メルクマニュアル家庭版
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炭疽

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炭疽は、グラム陽性菌の1種の炭疽菌によって皮膚、肺、消化管に起こる感染症です。

炭疽は、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの動物から人に感染し、死に至ることの多い病気です。休眠中の細菌(芽胞)は土の中や毛織物など動物素材で作られた製品の中で数十年も生き続けることができ、熱や寒さでも簡単には死滅しません。感染はほんのわずかな接触でも起こります。皮膚からの感染が最も多いものの、芽胞を吸いこんだり、汚染した肉をよく火を通さないで食べたりしても感染します。人から人へはうつりません。

吸いこむと致死率が非常に高くなるため、一部の国やテロリストは生物兵器として利用しています(生物兵器とテロを参照)。炭疽菌は数種類の毒素をつくり、それがさまざまな症状を引き起こします。

症状と診断

炭疽菌に皮膚感染すると、1〜5日後に、皮膚に痛みのない赤茶色の盛り上がりができます。隆起した丘疹部分には水疱(すいほう)ができて硬くなり、やがて破れて黒いかさぶたができます。患部の周囲のリンパ節が腫れることがあり、筋肉痛、頭痛、発熱、吐き気、嘔吐などの全身症状が出ることもあります。治療を受けないと、5人に1人の割合で死に至ります。

肺炭疽は炭疽菌の芽胞を吸いこむことによって発症します。芽胞は肺の近くのリンパ節で増殖します。菌がつくる毒素によってリンパ節が腫れて破れ、出血して感染が周りに広がります。また、感染した体液が肺の中や肺と胸壁の間にたまります。症状は2段階で現れます。最初の2〜3日は症状がはっきりせず、軽い痛み、発熱、空せきがあってインフルエンザに似ています。その後、突然激しい呼吸困難、高熱、発汗が起こり、続いてショック症状を起こし昏睡状態に陥ります。このように突然重症化するのは、毒素が大量に放出されるためだと考えられます。脳と髄膜の感染症(髄膜脳炎)が起こることもあります。すぐに治療を始めても、激しい症状が現れてから24〜36時間後には死亡することが多い疾患です。

消化管の炭疽(腸炭疽)はまれです。人が菌で汚染された肉を食べると、菌が口、のど、腸で増え、毒素を出して広範囲の出血と組織の壊死を引き起こします。のどの痛み、首の腫れ、腹痛、嘔吐、血の混じった下痢もみられます。治療しないと半数は死亡します。

診断にあたっては、皮膚の潰瘍(かいよう)は特徴ある症状が出るので見分けやすく、動物と接触したとか、炭疽が発症した地域にいたというような情報も診断に役立ちます。炭疽菌は、皮膚や体液から採取したサンプルを顕微鏡で調べれば容易に識別でき、培養することもできます。血液検査で菌のDNA断片や、毒素に対する抗体の有無を調べることもできます。肺炭疽の場合は、たんを調べれば菌がみられますが、菌が出ないこともあります。重症の場合には、検査結果が出る前に患者が死亡してしまうことがあるため、炭疽の疑いがあれば、すぐに治療を始めます。

予防と治療

獣医、検査技師、毛織物工場の従業員など、炭疽にかかるリスクの高い人にはワクチンがあります。また、生物兵器として使用される可能性もあることから、軍隊に所属する人員の大半もワクチン接種を受けます。ワクチンの安全性に対する懸念が大きく報道されたものの、すでに125万人が炭疽ワクチンの接種を受け、重大な副作用は報告されていません。炭疽菌に接触した人に対しては、菌のペニシリン耐性が不明の場合にはシプロフロキサシンまたはドキシサイクリンで予防的治療を行い、ペニシリン感受性がある場合、小児にはアモキシシリンの内服薬で予防的治療を行います。

炭疽菌感染症の治療では、静脈用シプロフロキサシンまたはドキシサイクリンに、クリンダマイシン、リファンピシン、あるいはペニシリンを加えた抗生物質の併用投与を行います。咽頭の腫れを抑えるためにコルチコステロイド薬を使うこともあります。治療が遅れると、死亡する危険も高くなります。

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