メルクマニュアル家庭版
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はじめに

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身体表現性障害には、体の異常を示唆するような体の症状や問題を訴えるが実際には体の異常は見あたらないものや、自分の外見に欠陥があると思いこむものなど、さまざまな精神障害が含まれます。こういった体の症状や問題は多大な苦痛を引き起こしたり、日常生活に支障を来します。

身体表現性障害は比較的新しい用語で、以前は心身症と呼ばれていました。身体表現性障害では、身体症状の訴えがあるにもかかわらず、原因となる身体疾患が見あたりません。中には、そういった症状を起こす可能性がある身体疾患がみられる場合もありますが、症状の重症度や持続期間の説明にはなりません。身体表現性障害の患者は仮病を装っているのではなく、本当に重大な体の問題があると心底思いこんでいます。

最もよくみられる身体表現性障害は、身体化障害、転換性障害、心気症、身体醜形障害、疼痛障害です(痛み: 心因性の痛みを参照)。同じ身体表現性障害と診断された患者の間でも、大きな個人差がみられます。治療法は障害の種類によって異なります。

仮病で注意を引くミュンヒハウゼン症候群

ミュンヒハウゼン症候群は身体表現性障害ではありませんが、精神の問題が身体症状の根底にあるという点では、身体表現性障害にやや似たところがあります。主な違いは、ミュンヒハウゼン症候群の人は意識的に身体疾患の症状があるふりをしている点です。繰り返し病気のふりをし、治療を求めて病院から病院へと渡り歩くこともよくあります。

しかし、ミュンヒハウゼン症候群は、ただ単に症状をでっち上げて病気のふりをしているだけではなく、重大な感情問題が関連した複雑な障害です。この障害がある人は通常、かなり知的で機知に富んでいて、病気のまね方だけでなく、医療の知識ももっています。言葉巧みに症状などを訴えて入院治療にもちこみ、精密検査や治療、ときには大手術が必要な患者だと思わせることができます。虚偽は意識的に行われているものですが、その動機や人の注意を引きたいという欲求はほとんど無意識です。

代理ミュンヒハウゼン症候群はミュンヒハウゼン症候群の変型で、その多くは親が自分の代わりに自分の子供を患者に仕立て上げるという奇妙な障害です。親は子供の病歴を偽り、薬物を使って子供の健康を故意に害したり、検査用の尿の中に血液や細菌を入れたりして病気をでっち上げようとします。このような奇異な行動の根底にある動機は、人の注意を引きたいとか、子供と強いきずなを保ちたいという病的な欲求にあると思われます。

心身症とは

心身症という用語は、体の病気が基礎にあるためではなく、心理的な要因がもとで身体症状が生じたり悪化する場合に使われます。ただし、この場合の身体症状は架空のものでも詐病(ミュンヒハウゼン症候群の場合のような)でもなく、患者はその症状を実際に経験しています。つまり心身症の発症と経過においては、心理的な要因と身体症状が常に密接に結びついているのです。

心身症は身体表現性障害とは異なり、診断上の明確な分類はなく、さまざまな形で現れます。社会的なストレスや精神的なストレスが原因で、糖尿病、冠動脈疾患、喘息など各種の身体疾患が悪化する場合もあります。

たとえ身体疾患がなくても、ストレスが身体症状を引き起こすことがあります。たとえば精神的な反応だけが原因で、じんま疹が出ることがあります。恐怖に直面すると心拍数や血圧が高くなるのと同様に、感情的ストレスに対する体の自動的な反応として身体症状が現れる場合もあります。また、やっかいな感情問題から気持ちをそらせようとする無意識の働きにより、精神症状が身体症状に転換される場合もあります。

「胸が張り裂けるような思い」をした人が胸に痛みを感じるなど、心の問題を何らかの形で反映した身体症状が現れる場合もあります。また、他者と自分を同一視し、その人に痛みがあれば自分の身体にも症状が現れる場合があります。たとえば、家族や友人が心臓発作を起こしたことで、自分も胸に痛みを感じるといった現象です。過去に経験した病気や障害の症状を再体験する形で、精神症状が身体症状に転換される場合があります。たとえば、骨折したことがある人の場合、何らかの精神症状が骨の痛みに転換され、骨折のときと同じような痛みを再体験することがあります。精神症状がもとで生じた身体症状は、軽度で一過性となる傾向がみられます。精神症状が身体症状に転換されるプロセスは、重大な精神障害がない人にもみられます。つまり、このようなプロセスはだれにでも起こりえます。結果として生じる症状の診断は難しく、体の病気が原因ではないことを確認するため、往々にしてさまざまな検査を受けることになります。

心理的な要因が、病気の経過に間接的な影響を及ぼすこともあります。たとえば、高血圧の人が自分はそんな病気ではないと言い張ったり、病気の重さを否定することがあります。この場合、病気を否定することは不安の軽減に役立つ防御メカニズム(防衛機制)の役割を果たしています。しかし一方で、病気を否定する気持ちがあると治療の指示を守らなくなり、弊害を生じることがあります。たとえば高血圧の患者が処方された薬を服用せず、状態を悪化させてしまうといったケースです。また心身症とは逆に、身体疾患が原因で精神状態が変化する場合があります。たとえば命にかかわる病気、病気の再発、慢性の病気などが原因で、うつ病になるケースがよくあります。さらに、うつ病によって身体疾患の症状がさらに悪化するという悪循環に陥ることもあります。

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