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肺癌

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肺癌(はいがん)は男女ともに最も死亡率の高い癌です。45〜70歳に最も多くみられます。女性の喫煙者の増加により、以前より肺癌にかかる女性が増えています。

肺細胞から生じる肺癌を原発性肺癌といいます。しかし、体の他の個所から肺へと癌が転移する場合があります。肺に広がる転移性の癌として最も一般的なのは、乳房、結腸、前立腺、腎臓、甲状腺、胃、子宮頸部、直腸、精巣、骨、皮膚(黒色腫)から生じる癌です。

原発性肺癌の90%以上が、両肺へと枝分かれする太い気道、気管支の内部で生じ、これを気管支原性癌と呼びます。肺癌にはほかに小細胞癌、扁平上皮癌、大細胞癌、腺癌という種類があります。後者の3種類の癌をまとめて、非小細胞肺癌といいます。

腺癌の1つ、肺胞細胞癌は肺胞内で生じます。肺胞細胞癌は1カ所で発生する場合もありますが、肺の複数の部位で同時に進行する場合もあります。

あまりみられない肺の腫瘍(しゅよう)としては、気管支腺腫(癌性または非癌性)、軟骨性過誤腫(非癌性)、肉腫(癌性)があります。リンパ腫はリンパ系の癌で、肺で発生したか肺に広がったものです。

肺癌による死亡率

肺癌による死亡率

各種の癌の中で、肺癌は男女ともに最も死亡率の高い癌です。肺癌による死亡者数は、喫煙者の増加にともなって増えています。データによる2001年の肺癌による推定死亡者数は、15万7000人以上に上ります。このうち約9万人が男性、約6万7000人が女性です。この数字は、すべての癌による全死亡者数の約28%に相当します。

原因

男性の肺癌の約90%、女性の肺癌の約80%は喫煙が原因です。喫煙の量や期間に比例して、肺癌を発症するリスクは高まります。全喫煙者の約10〜12%がやがて肺癌を発症します。

肺癌の中で、男性の約10%、女性の約5%にあたる少数は、職場で扱った物質や吸入した物質が原因です。アスベスト、放射線、ヒ素、クロム酸塩、ニッケル、クロロメチルエーテル、マスタードガス、コークス炉からの排気などを扱う職業と、肺癌には関連があります。肺癌にかかるリスクは、こうした物質にさらされる喫煙者でより高くなります。大気汚染が原因で起こる肺癌は約1%です。自宅でラドンガスにさらされることで肺癌を起こす人は全体の1%未満です。特に腺癌や肺胞細胞癌などの肺癌は、ときに結核や肺線維症など他の肺疾患によって肺に瘢痕化を起こしている患者に発症することがあります。

症状と合併症

肺癌の症状は、癌の種類や位置、その広がり方によって異なります。普通、初期症状として最も多くみられるのは、長期間続くせきです。慢性気管支炎で、さらに肺癌を発症した患者は、せきの悪化に気づきます。せきに伴うたんの中に血が混ざる、喀血(肺と気道の病気の症状と診断: 喀血を参照)がみられることがあります。肺癌が血管内にまで達すると、ひどい出血を起こします。

肺癌が気管支の内部や周囲で増殖して、気管支を狭くすると、喘鳴(ぜんめい)が生じる場合があります。気管支の閉塞によって、その気管支とつながる肺の一部がつぶれることがあり、この状態を無気肺(無気肺を参照)といいます。また、気管支の閉塞によってせき、発熱、胸痛を伴う息切れや肺炎なども起こります。胸壁の内部で腫瘍が増殖すると、持続的な胸痛が生じることがあります。

肺癌が首の特定の神経の内部で増殖すると、まぶたが垂れ下がったり、瞳孔が縮んだり、目が落ちくぼんだり、顔の半面に汗をかきにくくなるなどの症状が起こることがあり、これらの症状をまとめてホルネル症候群(まぶたが下がるホルネル症候群を参照)と呼びます。肺の上端に生じた癌が腕の動きを支配する神経の内部に増殖すると、腕に痛みや麻痺(まひ)、筋力低下などが生じ、こうした症状をパンコースト症候群といいます。声帯へ続く神経が損傷を受けると、声がしゃがれます。この損傷は主に、左肺を含む部位に癌が発症した人に起こります。

肺癌が直接、食道の内部や周囲で増殖して食道が圧迫されると、ものが飲みこみにくくなります。ときに、癌の進行によって食道と気管支の間にフィステル(瘻[ろう])という異常な通路ができ、食べものや飲みものが肺に入るために、ものを飲みこむ際にひどいせきが出ます。

