メルクマニュアル家庭版
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陣痛と分娩

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陣痛とは、胎児を子宮から子宮口(子宮頸部[しきゅうけいぶ])、産道(腟[ちつ])を経て外界へと押し出すための、リズミカルで進行的な一連の子宮の収縮をいいます。

分娩の経過

第1期

陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10センチメートルまでの期間。

潜伏期

  • 陣痛(子宮の収縮)が徐々に強く、リズミカルになります。
  • 不快感はほとんどありません。
  • 子宮頸部が薄くなり、4センチメートルほど開きます。
  • この段階は初産婦では平均12時間、経産婦では5時間続きます。

活動期

  • 子宮口が4センチメートルから10センチメートルへと広がり全開大となります。
  • 胎児の一部、普通は頭が骨盤内に下りてきます。
  • 胎児が下降するにつれて、いきみたい感覚が生じてきます。
  • この段階は初産婦では平均3時間、経産婦では2時間続きます。

第2期

子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間。この段階は初産婦では平均45〜60分間、経産婦では15〜30分間続きます。

第3期

胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間。この段階は数分間で終わるのが普通ですが、最大30分ほど続くこともあります。

分娩は、陣痛の開始とともに始まります。分娩第1期から第3期までの3段階に分けられ、第1期にはさらに潜伏期と活動期があります。子宮の収縮によって子宮口が徐々に開き(子宮口の開大)、子宮頸部が引き上げられて薄く伸び、子宮の他の部分と一体になります(展退)。これらの変化によって、胎児が産道を通過できるようになります。第2期および第3期では、胎児と胎盤が母体の外に娩出されます。

陣痛は普通、出産予定日の前後2週間以内に始まります。陣痛が開始するきっかけが何であるかは、まだわかっていません。妊娠の末期(36週以降)になると、いつ分娩が始まるかを予測するために内診を行うこともあります。分娩にかかる時間は初産婦で平均15〜16時間、経産婦で平均6〜8時間です。前回の妊娠で分娩が急速に起きた人は、分娩が始まりそうだと思ったらすぐに医師にそう伝える必要があります。

分娩開始の主な徴候を知っておくことは大切です。通常は、周期的に起こる子宮の収縮(陣痛)と腰痛がまずみられます。ただし、これらの徴候に先立って、あるいは同時に、別の徴候がみられることもあります。少量の血液が粘液に混じって排出される産徴(いわゆる「しるし」)は、分娩開始が間近に迫っていることを示すもので、早い人では陣痛が始まる72時間前にみられることもあります。

陣痛が始まる前に羊膜(胎児と羊水を包む膜)が破れ、羊水が腟から流れ出すこともあります。これを「破水」といいます。破水がみられたら、ただちに医師か助産師に連絡します。予定日近くに破水した人の約80〜90%で、24時間以内に陣痛が始まります。予定日が近く、破水後24時間以上たっても陣痛が始まらない場合は入院し、感染症のリスクを下げるために陣痛を人工的に誘発します。破水した後は腟から細菌が入りやすくなり、母親や胎児が感染症にかかる可能性が高くなるからです。陣痛を誘発するには、子宮を収縮させるホルモンであるオキシトシンや、同様の作用をもつプロスタグランジンなどの薬が使用されます。胎児が未熟なうちに破水が起きた場合には、胎児が成熟するまで陣痛の誘発を控えます(出産の合併症: 前期破水を参照)。

陣痛は、開始当初は弱く不規則で間隔が長く、生理痛のように感じる人もいます。時間がたつにつれて、下腹部の収縮が強まり、長く続くようになり、間隔も短くなっていきます。陣痛の間隔が5分以下になり、子宮口が4センチメートル以上開いたら、病院や出産センターに入院します。入院後は、陣痛の強さ、持続時間、頻度が記録されます。また体重、血圧、心拍数、呼吸数、体温を測定し、尿検査と血液検査を行います。腹部を診察し、胎児の大きさ、胎児が前向きになっているか後ろ向きになっているか(胎向)、胎児は頭、顔、尻、肩のうちどこから先に下降しているのか(胎位)を調べます。

胎位と胎向は、胎児の産道の通過方法に影響します。最も多くみられ、安全なのは斜め後ろ向き、つまり母親の背中側を向き、頭を下にして、あごを引き、両手を胸の前で交差している姿勢です(胎向と胎位を参照)。頭が下になった胎位を頭位といいます。分娩前の1〜2週間になると、ほとんどの胎児は向きを変え、後頭部から生まれてくるような胎位を取ります。尻が下になっている場合(骨盤位)や肩が下になっている場合、あるいは胎児が前向きになっている場合は、母親と胎児の双方にとって、また医師にとっても困難な分娩となり、帝王切開が勧められます。

