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遺伝子の異常

遺伝子に何らかの異常があるのはめずらしいことではなく、特に劣性遺伝子の異常は多くの人にみられます。どの人も平均6〜8個の異常な劣性遺伝子をもっています。ただし、劣性遺伝子の異常が実際に細胞の機能異常として発現するのは、2本で1対の染色体の両方に異常がある場合に限られます。ある人が両親から受け継いだ2つの遺伝子コピーが両方とも異常な劣性遺伝子である可能性は、一般の人の集団では非常に低いのですが、近親者同士の子供では高くなります。この可能性は、キリスト教のアーミッシュ派やメノナイト派の人たちのように、厳格な生活様式を守って小さな共同体で暮らし、近親結婚を行う集団では高くなります。

異常な遺伝子は、遺伝によって受け継がれることもあれば、変異の結果として自然発生的に現れることもあります(変異とは遺伝子に突然生じる変化のことで、さまざまな原因のいずれかの結果として起こる場合もあれば、明確な原因はない場合もあります)。変異が生殖細胞に影響するかどうかによりますが、次世代に受け継がれる変異もあれば、変異をもつ人が亡くなるとともに消滅するものもあります。

特定の遺伝子が「異常」かどうかは、解釈の問題になる場合もあります。たとえば、鎌状赤血球の遺伝子は病気(鎌状赤血球貧血)の原因となりますが、マラリアに対する防御能力も与えてくれます。したがって、異常と呼ばれるこの遺伝子も、世界の一部の地域では病気から体を守るのに非常に役に立つといえるのです。

遺伝性疾患の例

遺伝子

優性

劣性

非X連鎖
  • マルファン症候群
  • ハンチントン病
嚢胞性線維症
X連鎖
  • 家族性くる病
  • 遺伝性腎炎
  • 赤緑色盲
  • 血友病

遺伝子の発現

1つの遺伝子に生じた異常の影響は、その遺伝子が優性であるか劣性であるかによって異なります。優性遺伝子は、2本で1対の染色体のどちらか一方にあるだけで発現します。これに対し劣性遺伝子は、2本1対の染色体の両方になければ発現しません。さらに遺伝子の中には浸透度が不完全なもの、すなわち発現に必要な遺伝子コピー数(優性遺伝子で1コピー、劣性遺伝子なら2コピー)が存在しても必ずしも変化を引き起こさなかったり、不完全な変化しか起こさないものもあります。なお、男性ではX染色体上に存在するすべての遺伝子(X連鎖遺伝子)が発現します。女性では、劣性遺伝子のコピーが2つ存在する場合は例外ですが、普通は優性遺伝子だけが発現します。

それぞれの遺伝子は特定のタンパク質の合成に直接関与するため、遺伝子に異常があると、異常なタンパク質や、異常な量のタンパク質が合成されます。これは細胞機能の異常を招き、最終的には外観の異常や身体機能の異常を引き起こします。

異常な優性遺伝子が原因で、奇形や病気が生じたり、特定の病気にかかりやすくなるなどの影響(形質)が現れることがあります。

優性非X連鎖遺伝子によって決まる形質には、一般に下記の原則があてはまります。

  • 形質をもつ人は、新たな変異が原因でなければ、両親の少なくとも一方がその形質をもっている。
  • 異常な遺伝形質は、親からの遺伝ではなく、新たに起こった遺伝子の変異が原因で生じることがしばしばある。
  • 一方の親に異常な形質があり、他方にはその形質がない場合、子供に異常な形質が遺伝する確率は50%。しかし、まれに、異常な形質をもつ方の親に異常遺伝子のコピーが2つあると、すべての子供に異常な形質が現れる。
  • 本人には異常な形質がなく、兄弟姉妹には異常な形質がある場合、その人には異常遺伝子はなく、形質を子供に伝えることはない。
  • 男性も女性も等しく影響を受けると考えられる。
  • 異常はどの世代でも現れる可能性があり、実際にその傾向にある。

重い病気の原因になる優性遺伝子はめったにありません。そのような遺伝子がある人は、病気が重いために子供をもてない場合も多く、遺伝子が受け継がれずに失われていく傾向にあるからです。しかし、ハンチントン病のようないくつかの例外があります。ハンチントン病では大脳の機能が著しく低下しますが、通常は35歳を過ぎてから発病します。症状が現れるまでに、その人が子供をもうけている可能性があります。