肺癌が心臓の内部で増殖すると、不整脈、心臓を通る血流の閉塞、心臓の周囲にある心膜嚢への液体の貯留が起こります。癌が胸部にある大静脈の1つ、上大静脈の内部で増殖したりこれを圧迫することがあり、この状態を上大静脈症候群といいます。上大静脈が詰まると、上半身にある他の静脈への血液の逆流が起こります。胸壁内部にある静脈が拡張します。顔、首、乳房を含む胸壁の上部はむくんで、薄い紫色になります。さらに息切れ、頭痛、視覚異常、めまい、眠気なども生じます。これらの症状は普通、前かがみになったり横になると悪化します。

普通、後になって生じる肺癌の症状には、食欲不振、体重減少、疲労感、筋力低下などがあります。肺の周囲に液体がたまる胸水(胸膜疾患: 胸水を参照)は、癌が胸膜腔の内部にまで広がって起こります。胸水は息切れを起こします。癌が肺の内部にまで広がると、ひどい息切れ、血液中の酸素濃度の低下、肺性心(肺高血圧によって発症する肺性心についてを参照)が生じる場合があります。

肺癌は血流を通って、肝臓、脳、副腎、脊椎、骨に転移することもあります。体の他の部分への転移はあまりみられません。肺癌の、特に小細胞癌の転移は発症早期に起こる場合があります。肺の異常が確認される前に、頭痛、錯乱、けいれん、骨の痛みなどの症状が起こり、早期診断を困難にします。

腫瘍随伴症候群(腫瘍随伴症候群とはを参照)は、肺癌によって生じるさまざまな症状で、代謝系、神経系、筋肉など肺から離れた部位に生じます。腫瘍随伴症候群は、肺癌の大きさや位置とは関係がなく、癌が胸部以外に転移したことを示すわけでもありません。むしろ、癌のために分泌されたホルモン、サイトカインなどのさまざまなタンパク質によって腫瘍随伴症候群が生じます。

診断

医師は、長期間続いたり悪化するせき、息切れや血の混じったたんを伴うせきなどの肺の症状がみられる人、特に喫煙者で肺癌の可能性を疑います。症状のない人の中には、胸部X線検査で見つかった陰影が、診断の最初の手がかりになることがありますが、X線画像上の陰影だけでは癌と断定できません。胸部X線検査でほとんどの肺腫瘍が検出できますが、小さいものは見落とす場合があります。

CT検査では、胸部X線検査ではみられなかった小結節が見つかる場合があります。CT検査ではまた、リンパ節腫大の有無もわかります。腫大の原因が炎症なのか癌なのかを確認するため、腫大したリンパ節の生検が必要になります。

普通、肺組織の顕微鏡検査が診断を確認するために必要です。ときに、せきで吐き出されたたん(喀痰[かくたん])から検査の材料が得られることがあり、これを喀痰細胞診といいます。気管支鏡検査(肺と気道の病気の症状と診断: 気管支鏡検査を参照)は組織を採取するために行います。癌が肺の奥にあって気管支鏡が届かない場合は、CTを利用して位置を決め、皮膚から針を挿入してサンプルを採取する針生検(肺と気道の病気の症状と診断: 胸膜または肺の針生検を参照)を行います。ときに、開胸術(肺と気道の病気の症状と診断: 開胸術を参照)という手術によってのみ、サンプルが採取できます。

腹部や頭部のCT検査は、肺癌が、特に肝臓、副腎、脳に転移していないかどうかを確認するために行います。骨スキャン(骨シンチグラフィ)で骨への転移がわかります。小細胞癌は骨髄に転移する傾向があるため、ときに骨髄生検が行われます。新しい検査法として、ポジトロンCT(陽電子放射断層撮影:PET)(肺と気道の病気の症状と診断: ポジトロンCT検査を参照)とらせんCTがあり、小さな癌の検出能力の向上が期待されています。

癌は、腫瘍の大きさ、近くのリンパ節への転移の有無、離れた他の器官への転移の有無によって病期診断(癌の症状と診断: 診断検査と病期診断を参照)されます。個々の病期診断をステージといいます。癌の病期診断ごとに最も適した治療法が示され、経過も予測できます。

スクリーニング検査と予防

肺癌のスクリーニング検査では、胸部X線検査とたんの検査が行われますが、これらは今のところすべての人が受ける検査ではありません。しかし、肺癌のリスクが高い人には胸部X線検査とCT検査を毎年実施することで、転移前に肺癌を検出できます。

肺癌を予防するには、禁煙と、職場で癌を起こす可能性のある物質にさらされないよう注意することが重要です。

治療

カルチノイド腫瘍、軟骨性過誤腫などの非癌性の気管支腫瘍は、気管支をふさいだり、将来癌に移行するおそれがあるため、普通は手術で切除します。切除した腫瘍を顕微鏡で検査して初めて、腫瘍が癌性のものかどうか確認できることもよくあります。

