メルクマニュアル家庭版
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レイプ

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レイプ(強姦)とは一般に、被害者の腟(ちつ)や肛門、口の中に、被害者が望まないのにペニスを挿入された場合をいいます。ただし被害者が承諾年齢に達していない場合には、このような行為は同意の有無にかかわらずレイプ(法定強姦)とみなされます。性的虐待はこれより広い意味で使われ、腕力や脅しにより性的接触を強制された場合なども含みます。生涯の間にレイプされたことがある女性の割合として報告されている数字には、2%から30%近くまで大きなばらつきがあります。性的虐待を受けた子供の割合として報告されている数字も、これと同程度の高さです(児童虐待とネグレクト: 性的虐待を参照)。レイプや性的虐待は他の犯罪と比較して警察に通報されにくい傾向にあるため、実際の発生率はこれより多いと考えられます。

男性もレイプの被害者になることがあります。男性のレイプ被害者も女性と同様に、負傷したり、深刻な精神的影響を受けることがあります。

症状

レイプによる身体的な外傷としては、腟上部の裂傷のほか、打撲傷、眼の回りのあざ、切り傷、ひっかき傷など体の他の部分にもけがをしている場合があります。

精神的影響は多くの場合、身体的影響よりもさらに深刻です。レイプされた直後の時期には、ほぼすべての女性が心的外傷後ストレス障害(PTSD:大きなストレスとなる出来事の後に生じる障害)(不安障害: 心的外傷後ストレス障害を参照)の症状を経験します。恐れ、不安、刺激に対する過敏性などがみられます。怒り、抑うつ、罪悪感(レイプを招くようなことをしたのだろうか、あるいは避けるための手段がなかっただろうかと考える)などを感じることもあります。受けた虐待についての考えやイメージが繰り返し浮かんできてつらい思いをしたり、レイプを再体験することもあります。あるいはレイプについての考えや感情を抑圧し、レイプを思い出すような状況を避けることもあります。睡眠障害や悪夢もよくみられます。これらの症状が何カ月も続いて社会生活や仕事に影響することもあります。しかし、ほとんどの女性では、数カ月以上たつと症状がかなり薄れていきます。

ときに友人や家族、警察の職員などの反応が被害者に対して否定的、批判的であったり、さげすむような態度を取ることがあり、そうした場合、被害者は自己の感情に加えてこうした人々の反応にも対処しなければならなくなります。こうした周囲の反応があると被害者の回復は遅れます。

レイプを受けた人は、性感染症(淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒など)やB型肝炎、C型肝炎などの感染リスクがあります。またヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、1回の性的接触で感染する可能性は高くないものの、特に心配される感染症です。まれに妊娠することもあります。

診断

レイプを受けたら医師の診察を受け、医学的見地から心身の状態を十分にチェックしてもらうことが大切です。レイプや性的虐待を受けた女性は、可能であれば、性的虐待を専門とする診断治療部を受診するようにします。これは救急部とは別に設置されている部門で、専門のトレーニングを受けた支援スタッフが配置されています。

医師は、レイプを受けた人が受診した場合は警察に通報し、被害者を診察することが米国の法律では義務づけられています。この診察によりレイプした加害者の起訴に必要な証拠が得られるため、治療を開始する前に診察が必要になります。有力な証拠を得るには、シャワーや着替えをせず、できれば排尿もしない状態でなるべく早く医療機関を受診します。この診察で作成されたカルテなどの診療記録は、法廷で証拠として認められることがあります。ただし診療記録は、被害者が書面で同意するか、提出を求める令状が発行されない限り公表されることはありません。診療記録は、後に被害者の証言が必要になったときにレイプの詳細を思い出す手がかりにもなります。

レイプの直後には、診察を受けるのに不安を覚えることもあります。可能ならば、女性医師が診察を担当します。それができない場合は、女性の看護師かボランティアが女性の不安を鎮めるために立ち会います。医師は診察を始める前に被害者に診察を開始することの承諾を得ます。一般に、診察に同意することが被害者自身にとって最良の選択ではありますが、同意しなければならないというプレッシャーを感じる必要はありません。診察でどのようなことが行われるのか医師から事前に説明を受けておくことも、心の準備をする上で役立ちます。

