メルクマニュアル家庭版
印刷用画面

セクション

心的外傷後ストレス障害

-
-

心的外傷後ストレス障害は、耐えがたい心の傷となる出来事に直面することによって引き起こされる不安障害で、後になってから、そのときの出来事を繰り返し再体験します。

生命が脅かされるほどの危険や重大なけがを体験すると、いつまでもその影響が消えないことがあります。強烈な恐怖感、無力感、戦慄が脳裏から離れなくなります。

心的外傷(トラウマ)を引き起こすような出来事としては、生命が脅かされるような体験、重大なけが、暴力現場の目撃などがあります。たとえば、戦争体験、性的暴行や暴力を受けた体験、そういった現場の目撃、自然災害(ハリケーンなど)や事故(大きな自動車事故など)の体験といったものです。トラウマの体験から数カ月、ときには何年もたってから症状が出る遅発性のものもあります。心的外傷後ストレス障害が3カ月以上持続する場合は慢性とみなされます。

心的外傷後ストレス障害は少なくとも8%の人に、小児期を含めて一生のいずれかの時点で発症します(ストレスが子供に与える影響を参照)。戦闘を体験した退役軍人や性的暴行の被害者など、心の傷となる出来事を体験した人や目撃した人の多くに、心的外傷後ストレス障害が生じます。

心的外傷後ストレス障害では、心の傷となった出来事の情景が悪夢やフラッシュバックという形で繰り返し脳裏によみがえります。また、そのときのことを思い出させる出来事や状況にさらされると、強烈な恐怖心がわき上がってきます。たとえば、その出来事が起きた日が再びめぐって来る、強盗にピストルで殴られる体験をした人が銃を見る、おぼれかかった体験をした後に小さなボートに乗るといったことが、記憶をよみがえらせるきっかけになります。

本人は、心の傷となった出来事を思い出させるものをひたすら避けます。トラウマ体験について考えたり感じたり話したりすることを避けようとし、それを思い出させる行動、状況、人物も避けようとします。回避的行為は、トラウマ体験の中の特定部分の記憶喪失(健忘)という形でも現れます。感情の麻痺(まひ)、無感情、覚醒亢進(かくせいこうしん)の症状(眠れない、ささいなことですぐにぎょっとするなど)が生じます。うつ病の症状もよくみられ、以前は楽しんでいたことに関心を示さなくなります。罪悪感もよくみられる症状です。

治療

心的外傷後ストレス障害の治療には、心理療法(暴露療法を含む)と薬物療法があります。トラウマ体験には強い不安が結びついていることが多いため、支持的な心理療法が特に重要な役割を果たします。心理療法士は本人の受けた心の痛みに率直に感情移入し、共感と理解を示します。たとえば、あれほどの体験にそのような反応を示すのは当然のことだといって安心させる一方で、本人を励ましてトラウマの記憶に向き合わせます(暴露療法などの方法を使用)。不安をコントロールする方法を習得することで、つらい記憶を調整しながら受け入れられるようになります。

洞察指向的精神療法は、罪悪感をもつ人自身が自分を責めずにいられない理由を理解し、罪悪感から解放されるために役立ちます。

抗うつ薬、特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、三環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬が効く場合があります。

慢性化した心的外傷後ストレス障害は、なかなか消えない場合もありますが、治療しなくても時とともに弱まってくることがよくあります。その一方で、重度の障害が持続する人もいます。

個人情報の取扱いご利用条件