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難聴と聾

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難聴とは耳が聞こえにくくなることで、障害がさらに高度で聴力がほぼ失われた状態を聾(ろう)といいます。

米国では、難聴のある人は2800万人以上に上ります。年齢層別では高齢者が最も多く、65歳以上の30〜40%に明らかな聴力の低下が認められます。難聴は小児にも起こり(耳、鼻、のどの病気: 聴覚障害を参照)、言語や社会性の発達を阻害します。毎年およそ5000人に1人が突発性難聴を発症します。突発性難聴は重度の難聴で、通常は左右どちらか一方の耳に起こり、数時間で急速に進行します。

原因

難聴には多くの原因があります。外耳道や中耳の物理的な問題で音の伝導がさえぎられて生じるものを、伝音難聴といいます。外耳道がふさがる原因は、耳あかのたまりすぎといったよくあるものから、腫瘍(しゅよう)のようなまれなものまでさまざまです。中耳の伝音難聴は水がたまって起きることが最も多く、特に小児の場合によくみられます。耳の感染、アレルギー症状、腫瘍などによって、中耳からの空気や液体の出口である耳管がふさがれると、中耳に水がたまります。

難聴は、内耳の感覚器(有毛細胞)、聴神経、脳の聴神経路がダメージを受けた場合にも起こります。これを感音難聴といい、薬、感染、腫瘍、頭蓋の外傷などによってこれらの感覚器や神経が損傷を受けて起こります。伝音難聴と感音難聴が混在した状態も多くみられます。

難聴の原因

  • 伝音難聴
    • 真珠腫(耳の感染による非癌性腫瘍)
    • 慢性滲出性中耳炎
    • 中耳炎
    • 外耳道の閉塞(耳あか、腫瘍、感染による膿などが原因)
    • 耳硬化症(耳小骨の過成長)
    • 鼓膜の穿孔
  • 感音難聴
    • 加齢
    • 脳腫瘍
    • 小児期の感染(おたふくかぜ[流行性耳下腺炎]、髄膜炎)
    • 先天性の感染(トキソプラズマ症、風疹、サイトメガロウイルス、ヘルペス、梅毒)
    • 先天性の奇形
    • 脱髄疾患(神経線維を包むミエリン鞘が破壊される病気)
    • 遺伝
    • 騒音
    • メニエール病
    • 飛行機、ダイビング、激しい運動による突然の圧力変化
    • ウイルス性内耳炎

年齢: 加齢に関連した難聴を老人性難聴といいます。年をとるにしたがって、耳の組織に弾力性がなくなるなど音波に対する反応を鈍らせる変化が生じ、その結果、難聴が生じます。長年にわたって騒音にさらされている人では、加齢による変化がさらに悪化することがよくあります。加齢に伴う難聴は、20歳過ぎから始まります。ただし、進行は非常に遅いため、ほとんどの人は50歳を過ぎてもなかなか変化に気づきません。

老人性難聴ではまず高い音(高周波数の音)から聞き取りづらくなり、低い音に影響が出るのは後になってからです。高い音が聞こえなくなると人の話し声が聞き取れず、言っていることがよくわからなくなります。相手の声の大きさは以前と変わらないように聞こえますが、カ行やサ行、タ行、パ行などの破裂音が聞き取りにくくなるため、相手がもごもごとつぶやいているように感じます。実際、相手の話が聞き取れないのは、自分の耳のせいではなく、相手がはっきりと話していないからだと主張する人もいます。女性や子供の声は男性よりも高いため、特に聞き取りづらくなります。また、バイオリンやフルートなど、特定の楽器の響きが違って聞こえるようになる人も多くみられます。

