メルクマニュアル家庭版
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梅毒

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梅毒は、スピロヘータの1種である梅毒トレポネーマという細菌が起こす性感染症です。

梅毒は第1期と第2期が非常に感染しやすい時期で、梅毒にかかっている相手との1回の性行為で感染する確率は約3分の1です。細菌は腟や口の粘膜または皮膚を通して体内に入り、数時間のうちに付近のリンパ節に達し、血流に乗って体中に広がります。妊娠中に感染すると胎児にも感染し(新生児にみられるある種の感染症を参照)、出生時欠損やその他の問題を起こします。

米国では、1年間で新たに診断された症候性の梅毒患者数は1990年の5万人をピークに、その後は集中的な公衆衛生対策により漸減しています。1999年に報告された全患者数は3万5600人で、そのうち症候性の患者は6000人をわずかに超えるぐらいです。つまり、大多数の患者は、症状がないうちに診断されていることになります。

症状

通常、梅毒の症状は感染の3〜4週間後に始まりますが、早ければ1週間後、遅ければ13週間ほど過ぎてから始まる場合もあります。梅毒は治療しなければ、第1期、第2期、潜伏期、第3期と段階的に進行します。感染症は何年も続き、心臓や脳の障害を引き起こし、死に至ることもあります。

第1期には、陰茎、外陰部、腟などの感染部位に痛みのない「下疳」と呼ばれるびらんや潰瘍(かいよう)ができます。下疳は、肛門、直腸、子宮頸部、唇、舌、のど、指、まれにその他の部位にもできます。普通は1カ所だけですが、ときに複数できることもあります。

下疳は小さな赤い隆起として始まり、やがて痛みのない開放性の潰瘍になります。出血はなく、さわると硬いです。付近のリンパ節も腫れますが、これも痛みは伴いません。女性の約半数、男性では3人に1人は感染に気づきません。気づいても、下疳はほとんど症状を起こさないので、放置しがちです。たいていの場合、下疳は3〜12週間ほどで治り、すっかり良くなったかのようにみえます。

第2期は、感染6〜12週間後に発疹が現れて始まります。感染者の約25%には、この時点で治りかけの下疳がまだあります。発疹はかゆみや痛みがなく、さまざまな形をしています。他の病気の発疹とは異なり、第2期梅毒の発疹は手のひらや足の裏にできるという特徴があります。発疹はすぐ消えることもあれば、何カ月も続くこともあります。治療をしなくても発疹はやがて消えますが、数週間ないし数カ月後にまた出てくることがあります。

第2期になると梅毒は全身性の病気となり、発熱、疲労感、食欲不振、体重減少などがみられます。80%以上の人に潰瘍性口内炎、約50%に全身のリンパ節の腫れ、約10%に眼の炎症が起こります。眼の炎症は症状がないことが多いのですが、視神経が腫れて、視力障害が起こることもあります。約10%に痛みを伴う関節炎や骨の炎症がみられます。肝臓の炎症から黄疸(おうだん)が現れます。少数に急性梅毒性髄膜炎が起こり、頭痛、首のこわばり、ときに難聴がみられます。

皮膚と粘膜が隣接している部分(たとえば、唇や外陰部の内側縁)や皮膚の湿った部分に、「扁平コンジローム」と呼ばれる隆起した部分ができることがあります。この部分はきわめて強い感染力をもち、平たくなって、くすんだピンク色か灰色になります。この部分の毛は所々抜け落ちて、虫食い状態になります。

第2期から回復すると、病気は潜伏期に入り、感染は続いていても症状は現れない状態が数年から数十年、場合によっては一生続きます。普通、この時期の梅毒は感染力をもちません。

第3期に入ると、感染力はないものの、軽症から重症までさまざまな程度の症状を起こします。第3期梅毒には主として、良性の第3期梅毒、心臓血管梅毒、神経梅毒の3種類があります。

良性の第3期梅毒は今日ではまれにしかみられません。「ゴム腫」と呼ばれるこぶ状の隆起が皮膚やさまざまな器官にでき、少しずつ大きくなり、やがて治癒し、傷あと(瘢痕[はんこん])を残します。ゴム腫はほとんど体中どこにでもできますが、頭皮、顔面、上半身の胴体、膝(ひざ)から下の脚などに多くみられます。骨にできると、深く突き刺すような痛みが起こり、夜になると悪化します。

心臓血管梅毒は、通常、最初の感染から10〜25年ほどたって起こります。大動脈(心臓から出ている主要な動脈)に動脈瘤(血管が弱くなって拡張)ができたり、大動脈弁の逆流が起こり、胸痛や心不全が起き、場合によっては死に至ります。

