メルクマニュアル家庭版
印刷用画面

セクション

乳癌

-
-

乳癌は、米国の女性にみられる癌では皮膚癌に次いで多く、女性の癌の中では肺癌に続いて多い死亡原因となっています。2001年の1年間に、米国では約20万人の女性が乳癌と診断されました。そのうち乳癌が原因で死亡する割合は、約5人に1人です。

乳癌はよくみられる病気です。多くの女性がこの病気を恐れていますが、中には誤解されている部分もあるようです。たとえば、よく引き合いに出される「女性の8人に1人は乳癌になる」という数字は、女性の出生時から95歳までを想定して割り出された値です。つまり95歳以上まで生きる女性が8人いれば、そのうち1人は乳癌を発症するという理論上の値なのです。これに対し、40歳の女性が1年以内に乳癌を発症する確率は1200分の1、10年以内に発症する確率は120分の1です。ただし、このリスクは年をとるにつれて増加します。

乳癌の発症リスクに影響を与える要因は年齢以外にもあります。したがって、リスクが平均を大幅に上回る女性もいれば、平均より低い女性もいます。年齢をはじめ、リスクを増大させる要因の多くは、避けることができません。ただし定期的な運動は、特に青年期から若年成人のうちから実施する習慣をもっていると、リスクをやや低下させる可能性があります。体重を適正範囲に保つことも、おそらくリスクを低下させるとみられています。飲酒の習慣は、発症リスクを高める可能性があります。

しかし乳癌の場合には発症リスク要因の改善よりも、早期発見を常に心がけることの方がはるかに大切です。乳癌は、早期に診断と治療が行われれば、治癒も十分に望める病気です。マンモグラフィ検査や自己検診を定期的に行うことで、乳癌を早期発見できる可能性が高くなります(乳房の病気: スクリーニング検査を参照、乳癌の自己検診の方法を参照)。

乳癌の発症リスクと死亡リスク
 

リスク(%)

 

10年以内

20年以内

30年以内

年齢(歳)

発症

死亡

発症

死亡

発症

死亡

30 0.4 0.1 2.0 0.6 4.3 1.2
40 1.6 0.5 3.9 1.1 7.1 2.0
50 2.4 0.7 5.7 1.6 9.0 2.6
60 3.6 1.0 7.1 2.0 9.1 2.6
70 4.1 1.2 6.5 1.9 7.1 2.0

Feuer EJら「乳癌発症の生涯リスク」(Journal of the National Cancer Institute 85(11):892-897, 1993)の情報に基づき作成。

乳癌の危険因子

  • 年齢
    加齢は重要な危険因子です。乳癌の約60%は60歳を過ぎた女性に発生しています。75歳を過ぎるとリスクは最大となります。
  • 乳癌の病歴
    乳癌になるリスクが最も高いのは、非浸潤性あるいは浸潤性乳癌の既往歴がある女性です。癌ができた乳房を切除した後、反対側の乳房にも癌ができるリスクは、毎年およそ0.5〜1.0%です。
  • 乳癌の家族歴
    ごく近い親族(母親、姉妹、娘)に乳癌の人がいる女性では乳癌発症リスクが2〜3倍になります。もっと遠い親族(祖母、おば、従姉妹)に乳癌の人がいる場合は、リスクがわずかに高くなる程度です。母親、姉妹、娘の中に乳癌の人が2人以上いる場合はリスクが5〜6倍になります。
  • 乳癌の遺伝子
    最近、2つの乳癌遺伝子BRCA1とBRCA2が、2つの異なる女性グループから発見されました。これらの遺伝子をもつのは女性のうち1%未満に過ぎませんが、いずれか1つの遺伝子をもつ女性が乳癌になるリスクはきわめて高く、80歳までに50〜85%の確率で癌ができるとみられています。ただし、乳癌遺伝子をもつ女性が乳癌になった場合の死亡リスクは、乳癌のある他の女性たちと比べて特に高いということはありません。乳癌遺伝子をもつ女性は親族にも乳癌の人が多く、3世代に数人はいるのが普通です。このため、こうした家族歴がある女性を除き、これらの遺伝子の有無を調べるスクリーニング検査を検診などで行う必要はないとみられます。また、BRCA1とBRCA2の両方をもつ家系の女性は卵巣癌の発生率も高くなります。BRCA2遺伝子をもつ家系では男性も乳癌発生率が高くなります。
  • 乳腺症
    乳腺症(乳腺の線維性・嚢胞性の変化)がある女性のうち、乳癌のリスクが高くなるのは、乳管内の細胞数が増加している人に限られます。このような女性でも、生検で組織の構造の異常(異型過形成)が見つかったり、家族に乳癌の人がいたりしなければリスクはそれほど高くありません。
  • 初潮、最初の妊娠、閉経の年齢
    初潮が早い人ほど乳癌の発症リスクは高くなります。12歳未満で初潮を迎えた人のリスクは14歳以降に初潮を迎えた人の1.2〜1.4倍です。閉経と最初の妊娠年齢も乳癌の発症リスクと関連があり、閉経が遅いほど、また、最初に妊娠したときの年齢が高いほどリスクが高くなります。1回も妊娠していない場合には、生涯を通じて乳癌のリスクが2倍になります。これらの要因によってリスクが増大するのはエストロゲンの分泌期間が長くなるためと考えられています。エストロゲンには乳癌などの癌を増殖させる作用があるからです。なお、妊娠はエストロゲン値を上昇させるものの、乳癌のリスクは減少させるといわれています。
  • 長期にわたる経口避妊薬の使用やエストロゲン療法
    ほとんどの研究では、経口避妊薬の使用とその後の乳癌との間に関係があることは示されていませんが、長年にわたって経口避妊薬を使用していた女性ではリスクが上昇する可能性があります。閉経後、5〜10年間にわたってエストロゲン療法を受けていた場合もリスクがわずかに高くなる可能性があります。エストロゲンとプロゲスチンを併用したホルモン療法を受けていた場合には、子宮癌のリスクは減少しますが、乳癌のリスクは増大します。
  • 閉経後の肥満
    閉経後の女性で肥満があると、乳癌のリスクがやや高くなります。しかし、高脂肪食と乳癌の関係を示す証拠はありません。一部の研究では、閉経前の女性で肥満がある人はむしろ乳癌になりにくいとの結果が得られています。
  • 放射線
    30歳未満の人が、癌治療のための放射線療法やX線の大量照射などにより放射線を浴びると、乳癌のリスクが増大します。

