筋肉のけいれんとは、突然起きて短時間だけ持続する、意図しない(不随意の)筋肉または筋肉群の収縮で、通常は痛みを伴います。筋肉のけいれんは、 神経系の機能不全の症状 脳、脊髄、末梢神経の病気の症状に関する序 脳、脊髄、神経が侵される病気を神経疾患と呼びます。 神経症状とは、神経系の一部または全体が侵された結果起こる症状のことで、神経系は非常に多くの身体機能を制御しているため、該当する症状は多岐にわたります。症状には、 頭痛や 腰痛など、あらゆる種類の痛みが含まれます。筋肉の運動、皮膚の感覚、特殊感覚(視覚、味覚、嗅覚、聴覚)が正常に機能するた... さらに読む である可能性があります。
筋肉のけいれんの原因
筋肉のけいれんの最も一般的な原因は以下のものです。
明らかな理由なく起こる脚の筋肉の良性のけいれん(典型的には夜間に発生する)
運動に伴う筋肉のけいれん(運動中または運動後に発生する)
筋肉のけいれん(「筋肉がつる」とも表現されます)は、健康な人にもしばしば起こり、通常は中高年の人によくみられますが、ときに若い人に起こることもあります。筋肉のけいれんは、激しい運動の最中や後に起こる傾向がありますが、ときに安静時にも起こります。就寝中に脚の筋肉に痛みを伴うけいれんが起きる人もいます。 睡眠に関連する脚の筋肉のけいれん 睡眠に関連する脚の筋肉のけいれん 睡眠時随伴症とは、入眠直前、睡眠中、または覚醒時に起こる異常行動のことを指します。 ( 睡眠の概要も参照のこと。) 成人でも小児でも、睡眠中に、ほとんど記憶に残らない様々な行動を無意識のうちに起こすことがあります。 入眠の直前に腕や体全体がビクッと動くことはほぼすべての人が経験します。ときには脚にも同様の現象がみられます。入眠直後や覚醒時に、睡眠麻痺(体を動かそうとしても動かせない状態)が起こったり、浮かんでは消える短時間の映像や思考が... さらに読む は、ふくらはぎや足の筋肉に起こることが多く、その場合は足や足指が下方へ屈曲します。このような筋肉のけいれんは、痛みを伴うものの、通常は良性の(重篤でない)けいれんです。
筋肉のけいれんは、ほぼすべての人に時折みられる現象ですが、特定の異常があると、けいれんのリスクや重症度が高まります。具体的には以下のものがあります。
ふくらはぎの筋肉の張り(ストレッチの不足、運動不足、ときに下腿(膝から足首までの部分)への体液の蓄積[浮腫と呼ばれる]が繰り返されることなどに起因する)
血液中の電解質(カリウム 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む 、 マグネシウム 低マグネシウム血症(血液中のマグネシウム濃度が低いこと) 低マグネシウム血症とは、血液中のマグネシウム濃度が非常に低い状態をいいます。 ( 電解質の概要、 体内でのマグネシウムの役割の概要も参照のこと。) マグネシウムは体内に存在する 電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むと電荷を帯びる ミネラルですが、体内の大半のマグネシウムは電荷を帯びておらず、タンパク質と結合しているか、骨に蓄えられています。血液中に含まれる マグネシウムはごく微量であるものの、骨や歯の形成および、神経や筋肉の正常... さらに読む 、 カルシウム 低カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が低いこと) 低カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カルシウム濃度の低下は、副甲状腺の問題や、食事、腎疾患、特定の薬剤などが原因で発生します。 低カルシウム血症が進行すると、強い痛みを伴う筋肉のけいれんがよくみられ、そのほかに錯乱、抑うつ、忘れっぽくなる、唇や指や足のピリピリ感、筋肉のこわばりと疼きなどの症状が現れることもあります。 通常は一般的な血液検査で発見されます。... さらに読む など)濃度の低下
特定の薬剤の使用
電解質濃度が低下する原因として、一部の利尿薬の使用、アルコール依存症、特定のホルモン(内分泌)の病気、 ビタミンD欠乏症 ビタミンD欠乏症 ビタミンD欠乏症の最も一般的な原因は、太陽の光を十分に浴びないことです。一部の病気もこの欠乏症の原因になります。 最も一般的な原因は太陽の光を十分に浴びないことで、食事のビタミンDも欠乏している場合が通常ですが、ある種の病気で欠乏症になることもあります。 ビタミンDが不足すると、筋肉や骨が弱くなり、痛みを感じます。 乳児の場合はくる病が生じ、頭蓋骨が柔らかくなって骨の成長に異常がみられ、座ったりはいはいができるようになる時期が遅くなりま... さらに読む 、体液の喪失(とそれに伴う電解質の喪失)を引き起こす他の病気などがあります。電解質の濃度は、妊娠の後期にも低くなることがあります。