医師は診察と治療のため、女性に経験した出来事を話すよう求めます。しかし被害者が、レイプについて話すのが怖いと感じることもよくあります。詳しい話は、緊急の処置を受けてからにしたいと申し出ることもできます。まずは、けがの治療を受け、清潔になり、気持ちを落ち着けることも必要です。希望すれば、入浴施設も利用できます。

妊娠の可能性を判断するため、最終月経日と避妊しているかどうかが質問されます。精子が検出された場合の分析に備えて、レイプされる以前に行った直近の性交の有無やその時期などについても尋ねられます。

医師は切り傷やすり傷などの身体的外傷に注意して診察します。腟に外傷がないか検査することもあります。傷は写真に撮って記録します。打撲によるあざなどは後からはっきり現れるため、再度写真を撮ることもあります。証拠として精液などの体液のサンプルを綿棒で採取します。加害者の毛髪や体毛、血液、皮膚(ときに女性の爪の間から見つかる)のサンプルも収集されます。加害者を特定するためサンプルのDNA鑑定が行われることもあります。

女性の同意があれば、HIV感染を含めた感染症の有無を調べるため血液検査が行われます。最初の検査で淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒、肝炎が陰性だった場合、6週間以内に再検査を受けます。梅毒と肝炎については、陰性ならばさらに半年後にも検査を受けます。HIV感染の再検査は3カ月後と4カ月後に行われます。

通常は、妊娠検査(尿中のヒト絨毛性ゴナドトロピン値を測定する検査)(正常な妊娠: 妊娠の確認と出産予定日の算出を参照)を数日以内に行い、6週間後に再度行います。レイプのときにすでに妊娠していた可能性がある場合は、最初の診察時に尿検査をします。この検査ではごく初期の妊娠は検出されないため、最初の受診時点で妊娠が検出されれば、それはレイプによる妊娠ではなく、すでに成立していた妊娠であると考えることができます。

治療

身体的外傷のほとんどは容易に治療できます。重傷の場合は手術が必要になることもあります。感染を防ぐため抗生物質が投与されます。セフトリアキソンの筋肉注射を1回と、メトロニダゾールの内服を1回行い、ドキシサイクリンを7日間内服する方法が一般的です。HIV検査の結果が陽性であった場合はただちにHIV感染に対する治療を開始します(ヒト免疫不全ウイルス感染症: 治療を参照)。

妊娠が懸念される場合は緊急避妊を行います。高用量の経口避妊薬をただちに服用し、12時間後に再度服用します(家族計画: 緊急避妊を参照)。この処置は強姦後72時間以内に行えば99%の有効性があります。レイプの前に妊娠していた可能性がある場合は、妊娠の検査結果が陰性の場合のみ経口避妊薬を服用します。レイプにより妊娠した場合は人工妊娠中絶も検討します。

レイプを受けた女性に対しては、レイプに対して一般にみられる精神的反応(過度の不安や恐れ)について説明がなされます。また、レイプに関する危機介入のトレーニングを受けた人による面談がなるべく早い時期に行われます。レイプ被害者への医学的、精神的、法的支援を提供するレイプ被害者救援センターが地域にあれば、そこに紹介します。レイプやそれに対する気持ちを話すことは、回復の一助となります。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が長く残る場合は、心理療法または抗うつ薬が有効な場合があります(不安障害: 心的外傷後ストレス障害を参照)。必要に応じて心理学者、ソーシャルワーカー、精神科医を紹介してもらうこともできます。

家族や友人は、不安、怒り、罪悪感など被害者と同様の感情をもつことがあります。あるいは、被害者を不当に責めることもあります。家族や親しい友人が、レイプ被害者救援センターや、性的虐待に関する医療機関の専門スタッフと面談し、自身の気持ちや被害者を支援する方法について話し合うことも有用です。多くの場合、最も被害者の支えとなるのは、被害者の味方になって話を聞き、レイプについての強い感情を表さないことです。被害者を責めたり批判したりすることは、被害者の回復の妨げとなります。医療関係者、友人、家族による支援ネットワークが、被害者にとって大きな支えとなります。

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