メルクマニュアル家庭版
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下痢

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下痢とは便量が増加し、便が水様性になり、頻回に排便することです。

排便回数が多いだけでは、下痢というわけではありません。正常な状態で1日3〜5回排便する人もいます。野菜に含まれる繊維質を大量に食べる人は、1日約500グラム以上の便を排泄しますが、この場合の便は形を保っており、水様性ではありません。便から十分な水分が吸収されず、便がゆるくなると下痢が起こります。下痢になると、しばしばガス発生、腹部けいれん、便意の切迫、吐き気、嘔吐を伴います。

原因

正常な便では60〜90%が水分です。下痢は主に水分が90%を超えた結果です。便が消化管を速く通過しすぎたり、便中のある物質が大腸が水分を吸収するのを妨げたり、大腸で水分が分泌されたりすると便に過剰の水分が含まれます。薬、ウイルスや細菌や寄生虫感染症、食事の内容、ストレス、化学物質、腫瘍(しゅよう)、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患などの慢性疾患、といったさまざまな原因により下痢が起こります。食べものが正常に消化されない吸収不良症候群でも下痢が起こります。

便の急速通過: 便の通過速度が速くなることは、下痢の最も一般的な原因です。便が正常な硬さとなるには、ある程度の時間、便が大腸にとどまっている必要があります。便が大腸を速く通過すると水様性便となります。多くの医学的処置や治療が、便が大腸にとどまる時間を短縮します。それには、甲状腺機能亢進症やゾリンジャー‐エリソン症候群、胃や小腸、大腸の部分切除、胃潰瘍治療のための迷走神経切断、腸のバイパス手術、マグネシウムを含む制酸薬、下剤、プロスタグランジン、セロトニン、カフェインなどの薬の使用が含まれます。多くの食べもの、特に酸性の食品は速く通過します。特定の食品に耐性がなく、それらを食べた後に常に下痢を起こす人がいます。ストレスと不安も下痢の原因です。

便の水分貯留: 浸透圧性下痢は、血液中に吸収されない物質が腸内に残存するために起こる下痢です。この吸収されない物質が、便中に過剰の水分を残留させるので下痢が起こります。一部の果物や豆類、そしてダイエット食品やキャンデー、チューインガムなどで糖の代わりに使われているヘキシトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖類が浸透圧性下痢を引き起こします。ラクターゼ(乳糖分解酵素)の欠乏症も浸透圧性の下痢を起こします。ラクターゼは正常なら小腸にみられる酵素で、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して血液中に吸収できるようにします。乳糖不耐症の人が牛乳を飲んだり乳製品を食べたりすると、乳糖が消化されません。乳糖が小腸に蓄積すると浸透圧性下痢を起こします。浸透圧性下痢の程度は、浸透圧性物質がどれほど消化されたかで異なります。浸透圧性下痢を起こす物質を食べたり飲んだりするのをやめると、下痢はすぐに治まります。

消化管中の血液も浸透圧性物質として働き、黒色便(メレナ)を起こします。正常な腸内細菌の過剰繁殖や普通は腸内にみられない細菌の繁殖も浸透圧性下痢の原因となります。アメーバなどの寄生虫感染症も浸透圧性下痢の原因です。抗生物質の服用も、腸内の正常な細菌叢を破壊して浸透圧性下痢の原因となります。

便への水分分泌: 分泌性下痢は、小腸と大腸が塩類(特に塩化ナトリウム)と水分を便中に分泌するときに起こります。コレラ菌や、ある種のウイルスに感染したときに産生される毒素によって、この分泌が起こります。ある種の細菌(たとえばカンピロバクター属)による感染症や、クリプトスポリジウム属などの寄生虫による感染症も水分の分泌を促進します。この下痢は大量に起こり、コレラでは1時間に約1リットル以上の便を排泄します。塩類や水分の分泌を起こすこのほかの原因には、ヒマシ油のような緩下薬、胆汁酸(小腸の部分切除術の後に蓄積しやすい)などがあります。カルチノイド(類癌腫[るいがんしゅ])、ガストリノーマ、ビポーマなどのまれな腫瘍でも分泌性下痢が起こります。ポリープによっても分泌性下痢が起こります。

滲出性下痢は、大腸粘膜が炎症を起こし、潰瘍を形成したり充血したりして、タンパク質、血液、粘液、その他の体液を分泌し便の量と水分量を増加させます。このタイプの下痢は、潰瘍性大腸炎、クローン病(限局性腸炎)、結核、リンパ腫や腺癌などの癌といった、さまざまな病気が原因で起こります。直腸粘膜に炎症が及ぶと差し迫った便意を感じ、炎症を起こした直腸粘膜が便によって拡張しやすくなり頻回の排便をします。