耳硬化症: 耳硬化症は遺伝性の障害で、中耳と内耳を取り巻く骨が過剰に拡大します。この骨が大きくなりすぎると、内耳につながったあぶみ骨が振動できなくなり、音がうまく伝わらなくなります。大きくなりすぎた骨が内耳と脳を結ぶ神経を圧迫し、傷つける場合もあります。耳硬化症は遺伝性の場合もあり、子供のときにはしか(麻疹)に感染した人に発症することもあります。聴力低下が最初に現れるのは、青年期の後期から成人期の早期にかけてです。米国では成人の約10%に何らかの耳硬化症の徴候がありますが、実際に聴力が低下するのは約1%に過ぎません。

騒音: 米国では約3000万人が、難聴を引き起こしてもおかしくないようなレベルの騒音にさらされています。騒音は内耳の有毛細胞を破壊します。騒音に対する感受性は人によって大きく異なりますが、ある程度以上の大きな音に長時間さらされれば、聴力の低下はだれにでも生じます。

騒音の大きさと騒音にさらされている時間の長さが問題で、音が大きければ大きいほど短時間でも聴力が低下します。極度に大きな音の場合は、わずか1回だけ瞬間的に耳にしただけでも難聴を引き起こします。大きな騒音に短時間さらされた場合は、一過性の難聴が数時間から数日続く程度ですみ、これを一過性聴力閾値変動(TTS)といいます。しかし、騒音に繰り返しさらされた場合は特にそうですが、難聴が永久的になることもあります。高い音が耳の中で鳴り続ける耳鳴り(中耳と内耳の病気: 耳鳴りを参照)や、人の話が聞き取りづらくなるなどの症状は、音が大きすぎるという体からの警告シグナルです。こうした症状がみられる人は、その音を避ける必要があります。

聴力を損なうおそれがある音源としては、アンプで増幅された大音量の音楽、電動工具や重機の音、スノーモービルなどエンジンつきの乗り物の音などがあります。仕事中に有害レベルの騒音にさらされている人も多く、聴力低下は多くの人にとって職業上のリスクの1つとなっています。爆発音や銃声も聴力を損ないます。

中耳炎: 小児は中耳炎の後、多少の伝音難聴になることがよくあります。これは感染によって中耳に滲出液(しんしゅつえき)がたまるためです。中耳炎が治って3〜4週間で大半の小児は正常な聴力を取り戻しますが、難聴が続くケースも少数あります。中耳炎が慢性化すると、伝音難聴と感音難聴をしばしば併発します。中耳炎を繰り返し起こすと難聴になりやすい傾向があります。

自己免疫疾患: ときに自己免疫疾患も聴力低下の原因になります。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、パジェット病、結節性多発動脈炎のある人に、難聴が起こることがあります。左右両側の耳に発症し、症状は一進一退するか、あるいは進行していく場合もあります。蝸牛の細胞が免疫システムによる攻撃を受けることが原因です。

薬: 薬が難聴を引き起こすこともあります。最もよくみられるのがアミノグリコシド系抗生物質の静脈投与によるもので、特に投与量が多いときは要注意です。まれな遺伝性疾患で、アミノグリコシド系抗生物質による難聴を特に起こしやすくなる病気もあります。このほかバンコマイシン、キニーネ、癌(がん)の化学療法に用いられるシスプラチンやナイトロジェンマスタードなどでも起こります。アスピリン(サリチル酸塩)も難聴の原因となりますが、この場合は薬の使用をやめれば聴力は回復します。

診断

難聴のある人は必ず、耳の治療を専門とする耳鼻咽喉科医の診察を受ける必要があります。米国ではオージオロジストの資格をもつ専門家が、聴力検査を行って難聴の程度を測定し、どの周波数の音が聞こえないのかを調べます(訳注:日本では言語聴覚士が言語と聴覚の専門職種に相当します)。難聴がみられればさらに他の検査を行い、話を聞き取る能力への影響の程度や、難聴のタイプ(伝音性、感音性、混合型)を調べます。難聴の原因を特定するのに役立つ聴力検査もあります。聴力検査の多くは被験者自身の主体的な参加を必要としますが、そうでないものもあります。