病期診断

癌が診断されたら、その癌の病期(ステージ)を判定します。病期とは、病巣の大きさや体内での広がりから癌を分類し、進行の程度を示すものです。病期の診断は、適切な治療法を選択し、経過の見通し(予後)を予測する上で役立ちます。乳癌の病期は一般に、非浸潤癌(上皮内癌)、局所浸潤癌、領域浸潤癌、遠隔転移癌(転移癌)という名称または、数字でステージ0〜IVとして表現されます。

非浸潤癌(上皮内癌)は、局所にとどまっている癌という意味で、最も初期の癌に相当します。乳房内でかなり大きくなっていることもありますが、周囲の組織への浸潤や体内の他の部位への転移は起こしていません。非浸潤癌は米国で診断される乳癌の15%以上を占めています。通常はマンモグラフィ検査で発見されます。

局所浸潤癌は、周囲の組織に浸潤しているものの乳房内にとどまっている癌をいいます。

領域浸潤癌は、胸壁やリンパ節など乳房周囲の組織にも浸潤している癌をいいます。

遠隔転移癌(転移癌)は、乳房から体内の別の部位に転移した癌をいいます。乳癌は乳房内のリンパ管に入りこむ傾向があります。乳房のリンパ管はほとんどがわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)へ流れこみます。リンパ節には癌細胞などの異常な細胞をろ過して捕らえ、破壊する働きがあります。もし癌細胞がリンパ節を通過してしまえば、全身のどこにでも転移を起こすおそれがあります。また、乳癌が血流を通じて転移することもあります。乳癌は骨や脳に転移しやすい傾向がありますが、肺、肝臓、皮膚などにも転移します。乳癌が最初に診断されて治療を受けてから数年後、数十年後になって初めて、こうした部位に転移癌が見つかることもあります。ある部位に転移癌が発見された場合は、その時点では検出されなくても、おそらく他の部位にも転移が生じているとみられます。

分類

乳癌は、癌細胞が最初に発生した組織の種類と、病巣の広がりの範囲によって分類されます。乳管で発生した癌を乳管癌といい、乳癌のおよそ90%はこのタイプです。乳腺で発生した癌は小葉癌といいます。脂肪組織や結合組織から発生したものは肉腫といいますが、乳房の癌ではまれなタイプです。

非浸潤性乳管癌は乳管内に限局した癌です。この癌は乳房周囲の組織には浸潤していませんが、乳管に沿って広がり、乳房内でかなり大きくなることもあります。この癌は乳癌の20〜30%を占めています。

非浸潤性小葉癌は乳腺の内部で増殖します。両側の乳房の複数の部位に生じることもよくあります。非浸潤性小葉癌が見つかった女性の30%で、その後24年間に同じ側または反対側の乳房に浸潤癌が生じています。非浸潤性小葉癌は乳癌の1〜2%を占めています。

浸潤性乳管癌は乳管内で発生しますが、管壁を越えて周囲の乳腺組織に浸潤した癌です。乳房以外の部位にも転移することがあります。この癌は乳癌の65〜80%を占めています。

浸潤性小葉癌は乳腺内で発生して周囲の乳腺組織に浸潤し、さらに乳房以外の部位にも転移する癌です。他のタイプの乳癌に比べて、両側の乳房に発生することがよくあります。この癌は乳癌の10〜15%を占めています。

炎症性乳癌は増殖が速く、死亡率がきわめて高い癌です。炎症性乳癌では癌細胞が乳房の皮膚のリンパ管を閉塞させるため、乳房が炎症を起こしたように赤く腫れて熱をもちます。炎症性乳癌はわきの下のリンパ節に転移することが多く、リンパ節に触れると硬いしこりが感じられます。ただし、この癌は乳房全体に広がるため、乳房自体にはしこりを触知しないことが少なくありません。炎症性乳癌は乳癌全体のおよそ1%を占めています。

乳頭のパジェット病は、乳管癌の1種です。乳頭がただれてかさぶた状やうろこ状になる、乳頭から分泌物が出るといった症状がまず現れます。この癌ができた女性の半数以上で、乳房にしこりを触知します。パジェット病は上皮内にとどまっていることもあれば、浸潤癌の場合もあります。不快感をほとんど生じないので、症状に気づいてからもなかなか医師を受診せず、1年以上放置してしまう人もいます。経過は癌の大きさ、周囲組織への浸潤度、リンパ節転移の有無によって決まります。

さらに発生頻度が低い乳管由来の浸潤性癌として、髄様癌、管状癌、粘液癌(膠様癌[こうようがん])などがあります。粘液癌は高齢の女性で発症しやすく、ゆっくりと増殖します。これらの癌は一般に、他の浸潤癌よりも経過が良好です。

