ジストニアの原因は、遺伝子の突然変異、病気、または薬剤です。
ジストニアが生じた部位の筋肉は収縮し、その体の部位がゆがみ、数分から数時間にわたり収縮したままになってしまいます。
診断は、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。
可能であれば原因に対する治療を行いますが、それができなければ、症状を緩和するために、弱い鎮静薬、レボドパとカルビドパの併用、ボツリヌス毒素なども有用です。
(運動障害の概要 運動障害の概要 手を上げたりほほ笑んだりといった、体のあらゆる動作には、中枢神経系(脳と脊髄)と神経と筋肉の複雑な相互作用が関わっています。このいずれに損傷や機能不全が起こっても、運動障害の原因になります。 損傷や機能不全の性質と発生部位に応じて、次のような様々な運動障害が起こります。 随意運動(意図的な運動)を制御する脳領域や、脳と脊髄の接合部の損傷:... さらに読む も参照のこと。)
ジストニアの原因
ジストニアは、以下のような脳の領域の活動が過剰になるために起こると考えられています。
大脳基底核(筋肉の随意運動を開始し、その動きを滑らかにし、不随意運動を抑え、姿勢の変化を調整する神経細胞の集まり)
視床(筋肉の動きに関する情報を大脳皮質との間でやりとりしている)
小脳(全身の動きを調整し、腕と脚の滑らかで正確な動きを助けるとともに、バランスの維持を補助している)
大脳皮質(大脳の外側を構成する入り組んだ組織の層[灰白質])
大脳基底核の位置
大脳基底核は、脳の奥深くにある神経細胞の集まりです。以下のものが含まれます。
大脳基底核には、筋肉の運動を開始し、その動きを滑らかにし、不随意運動を抑制し、姿勢の変化を調整する機能があります。 |
ジストニアは以下によって発生します。
遺伝子変異(一次性ジストニアと呼ばれます)
他の病気または薬剤(二次性ジストニアと呼ばれます)
抗精神病薬や吐き気の緩和に用いられる一部の薬剤は、様々なタイプのジストニアを引き起こすことがあり、例えば、まぶたが閉じる、首がねじれる(れん縮性斜頸 けい性斜頸 けい性斜頸は、長時間続く(慢性持続性の)不随意な首の筋肉の収縮、または定期的で間欠的な首の筋肉のけいれんを特徴とし、首が不自然な方向に曲がってしまいます。 多くの場合、けい性斜頸の原因は不明です。 診断は症状や身体診察の結果に基づいて下されます。 まずボツリヌス毒素の注射を行いますが、効果がなければ、経口薬を使用することがあります。 理学療法が症状の軽減に役立つことがあります。 さらに読む )、背中がねじれる、しかめ面になる、唇をすぼませる、舌を突き出す、腕や脚がよじれるなどの異常が現れます。
ジストニアの種類と症状
ジストニアが生じた部位の筋肉は収縮し、その体の部位がゆがみ、数分から数時間にわたり収縮したままになってしまいます。
ジストニアは以下の部位に現れます。
1つの部位(局所性ジストニア)
隣接する2つ以上の部位(分節性ジストニア)
隣接しない2つ以上の部位(多巣性ジストニア)
体幹に加えて2つの異なる部位(全身性ジストニア)
局所性ジストニアと分節性ジストニア
局所性ジストニアは、体の1つの部位に影響を及ぼします。典型的には20~30代で始まりますが、ときにより早く発生することもあります。
分節性ジストニアは、互いに隣接する複数の体の部位に影響を及ぼします。
最初、収縮(けいれん)は定期的に起こるか、特定の活動に関連して起こります。患部の特定の動きが引き金となってけいれんが発生し、安静時にはなくなります。数日、数週間、または数年かけて、けいれんの頻度が徐々に高まり、安静時にも続くようになります。最終的には、患部がよじれたままになり、ときに痛みを伴う姿勢のまま固定してしまいます。その結果、重度の身体障害が残ることがあります。
局所性ジストニアと分節性ジストニアの例として、以下のものがあります。