音の大きさを測る

音の単位はデシベル(dB)で、その大きさは対数の尺度で表されます。10dBの増加は音の強さが10倍になり、耳で聞こえる大きさが2倍になることを意味します。同様に、20dBは0dBの100倍の強さで、4倍の大きさに聞こえます。30dBは0dBの1000倍の強さで、8倍の大きさに聞こえます。

音のレベル(dB)

0

人間の耳に聞こえる最も小さな音

30

ささやき声、静かな図書館内

60

通常の話し声、ミシン、タイプライター

90

芝刈り機、電動工具、トラックの往来(防音保護具なしの場合は1日8時間以内にとどめる

100

チェーンソー、空気ドリル、スノーモービル(防音保護具なしの場合は1日2時間以内にとどめる)

115

サンドブラスト装置(砂吹き機)、大音量のロックコンサート、自動車のクラクション(防音保護具なしの場合は1日15分以内にとどめる)

140

銃声、ジェットエンジン(音で耳が痛くなり、防音保護具なしでは短時間でも耳を傷める。防音保護具を使用しても耳を傷める場合あり)

180

ロケット発射時の振動音

米連邦政府基準。ただし85dB以上では耳栓など防音保護具の使用が望ましい。

純音聴力検査は最も基本的な聴力検査です。被験者はヘッドホンを装着し、左右どちらかの耳に入ってくる高さや大きさの異なる音を聞きます。音が聞こえたら、そちら側の手を上に挙げます。右耳と左耳のそれぞれについて、音の高さ(周波数)別に聞き取れる最小音量を確認します。この結果を正常聴力とされている標準データと比較します。大きな音は、鳴っている側だけでなく反対側の耳でも聞こえてしまうことがあるため、検査を行っていない側の耳には雑音など検査音以外の音を聞かせます。

語音聴取閾値検査は、日常の会話に近い言葉の音を聞き取る力を調べる語音聴力検査の1つとして行われます。どの程度の大きさの声で話せば聞き取れるのかを調べるため、決まった言葉を読み上げる音声を、音量を変えて被験者に聞かせます。そして、聞かせた言葉の半数を被験者が正しく繰り返すことができたときの音量(語音聴取閾値)を記録します(訳注:日本では数字などを読み上げてこの検査を行います。米国ではrailroad、stairway、baseballなど2音節のアクセントが等しい強強格の言葉を聞かせて検査を行い、半数正解したときの値を強強格閾値といいます)。

語音弁別能検査も、語音聴力検査の1つです。これは似た言葉の違いを聞き分ける能力をみるもので、1音節の類似語をセットにして聞かせ、検査します。正しく繰り返すことができた言葉の割合が語音弁別能となります。伝音難聴の人では、音量は大きくする必要がありますが、結果はおおむね正常範囲の得点となります。感音難聴では、音量にかかわらず得点は正常以下となるケースがほとんどです。

ティンパノメトリー検査は、鼓膜から中耳への音の通り具合を調べる検査です。この検査は被験者の主体的な参加を必要としないため、小児の検査によく用いられます。マイクと音源が内蔵された装置を外耳道にぴったりと合わせて入れ、装置で外耳道の圧力を変化させると、音波が鼓膜から跳ね返ってきます。鼓膜が正常に反応しない場合は、伝音性の難聴が疑われます。

リンネ音叉検査では音叉(おんさ)を使用し、空気中を伝わる音と頭蓋骨を伝わる音のうち、どちらの方がよく聞こえるかを比較します。この検査は難聴が伝音難聴と感音難聴のどちらのタイプかを判断するのに役立ちます。空気伝導の聴力を調べるには、音叉を耳に近づけます。骨伝導の聴力を調べるには、振動している音叉の根元を頭にあてて、音が中耳を通らずに内耳の神経細胞に直接伝わるようにします。空気伝導の聴力が低下し、骨伝導の聴力は正常である場合は伝音性です。空気伝導と骨伝導のどちらの聴力も低下している場合は、感音性か混合型のどちらかになります。感音難聴の場合はさらに検査を行い、メニエール病や脳腫瘍などの異常がないか調べる必要があります。