葉状嚢胞肉腫は比較的まれなタイプの乳癌で、乳管や乳腺の周囲の組織から発生します。この癌のうち、乳房以外の部位への転移が認められるのは5%未満です。

乳癌の病期

病期

解説

ステージ0 腫瘍が乳管または乳腺に限局し、周囲の乳腺組織への浸潤がない(上皮内癌、非浸潤癌)
ステージI 腫瘍の直径が2センチメートル未満で、乳房外への転移がない
ステージII 腫瘍の直径が2〜5センチメートルで、腫瘍と同側のわきの下(片側または両側)のリンパ節に転移がみられる
ステージIII 腫瘍の直径が5センチメートルを超えるもので、リンパ節への転移があり、周囲の組織への癒着やリンパ節内の癒着がみられるもの。あるいは、腫瘍の大きさにかかわらず皮膚、胸壁、乳房より下流の胸部リンパ節への転移がみられる
ステージIV 腫瘍の大きさにかかわらず、乳房から離れた肺や骨などの臓器や組織、あるいは乳房から離れた部位のリンパ節への転移がみられる

特徴

乳癌の細胞も含め、あらゆる細胞の表面には受容体と呼ばれる分子があります。受容体には特定の物質だけが結合できる構造をもった部分があり、ここに物質分子が結合することで細胞の活動に影響を及ぼします。乳癌細胞が特定の受容体をもつかどうかによって、転移のスピードや治療法が変わります。

乳癌細胞の中にはエストロゲンに対する受容体をもつものがあります。エストロゲン受容体陽性の乳癌は、エストロゲンによって刺激されます。このタイプの癌は若い女性よりも閉経後の女性に多くみられます。また、プロゲステロンに対する受容体をもつ癌細胞もあります。プロゲステロン受容体陽性の乳癌は、プロゲステロンによって刺激されます。エストロゲン受容体が陽性の乳癌は、陰性の乳癌よりも増殖が遅く、経過も良好です。プロゲステロン受容体が陽性の乳癌と陰性の乳癌の場合も同様の違いがみられます。さらに、エストロゲンとプロゲステロンの両方の受容体をもつ癌細胞は、どちらか一方の受容体しかもたない癌よりも経過が良好です。

細胞にはHER-2/neu受容体といって、増殖を助ける受容体があります。この受容体の数が多すぎると乳癌細胞の増殖が非常に早くなる傾向があります。HER-2/neu受容体過剰の乳癌は、乳癌全体のおよそ20〜30%を占めています。

症状

乳癌の初期には症状がありません。しこりは最も気づきやすい初期症状で、多くの場合、触れた感じが周囲の乳腺組織と明らかに異なっています。乳癌患者の80%以上が自己検診でしこりを発見しています。しこりのようなものが散在している場合、特に乳房の外側上部にある場合は、癌ではなく乳腺症の可能性が高いと考えられます。一方の乳房だけが硬く厚くなっている場合は癌の可能性があります。

早期癌では、しこりを指で押すと皮膚の下で自由に動くことがありますが、進行するとしこりは胸壁や皮膚に癒着します。癒着を起こしたしこりはまったく動かなくなったり、皮膚と一緒に動くようになります。鏡の前に立って腕を頭の上へ上げると、胸壁や皮膚にわずかに癒着した癌も見つかりやすくなります。癌がある側の乳房では皮膚にしわが寄ったり、形が反対側の乳房と比べて異常になっていることがあります。進行癌では皮膚表面にしこりが突出したり、化膿したようなただれができることがあります。しこりの上の皮膚は毛穴がへこんで革のようになり、ミカンの皮のような状態(橙皮状)になることもあります。

しこりは痛みを伴うことがありますが、痛みは癌の診断の手がかりとしてはあまりあてになりません。痛みだけでしこりがない場合には、癌であることはめったにありません。

わきの下(特に乳癌がある側)のリンパ節が硬く小さなしこりとして触れることがあります。リンパ節が皮膚や胸壁に癒着したり、複数のリンパ節が癒着して1つになっていることもあります。リンパ節自体は痛みませんが、軽い圧痛がみられることはあります。

炎症性乳癌では、乳房が赤く腫れて熱をもち、まるで感染を起こしたような状態になりますが、これらの症状は感染によるものではありません。皮膚は毛穴がへこんで革のようになり、ミカンの皮のような状態になったり、すじ状の隆起が生じることがあります。乳頭が陥没することもあります。乳頭からの分泌物もよくみられる症状です。多くの場合、乳房にしこりは認められません。

スクリーニング検査

乳癌は早期に治療すれば治癒する可能性が高くなりますが、初期には自覚症状がまったくないことが多いため、スクリーニング検査が重要です。スクリーニングとは、症状が現れる前に病気を探し出すことです。

乳癌の自己検診の方法

(1)鏡の前に立ち、乳房を観察します。左右の乳房の大きさがわずかに違うのは正常です。大きさの差に変化はないか、乳頭(乳首)が奥にめりこむ(陥没乳頭)などの変化がないか、分泌物が出ていないかを調べます。しわやへこみがないかも調べます。

(2)鏡に映った乳房をよく見ながら、両手を上げて頭の後ろで手を組み合わせ、後頭部に押しつけます。この姿勢を取ることによって、癌による微妙な変化が見つけやすくなります。乳房の形と輪郭に変化がないか、特に乳房の下側をよく観察します。

