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悪性腫瘍

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米国では、毎年3万人が口の悪性腫瘍(口腔癌)を発病し、そのうち8000人が死亡しています。そのほとんどは40歳以上の人です。口腔癌は、米国人の癌全体の2%以上を占め、癌による全死亡数の1.5%を占めています。口は、体の中のほんの小さな部分であることを考えると、この数値はかなり高い比率だといえます。

早期に発見するほど治癒の可能性が高くなるため、身体検査や歯科健診を受けるときには口腔癌のスクリーニング検査も行うべきです。直径約1センチメートル以下の悪性腫瘍ならば、通常は治癒します。しかし残念ながら、ほとんどの悪性腫瘍は、それ以上に大きくなってあごの下や首のリンパ節へ広がるまで診断されません。発見が遅れると口腔癌の25%は死に至ります。

危険因子

遺伝的要因については十分に解明されていませんが、一部の人にとっては口腔癌を発症しやすい原因となっています。口腔癌の2大危険因子は喫煙と飲酒です。これらは自分でコントロールできます。タバコ(特に1日に2箱以上)、葉巻、パイプタバコ、かみタバコ、歯や歯ぐきにすりつけるかぎタバコなどの喫煙による口腔癌が、口腔癌全体の80〜90%を占めています。タバコと葉巻は口腔癌発症の危険因子として同程度の高い危険性があり、その次に危険性が高いのがかみタバコとパイプ喫煙です。

毎日の飲酒や大量の飲酒(特に1日に6杯以上)は、口腔癌のリスクを増大させます。喫煙と飲酒の両方を習慣的に行っている人は、当然どちらか1つだけの人よりも癌を発症しやすくなります。マウスウオッシュに含まれるアルコールも口腔癌に対する危険性があることが確かめられています。したがって、喫煙や飲酒をする人は、マウスウオッシュのラベルの成分表示をチェックして、アルコール分ができるだけ少ないものを選ぶようにします。

以前に口腔癌にかかったことがある人は、再発する可能性があります。遺伝的素因や癌治療に用いられる放射線照射も癌再発の一因となります。口腔癌の発症後も喫煙と飲酒を続けている人は、そうではない人たちと比べて再発の危険性が2倍以上になります(30%対12%)。

歯や歯の詰めものが壊れてとがった縁や、入れ歯などによって繰り返し刺激されていると口腔癌のリスクが増大します。梅毒は、何年間も治療をせずに放っておくと、唯一舌の先端にできる舌癌を引き起こします。有害な太陽光線は口唇癌の原因となります(日光と皮膚の障害: はじめにを参照)。

口腔癌の約3分の2は男性に起きていますが、過去20〜30年間の女性喫煙者の増加に伴って、男女差が少なくなっています。他のほとんどの癌と同様に、年をとるにつれて口腔癌のリスクは増大します。

口腔癌の種類

扁平上皮癌は口腔癌の中で最も多く、40%近くが下唇に発生し、残りの多くは口底や舌に発生します。硬いかたまりや境界がはっきりした潰瘍ができ、断続的に出血します。患部は白色、赤色、あるいは赤白入り混じった色に変色し、表面はなめらかで隆起しています。いぼ状癌と呼ばれる口腔癌では、口の粘膜の表面に白色の溝が現れます。

悪性黒色腫やカポジ肉腫は、それほど数は多くありません。悪性黒色腫は日焼けが関係していて、普通皮膚の表面に発生します。ただし口の中にできることもあり、特に口蓋に最も多く発生する悪性黒色腫は、皮膚に発生した癌が口へ転移したものです。悪性黒色腫は境目が均一ではなく、凸凹の不規則な形をしています。色は暗紫色、茶色、黒色とさまざまで点状や斑状に現れます。他のほとんどの癌と同様に出血することもあります。カポジ肉腫は、皮膚の近くにある血管、あるいは口の中やのどの粘膜にできる癌です(皮膚癌: カポジ肉腫を参照)。エイズ患者ではカポジ肉腫は口の中、特に口蓋に発生します。腫瘍は紫色や茶色をしていて、わずかに隆起しています。

唾液腺癌は良性腫瘍よりも発生数はずっと少なく、最も多くみられるのが粘液性類表皮癌です。粘液性類表皮癌は、口蓋の小唾液腺に多く発生します。塊状の腫瘍が、下あごの下や奥にある大唾液腺の1つに発生します。

あごの骨癌には、骨肉腫と転移性腫瘍があります。転移性腫瘍とは、体の他の部分で発生した癌があごへ広がったものをいいます。

症状

口腔癌は、かなり長い期間痛みが起こりませんが、やがて癌が近くの神経を侵しはじめると痛み出します。舌や口蓋にできた癌による痛みは、のどの痛みと同様に食べものを飲みこんだときに起こります。

唾液腺腫瘍の増殖初期には痛みは起きたり起きなかったりしますが、痛みはいったん出はじめると、特に食事中にひどくなります。これは、食べものに刺激されて唾液分泌が盛んになるためです。あごの骨の癌では、痛みとしびれやピリピリした感じ(異常感覚)がよく起こります。この異常感覚は、ちょうど歯の麻酔が切れかけたときに感じるしびれに似ています。唇やほおにできる癌では、腫れた組織をうっかりかむと、痛みが始まります。

