メルクマニュアル家庭版
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はじめに

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中毒とは、有毒物質を飲みこんだり、吸いこんだり、皮膚や眼、口、鼻などの粘膜に接触したときに生じる障害です。

家庭内で発生する、生命にかかわらない事故のうち最も多いものは中毒です。米国では年間200万人を超える人が何らかの中毒を起こしています。薬(処方薬、市販薬、非合法ドラッグ)は、重症の中毒や中毒死をより起こしやすい原因物質です。中毒の原因としてはこのほか、ガス、家庭用品、農産物、植物、産業用化学物質、ビタミン、食品(特にキノコ類や魚類の一部(胃腸炎: 化学物質による食中毒を参照))が多くみられます。どんな物質でも大量に摂取すれば中毒になる可能性があります。

年少の小児は特に家庭内で中毒事故を起こしやすく、また高齢者は薬の飲み間違えから事故を起こすことがよくあります。入院患者(薬の取り違え)、産業労働者(有毒な化学物質にさらされることが原因)にも多くの中毒事故が発生しています。自殺や殺人で故意に中毒を起こすこともあります。成人の自殺未遂者の多くは、複数の薬剤を飲んだ上にアルコールを飲んで自殺を試みています。

中毒による障害は、毒物の種類、摂取量、年齢、摂取した人の健康状態によって変わります。毒物の中には、効力が弱く長期間さらされていたり、大量に繰り返し摂取した場合にのみ障害が現れるものもあります。逆に皮膚の上に一滴落ちただけで重度の損傷を起こす強い作用のある毒物もあります。

毒物の中には症状が数秒後に現れるものもあれば、数時間から数日後になって損傷が現れるものもあります。肝臓や腎臓のような重要な臓器の機能に損傷を与えるまで、症状がほとんど現れないが、永久的な障害を残すものもあります。

有毒物質を含まない家庭用品

  • 接着剤
  • 制酸薬
  • 入浴剤
  • 漂白剤(5%未満の次亜塩素酸ナトリウム)
  • ボディーローション
  • ボディーソープ
  • チョーク(炭酸カルシウム)
  • オーデコロン
  • 化粧品
  • 制汗剤
  • 脱臭剤(スプレー式、冷蔵庫用)
  • 衣類用柔軟剤
  • ハンドローション、クリーム
  • 3%薬用過酸化水素
  • 油性ペン、フェルトペン
  • インク(黒、青)
  • 鉛筆(黒鉛製のもの)
  • マジックマーカー
  • マッチ
  • 鉱物油
  • 模型用粘土
  • 新聞紙
  • 香水
  • ワセリン
  • におい袋(エッセンシャルオイル、パウダー)
  • ひげそり用クリーム、ローション
  • せっけん、せっけん製品
  • 日焼け止め
  • 甘味剤(サッカリン、アスパルテーム)
  • 歯磨き(フッ素入り、フッ素なし)
  • 水彩絵の具
  • ワックス、パラフィン
  • 酸化亜鉛
  • 酸化ジルコニウム

どんな物質でも大量に摂取すると毒性を呈することがあります。

応急処置と予防

有毒ガスにさらされた人はすみやかにその場所から離れ、できれば新鮮な空気のある屋外に出ましょう。

化学物質がこぼれたときは、汚染された衣類をすみやかに脱ぎます。皮膚をせっけんと水で徹底的に洗いましょう。眼に入った場合は水で洗浄します。救助にあたる人も自分自身の汚染を防ぐように注意します。

容態が悪そうな場合は、救急隊に電話をします(訳注:日本では119番、米国では911番)。必要な場合は、心肺蘇生(CPR)を行います(知っておきたい応急処置: 応急処置を参照)。さほど具合が悪くなさそうな場合には、家族や周囲の人が地域の中毒情報センター(訳注:日本では、大阪中毒110番0990-50-2499、または、つくば中毒110番0990-52-9899。米国では800-222-1222)に連絡して、指示を求めます。毒物の種類や摂取した量がわかっていれば、多くの場合自宅での治療が可能です。

毒物や薬剤の入った容器は保管して医師に渡すようにします。重症にみえる場合は、できるだけすみやかに治療を開始します。中毒センターは、家庭で活性炭(中毒: 診断と治療を参照)を飲ませるよう指示したり、特に病院が遠い場合には、トコンシロップを与えて、嘔吐を誘発するよう指示することもあります。偶発的な中毒事故を防ぐためには、薬はかならず本来のチャイルドプルーフ容器に入れて保管します。期限切れの薬は水洗トイレに流して廃棄します。有毒な薬剤はできれば鍵のかかる戸棚など、子供の目につかず手の届かない場所に保管します。どんな薬の場合も、使用する前には必ず説明書をすべて読むようにします。

診断と治療

毒物を特定することは、治療を成功させるために非常に重要です。容器のラベルや、家族や同僚からの情報は、毒物が何かを突き止めるためにとても大切です。尿検査や血液検査も毒物の決定に有効で、血液検査によって中毒の重症度がわかることもあります。

中毒を起こした場合、多くは入院が必要になります。すべての中毒治療の基本は、共通しています。毒物のそれ以上の吸収を防ぎ、毒物の排出を増やし、可能なら適切な解毒薬(毒物の影響を軽減したり不活性化したり、中和する作用のある物質)を投与し、再暴露を防ぎます。迅速に治療を行えば、多くは完治します。病院での治療の最終目標は、毒物を消滅、または不活性化させ、生命の危険がないようにすることです。最終的には、毒物の多くは肝臓で不活性化され、尿中に排出されます。

胃内容物の除去は、非常に危険な毒物の場合や、特に容態が悪い場合に行われます。口や鼻から胃の中にチューブを差しこみ、チューブを通じて水を入れ、それを排出します(胃洗浄)。この過程を何度か繰り返し行います。

病院の救急部では、多くの場合飲みこんだ毒物の治療のために活性炭を投与します。活性炭は消化管内部にある毒物を大量に吸着して、毒物が血中に吸収されるのを防ぎます。通常は口から活性炭が投与されますが、鼻から胃に挿入したチューブを通じて投与することもあります。体内の毒物を浄化するため、数時間おきに活性炭を投与する場合もあります。

活性炭や解毒薬の投与にもかかわらず中毒による生命の危険がみられる場合は、より複雑な治療が必要になります。最も多く行われているのは、血液を直接ろ過して毒物を取り除く血液透析(人工透析器を使用して毒物をろ過する(腎不全: 血液透析を参照))や、血液灌流(かんりゅう:血液を活性炭に通して毒物を除去する)です。どちらの方法も細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、動脈から血液を取り出し、静脈に戻します。血液を特殊なフィルターに通過させて、毒物を取り除いてから体内に戻します。

さらに他の治療が必要となることもあります。たとえば強い眠気や昏睡状態に陥っている患者には、気管にチューブを挿入します。チューブは人工呼吸装置に接続して機械的に呼吸を保ちます。これによって肺へ吐瀉物(としゃぶつ)が入ることを防ぎ、十分な呼吸が確保できます。けいれん発作、不整脈、低血圧、高血圧、発熱、嘔吐に対する治療が必要になる場合もあります。

腎臓の機能が停止した場合は、人工透析が必要です。肝臓損傷が重い場合は、肝不全の治療が必要です。肝臓か腎臓が重度の損傷を受けて回復が見込めない場合は、臓器移植が必要です。

薬物による自殺を図った人には、精神科での治療やカウンセリングが必要です。

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