聴性脳幹反応による聴力検査では、耳に入った音声信号の結果として生じる脳幹の神経インパルスを測定します。この検査は、脳が耳からどんな種類の信号を受け取っているのかを判断するのに役立ちます。感音難聴や脳腫瘍がある人では、検査結果に異常がみられます。聴性脳幹反応は乳児の検査によく使われ、昏睡状態にある人や脳の手術を受けている人の脳機能をみるためにも用いられます。

蝸電図検査(かでんずけんさ)は、電極を鼓膜または鼓室に置いて蝸牛と聴神経の活動を測定する検査です。蝸電図と聴性脳幹反応は、音に対して反応できない人や、自発的に反応しようとしない人の聴力を測定する際に役立ちます。たとえば乳児や年少の小児に重度の難聴(聾)がないか調べる場合や、難聴のふりをしている心因性難聴が疑われる人を調べる際に用いられます。

耳音響放射検査は、音を使って内耳の蝸牛を刺激すると、この刺激音に誘発されて耳自体が微弱な音を発する現象(蝸牛放射)を利用し、この音を高性能の装置で記録するものです。この検査は新生児の先天性難聴のスクリーニングに用いられています。また、成人の難聴の原因を特定する手段の1つとしても用いられます。

その他の検査には、音をひずませて聞き取りにくくした話を聞かせ、解釈力や理解力を評価する検査、左右の耳にそれぞれ異なる言葉や文章を聞かせ、そのうちの一方だけを聞き取って理解する能力を測定する検査、左右の耳にそれぞれ聞こえる不完全なメッセージをまとめて意味の通った1つのメッセージにする能力をみる検査、両耳で同時に聞いた音がどこから来たかを判断する能力をみる検査などがあります。症状と聴力検査の結果によっては、さらにCT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査による画像診断を行い、腫瘍があればその腫瘍が耳の内部に及んでいたり、耳管をふさいでいないかを調べる必要があります。

予防と治療

加齢による老人性難聴をはじめ、難聴の原因の大半は予防できません。ただし、騒音性の難聴についてはさまざまな防御策があり、大きな音は避ける、音を小さくする、騒音源から離れるといった対策を、可能なときには必ず実行することが望まれます。ヘッドホンで聞く音楽の音量は、常に適度なレベルに抑えておく必要があります。大きな音であればあるほど、その近くにいる時間は短くすべきです。職業上騒音を避けられない場合や銃器を使用する場合は、プラスチック製やゴム製の耳栓を外耳道に挿入するか、グリセリンを満たしたマフ型の防音保護具で耳を覆います。プラスチック製の耳栓はこれ以外の騒音環境においても有用です。

難聴の治療は原因によって異なります。中耳の滲出液が原因であれば、小児でも成人でも、鼓膜を切開して小さなチューブを留置します(耳の反復性感染症を鼓膜チューブで治療を参照)。チューブを使うことで、滲出液が再びたまるのを防止できます。小児の場合には、アデノイド(咽頭扁桃[いんとうへんとう])を切除して耳管の通りを良くする手術が必要なケースもあります。耳管をふさいでいる腫瘍があれば切除します。自己免疫疾患による難聴は、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬(以下ステロイド薬と表記)を用いて治療します。

鼓膜や中耳の骨が損傷を受けた場合には、再建手術が必要になります。耳硬化症の場合は、手術であぶみ骨を除去し、人工のあぶみ骨を代わりに入れることによって聴力が回復するケースがあります。脳腫瘍が難聴の原因となっている場合は、腫瘍を切除することによって聴力が保たれることもあります。