手術: 手術は肺以外に転移していない肺癌の治療法として選択されます。しかし、手術は小細胞癌には有用ではありません。高齢という理由だけで高齢者の治療法の選択肢から手術を除外すべきではありません。癌が肺の外に転移している場合、癌が気管に非常に接近している場合、心臓や肺に癌とは別の重い疾患がある場合などには手術はできません。

手術前に肺機能検査(肺と気道の病気の症状と診断: 肺機能検査を参照)を行い、手術後に残った肺で十分な呼吸機能が維持されるかどうかを判断します。検査の結果、肺の癌化した部分の切除によって肺機能が著しく低下するという場合には手術はできません。切除する肺の範囲は手術中に決められ、その範囲は肺のごく一部から片肺全体までとさまざまです。

手術で癌の10〜35%が切除できても、切除によって必ずしも癌が治癒するわけではありません。孤立性で進行が遅い腫瘍が切除された患者の25〜40%は、診断から5年以上生存します。非小細胞肺癌が早期で小さい場合、患者の5年生存率は60〜70%まで高くなります。一方、多くの患者が、肺もしくは別の部位に癌を再発し、死亡します。慢性閉塞性肺疾患や冠動脈性心疾患、新たな癌の発症など、別の病気で死亡する患者もいます。手術が成功しても、胸部X線検査やCT検査など、定期的な検診が必要です。

ときには、結腸など他の部位で発生し、肺へ転移した癌について、原発部位の切除後に肺の切除が行われます。この治療法が勧められることはまれで、癌が肺以外に転移していないことを示す必要があります。この手術を行った患者のうち、5年以上生存したのは約10%にとどまります。

非小細胞肺癌の治療法は近年進歩しており、癌が肺以外に転移していない患者に対し、癌の切除術の前もしくは後、または代わりに化学療法や放射線療法が行われることがあります。

放射線療法: 放射線療法は手術を望まない人、重い冠動脈疾患など別の病気で手術が受けられない人、癌がリンパ節など他の器官の近くに広がっていて手術が受けられない人に行われます。放射線療法はほとんどの患者に対し、癌を部分的に小さくしたり増殖速度を遅くする効果があるだけで、長期間寛解状態を保てるのは10〜15%にすぎません。放射線療法と化学療法の併用により、こうした患者の生存率は改善します。放射線療法は、喀血、骨の痛み、上大静脈症候群、脊髄(せきずい)圧迫などといった肺癌の合併症を抑える効果もあります。

化学療法: 化学療法はときに放射線療法と併用され、小細胞癌の治療法として選択されます。その理由は、小細胞癌と診断されたときまでにまず間違いなく体の離れた部位にまで転移が進んでいるためです。約25%の患者が、化学療法によって生存期間が大幅に延長しました。化学療法を行わない場合、小細胞癌の患者の半数が4カ月しか生存できません。化学療法を行うと、生存期間が4〜5倍も長くなります。化学療法によく反応する肺の小細胞癌の患者では、脳に転移した癌を治療するための頭部への放射線療法が有用な場合があります。しかし、この転移はまだ何も症状がみられず、頭部のCT検査でもMRI検査でも異常が認められないほど早期のものです。

化学療法単独での効果は、非小細胞肺癌では非常に限られています。転移性の非小細胞肺癌では、化学療法を行った患者の一部の生存期間が、行わなかった場合に比べて著しく延長します。

その他の治療法: 肺癌の患者にはその他の治療法も必要です。肺癌の患者の多くは肺機能がかなり低下しており、癌の治療法とは別に、酸素吸入療法(呼吸リハビリテーション: 酸素吸入療法を参照)や気管支拡張薬で呼吸を補助します。進行した肺癌の多くでは、非常に激しい痛みや呼吸困難が生じ、死亡するまでの数週間または数カ月間は大量のオピオイドが必要です。幸いなことに、適量のオピオイドには十分な効果があります。

経過の見通し

肺癌の経過の見通し(予後)は良くありません。治療を行わない場合、肺癌患者の平均生存期間は8カ月です。治療を行っても、5年生存率は13%にすぎません。ほぼすべての小細胞癌は診断された時点で肺以外に転移しているので、他の種類の肺癌よりも経過の見通しは一般的に悪くなります。肺癌を治療しても、喫煙を続ければ別の癌を発症するリスクが高くなります。

多くの人が肺癌で死亡するため、終末期のケアが必要になります。終末期のケアは進歩しており、特に、治る見込みのない肺癌の患者には不安や痛みが一般的にみられ、それが適切な薬によって緩和できるという認識が広がり、より多くの患者が自宅で安らかな死期(死と終末期: 治療オプションの選択を参照)を迎えられるようになってきています。

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