透析 透析 透析とは、体内の老廃物や過剰な水分を機械的に取り除く処置のことで、腎臓が十分な機能を果たさなくなったときに必要になります。 透析が必要になる理由はいくつかありますが、最も多いのは、腎臓が血液から老廃物を十分にろ過できなくなること(腎不全)です。腎臓の機能は急速に低下することもあれば(... さらに読む の直後に筋肉のけいれんが起こることもありますが、その原因としては、透析により体液があまりに大量に、あるいはあまりに急激に除去されたり、電解質の濃度が低下したりすることが考えられます。
類似の症状を引き起こす病気
一部の病気は筋肉のけいれんに似た症状を引き起こします。
ジストニア ジストニア ジストニアは、長時間続く(持続性の)不随意な筋収縮を特徴とし、患者は異常な姿勢を強いられます。例えば、体全体、体幹、四肢、または首がねじれたりします。 ジストニアの原因は、遺伝子の突然変異、病気、または薬剤です。 ジストニアが生じた部位の筋肉は収縮し、その体の部位がゆがみ、数分から数時間にわたり収縮したままになってしまいます。 診断は、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。... さらに読む では、不随意な筋収縮がみられますが、通常は筋肉のけいれんよりも長く続き、より頻繁に起こります。また、ふくらはぎ以外の筋肉に起こりやすい傾向があり、脚だけでなく腕の筋肉のほか、背中、首、声帯の筋肉など、他の多くの筋肉にもみられます。反対に、脚の筋肉の良性のけいれんや運動に伴う筋肉のけいれんは、ふくらはぎに起こる傾向があります。
テタニーは、体中の筋肉が持続的または周期的にけいれん(れん縮)する現象です。このれん縮は通常、筋肉のけいれんよりはるかに長く続き、より広範囲に及びます。筋肉がひきつることもあります。
一部の人では、けいれんの錯覚が起こることもあります。これは、実際には筋収縮が起こっていないのに、筋肉のけいれんが起こっているかのように感じる状態です。
筋肉のけいれんの評価
以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。
警戒すべき徴候
筋肉のけいれんのある人に以下の症状や特徴がみられる場合は、特に注意が必要です。
腕または体幹の筋肉のけいれん
筋肉のひきつり
アルコール依存症
筋力低下
体液の喪失(脱水)後または利尿薬の使用後に起こる筋肉のけいれん
感覚の消失または痛み(筋肉のけいれんと同時に起こる場合を除く)
腕もしくは体幹の筋肉のけいれん、または筋肉のひきつりがみられる場合は、良性の脚のけいれんや運動に伴う筋肉のけいれんではなく、何らかの病気(電解質もしくはホルモンの病気)や薬剤が原因である可能性が高くなります。
受診のタイミング
筋肉のけいれんに加え、アルコール依存症、突然の筋力低下もしくは感覚の消失、または重度の症状がみられる場合や、嘔吐、下痢、大量発汗などによって体液を喪失した場合は、直ちに医師の診察を受けてください。それ以外の人は、主治医に電話をして、どの程度早急な受診が必要か相談してください。
医師が行うこと
医師はまず、症状と 病歴 神経疾患に関する病歴聴取 医師は身体診察を始める前に、まず問診を行います。 医師はそこで、神経系に関連した症状( 神経症状 )も含めて、その時点での病状を説明するよう患者に求めます。 詳細にどのような症状があるか 症状はどこに、どれくらいの頻度で起きているか 症状はどれくらい重いか さらに読む について質問し、次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、原因と必要になる検査を推測することができます。
医師は患者に以下のような筋肉のけいれんの特徴について尋ねます。
いつ起こるか
持続時間
どれくらいの頻度で起きるか
症状がある部位はどこか
誘因と思われる出来事があるかどうか
他の症状があるかどうか
医師はまた、原因の手がかりを示唆する以下のような症状がないかを尋ねます。
月経がないまたは月経不順(妊娠に関連する脚のけいれんを示唆する症状)
嘔吐、下痢、利尿薬の使用、過度の運動、発汗(体液または電解質の喪失を示唆する症状)
寒さに耐えられない、体重増加、皮膚が厚く粗くなる(甲状腺機能低下症を示唆する症状)
筋力低下、痛み、感覚の消失(神経の病気を示唆する症状)
医師はまた、薬剤の使用やアルコールの摂取、最近の透析治療、過去に透析に関連して筋肉のけいれんが起こったことがあるかどうかについても尋ねます。
