|
高山病とは、高地で酸素が欠乏することによって引き起こされる障害です。
高度が上昇するにつれて大気圧が下がり、空気が薄くなって酸素は少なくなります。海抜ゼロ地点と比較すると、標高約1600メートルのデンバーでは20%、標高約2400メートルのコロラド州アスペンでは25%、標高8840メートル以上のエベレスト山頂付近では66%も酸素が減少します。
高山病では、酸素不足のために一番細い血管(毛細血管)から周辺組織に血液中の水分が漏出して、浮腫が起こります。高山病の症状は、主に漏出した水分がどこにたまるかと、その量によって異なります。脳に水分がたまった場合は、軽度なら急性高山病の症状を生じ、重くなると高所脳浮腫を起こします。肺に水分がたまると高所肺浮腫を起こします。手足だと高所浮腫を生じます。
高山病は、標高の高い場所に行ったときに起こります。重症度は登った高さと、登るのにかけた時間によって決まります。たとえば1〜2日間に約1800メートル以上高度を上げた人の多くが高所浮腫を起こします。急性高山病は、短期間に約2400メートル高度を上げた人の10%、2700メートル高度を上げた人の25%、約4200メートル高度を上げた人のほぼ50%に起こります。高所肺浮腫と高所脳浮腫は、高度約3000メートル未満ではほとんど起こりません。
普段、海面レベルや標高の低い地域に住んでいる人や、高地に着いてすぐに激しい運動をした人は、高山病を起こしやすくなります。肺の病気(慢性閉塞性肺疾患)や心臓および血管の病気(狭心症、心不全、末梢血管疾患など)、血液の病気(鎌状赤血球貧血、ヘモグロビンSC病)のある人は、特に高地特有の障害が起こります。しかし、喘息(ぜんそく)は高度でも悪化しません。妊婦や胎児は約3000メートルを超えなければ、高地で2〜3週間過ごしても、特に危険はありません。体力の有無は高山病の発症リスクには影響しません。むしろ高齢者よりも若い人に多く高山病は発症しています。特に以前に高所肺浮腫や高所脳浮腫を起こしたことのある人は、高所に行ったときに再発しやすくなります。
人間の体は、呼吸数や心拍数を増やしたり、赤血球の生成を増やして組織に酸素を多く供給することで、高地に適応(順応)します。標高3000メートルまでなら、大部分の人は2〜3日間で順応できます。さらに高地に順応するには日数を要し、数週間かかることもあります。標高5300メートルを超える高地でも徐々に通常の活動ができるようになる人もいます。
症状と診断
急性高山病は、軽いタイプの高山病です。通常は高地に着いて4〜12時間以内に発症し、頭痛、軽度のふらつき感、特に運動時における息切れなどがあります。これらに続いて食欲不振、吐き気と嘔吐などが起こり、疲労感、脱力感、神経過敏を伴います。急性高山病の症状を二日酔いのよう、と表現する人もいます。高地で泊まると、睡眠障害が起こることがあります。症状は24〜36時間続きます。急性高山病はより重症なタイプの高山病に進行することもあります。
高所浮腫では、手、足や、起きているときには顔に腫れがみられます。腫れのために軽い不快感が生じますが、数日で治まります。
高所肺浮腫は、数時間の間に軽い症状から命にかかわる症状に進行することがあります。症状はしばしば高地に来てから2日目の夜に発症し、夜間に悪化して、重症型に進行していきます。軽い症状では、乾いたせきや軽い動作後の息切れがみられます。中程度の症状には、安静時での息切れ、錯乱、たんがピンク色になったり血が混じる、微熱、皮膚・唇・爪が青くなる(チアノーゼ)などがあります。重度の症状には、あえぎや呼吸時にゴボゴボという音が聞こえることがあります。
高所脳浮腫では、軽いタイプの高山病と同じ症状を示しますが、症状は重くなります。頭痛、錯乱、歩行時にフラフラするなどの体の不調和(運動失調)、昏睡状態があります。数時間以内に軽い症状から命にかかわる状態まで急速に進行します。
高山病は、主に症状から診断します。高所肺浮腫の場合は、聴診器をあてると肺に水分がたまっている音が聞こえることがあります。胸部X線検査と血液中の酸素濃度を測定することで、診断を確定します。
治療
急性高山病を起こした人は、それ以上高度を上げずに、休まなくてはなりません。症状がなくなるまで、それ以上高い所に行くべきではありません。急性高山病の多くは1〜2日で治ります。アセタゾラミド、またはデキサメタゾンなどのコルチコステロイド薬が、症状を緩和します。アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(痛み: 非ステロイド性抗炎症薬を参照)は、頭痛を緩和します。
症状が重い場合は、フェースマスクで酸素を供給します。酸素の吸入ができない場合や治療を行っても症状が改善されない場合は、できれば750メートルよりも低い所に戻るようにします。
高所浮腫がなかなか治らない場合は、ヒドロクロロチアジドなどの利尿薬が有効です。しかし、低地に移動すれば、治療の有無にかかわらず腫れは回復します。
高所肺浮腫の人には酸素を吸入させ、症状がすぐに改善されない場合はできるだけすみやかに高地から下ろします。体を動かすと酸素の必要量を増加させ、肺浮腫の症状が悪化するのでなるべく安静を保ちます。高度の低い所に搬送し温かくします。ニフェジピンという薬は、肺動脈の血圧を一時的に下げるのに役立ちます。
高所脳浮腫が起こったら、できるだけすみやかに低地に搬送し、酸素を吸入させデキサメタゾンを投与します。
高度の低い地域へすぐに搬送できない場合は、高圧バッグを使用します。これは携帯用の軽量布製大型バッグまたはテントで、手動のポンプによって中の気圧を上げることができます。患者を中に入れ、きっちりと口をふさぎ、ポンプを使って内部の気圧を上げます。患者はこの中で2〜3時間過ごします。登山の際には酸素吸入が使えない場合が多いのですが、高圧バッグには同様の効果があります。
予防
高山病を予防するには、ゆっくり登るのが最良の方法です。2400メートル登るのに2日かけ、さらに高度を300〜600メートル上げるごとに1日かけるようにします。基準にするのは、その日に達した一番高い地点の標高ではなく、睡眠を取る地点の標高です。高山病の症状が現れた場合は、登るペースを落とします。
登る前にアセタゾラミドを服用すると、高山病の予防になりますし、高山病になってからも服用によって症状が軽減されます。アセタゾラミドは、登りはじめてから2〜3日は服用を継続します。デキサメタゾンにも高山病の予防と症状の緩和に効果があるという医師もいます。イチョウは薬用ハーブの1つで、穏やかな高山病予防効果があるといわれています。以前に高所肺浮腫にかかったことのある人には、高度を上げはじめるときにニフェジピンを服用させて再発を防ぎます。
高地に到着後1〜2日間は激しい運動を避けるようにします。炭水化物を多く含んだ食事を、少量ずつ頻繁に摂取することや、1日3.8リットルのカフェインを含まない飲料を飲むなども予防効果があります。アルコールや鎮痛薬は、急性高山病に似た症状を起こすので避けましょう。
海抜ゼロ地点に近い低地に居住しているスポーツ選手は、標高の高い所で行われる試合に参加する場合は、特別な準備が必要です。良い記録を出すためには、短距離走やジャンプなど短時間で運動強度の強い種目の場合は、競技前、1日以内に到着するのが最適です。持久力を要する競技では、数週間前から高度の低い所でトレーニングをし、夜は高地で睡眠を取るようにするのが最適です。
|