その他の原因には治療する方法がないものも多く、このような場合には、難聴をできるだけ補うための治療が行われます。中等度から重度の難聴の場合には、大半の人が補聴器を使用します。重度の難聴やほとんど聴力が失われた聾の人には、人工内耳(内耳に蝸牛刺激装置を埋めこむ方法)が有効です。

補聴器: 補聴器によって音を増幅させる方法は、伝音難聴と感音難聴のどちらにも有効です。ただし残念ながら、補聴器を使ったからといって、まったく正常に聞こえるようになるわけではありません。それでも、補聴器があれば意思の疎通が大幅に向上し、音が聞こえる喜びを得ることはできます。

補聴器のタイプ

補聴器のタイプ

耳かけ型の補聴器は最もパワーがありますが、見た目はあまり良くありません。耳穴型は重度の難聴に最適です。調節は簡単ですが、電話での会話には支障があります。挿耳型(カナル型)は軽度から中度の難聴に用いられます。このタイプは装着していても目立ちませんが、電話での会話にはやはり問題があります。完全挿耳型はCIC型、ディープカナル型、マイクロカナル型などとも呼ばれ、軽度から中度の難聴に用いられます。音質が良く、ほとんど目につかず、電話での使用にも問題はありません。外すときには装置についた細い針を引っぱります。最も高価で調節が難しいのが難点です。

補聴器は基本的に、音を拾うマイク、その音を大きくする電池式の増幅器、そして音を伝える装置で構成されています。ほとんどの補聴器が、外耳道に挿入した小さなスピーカーで音を伝えるしくみになっています。このほか、スピーカーを介さずに中耳の耳小骨や頭蓋に音を直接伝えるものもありますが、このタイプは手術で装置を埋めこむ必要があります。大きさや装着方法は補聴器によってさまざまです。基本的に、大型の補聴器は人目につきやすく、外観はあまり良くありませんが、使う人に合わせて調節操作が簡単にできます。また、大型であれば、小型の補聴器には搭載できない機能を盛り込むこともできます。

補聴器は種類によって電子的な特性が異なるため、使う人の難聴のタイプに合わせて選ぶ必要があります。たとえば、主に高周波の音が聞こえない難聴の場合は、単純に音を増幅しても不明瞭な話がそのまま大きく聞こえるだけで、効果がありません。こうした人には高い音だけを増幅する補聴器を使用して、話がはっきりと聞き取れるようにします。高周波の音が耳の中まで届きやすいように、イヤーモールド(オーダーメイドの耳栓)に穴を開けたタイプの補聴器もあります。多くの補聴器は複数の周波数チャンネルに対応したデジタル音声処理機能を備え、1人ひとりの聴力低下の状態に合わせて、より適切に増幅の調節を行えるようにしています。大きな音に耐えられない人は、増幅した音が最大音量の設定を超えないように制御する特殊な電子回路をもった補聴器を用いることもできます。

補聴器を使用している人にとって、電話での会話は聞き取りにくいものです。一般的な補聴器の場合、耳を受話器にあてるとキーンという音が生じます。そこで、補聴器の中には、電話用の小さなコイルを備えたものがあります。スイッチを電話用に切り替えるとマイクがオフになり、受話器に磁石が内蔵された補聴器対応電話から、このコイルへと電磁的に信号が伝えられます。補聴器側にこの機能があれば、電話機側の対応は電話会社に依頼すれば簡単に設定できます。複雑な機能がついた補聴器は価格も高くなりますが、聴力低下を補うために必要不可欠になる場合もよくあります。

人工内耳: 補聴器を使っても音が聞き取れない最も重い難聴の人には、人工内耳が有効です。人工内耳は、多チャンネルの電極を蝸牛に埋めこみ、ここから蝸牛の聴神経に電気信号を直接伝えるしくみです。体の外に装着したマイクとスピーチプロセッサーが、音声をとらえて電気信号に変換します。この信号はまず、電磁気の働きによって皮膚表面の体外コイルから体内のコイルへと伝えられ、さらに体内コイルから蝸牛の電極へと伝達されて、聴神経に刺激を与えます。