異常劣性遺伝子の遺伝

異常劣性遺伝子の遺伝

病気には異常劣性遺伝子が原因で生じるものがあります。発病するには原因となる劣性遺伝子が2つ必要で、両親から1つずつ受け継ぎます。両親のどちらも、異常遺伝子を1つ、正常遺伝子を1つもっていれば発病しませんが、異常遺伝子が子供に遺伝する場合があります。どの子供も異常な遺伝子を2つ受け継ぐ確率は25%で(この場合は発病します)、正常な遺伝子を2つ受け継ぐ確率も25%、異常な遺伝子と正常な遺伝子を1つずつ受け継ぐ(つまり両親と同じくキャリアと呼ばれる状態になる)確率は50%です。

劣性非X連鎖遺伝子によって決まる形質には、一般に下記の原則があてはまります。

  • 形質をもつほとんどすべての人は、両親の2人ともその遺伝子をもっている。しかし、どちらの親にも形質が現れていない場合がある(これは、異常な遺伝子の発現にはそのコピーが2つ必要なため)。
  • 変異の結果として形質が発現することは非常にまれだと考えられる(そのためには両親の双方に変異が生じる必要がある)。
  • 親の一方には形質があり、他方は劣性遺伝子を1つもっていても形質がない場合、子供の半数に形質が現れると考えられる。残りの半数の子供は、劣性遺伝子を1つもつことになる。形質のない親が異常な劣性遺伝子をもっていない場合、子供に形質は現れないが、その子供は異常遺伝子を子供に伝える。
  • 本人には異常な形質がなくても、兄弟姉妹に異常な形質がある場合、その人は異常な遺伝子を1つもっていると考えられる。
  • 男性も女性も等しく影響を受けると考えられる。
  • 異常はどの世代でも現れる可能性がありますが、普通は両親の双方に形質がある場合しか現れない。
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異常な常染色体劣性遺伝子の遺伝

異常な常染色体劣性遺伝子の遺伝

優性X連鎖遺伝子によって決まる形質には、一般に下記の原則があてはまります。

  • 異常が現れた男性は、その異常を娘には伝えるが、息子には伝えない(その男性の息子は、異常な遺伝子のないY染色体を受け継ぐため)。
  • 異常が現れた女性で、異常な遺伝子を1つだけもつ人は、平均で半数の子供に異常を伝える。子供の性別は問わない。
  • 異常が現れた女性で、遺伝子が両方とも異常な人は、子供全員に形質を伝える。
  • 男性の2倍の数の女性が異常をもつことになるが、これはその異常が男性にとって致死的でない場合に限る。

優性非X連鎖遺伝子と同様に、重い病気を起こす優性X連鎖遺伝子はまれです。その例には、家族性くる病(家族性低リン酸血症性くる病)(尿細管障害と嚢胞性腎疾患: 低リン酸血症性くる病を参照)やアルポート症候群(遺伝性腎炎)(尿細管障害と嚢胞性腎疾患: アルポート症候群を参照)などがあります。遺伝性くる病の女性は、男性に比べて骨に関係する症状はわずかです。遺伝性腎炎がある女性は、症状がなく、腎機能の異常もわずかですが、男性では成人期の初期に腎不全が発症します。

劣性X連鎖遺伝子によって決まる形質には、一般に下記の原則があてはまります。

  • 異常が現れるのはほとんどすべてが男性。
  • 異常が現れた男性の娘は、全員が遺伝子のキャリアとなる。
  • 異常が現れた男性は、形質を息子に伝えることはない。
  • 遺伝子をもつ女性は形質を現さないが(両方のX染色体上に異常遺伝子がある場合は除く)、息子の半数には遺伝子が伝わり、形質を現す。娘はだれも形質を現さないが、半数は遺伝子のキャリアとなる。

異常な劣性X連鎖遺伝子の遺伝

異常な劣性X連鎖遺伝子の遺伝

X連鎖遺伝子はX染色体に存在し、Y染色体には存在しません。異常劣性X連鎖遺伝子が原因で生じる病気は、通常は男性だけが発病します。これは、男性にはX染色体が1つしかないためです。女性にはX染色体が2つあり、普通は2つ目のX染色体に正常遺伝子を受け継ぐからです。正常遺伝子は優性なので、女性が発病するのを防ぎます。

父親がX染色体に異常劣性遺伝子をもち、母親が正常遺伝子を2つもっている場合、その娘は全員、異常遺伝子を1つと正常遺伝子を1つ受け継ぎ、キャリアとなります。息子が異常遺伝子を受け継ぐことはありません。