(3)手を腰にしっかりと置き、わずかに前かがみになり、肩とひじを前の方に押し出します。その姿勢でもう1回、乳房の形と輪郭に変化がないか観察します。

以下の項目は、手を乳房の上でスムーズに動かせるようにシャワーを浴びながら行うとよいでしょう。

(4)左腕を上げます。右手の指をそろえ、指の腹で左の乳房をくまなく調べます。乳房の外側から徐々に乳頭の方に向かって円を描くように触れていきます。皮膚の下のしこりや腫瘍を見落とさないように、優しく、しっかりとなでるように探ります。必ず乳房全体を調べるようにします。わきの下や、乳房とわきの下の間にもしこりがないか注意深く調べます。

(5)左の乳頭を軽くつまみ、分泌物が出ていないか調べます。自己検診のときに限らず、分泌物がみられた場合は月経中かどうかにかかわらず医師の診察を受けるようにします。

続いて右の乳房についても同様に、右腕を上げて左手を使って(4)と(5)を行います。

(6)あお向けに寝て、枕か畳んだタオルを左肩の下に入れ、左腕を上げます。この姿勢を取ることにより、乳房が平らになって調べやすくなります。(4)と(5)の要領で左の乳房を調べます。同様に右の乳房も調べます。

この方法を毎月同じ時期に行います。閉経前の女性では、月経が終わってから2〜3日後がよいでしょう。この時期ならば、乳房に痛みや張りを感じることが少ないからです。閉経後の女性は毎月1日などの覚えやすい日を選ぶとよいでしょう。米国立癌研究所(NCI)の刊行物より転載。

米国立癌研究所(NCI)の刊行物より転載。

自己検診を定期的に実施すれば、しこりを早期に発見できます。ただし、自己検診には乳癌による死亡率を下げるほどの効果はなく、マンモグラフィ検査による定期的なスクリーニングのように多数の早期癌を発見できるわけでもありません。しかし、自己検診で発見された腫瘍は一般に経過が良く、全乳房切除術ではなく乳房温存術で治療できる可能性が高くなります。

乳房の診察は、女性の診察の一部として行われます。医師は乳房が不規則な形をしていないか、皮膚のへこみや引きつりがないか、しこりや分泌物がみられないかを観察します。次に、平らに広げた手のひらで左右の乳房を触診し、さらにほとんどの乳癌が最初に浸潤するわきの下のリンパ節や、鎖骨の上のリンパ節が大きくなっていないか調べます。正常なリンパ節は皮膚の上から触知できることはないため、この方法で触知できるリンパ節は腫大していると判断されます。ただし、リンパ節腫大は癌以外の良性疾患でもみられることがあります。リンパ節が触知された場合は、それらのリンパ節が皮膚や胸壁に癒着していたり、複数のリンパ節が癒着して1つになっていないかを確認します。

マンモグラフィ検査は、低線量のX線を使用して乳房の病変を検出する検査法で、乳癌の早期発見に最も適した方法の1つです(マンモグラフィによる乳癌のスクリーニング検査を参照)。マンモグラフィ検査は乳癌の可能性がある初期病変を十分検出できるように設計された高感度の検査法です。このため、実際には癌がないのに陽性という結果が出ることもあります(偽陽性)。マンモグラフィ検査の結果が陽性であった場合には、確認のためさらに詳しい検査(通常は乳房生検)が行われます。マンモグラフィ検査で乳癌が見落とされる確率は最大15%といわれています。

50歳以上の女性では、1〜2年に1回マンモグラフィ検査を受けることで、乳癌で死亡する確率を25〜35%下げられます。50歳未満の女性では今のところ、定期的なマンモグラフィ検査で死亡率が下がるかどうかは実証されていません。これは、若い女性では乳癌が少ないために、そのような証拠を得るのが難しいことが一因になっているとも考えられます。多くの専門医は、40〜49歳の女性はマンモグラフィ検査を1〜2年に1回受けるように勧めています。また、50歳以上の女性は1年に1回マンモグラフィ検査を受けるように、すべての専門医が勧めています。

診断

診察やスクリーニング検査で乳房にしこりなどの異常が見つかった場合は、さらに検査を行う必要があります。マンモグラフィ検査以外の方法で異常が見つかった場合には、まずマンモグラフィ検査を行います。

液体で満たされた嚢胞と充実性のしこりを判別するため、超音波検査を行うこともあります。嚢胞であれば良性のことが多いので、両者の判別は重要です。嚢胞の場合は特に治療せずに経過観察するか、あるいは中にたまった液体を細い針のついた注射器で吸引します。まれですが、癌が疑われる場合には嚢胞を切除します。充実性のしこりの場合は嚢胞よりも癌の可能性が高いため、生検を行います。吸引生検といって、注射器を使ってしこりから細胞を吸引する方法がよく行われます。この方法で癌細胞が見つかれば診断は確定します。癌細胞が見つからない場合は、さらに組織の一部を切除する方法(切開生検)や、しこり全体を摘出する方法(切除生検)で、癌を見落としていないか確認する必要があります。これらは局所麻酔で実施可能な処置で、通常は入院の必要はありません。

乳頭のパジェット病が疑われる場合は、乳頭組織の生検を行います。この癌は、乳頭からの分泌物を顕微鏡で観察することによって診断がつくこともあります。

生検では、採取した組織を顕微鏡で観察して癌細胞の有無を確認します。マンモグラフィ検査で異常が見つかった人のおよそ4人に1人は生検によって癌と確定されます。癌細胞が検出された場合はサンプルをさらに分析し、癌細胞の特性、たとえばエストロゲンあるいはプロゲステロン受容体の有無、HER-2/neu受容体の数、癌細胞の増殖速度などを調べます。これらの情報は癌が転移する速度を予測し、より有効な治療法を選ぶのに役立ちます。

癌が転移しているかどうかを診断するため、胸部X線検査と肝機能を調べる血液検査を行います。腫瘍が大きい場合、あるいはリンパ節が腫れている場合は、全身の骨のX線撮影(骨スキャン)を実施することもあります。