人工内耳:重度の難聴者のための補聴器

人工内耳:重度の難聴者のための補聴器

人工内耳はマイク、スピーチプロセッサー、体外コイル、体内コイル、電極で構成されています。体内コイルは耳の後ろの頭蓋部に、また電極は蝸牛に手術で埋めこまれます。耳かけ型の補聴器に入ったマイクで音をとらえ、スピーチプロセッサー(ポケットか専用のホルスターに入れて持ち運ぶ)で電気信号に変えて体外コイルに送ります。磁石で耳の後ろに固定された体外コイルから、皮膚ごしに体内コイルへと伝えられた信号が、電極に届いて蝸牛の聴神経を刺激し、音として感じられます。

人工内耳は正常な蝸牛ほどうまく音を伝えることはできませんが、使う人に応じてさまざまな形で活用されています。口の動きを読み取る読唇法(読話)を補うものとして利用する人もいれば、唇を見なくてもある程度の言葉を聞き取れるようになる人もいます。また、電話の音声が聞こえるようになる人もいます。

ほとんど耳が聞こえない人でも、人工内耳を使用すれば、玄関の呼び鈴、電話、警報器の音など周囲の音や危険を知らせる音を聞き取れるようになります。また、自分の発声のしかたを修正し、周囲の人にわかりやすいように話すためにも役立ちます。人工内耳は難聴になってまだ日が浅い人や、以前に補聴器をうまく使えていた人には良い結果をもたらす傾向があります。

その他の難聴対策: 上記以外にも、著しい難聴のある人に役立つ機器がいくつかあります。光警報システムは、玄関の呼び鈴が鳴っているときや、赤ん坊が泣いているときに知らせてくれます。特殊音を使った装置(スペシャルサウンドシステム)は、映画館や教会など雑音が多い場所での聞き取りに役立ちます。また、多くのテレビ番組で耳の不自由な人向けに、音声の内容が画面に字幕として表示される文字放送が行われています。耳の不自由な人に便利な機能を備えたさまざまなタイプの電話機もあります。

読唇法は聴力が低下した人に有用な技能です。老人性難聴のある人のように、音声が聞こえはしても細部の聞き分けが難しい場合に役立ちます。話し手の唇の動きを観察することによって、どの子音が発音されているかを読み取ります。高周波数の音に対する聴力が低下すると子音が聞き取れなくなりますが、読唇法を併用すればこの点を補い、話の内容がよく聞き取れるようになります。

聴覚リハビリテーション(リハビリテーション: 聴力障害を参照)のプログラムを通じて、読唇法など難聴を補うさまざまな技能について、聴覚の専門家が指導を行っている場合もあります。読唇法の訓練のほか、コミュニケーションが困難になる状況を前もって予想し、その状況を変えたり避けたりすることによって、聞くことに関する周囲の環境を自力でコントロールする方法を習得します。たとえば、レストランに行くなら混雑する時間帯を避け、外の音が入りにくいボックス席を希望します。メニューにない日替わり料理などは、口頭で説明せずに紙に書いてもらいます。直接だれかと会話をするときは、自分の方に顔を向けて話すように頼みます。電話での会話ではまず最初に、聴力に障害があることを相手に伝えます。

重度の難聴がある人の多くは、コミュニケーションの方法として手話を利用しています。ASL(アメリカン・サイン・ランゲージ)はアメリカ手話ともいい、手の形や動きなどで単語やフレーズを表すもので、米国で最も広く用いられています。このほか英語の文法をそのまま手話に置き換えた英語対応手話のSE(サインド・イングリッシュ)やSEE(サイニング・イグザクト・イングリッシュ)、口と手の動きを組み合わせて言葉を表すキュードスピーチなどの種類があります(訳注:日本でも日本手話[JSL]、日本語対応手話、キュードスピーチなど各種の手話が使われています)。

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