普通は内診を行って、破水の有無や、子宮口の開大と展退の程度を調べますが、出血がある場合や自然に破水した場合には内診を行わないこともあります。羊水の色にも注意が払われます。普通は透明でにおいはありません。破水して出てきた羊水が緑色をしている場合は、胎便(胎児の最初の便)が混じっていることを示しています。

入院したらすぐに、胎児用の聴診器で胎児の心音を直接確認したり、超音波を使って電子的に胎児の心拍数を測定する分娩監視装置を使って、胎児の心拍を確認します。

分娩の第1期には、母親と胎児の心拍数を定期的または継続的に測定します。聴診器や分娩監視装置で胎児の心拍数を測定することによって、胎児が十分な酸素を受け取っているかどうかを容易に判定できます。心拍が速すぎたり遅すぎたりする場合は、胎児仮死となっている可能性があります(出産の合併症: 胎児仮死を参照)。分娩の第2期には、母親の心拍数と血圧は定期的にチェックし、胎児の心拍数は陣痛のたびに測定するか、分娩監視装置を使用している場合は継続的に測定します。

病院で分娩する場合は普通、母親の腕に点滴用のチューブ(静脈ライン)を留置します。これは脱水を起こさないように水分を補給したり、必要な場合には即座に薬を投与できるようにするためのものです。静脈から水分が補給されるので分娩中に飲食する必要はありませんが、分娩の初期には水分を摂取したり軽いものを食べたりしても構いません。分娩中は胃を空にしておくと、吐いたり、吐いたものが気管に入る危険性が少なくなります。吐いたものを吸いこむと、ごくまれに、肺が炎症を起こして呼吸困難となり生命にかかわることがあります。胃酸を中和するため、普通は入院時と以後3時間ごとに制酸薬が経口投与されます。制酸薬の働きで、たとえ吐いたものを吸いこんでしまっても、肺に障害を起こすリスクが低下します。

分娩監視装置

分娩監視装置は、胎児の心拍数と子宮の収縮(陣痛)を継続的に計測する装置で、分娩のときに使用されます。陣痛のとき、胎児の心拍数に特定の変化がみられる場合は、胎児が十分な量の酸素を受け取っていないことを示しています。胎児の心拍数は、母親の腹部に超音波装置(超音波を発し体内からの反射波を検出する)を装着する外測法、あるいは腟を通して胎児の頭皮に電極を貼りつける内測法によって測定を行います。内測法は、分娩中に問題が起こりそうな場合、あるいは外測法でうまく測定できない場合にのみ行われます。

ハイリスク妊娠では、分娩監視装置を使ってノンストレステスト(NST)という検査を行うことがあります。ノンストレステストでは、胎動があるときとないときの胎児の心拍数を計測します。胎動があるのに心拍数が増えない場合は、さらに子宮収縮ストレステスト(CST)という検査を行うことがあります。この検査ではオキシトシン(分娩時に子宮を収縮させるホルモン)を母体に静脈注射し、子宮が収縮しているときの胎児の心拍数を測定して、胎児が分娩に耐えられるかどうかを判断します。

問題が発見された場合は、分娩中に胎児の頭皮から血液を採取して酸性度(pH)を測定し、胎児が十分な量の酸素を受け取っているかどうかを調べます。

これらの検査結果に基づいて、分娩を継続するか、ただちに緊急帝王切開に切り替えるかが判断されます。

痛みへの対応: 妊娠中から医師や助産師の助言に従って、分娩に伴う痛みを和らげる方法について検討しておきます。自然分娩を選んだ場合は、リラックス法や呼吸法を習得して痛みを和らげます。麻酔による無痛分娩という選択肢もあり、必要に応じて麻酔の方法(局所麻酔、区域麻酔、全身麻酔)を選びます。実際に陣痛が始まってから、分娩の経過、痛みの程度、医師や助産師の勧めによって計画が変更されることもあります。

痛みの緩和がどの程度必要かは人によってかなり異なり、その人の不安の強さも1つの要素となります。マタニティークラスなどに出席してみるのは、分娩に向けて心構えをする上で役立ちます。本人の心構えや分娩に立ち会う人からの精神的な支えがあると、分娩への不安が和らぎ、薬で痛みを抑える必要性をかなり減少させることができます。

