メルクマニュアル家庭版
印刷用画面

セクション

中枢神経系の感染症

-
-

中枢神経系の感染症はきわめて重症の感染症です。髄膜炎は脳と脊髄(せきずい)を覆っている膜を侵します。脳炎は脳そのものを侵します。

中枢神経系(脳と脊髄)に感染症を起こすウイルスには、ヘルペスウイルス、アルボウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルスなどがあります。これらの感染症の一部は主に髄膜(脳を覆っている組織)を侵し、髄膜炎を起こします。そのほかは主に脳を侵し、脳炎を起こします。髄膜と脳の両方を侵すウイルスも多く、その場合は髄膜脳炎を起こします。子供では髄膜炎の方が脳炎よりずっと多くみられます。

ウイルスは2つの方法で中枢神経系に影響を与えます。急性疾患では、ウイルスは直接感染して細胞を破壊します。この感染症から回復した後に、感染症に反応する体の免疫が神経周囲の細胞に二次的な損傷を引き起こすことがあります。この二次的損傷(感染後脳脊髄炎)により、子供には急性疾患から回復した数週間後に症状が現れます。

子供はさまざまな経路からウイルスに感染します。新生児は産道で感染した分泌液と接触して、ヘルペスウイルス感染症を発症する可能性があります。そのほかのウイルス感染症は、感染者から排出されたウイルスを含む飛沫で汚染された空気を呼吸により吸いこんで感染します。アルボウイルス感染症は、感染した昆虫に刺されることで感染します。

年長の小児と青年期の若者におけるウイルス性の髄膜炎と脳炎の症状と治療は、成人の場合と似ています(脳と脊髄の感染症: ウイルス感染を参照)。新生児と乳児は免疫系が発達途上なので、異なった感染症が起こる場合があります。また乳児は、自分の症状を直接伝えることができないので、症状を理解するのが難しくなります。通常、乳児が中枢神経系の感染症にかかった場合は、以下に挙げるような症状の一部が現れます。

症状

新生児と乳児では、ウイルスによる中枢神経系の感染症は普通発熱から始まります。新生児ではほかの症状が出ないことがあり、初期段階ではそれほど具合が悪そうにもみえません。生後1カ月以上かそれくらいの乳児は典型的には神経過敏で落ち着かず、授乳を拒みます。嘔吐もよくみられます。髄膜への刺激は体を動かすと悪化するので、髄膜炎の乳児は抱き上げて揺すると、おとなしくならずにかえって泣くようになります。奇妙な高い声で泣くようになる乳児もいます。脳炎を起こした乳児は、しばしばけいれんや異様な動きをみせます。単純ヘルペスウイルスによる感染症はしばしば脳の一部分にだけ集中して起こり、症状としてけいれんや脱力が体の一部分にだけ現れることがあります。重症の脳炎を起こした乳児は不活発になり昏睡(こんすい)に陥り、やがて死亡します。

感染後脳脊髄炎は損傷を受けた脳の部位によって、さまざまな神経学的問題を生じます。子供には腕や脚の筋力低下、視力や聴力の喪失、精神遅滞、あるいは再発性のけいれんなどがみられます。これらの症状は、検査に反応できる年齢に子供が達するまで明らかにならないことがあります。たいていの場合、症状はいずれ消えますが、ときにはずっと残ることもあります。

診断

発熱、神経過敏、正常ではない行動がみられる月齢の高い乳児と同様に、熱のあるすべての新生児について、医師は髄膜炎や脳炎の可能性を念頭に置きます。これらの乳児には、脊髄穿刺(腰椎穿刺)(脊椎穿刺の実施方法を参照)を行って脳脊髄液(CSF)を採取し、検査に出します。ウイルス感染症では、脳脊髄液中のリンパ球(白血球の1種)数は増加していますが、細菌は見つかりません。脳脊髄液サンプル中のウイルスに対する抗体を検出する免疫検査を行う場合もありますが、これらのテストは結果が出るのに数日かかります。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法という技術も、ヘルペスウイルスやエンテロウイルスなどの病原体を特定するのに使われます。

脳波の検査(脳電図)(脳、脊髄、神経の病気の診断: 脳波検査を参照)は、ヘルペスウイルスによる脳炎を診断するのに役立ちます。非常にまれですが、ヘルペスウイルスが原因であるかどうかを特定するために、脳組織の生検が必要となることもあります。

経過の見通しと治療

経過の見通し(予後)は、感染症のタイプによりかなり異なります。ウイルスによる髄膜炎と脳炎の多くは軽症で、子供は短期間で完全に回復します。そのほかのタイプは重症です。単純ヘルペスウイルスによる感染症は特に重篤です。治療をしても、単純ヘルペスウイルスによる脳の感染症にかかった新生児の15%は死亡します。ヘルペス感染症が、脳と同様に体のほかの部位にも発症した場合は、死亡率が50%と高くなります。生き残った子供のほぼ3分の2に、何らかの永久的な神経障害が残ります。

大半の乳児で必要なのは、温かくして水分を十分に与えるなどの補助的なケアだけです。抗ウイルス薬は中枢神経系の感染症の多くにほとんど効果がありません。しかし、単純ヘルペスウイルスによる感染症は、アシクロビルの静脈投与で治療できます。

個人情報の取扱いご利用条件