母親がキャリアで、父親の遺伝子が正常な場合、その息子は50%の確率で母親から異常遺伝子を受け継ぎます。娘は50%の確率で、異常遺伝子を1つと正常遺伝子を1つ(つまりキャリアになる)、あるいは正常遺伝子を2つ受け継ぎます。

よくみられる劣性X連鎖遺伝子の形質の例に赤緑色盲があります。これは白人男性では約10%にみられますが(訳注:日本人の男性では約5%)、女性ではめったにみられません。男性の場合、色盲の原因となる遺伝子は母親に由来します。この母親自身の視覚は正常ですが、色盲遺伝子のキャリアです。男性の色盲遺伝子が、父親のY染色体に由来することはありません。色盲の父親の娘が色盲になることはめったにありませんが、娘は全員が色盲遺伝子のキャリアです。

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異常なX連鎖遺伝子の遺伝

異常なX連鎖遺伝子の遺伝

相互優性遺伝子と浸透度

相互優性遺伝子は両方とも発現します。その一例に鎌状赤血球貧血があります。正常遺伝子を1つと異常遺伝子を1つもつ人では、正常と異常の両方の赤血球色素(ヘモグロビン)がつくられます。しかしこの場合の病気(鎌状赤血球形成傾向)は、異常遺伝子を2つもつ人に現れる病気(鎌状赤血球症)ほど重度ではありません。

さらに問題を複雑にしているのは、遺伝子が優性あるいは相互優性の場合(または、劣性で両方の染色体上に存在する場合)でも、浸透度(遺伝子が発現する割合または頻度)の違いから発現しない場合があることです。浸透度は、個人によって異なることもあります。

異常なミトコンドリア遺伝子

各細胞の内部にはミトコンドリアが存在します。ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する小さな構造物です。各ミトコンドリアはリング状の染色体を含んでいます。ミトコンドリア内部の染色体上にある異常遺伝子によって、いくつかのまれな病気が引き起こされます。その一例にレーバー遺伝性視神経症がありますが、この病気は両眼の視力に障害を生じます。障害の程度はさまざまですが、壊滅的な場合もしばしばあり、典型的には10代で発病します。他の例として、2型糖尿病と難聴を特徴とする症候群があります。

卵子が受精すると、卵子に由来するミトコンドリアだけが発育する胎児の一部となり、精子に由来するミトコンドリアはすべて捨てられます。したがって、異常なミトコンドリア遺伝子は母親から伝わることになります。異常なミトコンドリア遺伝子をもつ父親が、子供に病気を伝えることはありません。

細胞核内のDNAと異なり、ミトコンドリアDNAは体中の細胞ごとに異なります。1つの細胞内の複数のミトコンドリア間でさえ異なる場合があります。したがって、ある体細胞の異常なミトコンドリア遺伝子が、他の細胞でも疾患の原因となるとは必ずしもいえません。2人の人が同じミトコンドリア遺伝子の異常をもっているようにみえても、病気の発現は2人の間で非常に異なる場合があります。このことから、ミトコンドリア遺伝子異常をもつことがわかっている人、あるいは疑わしい人に対して予測を行う際、遺伝子検査や遺伝カウンセリングの有効性は限られたものになります。

癌を引き起こす遺伝子

ある種の遺伝子は、癌細胞の発生と複製に部分的に関与します。このような遺伝子は、細胞の増殖を制限したり、細胞分裂を調節する遺伝子によってコードされているタンパク質の、量や性質を変化させることがあります。これらの遺伝子は、癌遺伝子(オンコジーン)と癌抑制遺伝子という2つの主要な分類に分けられます。

癌遺伝子は、正常時は細胞の増殖を制限する遺伝子に異常が生じたものです。通常、癌遺伝子は不活性です。しかし、活性化して、分裂すべきでないのに細胞に分裂を指示するようになると、癌が発生する場合があります。癌遺伝子の活性化のしくみについては完全には明らかになっていませんが、化学的発癌物質(タバコの煙に含まれる物質など)や感染性因子(ある種のウイルスなど)などの、多くの要因が関与していると思われます。また、DNAの転座(DNAの一部がある染色体から離れて別の染色体に結合すること)などによる、染色体の再配列も癌遺伝子を活性化する場合があります(慢性骨髄性白血病など)。

癌抑制遺伝子は、正常時は癌の発生と増殖を抑えるタンパク質をコードして、癌の発生を抑制します。癌抑制遺伝子に変異が生じると、細胞周期(複製、増殖、死)の調節が適切に行われなくなり、影響を受けた細胞が連続的に分裂して癌が生じます。

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