度を測定します。

肺高血圧症の診断を確定するには、腕または脚から静脈を通して右心室までチューブを通し、右心室と肺動脈の内部の血圧を測定することが必要です。

治療

続発性肺高血圧症の治療は、原因となる肺疾患に対する治療が中心です。血管拡張薬には、カルシウム拮抗薬、一酸化窒素、プロスタサイクリンなどがあり、これらは強皮症、慢性肝疾患、HIV感染症などと関連する続発性肺高血圧症に有効です。とはいえ、肺疾患によって起こる続発性肺高血圧症に対してこれらの薬が効くかどうかはまだ証明されていません。ほとんどの原発性肺高血圧症に対し、プロスタサイクリンなどの血管拡張薬は肺動脈の血圧を劇的に下げます。プロスタサイクリンは、手術によって皮膚の内部に留置されたカテーテルを通して静脈内へ注入されます。この薬によって患者の生活の質(QOL)は改善し、生存期間は延長し、緊急に行う肺移植は減少しました。しかし、この薬の使用は一部の患者に危険を伴うため、最初に心カテーテル検査室で血管拡張薬の効果を調べます。現在、プロスタサイクリンの皮下注射が可能になり、効果がみられる患者もいます。

経口投与できる新薬のボセンタンが有効な患者もいます。プロスタサイクリンと同じ種類のイロプロストは吸入薬で、プロスタサイクリンよりも合併症のリスクはかなり低いです。けれども、この薬は米国では入手できません。

肺高血圧症の患者の血液中の酸素濃度が低下している場合、鼻カニューレや酸素マスクを通して酸素を持続的に吸入させると、肺動脈内の血圧が下がったり、息切れが緩和することがあります。利尿薬は、全身にたまった液体を減少させるとともに肺にたまった液体も軽減させて、肺でのガス交換を改善すると考えられています。抗凝固薬は、血液のかたまりの形成および肺塞栓症(肺塞栓症を参照)の発症のリスクを軽減するために処方されることがあります。

片肺または両肺の移植は、原発性肺高血圧症の治療法として確立されています。移植を行わないと、ほとんどの人が診断されてから2〜5年で死亡します。移植は、原因疾患の治療がうまくいかなかった重い続発性肺高血圧症に対して行われることもあります。

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