眼瞼けいれん 眼瞼けいれん 眼の周りの筋肉がけいれんすることを眼瞼けいれんといいます。 眼瞼けいれんの原因は多くの場合不明です。男性よりも女性に多く、家族内で発生する傾向があります。ときに眼の他の病気( さかさまつ毛、 眼の異物、 ドライアイなど)や、神経系の病気( パーキンソン病など)が原因になることがあります。 眼瞼けいれんでは、まばたきをしたり眼を閉じたりすることが制御できないという症状がみられます。重度の場合は、眼を開けることができなくなります。疲労や明る... さらに読む :主にまぶたにジストニアが起こり、まぶたが繰り返し不随意に閉じます。最初は片眼だけに起こることもありますが、最終的には両眼に起こります。通常は、過剰なまばたき、眼の刺激感、明るい光に敏感になるなどの症状で始まります。眼瞼けいれんがある人の多くは、まぶたが閉じないようにする方法として、あくびをしたり、歌を歌ったり、口を大きく開けたりします。それでも病気が進行すると、これらの方法もあまり効かなくなります。眼瞼けいれんにより、十分に眼を開いた状態に保てないと、視覚が大きく障害されます。
れん縮性斜頸 けい性斜頸 けい性斜頸は、長時間続く(慢性持続性の)不随意な首の筋肉の収縮、または定期的で間欠的な首の筋肉のけいれんを特徴とし、首が不自然な方向に曲がってしまいます。 多くの場合、けい性斜頸の原因は不明です。 診断は症状や身体診察の結果に基づいて下されます。 まずボツリヌス毒素の注射を行いますが、効果がなければ、経口薬を使用することがあります。 理学療法が症状の軽減に役立つことがあります。 さらに読む :首の筋肉が侵されます。れん縮性斜頸は、成人期発症のけい性斜頸と呼ばれることもあり、けい性斜頸(頸部ジストニア)の中で最も多いタイプのものです。
けいれん性発声障害:発声を制御する声帯の筋肉が不随意に収縮します。話すことができなくなるか、または声がひずむ、ふるえる、かすれる、ささやき声になる、ぎくしゃくする、甲高くなる、途切れる、不明瞭になるなどして、聞き取りにくくなります。
職業性ジストニア:動作特異性ジストニアとも呼ばれるこのジストニアは、体の一部位に起こるもので、多くはその部位の酷使に起因します。例えば、ゴルファーで手と手首の筋肉に不随意の収縮が起こることがあり(イップスと呼ばれます)、パッティングがほぼ不可能になります。イップスのためにコントロールが失われると、実際は1メートル弱のパットが4~5メートルになってしまうなどします。同様に音楽家、特にコンサートピアニストで、指、手、または腕に奇妙なけいれんが起こり、演奏ができなくなることがあります。管楽器を演奏する音楽家では、口にけいれんが起こることがあります。書痙(しょけい)もジストニアの一種である可能性があります。
メージュ症候群:不随意のまばたきと、歯ぎしり、しかめ面が起こるジストニアです。したがって、眼瞼けいれん・口下顎ジストニアとも呼ばれます。(眼瞼とはまぶたのことです。)通常、この病気は中高年の人に発生します。
全身性ジストニア
この種のジストニアでは、体幹に加えてさらに2つの部位に影響が現れます。具体的には以下のものがあります。
原発性全身性ジストニア:特発性捻転ジストニアとも呼ばれる進行性のまれなジストニアで、しばしば遺伝します。特定の遺伝子の突然変異が多くの例で見つかっています。変異が最もよく起こる遺伝子はDYT1遺伝子で、その結果生じるジストニアはDYT1ジストニアと呼ばれます。不随意な動きが起こり、奇妙な姿勢が持続します。通常、症状は小児期に始まり、歩いているときにしばしば足が内側に曲がってしまいます。ジストニアは体幹や脚だけに現れることもありますが、全身に現れることが多く、最終的には車いすでの生活を余儀なくされます。特発性捻転ジストニアが成人に起こった場合は、通常、顔面や腕から始まり、体の他の部位には影響しません。精神機能は影響を受けません。
