メルクマニュアル家庭版
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はじめに

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プリオン病(伝染性海綿状脳症)は非常にまれな脳の変性疾患で、タンパク質がプリオンと呼ばれる異常型に変換するために起こると考えられています。

プリオンが発見されるまでは、クロイツフェルト‐ヤコブ病などの海綿状脳症は、ウイルスが原因だと考えられてきました。プリオンはウイルスよりもずっと小さく、遺伝物質をまったくもたず、ウイルスでも細菌でもなく、生きているどの細胞とも異なります。プリオン病は、細胞性プリオンタンパク(PrPc)と呼ばれる特異的なタンパク質分子が変形して、スクレイピープリオンタンパク(PrPsc)と呼ばれる異常タンパク質分子のプリオンになることによって起こります。スクレイピーとは、最初にヒツジで見つかったプリオン病の名前です。新たに形成されたプリオンは、近くにある正常な細胞性プリオンタンパクをプリオンに変換していき、この現象は連鎖的に続きます。異常プリオンが一定の数にまで増えたときに、プリオン病が起こります。プリオンが正常な細胞性プリオンタンパクに戻ることは絶対にありません。

細胞性プリオンタンパクは体のあらゆる細胞に存在し、特に脳に集中しています。プリオン病は、主にあるいは専ら神経系を侵します。細胞性プリオンタンパクがプリオンに変換されると、脳細胞に小さな泡が発生します。侵された細胞が徐々に死んでいき、脳にたくさんの穴が開きます。この神経細胞の異常は、プリオンに侵された脳組織を顕微鏡で見ると、ちょうどスイスチーズやスポンジのように見えるため“海綿状”変性と呼ばれています。

細胞性プリオンタンパク分子がプリオンに変換されやすい感受性は遺伝するため、プリオン病は同じ家族に多発します。この感受性は、細胞性プリオンタンパク遺伝子の突然変異の結果です。存在する突然変異の数は多く、その1つ1つが異なるプリオン病を引き起こしますが、主に3つのグループに集約されます:致死性家族性不眠、家族性クロイツフェルト‐ヤコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー‐シャインカー病です。

プリオン病は、異型クロイツフェルト‐ヤコブ病と同様に、プリオンに汚染された牛肉などを食べるなど、外部の感染源を介して発症します。また、自身のプリオンから自然発生的に起こるものもあります。

プリオン病を治癒させる方法はありません。発病すると死亡します。唯一可能な治療は、症状を軽減して快適さを保つことです。プリオン病による痴呆を発症した人の介護者が、うまく対処できるように役立つ対策はいろいろあります(介護者のケアを参照)。可能なら、プリオン病にかかってしまったときには、自分の終末期医療について事前指示書(法的問題と倫理的問題: 事前指示書を参照)を作成しておくべきでしょう。家族の中に遺伝性プリオン病患者がいる場合には、遺伝カウンセリングを受けるとよいでしょう。

ヒツジとウシのプリオン病

プリオン病は、ヒツジ、ヤギ、ウシなどの家畜のほか、ミンク、ヘラジカ、ヤギなどの野生動物に発生します。人のクロイツフェルト‐ヤコブ病と同様に、プリオン病の動物にも徐々に筋肉の協調運動障害と、続いて精神障害の症状が現れます。スクレイピーはヒツジのプリオン病で、病気のヒツジが自分の体をさくや柱などにこすりつけて(スクレイプして)羊毛をちぎるような動作をするため、この名前がつけられています。狂牛病は、この病気にかかったウシが著しく興奮するため、そう呼ばれます。スクレイピーに感染したヒツジの組織が混じった餌をウシが食べることにより、スクレイピーはヒツジからウシへと伝染します。

その汚染された牛肉や牛肉製品を人が食べることが、人の新型クロイツフェルト‐ヤコブ病の原因と考えられます。この新型は1996年に初めて言及されて以来、異型クロイツフェルト‐ヤコブ病と呼ばれています。この新しいタイプは、従来型とは多くの相違点があります。顕微鏡でみると新型は脳組織に異なる変性がみられ、初期症状も従来のクロイツフェルト‐ヤコブ病に多い記憶喪失ではなく、精神病的症状が現れる傾向があります。この新しい異型クロイツフェルト‐ヤコブ病は、2000年までにイギリスで90人、フランスで3人、アイルランドで1人診断されています。

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