陣痛が始まってから鎮痛薬の使用を求めた場合も、通常は応じてもらえます。しかし、鎮痛薬の中には新生児の呼吸やその他の機能を抑制するものもあるため、投与量はできる限り少なくします。鎮痛の目的でよく使われるのはメペリジンまたはモルヒネで、静脈から投与されます。分娩第1期の潜伏期にこれらの薬を使うと分娩の進行が遅れるため、活動期に入ってから使用されます。また、これらの薬は投与後の30分間に効果が最大となるため、娩出間際には通常は投与しません。これらの薬の鎮静作用を打ち消すため、出生後ただちに新生児にナロキソンを投与することもあります。

局所麻酔では、腟と腟口周辺の組織を麻痺(まひ)させる陰部神経ブロックを行います。腟壁から局所麻酔薬を注射して陰部神経(陰部下方の感覚を伝える神経)を麻痺させる方法で、分娩の後半になって、胎児の頭が腟から出そうになったときにのみ行われます。腟口に局所麻酔薬を注射する方法もよく行われますが、効果は陰部神経ブロックほど強くありません。いずれの麻酔法でも、産婦の意識は保たれるのでいきむことができ、胎児の機能が障害されることもありません。これらは合併症がない場合の出産に適した麻酔法です。

区域麻酔では、局所麻酔よりも広い範囲を麻痺させます。この方法は分娩時の痛みをより確実に抑えたい女性に行われます。最もよく行われている方法は、腰の脊椎(せきつい)と脊椎を覆う外層の間の硬膜外腔に麻酔薬を注射する腰椎硬膜外麻酔です。また、硬膜外腔にカテーテルを留置し、フェンタニル、スフェンタニルなどのオピオイドをゆっくりと持続的に投与する方法もあります。脊椎麻酔はまた別の方法で、脊髄(せきずい)を覆う中層と内層の間(くも膜下腔)に麻酔薬を注入します。脊椎麻酔は、合併症がみられない場合の帝王切開によく用いられます。硬膜外麻酔や脊椎麻酔によって麻酔がかかっていても、意識は失われないため、分娩中に十分にいきむことができます。血圧が低下する可能性があるため、血圧測定が頻繁に行われます。

全身麻酔では、一時的に意識がなくなります。全身麻酔が必要となることはまれで、胎児の心臓、肺、脳の機能を抑制する危険性もあるため、用いられることはめったにありません。麻酔薬の影響は一時的であるものの、母体から外に出た新生児が新たな環境にうまく適応する妨げとなるおそれがあります。全身麻酔が行われることが多いのは緊急の帝王切開です。最も迅速に麻酔効果が得られる方法だからです。

自然分娩

自然分娩では、リラックス法と呼吸法によって分娩中の痛みをコントロールします。多くの場合、分娩中の鎮痛薬や麻酔薬の量が少なくてすみ、ときにはまったく必要としないこともあります。

自然分娩に備えるため、妊婦はパートナーとともにマタニティークラスに参加してリラックス法と呼吸法を学びます。マタニティークラスは一般に、数週間の間に6〜8回開かれます。クラスでは分娩中の各段階でどんなことが起こっていくかも学びます。

リラックス法では、意識的に体の一部を緊張させてから力を抜きます。この方法を習得すると、陣痛(子宮の収縮)が起きている間は体の他の部分をリラックスさせ、陣痛と陣痛の間には体全体をリラックスさせることができるようになります。

呼吸法では、陣痛の経過に合わせて呼吸の方法を変えていきます。分娩第1期のいきみが始まる前は、以下の方法で呼吸します。

  • 陣痛の初めと終わりに深呼吸して体の力を抜きます。
  • 陣痛がピークに達したら、胸の上部で速く浅く呼吸します(浅速呼吸)。
  • 子宮口が完全に開かないうちにいきみたくなった場合は、浅速呼吸と大きく息を吐き出す呼吸を組み合わせ、いきみたい感覚をやり過ごします。

分娩の第2期では、いきみと浅速呼吸を交互に行います。

妊娠中はパートナーとともに定期的にリラックス法と呼吸法を練習するようにします。分娩中、パートナーは精神的なサポートだけでなく、分娩の経過に合わせてすべきことを思い出させたり、体に力が入っているときはそれを指摘することによって、産婦を助けることができます。また、産婦がリラックスできるように、体をさすったりマッサージするのもよいでしょう。

自然分娩法ではラマーズ法が最も広く知られていますが、このほかルボワイエ法という方法もあります。ルボワイエ法では暗くした部屋で出産し、出産後ただちに新生児をぬるま湯に入れます。

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