ドパ反応性ジストニア:このまれなタイプのジストニアは、遺伝性の病気です。通常、ドパ反応性ジストニアの症状は小児期に始まります。典型的には片脚から始まり、その結果、つま先歩きがみられるようになります。症状は夜間に悪化します。徐々に歩行が困難になり、両腕と両脚に症状が現れます。しかし場合によっては、運動後に筋肉のけいれんが起こるなど、軽い症状だけで済むこともあります。ときに、もっと年齢を重ねてから症状が出現することもあり、 パーキンソン病 症状 パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。 パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。... さらに読む の症状と類似することもあります。動作は緩慢で、バランスを維持するのが困難になり、安静時に手の振戦が起こることがあります。低用量のレボドパを使用すると症状が劇的に軽減します。レボドパで症状が軽減すれば、診断が確定します。
ジストニアの診断
医師による評価
ときに原因を特定するための検査
医師は通常、症状と身体診察の結果に基づいてジストニアの診断を下します。
ジストニアの原因が他の何らかの病気であることが疑われる場合には、CT検査やMRI検査など、原因を特定するための検査を行うことがあります。
ジストニアの治療
原因の是正または除去
薬剤
ときに脳深部刺激療法
理学療法
ジストニアの原因が判明した場合は、それを是正するか取り除けば、けいれんが軽減します。例えば、多発性硬化症に関連して起こるけいれんは、多発性硬化症の治療薬によって軽減することがあります。ジストニアの原因が抗精神病薬の使用である場合は、速やかにジフェンヒドラミンを注射または経口で投与すれば、通常はけいれんを速やかに止めることができます。
全身性ジストニアの場合は、 抗コリン 抗コリン作用:どんな作用か? 薬(トリヘキシフェニジルやベンツトロピンなど)が使用されます。これらの薬剤は、けいれんの原因になる神経から送られる特定の信号を遮断することにより、けいれんを減らします。しかし、これらの薬剤の抗コリン作用により、錯乱、眠気、口腔乾燥、かすみ目、めまい、便秘、排尿困難、尿失禁などが起こることもあり、これらの症状は非常に厄介で、特に高齢者では問題となります。多くの場合は、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤(弱い鎮静薬)か、バクロフェン(筋弛緩薬)も使用され、これらが併用されることもあります。バクロフェンは、経口投与するか、あるいは脊柱管に埋め込んだポンプを使って投与します。
全身性ジストニアが重度であるか、薬剤で効果がみられない場合には、脳深部刺激療法を行うことがあります。この治療では、大脳基底核(筋肉の随意運動を開始し、その動きを滑らかにしている神経細胞の集まり)に小さな電極を外科的に埋め込みます。ジストニアを引き起こしている大脳基底核の特定の領域に電極から微弱な電気を送ることで、症状の軽減を促します。
一部の患者(特にドパ反応性ジストニアがある小児)では、レボドパとカルビドパを併用することで劇的な改善が得られます。
症状が出る部位が1カ所または数カ所の場合は、過活動がある筋肉にボツリヌス毒素(筋肉を麻痺させたり、しわの治療に用いられる細菌毒素)を注射します。 ボツリヌス毒素は筋収縮を弱めますが、神経には影響しません。ボツリヌス毒素の注射は、眼瞼けいれんとれん縮性斜頸に特に有用です。しかし、ボツリヌス毒素の効果は徐々になくなるため、注射は3~4カ月毎に繰り返さなければなりません。ボツリヌス毒素を何度も注射された人のごく一部では、体がボツリヌス毒素を不活性化する抗体を作りだします。侵されている筋肉が小さいか体の深部にある場合は、薬剤を注射すべき筋肉を特定するために、 筋電図検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む (筋肉の刺激とその電気的活動の記録)を行うことがあります。
理学療法は一部の人に有用で、特にボツリヌス毒素による治療を受けた人に役立ちます。