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ヒト免疫不全ウイルス感染症

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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは進行性に白血球を破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすウイルス感染症です。

米国では、HIV感染者のうち子供や青年期の若者はわずか約2%です。世界的には、HIVは子供により多くみられます。

ヒト免疫不全ウイルスにはHIV‐1とHIV‐2の2種類がありますが、これらは体の免疫防御で重要な役割をつかさどっている「リンパ球」と呼ばれるある種の白血球を進行性に破壊します。これらのリンパ球が破壊されると、人の体はほかの多くの感染性微生物の攻撃を受けやすくなります。HIV感染症には死亡も含め多くの症状と合併症がありますが、これらはHIV感染症そのもので起こるのではなく、そのほかの感染症が原因です。HIV感染症にかかると、健康な人には通常感染しない病原体によるさまざまな厄介な感染症にかかります。これらの感染症は「日和見感染」といい、ウイルスや寄生虫などにより起こりますが、成人とは違って子供の場合、細菌でも起こります。

後天性免疫不全症候群(エイズ)はHIV感染症の最も重症なタイプです。HIV感染症にかかっている子供は、少なくとも1種類の合併症を発症した場合や、感染症から体を守る機能の低下が明らかに認められた段階でエイズとみなされます。

感染症の伝播

幼い子供では、HIV感染症はほぼ例外なく母親からうつされます。現在、エイズを発症している子供のうち、輸血(血友病の治療に使われた血液製剤から感染)や性的虐待など、そのほかの感染源から感染した子供は7%未満です。血液と血液製剤における安全対策が改善されたため、これらによる感染症は現在はごくわずかしかありません。

米国では、年間7000人ほどのHIV感染者の女性が出産しています。予防策をとらない限り、これらの女性が産む子供の4分の1〜3分の1はHIVに感染します。このリスクは、母親が妊娠中に感染した場合、母親の体内のウイルス量が多い場合、母親の病状が重い場合、などに最も高くなります。感染はしばしば陣痛と分娩の間に起こります。

このウイルスは母乳からも感染します。出生時には感染していない赤ちゃんの10〜15%が、HIVに感染した母親の母乳で育てられることによりHIV感染症にかかります。感染が最も多く起こるのは、生後数週間から数カ月の間ですが、それ以降にも感染は起こります。母親が母乳で育てている時期に感染症にかかった場合や、乳房の感染症(乳腺炎)にかかっている場合に、感染はより起こりやすくなります。

青年期の若者の場合、感染経路は成人と同じです。異性間および同性間での性行為や薬物をうつ際の汚染した注射針の共有を介して感染します。

このウイルスは食物、水、家庭用品、あるいは家庭、職場、学校での社会的な接触を介してうつることはありません。非常にまれですが、皮膚に感染した血液が付着することによってHIVが感染することはあります。このような例のほとんどは、皮膚の表面に引っかき傷や潰瘍の開口部などがありました。唾液の中にはこのウイルスが存在することがありますが、キスやかむことで感染したという例は今まで確認されていません。

症状

HIV感染症にかかって生まれた子供は、最初の数カ月間はほとんど症状が現れません。子供が治療を受けないままであっても、生後1年目や2年目に症状を発現する子供はわずか20%ほどです。残りの80%の子供は治療をしなくても3歳になるまで、あるいはもっと年長になるまで問題は現れません。効果の高い抗HIV薬を使えば、HIV感染症の子供は必ずしもHIV感染の徴候や症状を発現しません。青年期に感染したHIV感染症の症状は成人の場合と似ています(ヒト免疫不全ウイルス感染症: 症状を参照)。

子供におけるHIV感染症の最初の徴候は、通常、成長と成熟の遅れ、繰り返す下痢、肺感染症、口内の真菌感染症(鵞口瘡[がこうそう])などです。ときには子供は、中耳炎、副鼻腔炎、肺炎などの細菌感染症を繰り返すこともあります。

子供の免疫機能が低下していくにしたがって、さまざまな症状と合併症が現れます。HIV感染症の子供の約3分の1が肺の炎症(リンパ球性間質性肺炎)を発症して、せきと呼吸困難を起こします。

