メルクマニュアル家庭版
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特定の疾患と旅行

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病気をかかえている人は、旅行にあたって特別な問題に遭遇します。

心臓病

安静時、または少しの運動で狭心症、心不全、不整脈などの症状が起こる人は旅行をしてはいけません。過去2週間以内に心臓発作を起こした人や、過去8週間以内に心臓発作に伴うショックや心不全を引き起こした人も旅行を延期すべきです。

心臓病の持病がある旅行者は、最近とった心電図のコピーを携帯する必要があります。体内にペースメーカー、植え込み型除細動器、冠動脈ステントがある人は、病名、機種名、機器のある位置、機器の特徴などを記入した旅行用診断書やメディカルアラートカードを携帯する必要があります。空港の金属探知ゲートをくぐる時に、埋め込み型の機器が原因で警報が鳴ることがあります。金属探知ゲートは通常は埋め込み型除細動器に影響を与えることはありませんが、15秒以上はゲート内に立たないようにします。手で持つタイプの金属探知機は除細動器をつけた人にも安全ですが、除細動器の上に探知機を5秒以上かざすなどの長時間のチェックをしてはいけません。

ほとんどの航空会社は24時間前までに通知すれば、機内での通常の食事サービスで減塩食や低脂肪食を用意してくれます。また旅客船会社も事前の申し込みがあれば、このような食事を用意できます。

肺の病気

肺嚢胞、重症の肺気腫、肺の周囲の水分貯留(胸水)がある人や、最近胸部外科手術を受けた人、最近肺虚脱を起こした人などは、機内の気圧の変化で合併症を発症する可能性があるため、医師の承諾がない場合は飛行機に乗ってはいけません。

上記以外の肺疾患がある旅行者は、機内では酸素吸入が必要になります。医師は患者の血液中の酸素濃度を測定し、機内で酸素が必要になるかどうかを判定します。医師の記入した書類と48時間前までの通知があれば、航空会社は機内用酸素を提供できます。乗客はいかなる形態の酸素ボンベであっても飛行機への持ち込みは許可されません。乗り継ぎで空港に待機している間に酸素の必要な旅行者は、自分で酸素を確保する手配をしなければなりません。多くの場合、酸素吸入器は治療用酸素を供給する会社から利用者に無料で貸し出されます。持続陽圧呼吸装置などその他の呼吸器用機器は、許可されている機内持ち込み手荷物のサイズを越えないという条件で機内への持ち込みが可能です。しかしこの装置が必要な乗客は、セキュリティーチェックに通常より長い時間がかかります。

高地への旅行は海面レベルと比べて酸素が薄くなるため、特別な症状を起こすことがあります。一般に、軽度から中度の肺疾患患者は、高度1500メートル以下であれば問題ありませんが、高度が高くなるにつれ問題が生じる可能性も高くなります。高地への滞在や通過の予定がある場合は、飛行機に乗る場合と同様の予防措置が必要です。

バス、電車、自動車、船での旅行は肺疾患のある人には安全ですが、酸素を用意する計画が求められます。世界中どこでも旅行者へ酸素の配達を手配する医療サービス会社もあります。

喘息、肺気腫、気管支炎などのある人は、大気汚染のひどい都市では症状がひどくなります。症状を適切にコントロールするためには、吸入回数を増やすか、ステロイドなどの薬を追加する必要があります。

糖尿病

旅行中は頻繁に血糖値を検査し、必要に応じて食事の摂取量と薬の服用量を調節することで、血糖値をベストの状態に管理します。糖尿病の人が旅行する場合は、低血糖に備えて、糖分(ブドウ糖)を機内持ち込み手荷物に必ず入れておくか、ジュース、クラッカー、果物などを忘れずに携帯します。飛行機旅行で時差が数時間以上になる場合、糖尿病患者で特にインスリン投与をしている人は、インスリン量の調整をどうすればよいかを医師に相談します。インスリンは常温で何日も保存できますが、極端に暑いところに保管してはいけません。