扁平上皮癌は、一見皮膚の潰瘍のように見えますが、多くの場合その下にある組織まで侵されています。唇や口の他の部分にできる癌は岩のように硬くなって下部組織に癒着しますが、同じ領域にできる良性のかたまりはくりくりと動きます。かみタバコやかぎタバコを好む人はほおの内側に隆起した白色の瘤ができ、この瘤が成長していぼ状癌になります。悪性腫瘍は、急速に成長して硬くなる傾向があります。小唾液腺に初発する癌は、小さな腫れに見えます。

歯肉、舌、口腔粘膜に変色が現れるときは、癌の徴候である可能性があります(口にできる腫瘍: 前癌病変を参照)。口の中に、最近になって急に茶色や黒っぽい変色個所が現れたときには、黒色腫の可能性があります。唇でいつもタバコやパイプがあたっている部分が「スモーカーズ・パッチ」と呼ばれる、表面が平坦な茶色のそばかす状のしみに変化することがあります。

診断

口腔癌は、その形状と症状から癌と推定されます。黒色腫は、正常な色素沈着や他の原因による変色と癌との判別が必要なので、顕微鏡検査用の組織サンプルを採取する生検が行われます。

X線検査では、必ずしもあごの癌と嚢胞や良性骨増殖、さらには体の他の部位からの転移癌を判別できるとは限りませんが、あごの癌による異常な境界縁や癌に隣接する歯の一部欠損が明らかになります。歯の欠損は、癌の急速な増殖を示す特徴的な現象です。

予防

過度の飲酒や喫煙を控えれば、口腔癌のリスクを減らすことができます。また、折れたり欠けたりした歯や歯の詰めもののとがった縁を削ってなめらかにしておくことも、癌の予防に効果があります。ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化作用のあるビタミンの予防効果がいくつかの研究で証明されていますが、さらに詳しい臨床試験が必要です。口唇癌の予防対策は、有害な太陽光線を避けることです。太陽光線によって唇が広範囲にダメージを受けてしまうと、癌の進行を防ぐためには手術またはレーザーで唇の外側の表面をすべてはぎ取らなければなりません。

経過の見通しと治療

口の中や周囲で発生した癌が近くのリンパ節へ転移すると、リンパ節が腫れます。それよりも遠い部分への転移は扁平上皮癌ではまれですが、骨肉腫では頻繁に起こります。さらに悪性黒色腫は非常に転移しやすく、脳などの器官にまで転移します。

扁平上皮癌は、癌がリンパ節に転移する前に癌全部と癌周囲の正常組織を除去すれば治癒率が高く、癌と診断された人のうち平均68%の人が、少なくとも5年以上生存しています。しかし、癌がリンパ節まで広がってしまうと、5年生存率は25%に下がります。残念なことに扁平上皮癌の治癒率は、過去数十年間ほとんど改善していません。一方、いぼ状癌は、高齢になってから発症し、増殖のスピードも遅いため、命にかかわることはまれです。悪性黒色腫の5年生存率は、わずか5〜10%です。

扁平上皮癌と、その他のほとんどの口腔癌の治療は手術と放射線療法が中心になります。手術と放射線療法は併せて行われることが多く、特に癌が大きい場合には併用されます。悪性黒色腫には放射線療法が効かないため、手術が中心になります。

手術中に癌の広がり範囲が判定されます。下あごの下部と後部、および頸部沿いにあるリンパ節が摘出された場合には、顔の容貌が損なわれて心理的にも大きな傷となることがあります。現在はなるべく容貌を損ねないように、新しい手術方法も実施されています。唇の癌手術では、レーザーで癌を焼き切る方法と同様にモース変法と呼ばれる方法が容貌の損失を最小限にとどめるのに効果を上げています。このモース変法とは、摘出した癌組織の全切除片を顕微鏡検査しながら、癌が広がっている範囲を確かめながら手術を進めていく方法です。再建手術とは、機能を向上させ元の容貌を取り戻すための修復手術です。歯とあごの欠けた部分は、修復用の補てつ物で代用されます。

口腔癌の人には、手術と放射線療法を行う場合と、放射線療法だけ行う場合があります。放射線によって必ず治癒するとは限りませんが、特に広範囲の癌に対しては、癌を治すというよりも、癌を萎縮させて患者の苦痛を和らげる目的で行われます(緩和ケア)。放射線療法によって唾液腺が破壊されることが多く、そのために口が乾燥してむし歯などの歯のトラブルが発生します。しかし唾液腺が破壊されていなければ、放射線照射完了から数週間後には再び唾液が分泌されはじめます。あごの骨は放射線にさらされた後は十分には治らないため、放射線療法を開始する前に歯の治療を完全に済ませておくことが大事です。トラブルになりそうな歯はすべて抜去し、傷あとを十分治癒させてから放射線療法を開始します。

口腔癌治療のための放射線療法を受けた人は、常に口の中を清潔に保つことが肝心です。抜歯などの歯科治療が必要になると、治癒に悪影響します。口内を常に清潔に保つためには、定期的な歯科健診とフッ素水によるうがいなどの家庭での十分なケアが大切です。最終的に抜歯が避けられなかった場合には、高圧酸素療法が悪影響を防ぐのに役立ちます。高圧酸素療法によって、放射線照射部位の骨と周囲の軟組織を壊死(放射線性骨壊死)させずにあごを治癒させることができます。

化学療法は、大部分の口腔癌に対してはほとんど効果がありません。悪性黒色腫に対しては、手術が不可能な場合に化学療法が行われますが、一般的には死を遅らせるだけで、治癒はできません。

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