治療

治療は、患者の病状が十分に確認された段階で開始されます。生検から治療開始までには通常、1週間かそれ以上かかることもあります。治療の方法は乳癌の病期と種類によって異なります。癌の種類によって増殖の速さ、転移しやすさ、治療への反応が大きく異なるため、治療方法は複雑です。さらに、乳癌という病気には未解明の部分も多いため、ある患者への最適な治療法について医師の間でも意見が分かれることがあります。

患者と主治医の考え方も、治療上の意思決定を左右します。患者は、乳癌に関してどんな事実が判明しているか、未解明のことは何か、また選択可能な治療法としてどのような方法があるかを、はっきりとわかりやすく説明してもらうべきです。正しい理解があって初めて、さまざまな治療法の利点と欠点を考慮したり、勧められた治療法を受け入れる、あるいは断ることができるようになります。乳房の一部あるいは全体を失う治療は、心に傷を残すこともあります。こうした治療は心身の健康にかかわる感情や性についての考え方に大きく影響する可能性があり、治療を受けようとしている女性はあらかじめ、自分自身がその治療に対してどのような気持ちを抱いているかをよく考える必要があります。

乳癌の女性はときに、生存率や生活の質を改善する可能性がある新しい治療法の研究への参加を求められることもあります。新しい治療法と従来の有効な治療法とを比較するため、研究に参加した人は全員いずれかの治療を受けることになります。研究への参加にはどのようなリスクが伴い、どのような有益性が期待できるのか、主治医によく説明を聞き、十分に情報を得た上で参加するかどうかを決定すべきです。

乳癌の治療は手術が中心になります。放射線療法や化学療法、抗ホルモン薬による治療などが行われることもあります。多くの場合、これらの方法を組み合わせて治療が行われます。

乳癌の手術

乳癌の手術

乳癌の手術には、乳房温存術と乳房切除術という2つの主な選択肢があります。乳房温存術では、腫瘍とその周辺の組織だけを切除します。乳房切除術では、乳房の組織全体を切除します。乳房温存術には、周辺組織を小さく切除する腫瘍摘出術、周辺組織をやや大きく切除する乳房円状部分切除術(乳房部分切除術)、乳房の4分の1を切除する乳房扇状部分切除術(四分円切除術)があります。

手術: 腫瘍と周辺組織を切除します。周辺組織の切除範囲はさまざまですが、乳房温存術と乳房切除術の2種類に大きく分けられます。

乳房温存術では、乳房のできるだけ多くの部分を傷つけずに残します。乳房温存術にはいくつかのタイプがあります。

  • 腫瘍摘出術―腫瘍とともに周辺の正常組織を少量切除する方法。
  • 乳房円状部分切除術(乳房部分切除術)―腫瘍とともに周辺の正常組織を大きめに切除する方法。
  • 乳房扇状部分切除術(四分円切除術)―乳房の約4分の1を扇状に切除する方法。

腫瘍とともに周辺の正常組織をいくらか切除することで、その乳房内での癌の再発を防止できる可能性は大幅に高まります。乳房温存術は通常、放射線療法と組み合わせて行われます。

乳房温存術の最大の利点は、術後も乳房の外観が保たれるため、体のイメージを大きく損なわずにすむことです。しかし、乳房に対して腫瘍が大きい場合には乳房温存術での治療は難しくなります。腫瘍が大きいと、腫瘍と周辺の正常組織を切除するだけでも、結局は乳房の大部分を切除することになってしまうからです。乳房温存術は腫瘍が小さい場合に適しています。乳房温存術を受ける女性の約15%では周辺組織の切除範囲が少なくてすむため、治療していない乳房と比べても形や大きさにほとんど違いが生じません。しかし、ほとんどの女性では治療した乳房が幾分縮むため、形が変わる可能性があります。

乳房切除術にもいくつかのタイプがあります。

  • 単純乳房切除術―乳腺組織をすべて切除し、乳房の下の筋肉と、傷を覆えるだけの皮膚は残す方法。これらの組織を残すことで乳房の再建がはるかに容易になる。乳管内にある程度の量の癌がある場合は、乳房温存術ではなく単純乳房切除術が行われる。
  • 非定型乳房切除術(胸筋温存乳房切除術)―乳腺組織全体とわきの下のリンパ節の一部を切除し、乳房の下の筋肉は残す方法。定型乳房切除術の代わりに行われるようになってきている。
  • 定型乳房切除術(ハルステッド法)―乳腺組織、わきの下のリンパ節、乳房の下の筋肉をすべて切除する方法。現在ではほとんど行われない。

リンパ節切除術(リンパ節郭清)は、浸潤癌の場合やその疑いがある場合に、乳房の手術と併せて行われます。乳房の近くのリンパ節を通常10〜20個ほど切除し、転移の有無を調べます。癌細胞が検出された場合は、癌が他の部位にまで転移している可能性が高いとみられ、他の治療も必要になります。リンパ節を切除すると組織内の水分が排出されにくくなり、腕や手に水分がたまって慢性的なむくみを生じることがあります(リンパ浮腫)。腕や肩の動きが制限されることもあります。また、一時的あるいは慢性的なしびれ、慢性的な灼熱感、感染症などがみられることもあります。

センチネルリンパ節とは?

センチネルリンパ節とは?

