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解離性とん走

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解離性とん走とは、何の前触れもなしに突然、目的をもって家から飛び出し(とん走)、その間はそれまでの人生の一部または全部を思い出せないという障害です。

米国では、解離性とん走はおよそ1000人に2人の割合で起こります。戦争、事故、自然災害などを体験した人に多くみられます。

原因

解離性とん走の原因は解離性健忘の原因に似ています。解離性とん走は詐病(さびょう)と間違えられることがよくあります。いずれも本人が明らかに逃げ出したいと思うような状況で発生する点では似ていますが、解離性とん走は本人の意思とは無関係に起こる障害であり、詐病とは異なります。詐病はわざと病気のふりをすることで(俗にいう「仮病」)、これには自分のしたことへの責任から逃れたい、責任を回避するための言い訳がほしい、危険な仕事の割りあてなど想定される危険に自分の身をさらしたくないといった理由があります。とん走は多くの場合、隠れた願望の充足を表しているように思われます(たとえば、離婚や経済的破滅など極度のストレスからの逃避)。また、とん走が拒絶感や分離感と関連して起こったり、自殺や殺人の衝動から本人を守る役割を果たしていることもあります。

解離性とん走を数回以上起こす人には通常、その背景として解離性同一性障害があります。

症状と診断

とん走の期間は数時間の場合もあれば、数週間、数カ月間と続いたり、さらに長期にわたるケースもあります。とん走状態のときは、普段の自己同一性を失ったまま、家族や仕事を残して姿を消してしまいます。とん走期間が短い場合は職場に遅刻して現れたり帰宅が遅くなる程度で済みますが、混乱した状態にあると、医療関係者や当局の目にとまる場合もあります。とん走が数日間かそれ以上続く場合は、自宅から遠く離れた土地へ行き、自分の人生の変化に気づかぬまま、別の自我をもった人間として新しい仕事を始めることがあります。とん走期間中、本人には特に変わった様子はないため、人の注意を引くことはありません。しかし、ある時点で記憶を失っていること(健忘)を自覚し、自己の同一性について混乱を来すこともあります。

とん走期間中にこれといった症状はないことが多く、あったとしても軽い混乱がみられる程度です。しかし、とん走が終わると、抑うつ、不快感、悲嘆、恥じらい、強い葛藤、自殺や攻撃の衝動が起こることがあります。

自己の同一性や過去についての混乱や困惑がみられる場合や、新たな自己同一性または自己同一性の欠如についての葛藤がある場合は、解離性とん走が疑われます。症状を注意深く観察し、記憶喪失の原因や促進因子となる身体的な異常がないか検査した上で診断を下します。心理検査も行います。

とん走前の自分を突然取り戻し、身に覚えのない環境で生活していることに困惑する状況になって初めて、解離性とん走と診断される場合もあります。医師は本人の病歴を検討し、家を離れる前の状況、その後の足取り、新しい生活を確立するまでの状況について情報を収集した上で、さかのぼって診断を下します。

治療と経過の見通し

とん走の大半は、数時間から数日たつと自然に治まります。解離性とん走の治療は解離性健忘の場合とほとんど同じで、治療の一環として催眠または薬物を利用した面接を行います(健忘と関連障害: 治療と経過の見通しを参照)。しかし、とん走期間中の記憶を再生しようとしても、たいていはうまくいきません。とん走の引き金となった状況、葛藤、気分をコントロールする対処方法のパターンを本人に自分で考えさせることで、とん走行動の再発を防ぎます。

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