神経梅毒は神経系に起こる梅毒で、梅毒を治療しないでいると約5%の人に現れますが、先進国ではまれです。脳や脊髄(せきずい)に多くの重大な障害が起こり、思考、歩行、会話など日常生活の活動に支障を来します。

神経梅毒はさらに、髄膜血管型、進行麻痺(まひ)、脊髄ろうの3つの型に分かれます。髄膜血管型神経梅毒は慢性型の髄膜炎で、脳や脊髄を侵します。進行麻痺神経梅毒は40〜50歳になって初めて発症し、個人の衛生状態の悪化、気分の浮き沈みが激しくなる、錯乱が進行するなど、徐々に行動の変化が現れます。脊髄ろう神経梅毒は、徐々に始まる脊髄の進行性病変で、脚に強い刺すような痛みが不定期に現れては消え、やがて歩行が不安定になります。

診断

下疳または手のひらや足の裏に特有の発疹があれば、通常は梅毒が疑われます。確定診断は、検査の結果に基づいて行います。

血液検査は2種類行います。まず、VDRL(米国性病研究所)テストやRPR(迅速血漿レアギン)テストのようなスクリーニング検査を行います。スクリーニング検査は安価で簡単に行えますが、第1期梅毒の最初の数週間は偽陰性を示すことがあるので、検査を繰り返す必要があります。また、梅毒以外の病気があると偽陽性を示すこともあります。このため、スクリーニング検査で陽性と出た場合には、通常、次に梅毒トレポネーマに対する抗体を測定する特殊な血液検査を行って確認します。治療を開始して効果が出ると、スクリーニング検査の結果は陰性に変わりますが、2番目に行う確定検査では常に陽性を示します。

第1期や第2期の梅毒は、皮膚や口の潰瘍から採取した体液を顕微鏡で調べ、菌を特定して診断することもできます。神経梅毒の場合は、脊椎穿刺(腰椎穿刺)を行って髄液中の抗体を調べます。潜伏期の梅毒は、血液と髄液の抗体検査によってのみ診断可能です。第3期の梅毒は、症状と抗体検査によって診断します。

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梅毒

梅毒

治療と経過の見通し

第1期、第2期梅毒の人は、他の人に梅毒をうつす可能性があるので、自分とセックスパートナーの両方が治療を終了するまでは、性的接触を避けるか、慎重な予防手段を講じる必要があります。第1期梅毒と診断された場合、過去3カ月間に性的接触をもったすべての相手に感染の危険性があります。第2期梅毒の場合は、過去1年間のセックスパートナーすべてに感染の危険性があります。これに該当する場合は、血液の抗体検査を受けて、感染の有無を確認する必要があります。検査結果が陽性であれば治療を受ける必要があります。検査結果を待たずに、セックスパートナー全員の治療を開始する場合もあります。

ペニシリンの注射は、梅毒のすべての段階に最もよく効く抗生物質です。第1期梅毒には、ペニシリンの単回投与が適当とされますが、1週間以内に2回目の注射を行う医師もいます。第2期梅毒には、必ず2回目の注射も行います。潜伏期梅毒、そして第3期梅毒のすべてのタイプにもペニシリンを使用しますが、この場合、より頻繁に、あるいはより長期間、静脈注射による治療が必要となります。ペニシリンアレルギーがある人は、アジスロマイシンを経口で単回服用し、セフトリアキソンの注射を連日10日間にわたって受けるか、ドキシサイクリンを14日間内服します。

初期段階の梅毒患者の半数以上、特に第2期梅毒患者で、最初に治療を受けてから2〜12時間後に反応が起こります。これは「ヤーリッシュ‐ヘルクスハイマー反応」と呼ばれ、何百万もの梅毒トレポネーマが一度に死滅することから起こると考えられています。全身性に具合が悪くなり、発熱、頭痛、発汗、激しい悪寒、梅毒性潰瘍の一過性の悪化といった症状が発生します。神経梅毒の人では、まれにけいれんや麻痺が起こります。症状は一過性で、永続的な障害を残すことはまれです。

治療を行えば、第1期梅毒、第2期梅毒、潜伏期梅毒ともに経過の見通し(予後)は良好です。脳や心臓が侵された第3期梅毒では、すでに受けた障害は通常回復不可能なので、経過の見通しは良くありません。梅毒患者は治癒しても、梅毒に対する免疫を獲得することはないので、再び感染する可能性があります。

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