乳腺組織からのリンパ液は、リンパ管とリンパ節のネットワークを通じて排出されます。リンパ節はリンパ液に含まれている異物や異常細胞(細菌や癌細胞など)を捕らえる働きをしています。しかし、ときに癌細胞がリンパ節を通り抜け、リンパ管を通じて体内の他の部位に転移することがあります。乳腺組織からのリンパ液はまず、近くにある1個(ときには複数)のリンパ節にたどり着きます。これらのリンパ節を、センチネルリンパ節といいます。

センチネルリンパ節は、乳腺細胞の周囲のリンパ管に青い色素か放射性物質を注入することによって確認できます。色素が最初のリンパ節に入ると目で直接確認できます。放射性物質の場合はガイガーカウンターという検出器で調べます。センチネルリンパ節が確認されたら切除し、癌細胞がないか検査します。癌細胞が検出された場合は、近くのリンパ節を切除します。癌細胞が検出されなかった場合は、それ以上リンパ節を切除することはありません。センチネルリンパ節から癌細胞が検出されなかった場合でも、他のリンパ節に転移が起こっているケースが約2〜3%あります。

センチネルリンパ節生検は、リンパ節切除による影響を最小限にとどめるための新しい方法です。「センチネル」は歩哨や見張りという意味で、センチネルリンパ節とは腫瘍からのリンパ液が最初に流れこむリンパ節のことです。この方法ではまず、センチネルリンパ節を見つけ出して摘出します。ここから癌細胞が検出された場合は他のリンパ節も切除し、癌細胞が検出されない場合はそれ以上のリンパ節切除は行いません。この方法に従来のリンパ節切除術と同等の効果があるかどうかは現在研究中です。

乳房再建術は乳房切除術と同時に行われることも、後から行われることもあります。乳房を再建するには、シリコンまたは生理食塩水の入った乳房インプラント(埋めこみ用の人工乳房)や、患者の体の別の部位から採取した組織が使用されます。シリコン製インプラントは内容物が漏れ出すこともあり、安全性を疑問視する声がありますが、シリコンの漏出が健康に重大な影響を及ぼすという証拠はほとんどありません。

乳房の再建

外科医が乳癌と乳腺組織の切除(乳房切除術)を終えた後に、形成外科医が乳房を再建することがあります。乳房の中に、シリコンか生理食塩水の入った乳房インプラントを埋めこむ場合もあります。あるいは、より複雑な手術になりますが、体の別の部分(腹部など)から組織を移植することもあります。乳房の再建は乳房切除術と同時に行うことも、後になってから行うこともあります。同時に行う場合は麻酔時間が長くなり、後から行う場合は麻酔を再びかけることになります。

一般に、放射線療法で治療した乳房よりも再建した乳房の方が見た目には自然で、腫瘍が大きい場合は特にその傾向があります。シリコンや生理食塩水の入ったインプラントを使用し、残された皮膚で表面を十分に覆える場合は、インプラント上の皮膚の感覚は比較的正常に保たれます。ただし、どちらのインプラントも触れたときの触感は正常な乳房のようにはいきません。体の他の部分から組織を移植する場合は、皮膚も一緒に移植することになります。このため皮膚の感覚はほとんどなくなりますが、触れたときの触感は正常な乳房により近くなります。

シリコンのインプラントではときに、中身のシリコンが漏れ出すことがあります。その結果、インプラントが硬くなって不快感を生じたり、外観が損なわれることがあります。また、シリコンが血流に入ることもあります。漏れ出したシリコンによって体の他の部位に癌が発生したり、全身性エリテマトーデスなどのまれな病気にかかるのではないかと心配する人もいます。シリコンの漏出がこのような重大な影響を及ぼすことを示す証拠はほとんどありませんが、その可能性を完全に否定することもできないため、シリコン製インプラントの使用は減る傾向にあり、特に乳癌にかかっていない女性が美容整形のために使うことは少なくなってきています。

放射線療法: 腫瘍の切除部位に残っている癌細胞や、近接のリンパ節など周辺組織の癌細胞を殺す目的で行われます。乳房の腫れ、照射部位の皮膚の発赤や水疱(すいほう)、疲労感などの副作用がありますが、これらの副作用は数カ月から1年以内に解消します。治療を受けた女性の5%未満に、肋骨(ろっこつ)の骨折とそれに伴う軽い不快感が生じます。また約1%の人は、照射を終えて6〜18カ月たってから軽度の肺炎を起こします。肺の炎症に伴い空せきや運動時の息切れがみられ、この症状は6週間ほど続きます。

放射線療法を改善するために、いくつかの実験的な方法が研究されています。1つはカテーテルを使って腫瘍の部位に放射性物質でできた小さな線源を挿入する方法で、わずか5日間で治療が完了します。腫瘍を切除した後、腫瘍のあった場所に放射線を発する小さなコイル状の線源を埋めこむ方法もあり、25分間で治療が完了します。

薬物療法: 化学療法と抗ホルモン薬による治療があり、いずれも全身で癌細胞の増殖を抑えるために行います。化学療法は、リンパ節から癌細胞が検出された場合に手術と放射線療法に加えて行われます。リンパ節から癌細胞が検出されなかった場合に行われることもよくあります。場合によっては抗ホルモン薬による治療も同時に行われます。これらの薬物療法は手術の直後から開始し、数カ月間継続します。タモキシフェンなど一部の薬は最長5年間継続します。薬物療法はほとんどの患者で癌の再発を遅らせる効果があり、生存期間を延長させます。