HIV感染症にかかって生まれた子供は一般的に、抗HIV薬を投与されていない場合、最初の15カ月の間に少なくとも1回はカリニ肺炎を発症します。HIV感染症で治療を受けていない子供の半数を超える者が、いずれこの肺炎を起こします。カリニ肺炎はエイズの子供と成人の主な死亡原因の1つです。

HIVに感染した子供のかなり多くが、徐々に進行する脳の障害により、歩く、話すといった発達の重要な段階に到達するのが遅れたり妨げられたりします。これらの子供はまた知能障害もあり、体の大きさに比べて小さい頭部をもっています。治療を受けていない感染した子供の20%までが、社会的能力と言語能力、および筋肉の制御能力を徐々に失います。部分的な麻痺(まひ)や足がふらふらする、筋肉がややこわばるなどの症状も起こります。

貧血(赤血球数の低下)もHIVに感染した子供によくみられます。貧血があると子供は弱く、疲れやすくなります。治療を受けていない子供の約20%は、速い拍動や不規則な拍動、心不全などの心臓の問題を起こします。

それほど多くはありませんが、治療を受けていない子供には、肝臓の炎症(肝炎)や腎臓の炎症(腎炎)などもみられます。エイズの子供では癌(がん)はまれですが、非ホジキンリンパ腫や脳のリンパ腫は、非感染者の子供に比べてやや発症しやすい傾向があります。エイズに関連した癌であるカポジ肉腫は皮膚や内臓を侵しますが、子供ではきわめてまれです。

診断

子供のHIV感染症の診断は、定期的な出生前スクリーニングによって妊婦のHIV感染症を発見するところから始まります。HIV感染症の母親やライフスタイルの関係でHIV感染症にかかるリスクがある母親の新生児は、検査を受ける必要があります。このような乳児は頻繁に検査を受けるべきです。普通は生後2日、生後2週間、生後1〜2カ月の間、生後3〜6カ月の間に検査を受けます。このように頻繁に検査することで、HIVに感染している乳児の多くは6カ月齢までに判明します。

乳児では、HIV抗体を調べるための標準的な成人の血液検査は役に立ちません。なぜなら、母親がHIVに感染していた場合は(乳児は感染していなくても)、乳児の血液にはほぼ必ずHIV抗体があるからです。月齢18カ月未満の子供のHIV感染症を確実に診断するためには、血液中のウイルスを特定する特別な血液検査を行います。標準的な血液検査は、月齢18カ月以上の子供と青年期の若者のHIV感染症を診断するために行われます。

予防

新生児の感染症を予防する最適な方法は、HIVに感染した女性が妊娠を避けることです。もし感染した女性が妊娠した場合は、感染の可能性を最小限にするのに抗HIV薬がかなり効果があります。薬を服用していない女性には、妊娠の中期と後期(最後の6カ月間)にジドブジン(AZT)を経口投与します。ジドブジンは陣痛と分娩の間にも静脈内投与します。ジドブジンは新生児にも6週間毎日投与します。この治療は、感染率を約33%から約8%にまで減少します。3種類の抗HIV薬の併用療法を受けている女性では、感染率は1〜2%にまで減少します。また、帝王切開による出産は、赤ちゃんがHIV感染症にかかるリスクを減らします。

良質な乳児用の調合乳と清潔な水が容易に入手できる国では、HIVに感染した母親は人工栄養で赤ちゃんを育てるべきです。栄養不良や汚染された水による感染性の下痢のリスクが高い国では、母乳栄養で育てる利点の方がHIV感染のリスクを上回ります。

子供のHIVの状態がわからない場合があるので、すべての学校と保育所は、鼻血などの事故の取り扱い方や、血液で汚れた場所の洗浄と殺菌に関して、専門的な対応法を採用すべきです。清掃の間、職員は自分の皮膚が血液と接触しないように忠告してもらいます。ゴム手袋を常備して使用し、手袋を外した後は手を洗わなければなりません。血液で汚れた場所は、家庭用漂白剤を水で10〜100倍に薄めたものを新しく用意し、洗浄、殺菌する必要があります。

