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鎌状赤血球症

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鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする遺伝性の病気です。

鎌状赤血球症は、ほぼ黒人にしかみられない病気です。米国では、黒人の約10%が鎌状赤血球症の遺伝子を1つもち、鎌状赤血球の形質を受け継いでいます。こうした人は、尿に血液が混じることはまれにありますが、この病気を発症することはありません。黒人の約0.3%がこの病気の遺伝子を2つもっていて、その場合には病気が発症します。

赤血球の形

赤血球の形

正常な赤血球は柔軟性のある円盤型で、周辺が厚く中央が薄くなっています。一部の遺伝性疾患では、赤血球が変形し、球形(遺伝性球状赤血球症)、だ円形(遺伝性楕円赤血球症)、鎌形(鎌状赤血球症)になります。

鎌状赤血球症では、赤血球にあるヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)に異常が生じ、赤血球中の酸素の量が低下します。その結果、赤血球の一部が鎌状の形に変形してしまいます。変形した赤血球はもろく、毛細血管の通過時に壊れてしまい、重度の貧血、血流の障害、酸素供給量の低下などを起こします。鎌状赤血球は、脾臓、腎臓、脳、骨やその他の臓器にも損傷を与えます。

症状と合併症

鎌状赤血球症の患者には、常にある程度の貧血と軽度の黄疸がみられますが、それ以外の症状はほとんどありません。激しい運動、登山、酸素供給が不十分な状態での高い高度の飛行、病気などにより血液中の酸素量が減少すると、鎌状赤血球症が急激に悪化した発作状態に陥ります。この状態になると、貧血が急に悪化し、腹痛、腕や脚の長骨の痛み、発熱などが生じます。息切れを起こすこともあります。重度の腹痛や嘔吐がみられることもあります。

小児では、激しい胸痛と呼吸困難を特徴とする胸部症候群として発作が起きることがあります。胸部症候群が起きる確かな理由はわかっていませんが、血栓や塞栓(血栓の一部がはがれて血管に詰まること)による血管の閉塞や感染に関連していると考えられています。

鎌状赤血球症の患者の大多数は、小児期に脾臓の腫大(脾腫)を発症します。青年期になるまでに脾臓はひどく損傷し、萎縮して機能しなくなります。脾臓は感染を防御する働きがあるため、鎌状赤血球症の患者は、肺炎球菌性肺炎などの感染症にかかりやすくなります。特に、ウイルス感染を起こすと血球の産生が減少するため、貧血がさらに悪化します。肝臓の腫大は生涯にわたり進みます。また、破壊された赤血球の色素から胆石が形成されることがよくあります。心臓は肥大し、心雑音を伴うこともよくあります。

鎌状赤血球症の小児は比較的胴が短く、腕、脚、手指、足指が長くなります。骨と骨髄の変化により、特に手と足の骨に痛みが生じます。発熱を伴う関節痛が起こり、股関節が損傷して、最終的には人工関節が必要になることもあります。

皮膚の血行が悪いと、脚の一部、特にかかとの部分に潰瘍が生じることがあります。若い男性では、しばしば痛みを伴う持続性の勃起(有痛性持続勃起症)が起こることがあります。血管が閉塞して脳卒中を起こし、神経系に損傷が生じることもあります。高齢者では、肺と腎臓の機能が低下します。

診断

若い黒人に貧血、腹痛や骨の痛み、吐き気がみられる場合は、鎌状赤血球症の発作が疑われます。血液を顕微鏡で検査すると、鎌状の赤血球や壊れた赤血球の破片がみられます。

電気泳動と呼ばれる血液の検査で異常なヘモグロビンを検出し、鎌状赤血球の形質をもつだけなのか、鎌状赤血球症なのかを判別することができます。形質の有無を知ることは、子供が鎌状赤血球症になるリスクを判断するという観点から、家族計画に重要となる場合があります。

治療と予防

鎌状赤血球症は、比較的軽症でほとんど治療を必要としないこともありますが、重度で再発する場合は、重い障害が出たり早期に死亡することがあります。まれに、鎌状赤血球形質のある人が軍事訓練やスポーツトレーニングなどの激しい運動をしているときに、重症の脱水を起こして突然死亡することがあります。

鎌状赤血球症は治癒することはなく、発作の防止と貧血のコントロール、症状の緩和が治療の目標となります。血液中の酸素量を低下させるような活動を避け、ウイルス感染などの軽い病気でも、すぐに診療を受ける必要があります。感染のリスクが高いので、肺炎球菌インフルエンザ菌のワクチン接種を受けるようにします。

鎌状赤血球症の発作では、入院が必要になることがあります。大量の水分を点滴で補給し、薬で痛みを和らげます。貧血が重く、脳卒中、心臓発作、肺の損傷などのリスクが考えられる場合は、輸血と酸素補給を行います。感染症など発作の原因となった状態があれば治療します。

鎌状赤血球症は薬によってある程度のコントロールが可能です。ヒドロキシ尿素は胎児に多くみられる形態のヘモグロビンの産生を増加させるので、鎌状になる赤血球の数が減少し、鎌状赤血球症の発作が起こりにくくなります。鎌状赤血球遺伝子をもたない家族やほかの人から、骨髄や幹細胞を移植する治療法もあります。移植により病気が治ることもありますが、リスクを伴い、生涯にわたって免疫抑制薬を使用しなければなりません。血球を産生する前駆細胞に正常な遺伝子を導入する遺伝子治療は、現在研究中です。

鎌状赤血球症の子供が生まれるリスクがあることが判明しているカップルは、出生前診断とカウンセリングを受けることができます(遺伝病の検査: キャリア・スクリーニングを参照)。羊水穿刺で採取した胎児の細胞を直接調べ、鎌状赤血球の遺伝子が1つなのか2つなのかを正確に知ることができます。

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