化学療法は、癌細胞のように急速に増殖している細胞を殺したり、増殖を遅らせるために行われます。化学療法だけでは乳癌を完治させることはできず、手術や放射線療法と組み合わせる必要があります。化学療法薬は通常は静脈投与で、投与サイクルを何回か繰り返す形で使用されます。経口投与の場合もあります。1日投与したら数週間の回復期間をおくといった方法が一般的です。化学療法薬は単独で使用するよりも数種類を併用した方が効果的です。どの薬を使用するかは、近くのリンパ節から癌細胞が検出されたかどうかによってある程度決まります。よく使われる薬には、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセルなどがあります(主な化学療法薬を参照)。副作用(吐き気や嘔吐、脱毛、疲労など)は使用する薬によって異なります。また、化学療法薬は卵巣内にある卵細胞を破壊するため、不妊や早期閉経の原因となります。

抗ホルモン薬は、エストロゲンあるいはプロゲステロンの作用を阻害することにより、これらのホルモンに対する受容体をもつ癌細胞の増殖を抑えます。癌細胞にこれらの受容体がある場合に、抗ホルモン薬が使われます。タモキシフェンの内服薬は、最もよく使われる抗エストロゲン薬です。エストロゲン受容体陽性の癌がある人にタモキシフェンを使用すると、診断から10年後の生存率が約20〜25%上昇します。タモキシフェンはエストロゲンに似た化合物であるため、閉経後に行うエストロゲン療法と同様の有益性とリスクが一部みられます(閉経と更年期: ホルモン療法を参照)。たとえばこの薬は、骨粗しょう症の発症リスクを低下させ、子宮体癌(子宮内膜癌)の発症リスクを上昇させる可能性があります。ただしエストロゲン療法とは異なり、タモキシフェンは閉経に伴う腟(ちつ)の乾燥やほてりを悪化させることがあります。

生体応答修飾物質は、免疫系の一部を構成する生体物質をわずかに改変したもの、あるいは生体物質そのもので、癌と闘うための免疫力を増強します。たとえばインターフェロン、インターロイキン‐2、リンホカイン活性化キラー細胞、腫瘍壊死因子(しゅようえしいんし)、モノクローナル抗体などがあります。モノクローナル抗体のトラスツズマブは、癌細胞に過剰な数のHER-2/neu受容体がみられる場合にのみ、転移性乳癌に対して使用されます。この薬はHER-2/neu受容体に結合し、癌細胞の増殖が促進されるのを防ぎます。ハーセプチン(トラスツズマブの商品名)は心筋を弱め、心臓に問題を起こすことがあります。このほかの生体応答修飾物質が乳癌の治療に実験的に使用されることもありますが(癌の予防と治療: 免疫療法を参照)、その効果はまだ実証されていません。

腫瘍焼灼法: 腫瘍焼灼(しゅようしょうしゃく)法はまだ実験的な手法で、先端がいくつかに分かれたプローブを腫瘍の中に挿入し、焦点をごく小さく絞ったレーザー光、高エネルギーのラジオ波、冷却などによって癌細胞のみを破壊するものです。

リンパ節転移と生存率

癌転移がみられるリンパ節の数

5年生存率

10年生存率

再発なしの10年生存率

0 約90%以上 約80%以上 約70%以上
1〜3個 約60〜70% 約40〜50% 約25〜40%
4個以上 約40〜50% 約25〜40% 約15〜35%

非浸潤癌(ステージ0)の治療

非浸潤性乳管癌の場合は、単純乳房切除術あるいは腫瘤切除術を行います。放射線療法を追加する場合もあります。

非浸潤性小葉癌では、はっきり決まった治療法はありません。多くの場合は治療せずに経過を観察します。経過観察では、診察を最初の5年間は半年から1年に1回、以後は年1回行い、併せてマンモグラフィ検査を年1回行います。普通は治療の必要はありません。浸潤性の乳癌が発生する可能性はありますが(1年あたり1.3%、20年間で26%)、発生しても増殖速度が遅く、多くの場合は効果的に治療できます。また、非浸潤性小葉癌の場合、浸潤性乳癌が反対側の乳房に生じる可能性も同程度にあり、そのリスクを排除するには左右の乳房を両方とも切除するしか方法がありません。浸潤性乳癌の発症リスクが特に高い女性では、この治療法を選ぶこともあります。

乳房切除術の代わりに、抗ホルモン薬のタモキシフェンによる薬物療法を5年間行うこともありますが、浸潤性乳癌の発症リスクを完全になくすことはできません。

局所浸潤癌と領域浸潤癌(ステージI〜III)の治療

癌の広がりが近くのリンパ節を越えていない癌の場合は、腫瘍をできるだけ大きく切除し、近くのリンパ節あるいはセンチネルリンパ節も切除します。

乳管内に広範囲に広がっている浸潤癌(浸潤性乳管癌)の場合は、乳房温存術では再発することが多いため、単純乳房切除術を行います。非定型乳房切除術を行う場合もあります。乳房の下の胸筋なども切除する定型乳房切除術によって生存期間がさらに延長することはなく、単純乳房切除術や非定型乳房切除術を受けた場合の生存期間は定型乳房切除術を受けた場合と変わりません。

手術後に放射線療法、化学療法、あるいはその両方を行うかどうかは、腫瘍の大きさと、癌細胞が検出されたリンパ節の数によります。また、腫瘍が大きい場合には、腫瘍を小さくする目的で手術の前に化学療法を行うこともあります。化学療法によって腫瘍が小さくなれば、乳房切除術でなく乳房温存術を実施できる場合もあります。通常は、手術と放射線療法の後、さらに化学療法を行います。エストロゲン受容体陽性癌の場合はタモキシフェンが投与されます。

転移癌(ステージIV)の治療

リンパ節以外の部位に転移がみられる乳癌では、完治はまず望めません。それでもほとんどの人が2年以上生きることができ、中には10〜20年生きる人もいます。治療による延命効果はわずかですが、症状を軽減し生活の質を改善することはできます。