ほとんどの主要航空会社は、24時間前までに連絡しておけば糖尿病用の特別食を用意できます。機内で脱水症にならないための予防対策も重要です。

到着後は、自宅にいる場合とは活動量や食事が違うので、血糖値を頻繁にチェックする必要があります。糖尿病の旅行者は目新しい食べものを食べたい、食べる回数を多くしたいという誘惑に屈することなく過ごすことを心がけ、また行動の予定が狂うことがあっても、いつもの摂取カロリー量を変えてはいけません。楽な靴下と靴をはき、毎日必ず足をチェックし、足にけがをしないためにも裸足で歩くことは避けなくてはなりません。たとえ小さな傷でも感染症を起こしたり治りが遅くなるからです。

妊娠

旅行が妊娠に悪影響を及ぼすことは一般的にはありません。しかし34週を過ぎているなど予定日が近い妊婦や、流産、早産、胎盤剥離の危険がある人は、飛行機に乗ったり長距離の旅行はしてはいけません。ほとんどの航空会社には、妊婦の旅行に関する規定があり、航空券を購入する前にこの規定を確認するべきです。妊婦が長距離の旅行をする場合は、血栓のできるリスクを減らすこと(たとえば機内では何回も立ち上がって歩き、自動車なら車を止めて散歩をするなど)と脱水症の予防対策が必要です。シートベルトはお腹ではなく太ももの上に低く締め、胎児への影響を防ぎます。

死菌ではなく弱毒化したウイルスでできているワクチン、たとえば黄熱病ワクチンや日本脳炎ワクチン、不活性ポリオワクチン、はしか・おたふくかぜ・風疹の3種混合ワクチンなどは妊婦には危険です。しかしどのワクチンも、授乳期間中の母親が受けても心配はいりません。

妊婦は、水浄化用タブレットを長期間使用してはいけません。この浄化剤にはヨウ素が含まれており、ヨウ素は胎児の甲状腺の発達に影響を及ぼす可能性があるからです。

マラリアのまん延地域への旅行を延期できない妊婦は、予防薬を服用するリスクと適切な予防措置を講じずにその地域へ旅行するリスクとを比較検討すべきです。マラリア感染では、妊娠をしていない場合に比べ妊娠中は、予防薬を服用していたとしても重症になりやすく死亡する可能性があります。

また妊娠中はE型肝炎にかかるリスクも高くなります。E型肝炎はウイルスによる肝臓の感染症で、米国では珍しい病気ですが、アジア、中東、北アフリカ、メキシコではよくみられます(肝炎ウイルスを参照)。感染すると流産や肝不全、さらには死に至る可能性があります。治療法がないためE型肝炎が蔓延している地域への旅行は延期を考えるべきです。延期ができない場合は手洗いをしっかり実行しましょう。

その他の病気

旅行や移動はその他の病気にも影響を与えます。

たとえば鎌状赤血球症の旅行者は、飛行機内の酸素分圧や湿度が低いために鎌状赤血球発作と呼ばれる痛みを起こすリスクが高くなります。これは適切な水分補給と酸素補給で最小限に抑えることができます。

人工肛門をつけている人は大きな袋をつけるか予備を持ち込む必要があります。なぜなら飛行中は腸内のガスが膨張するため便の量が増えるからです。同様に気体が膨張するため、栄養チューブや尿用カテーテルなど空気入りのカフやバルーンは、空気の代わりに水を入れておく必要があります。

普段はコンタクトレンズを使用している人も、機内では眼鏡を使いましょう。さもなければ飛行機内の湿度が低いのでコンタクトレンズを頻繁に濡らして水分を補うことが必要です。眼鏡またはコンタクトレンズを1組余分に持参するか、破損や紛失に備えて処方せんを持っていると安心です。補聴器用の電池も別に持っていくと助かるでしょう。

治療が十分でない統合失調症などの重症の精神病患者の旅行では、患者自身や他人に危害が及ぶおそれがあるので、責任のとれる付き添い人の同伴が必要です。

ほとんどの航空会社は、障害者のために車いすと担架を用意しています。静脈用チューブや人工呼吸器などの特別な装置を必要とする乗客のために備えている航空会社もありますが、専門家が患者に同伴することと事前の手配が条件となります。

病気をかかえる人が旅行する際の全般的なアドバイスは、主要航空会社の医療担当部署や米国連邦航空局(FAA)、オンライン・トラベルインフォメーション(情報源と支援団体を参照)、トラベルクリニックなどで入手できます。

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