青年期の若者に対する予防策は、成人と同じです(ヒト免疫不全ウイルス感染症: 予防を参照)。すべての青年期の若者には、HIVはどのように感染するか、また性行為を控えたり安全な性行為を実践するなど、どうすれば感染を防げるかについて教えなくてはなりません。

治療と経過の見通し

子供は多くの場合、成人と同じ抗HIV薬を用いて治療します(ヒト免疫不全ウイルス感染症: 治療を参照、HIV感染症の主な治療薬を参照)が、一般的には2種類かそれ以上の逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害薬の併用を行います。しかし、一部の薬には液剤がないなどの理由から、成人に使っている薬のすべてが幼い子供に使えるわけではありません。親と子供が複雑な投薬計画を順守するのが困難なこともありますが、その場合治療の効果は限られます。一般的に、子供も成人と同じタイプの副作用が出ますが、通常は出現率はずっと低くなります。しかし、薬の副作用が治療を制限することがあります。医師は血液中に存在するウイルス量と子供のCD4+数(ヒト免疫不全ウイルス感染症: 感染成立のメカニズムを参照)を定期的に測定することで、治療の効果を判定します。血液中のウイルス数が増えている場合は、HIVがその薬に対し耐性をもつようになった徴候か、あるいは薬を服用していない可能性があります。いずれの場合も薬剤を変更する必要があります。

カリニ肺炎の予防には、HIVに感染した女性から生まれた生後1カ月以上の乳児と有意に免疫機能が低下している子供に、トリメトプリム‐スルファメキサゾール(ST合剤)を投与します。この薬剤に重いアレルギー反応を示す子供にはダプソンかアトバコンを投与します。有意に免疫機能が低下している子供には、マイコバクテリウム‐アビウム複合体感染症を予防するためにアジスロマイシンかクラリスロマイシンを投与します。細菌感染症を繰り返す子供には、月に1回免疫グロブリンを静脈内投与します。

HIVに感染した子供のほとんどは、小児期の定期予防接種を受けるべきですが、通常、はしか(麻疹)‐おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)‐風疹のワクチンと水ぼうそう(水痘)ワクチンは例外となります。これらのワクチンはいずれも生きたウイルスを含んでいて、HIVで免疫力が低下している子供の大半に、重症あるいは致死的な病気を引き起こす可能性があるからです。しかしHIV感染症の子供でも、免疫機能がそれほど低下していない場合は、これらの予防接種を受けることが勧められます。ただし、どの予防接種でもHIV感染症の子供には効果が弱まります。

フォスターケア(里親制度)や児童保育、学校教育などを受ける必要がある子供の場合、医師は子供が感染性の病気にさらされるリスクを評価するようにします。一般に、HIVに感染した子供(または免疫機能が低下している子供)が水ぼうそうなどの感染症にかかる危険性の方が、この子供からほかの子供にHIVが感染する危険性よりも高いのです。HIV感染症の幼い子供で、皮膚に開放性の潰瘍がある場合や、かみつくなどの危険な行為を行う可能性がある場合は、保育所に行くべきではありません。

HIVに感染した子供は健康状態が許す限り、小児期に行う日常活動にできるだけ参加すべきです。ほかの子供とかかわることで、社会性や自尊心の発達が促されます。この病気には良くないイメージがもたれていることと、HIVが他の子供に感染することはほとんどないことを考慮すると、両親と医師、そしておそらくは学校所属の看護師以外は、子供のHIV感染を知る必要はありません。

子供の容体が悪化してきたら、治療はできる限り制限の少ない環境で行うのが最もよいでしょう。家庭への訪問看護や地域でのサービスが受けられるようであれば、入院するよりも家庭で過ごせる時間を長くすることができます。

今日では薬物療法によって、HIV感染症にかかって生まれた子供の75%が5年間は生存し、50%が8年間生存しています。HIV感染症の子供の死亡時平均年齢はまだ約10歳ですが、青年期や成人期の初めごろまで生存する子供が徐々に増えてきています。

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