身体診察では、まず神経系(神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む )に焦点が置かれ、筋肉や反射の評価などが行われます。
医師はまた、皮膚を見て次のような病気の徴候がないかを探します。
アルコール依存症(毛細血管拡張症、手のひらの紅潮、男性では陰毛の生え方の変化など)
甲状腺機能低下症(顔のむくみ、眉毛の脱落など)
脱水(皮膚の弾力性の低下など)
検査
決まって行われる検査はありません。その代わりに、病歴と身体診察の結果に基づいて検査を行います。
筋肉のけいれんが広範囲に及ぶ場合、特に反射が過剰になっている場合には、血糖値と電解質(カルシウムとマグネシウムなど)の血中濃度を測定し、さらに(カルシウムやマグネシウムの値の異常を引き起こす)腎臓の機能不全の有無を確認する血液検査が行われます。
けいれんが起きる筋肉に筋力の低下もみられる場合は、 筋電図検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む が行われることがあります。この検査では、筋肉に小さな針を刺し、その筋肉が休んでいるときと収縮しているときの電気的活動を記録します。
筋力の 低下 筋力低下 筋力低下または脱力とは、筋肉の力が低下することで、どれだけ頑張っても筋肉を正常に動かすことができない状態をいいます。しかし、これらの用語はしばしば誤った使い方をされます。多くの人は、筋肉の力(筋力)は正常であるにもかかわらず、単なる 疲労感を「脱力感」と言ったり、痛みや関節のこわばりが原因で動きが制限されているだけなのに「筋力が落ちた」と表現したりすることがあります。 筋力低下は、... さらに読む が広範囲に及び、それが神経系の問題に関連していると考えられる場合は、脳と脊髄の MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む が行われます。
筋肉のけいれんの予防
筋肉のけいれんには予防が最善のアプローチです。以下のような対策が役に立ちます。
食後すぐに運動することを控える
運動や就寝の前に筋肉の軽いストレッチをする
運動後に十分な水分(特にカリウムを含むスポーツ飲料)を摂取する
カフェイン(コーヒーやチョコレートなど)の摂取を控える
禁煙する
エフェドリンやプソイドエフェドリン(処方せんなしで薬局などで購入できる製品に含まれる鼻閉改善薬)などの、刺激薬の使用を避ける
ストレッチをすると筋肉と腱の柔軟性が高まるため、筋肉が意図せずに収縮することが少なくなります。ランナーストレッチ(腓腹筋のストレッチ)は、ふくらはぎのけいれん(こむら返り)を予防する最善のストレッチ法です。片脚を前に出して膝を曲げ、後方の脚は膝を伸ばした姿勢(ランジ姿勢)で立ちます。バランスを取るために手を壁につけてもよいでしょう。両足のかかとは床につけたままにします。そして前方の脚の膝を、後方の脚の後ろ側が伸びているのを感じられるまでさらに深く曲げます。両足の距離が離れているほど、また前方の膝が深く曲がっているほど、後方の脚の背側の筋肉はよりいっそう伸ばされます。後方の膝を伸ばした状態で姿勢を30秒間保ち、それを4~5回繰り返します。その後、このセットを反対側でも繰り返します。
筋肉のけいれんの治療
筋肉のけいれんの原因となる病気が見つかった場合は、その治療を行います。
筋肉のけいれんが起きたときは、多くの場合、けいれんを起こしている筋肉を伸ばすことで緩和できます。例えば、ふくらはぎのけいれんの場合は、手で足やつま先を上方に引っ張るか、ランナーストレッチを行います。ある種のけいれんは、マッサージをすると一時的に痛みが和らぐことがあります。
筋肉のけいれんの再発を予防する目的で処方される薬剤(カルシウムサプリメント、炭酸マグネシウム、ジアゼパムのようなベンゾジアゼピン系の薬剤など)のほとんどは、有効性が証明されていないうえ、副作用を起こす可能性があります。キニーネには、不整脈や嘔吐、視覚障害、耳鳴り、頭痛などの副作用があるため、筋肉のけいれんの治療としてはもはや推奨されていません。メキシレチン(不整脈の治療に用いられる)が役に立つ場合もありますが、この薬にも吐き気、嘔吐、振戦(体の一部が律動的にふるえる症状)、けいれん発作などの様々な副作用があります。
要点
脚のけいれんはよくみられます。
最も一般的な原因は、良性の脚のけいれんや運動に伴う筋肉のけいれんです。
ストレッチをして、カフェインの摂取を控えると、筋肉のけいれんを予防するのに役立ちます。
通常、筋肉のけいれんの予防に薬物療法は勧められません。