下痢を起こす主な食品と薬

食品・薬

下痢を起こす成分

リンゴジュース、洋梨ジュース、無糖ガム、ミント ヘキシトール、ソルビトール、マンニトール
リンゴジュース、洋梨ジュース、ブドウ、はちみつ、ナツメ、ナッツ類、イチジク、ソフトドリンク(特にフルーツ味) 果糖(フルクトース)
砂糖 ショ糖
ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト、フローズンヨーグルト、クリーム状のチーズ、チョコレート 乳糖
マグネシウムを含む制酸薬 マグネシウム
コーヒー、紅茶、コーラ、市販の頭痛薬 カフェイン
無脂肪ポテトチップス、無脂肪アイスクリーム オレストラ

症状と合併症

下痢の特徴は頻回の軟便です。便の性状は、軟らかいペースト状から完全な水様性までさまざまです。便の色は褐色から透明まであります。黒色便は消化管の出血を示していますが、次サリチル酸ビスマスなどを含む下痢の治療薬も便を黒くします。黒色便の原因が出血(メレナ)の場合は、便がタール状になり異臭があります。

排泄の前や排泄中に腹部けいれんが起こることがあり、便とともに大量のガスが出ることもあります。吐き気が起こる人もあり、微生物の感染や毒性物質によって起きた下痢では、特にその傾向があります。

下痢になると脱水症が起こり、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物などの電解質が血液中から失われます。大量の体液と電解質が失われると血圧が低下し、失神、不整脈(心臓のリズムの乱れ)やその他の重症の障害を起こします。幼い子供や高齢者、衰弱している人、下痢が重症の人で特にリスクが高くなります。重炭酸塩も便中に失われるので、代謝性アシドーシスが起こります(酸塩基平衡: アシドーシスを参照)。

診断

医師は最初に、下痢が突発性で短期的なものか(急性)、継続しているものか(慢性)を見極めようとします。急性の下痢が72時間以上継続する場合(血が混じっている場合はそれより早く)、医師の診察を受けるべきです。医師は、食事の変化が原因なのか、発熱・疼痛・発疹などの症状があるか、同じような症状を起こした人と接触があったかといったことを確認しようと試みます。下痢が重症ではなく1週間も続かなかったのであれば、症状と診察だけで、原因と治療を決めるのに十分です。必要ならば、便のサンプルを検査します。この検査では便が水様性であるか、異臭があるか、脂肪、血液、消化されていない食物があるかなどを調べます。24時間単位の便量も測定します。

下痢が長びく場合は、便サンプルを顕微鏡で調べ、細胞、粘液、脂肪、その他の物質を確認しなければなりません。また、血液や浸透性下痢を引き起こす物質が含まれているかどうかも調べます。刺激物を分泌する感染性の微生物、たとえばカンピロバクター属エルシニア属などの細菌や、アメーバ、ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)クリプトスポリジウム属などの寄生虫がないかも検査します。患者が隠れて下剤を使用している場合も、便サンプルの検査で確認できます。肛門と直腸の粘膜を検査する場合はS状結腸鏡検査を行います。直腸粘膜の生検も行うことがあります。

治療

下痢は症状であり、その治療は原因によって異なります。ほとんどの人では原因を取り除くだけで、下痢が治まり全身状態が回復します。たとえば、カフェインを含むコーヒーやコーラを飲むのをやめると、慢性の下痢が治ることがあります。ウイルス感染による下痢は、普通は24〜48時間で解消します。

下痢を治療する薬には、各種の処方薬や市販薬があります。市販薬にはカオリン‐ペクチンなどの吸着薬が含まれていて、化学物質、毒素、感染性細菌を吸着します。一部の吸着薬は便を硬くするのにも役立ちます。次サリチル酸ビスマスは、多くの下痢に有効です。この薬を服用すると便が黒くなります。ロペラミド、コデイン、ジフェノキシレートなども使われます。

下痢の治療に使われる処方薬には、オピオイドと腸の筋肉を弛緩させる薬があります。慢性の便秘の治療に使われるオオバコ種子やメチルセルロースなどの膨張性薬剤も、慢性の下痢に効果があります。

重症の下痢により脱水症を起こしている場合は入院して、水分と塩類を点滴する必要があります。吐き気や嘔吐がない場合には、水分、糖類、塩類のバランスが取れた飲料を飲むと非常に効果的です。

薬の種類

薬剤名

主な副作用

備考

吸着薬

 
  • 次サリチル酸ビスマス
  • カオリン
  • ペクチン
ほとんどなし 吸着薬は腸筋弛緩薬より作用が弱い

腸筋弛緩薬

 
  • コデイン
  • ジフェノキシレート
  • ロペラミド
  • パレゴリック(アヘンチンキ)
大腸閉塞 感染症による下痢が疑われる場合は、慎重に使用する

ロペラミドは市販のものが入手できます。

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