初回治療では、転移した癌までは切除できませんが、まず手術を行って乳房の原発腫瘍を切除します。初回治療後に乳房に癌が再発した場合には、普通は手術は行わずに放射線療法で治療します。しかし、体の別の部位(脳など)にできた腫瘍について、症状を軽減する目的で手術を行うことはあります。

化学療法など他の治療法は、特に不快な副作用があるものについては、痛みなどのつらい症状が発現するか、癌が急速に悪化しはじめるまでは実施を控えます。痛みには鎮痛薬で対処します。痛み以外の症状を軽減するため他の薬も使用することがあります。化学療法薬や抗ホルモン薬は、延命よりはむしろ、症状を軽減し生活の質を改善することを目的に使われます。すでに転移している乳癌に特に有効な化学療法薬は、カペシタビン、シクロホスファミド、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ビノレルビンなどです。

中には、抗ホルモン薬による治療の方が化学療法よりも適している場合があります。たとえば、エストロゲン受容体陽性癌の場合、診断後あるいは初回治療後2年以上再発していない場合、さしあたり命にかかわる危険性がない癌の場合などには抗ホルモン薬が適していることがあります。抗ホルモン薬は、閉経前でエストロゲン分泌量が多い40代の女性と、閉経してから5年以上たっている女性に特に有効ですが、この指針は絶対的なものではありません。通常、閉経前の女性に抗ホルモン薬を投与する場合は、副作用が少ないタモキシフェンをまず使用します。閉経後の女性でエストロゲン受容体陽性乳癌の場合は、タモキシフェンよりもむしろ、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール、エクセメスタンなど)の方が初回治療として有効とみられています。これらの薬はアロマターゼ(一部のホルモンをエストロゲンに転換させる酵素)の作用を阻害するため、エストロゲンの産生量を減らす効果があるとみられています。プロゲスチン(メドロキシプロゲステロン、メゲストロールなど)はアロマターゼ阻害薬やタモキシフェンと同様に副作用の少ない薬で、これらの代わりに使用されることもあります。タモキシフェンで効果が得られなくなった場合には、新薬のフルベストラントが使われることもあります。この薬は癌細胞のエストロゲン受容体を破壊します。主な副作用は胃の不快感です。あるいは閉経前の女性では、卵巣の摘出手術を行ったり、卵巣を破壊する放射線療法や、卵巣の機能を阻害する薬物療法を行うことで、エストロゲンの分泌を止めることもあります。

全身に転移した乳癌の初回治療には、モノクローナル抗体のトラスツズマブを、パクリタキセルと併用することがあります。エストロゲン受容体陽性乳癌の治療に、トラスツズマブと抗ホルモン薬を併用することもあります。トラスツズマブは、化学療法で効果が得られない場合にも使用されることがあります。

場合によっては、薬物療法の代わりに、あるいは薬物療法の前に放射線療法を行うことがあります。たとえば、骨の1カ所だけに癌が見つかり、それ以外に再発の症候がみられない場合には、その部位への放射線照射だけを行う場合があります。放射線療法は骨に転移した癌に最も有効な治療法で、増殖を数年間にわたって抑制できることもあります。脳に転移した癌に対しても、ほとんどの場合、放射線療法が最も有効な治療法です。

特殊なタイプの乳癌の治療

炎症性乳癌の治療では通常、化学療法と放射線療法を併用し、乳房切除術を行います。

乳頭のパジェット病の場合には通常は、単純乳房切除術とリンパ節切除術を行います。これよりまれですが、乳頭を周囲の正常組織とともに切除することもあります。

葉状嚢胞肉腫の場合には、腫瘍とその周囲の組織を大きく切除する乳房円状部分切除術が行われます。腫瘍が大きく乳房の大部分を占める場合は、単純乳房切除術を行うこともあります。この癌の20〜35%で、切除後に同じ部位への再発がみられます。

治療後の経過観察

治療の完了後は定期的に医療機関を受診し、乳房、胸部、首、わきの下などの診察を受けます。癌が最初に診断されてから2年間は3カ月ごとに受診し、その後5年間は6カ月ごとに行います。定期的なマンモグラフィ検査と自己検診も重要です。乳房に異常がみられる場合はただちに医師に相談します。痛み、食欲不振、体重減少、月経の異常、不正出血、視力障害などの症状がみられる場合も医師に相談すべきです。これ以外にも、異常と思われる症状や長く続く症状があれば、すべて医師に報告します。胸部X線検査、血液検査、骨スキャン、CT検査といった診断のために行う検査は、癌の再発を疑わせる症状がみられない限り行う必要はありません。

乳癌の治療はその後の生活にさまざまな影響を及ぼすことがあります。家族や友人、支援団体による援助が支えとなります。カウンセリングも役に立つことがあります。

死を迎えるとき

転移性乳癌の女性にとっては、生活の質が損なわれたり、それ以上治療を行うことが難しくなってくる場合があります。最終的には、生存期間を引き延ばそうとするよりも、安楽に過ごすことの方が重要になることもあります。癌の痛みは適切な薬の使用で十分にコントロールできます(死と終末期: 痛みを参照)。痛みがある場合は、治療で和らげることを主治医に求めるべきです。心理カウンセリングや、心の平安を得るためのカウンセリングなども利用するとよいでしょう。

転移性乳癌のある人は、やがて病気が進んで医療に関する意思決定や意思の伝達ができなくなった場合に備えて、自分自身がどのような治療やケアを望むかをまとめた事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)をあらかじめ用意しておくようにします(法的問題と倫理的問題: 事前指示書を参照)。また、遺書を作成したり、書き直しておくことも重要です。

個人情報の取扱いご利用条件