多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。
診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。
せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。
(せん妄と認知症の概要 せん妄と認知症の概要 せん妄と 認知症は、認知機能障害(正常に知識を獲得、保持、使用できなくなる状態)の最も一般的な原因です。 せん妄と認知症は同時に発生することもありますが、この2つはまったく別の病態です。 せん妄は、突然発生して精神機能の変動をもたらしますが、通常は回復します。 認知症は、徐々に発生して、ゆっくり進行し、通常は不可逆的です。... さらに読む も参照のこと。)
せん妄という用語は、病名ではなく、異常な精神状態を指すものです。医学用語としての具体的な定義はあるものの、あらゆる種類の錯乱状態を総称する言葉として使用されることもしばしばあります。
せん妄と 認知症 認知症 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む はどちらも思考に影響を及ぼしますが、この2つはまったく別のものです。
せん妄では主に注意力が障害され、認知症では主に記憶力が障害されます。
せん妄は突然発生し、始まった時点を特定できる場合が多いです。認知症は一般にゆっくり発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できません(表「 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 」を参照)。
せん妄は決して正常な状態ではなく、通常は新たに発生した重篤な異常の徴候であり、特に高齢者に多くみられます。せん妄を発症した患者には、迅速な医学的処置を行う必要があります。せん妄は通常、その原因を特定して迅速に是正できれば治癒に至ります。
せん妄は一時的に発生する状態であるため、患者数を特定するのは困難ですが、入院患者では15~50%の人に発生します。
せん妄はどの年齢層でも起こりえますが、高齢になるほど多くなります。介護施設の入居者にはせん妄が多くみられます。若い人のせん妄は、通常薬物使用または生命を脅かす病気が原因で起こります。
せん妄の原因
多くの病気の発生時または悪化時に、せん妄が起こりえます。極めて病状が重い場合または脳の機能に影響を及ぼす薬(向精神薬)を使用した場合は、誰でもせん妄状態に陥る可能性があります。
全体として最も一般的な原因は以下のものです。
薬剤(特に抗コリン作用のあるもの、 向精神薬 抗コリン作用:どんな作用か? 、 オピオイド 抗コリン作用:どんな作用か? )
感染症(肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む 、血流感染症[ 敗血症 敗血症と敗血症性ショック 敗血症は、 菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加えて、体の重要な臓器に機能不全が起きている状態です。敗血症性ショックは、敗血症のために生命を脅かすほどの血圧の低下( ショック)と臓器不全が起きている病態です。 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内での感染が多くみられます。 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件に当てはまると、リスクが高くなります... さらに読む ]、全身に影響を及ぼし発熱をきたす感染症、 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む など)
腎不全 腎不全の概要 この章には、 COVID-19および急性腎障害(AKI)に関する新しいセクションが含まれています。 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく... さらに読む 、 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む 、血液中の酸素レベルの低下(低酸素症と呼ばれ、肺炎などで起こることがある)(特にこれらの病気が突然発生したり、急速に進行した場合)
入院、手術、長期間使用していた薬物からの離脱、その他の特定の病気、毒物なども原因になります。
高齢者、脳卒中を起こしたことのある人、 認知症 認知症 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む 患者、 パーキンソン病 パーキンソン病 パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。 パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。... さらに読む 患者、または別の病気に起因する脳損傷のある患者では、比較的軽い病態でもせん妄をきたす可能性があります。せん妄をもたらしうる重症度の低い病態には以下のものがあります。
尿路感染症などの些細な病気
痛み
膀胱カテーテル(膀胱から尿を排出するための細いチューブ)の使用
長期的な睡眠不足
感覚遮断(社会的に隔離された状態、眼鏡または補聴器を使用できない状態など)
人によっては、原因を特定できない場合もあります。
入院
病院 入院による錯乱と精神機能の低下 人は誰もが病気のために混乱することがあり、特に痛みや不安に対する薬を服用している場合、その可能性が高くなりますが、病院の環境が問題に拍車をかけます。個人的な持ち物や衣服は、その人のアイデンティティの象徴ですが、入院している人は指定のガウンを着なければなりません。見慣れた景色もなければ、普段の習慣もできない、見知らぬ場所で生活することになります。刺激(何かを見たり聞いたり、人と交流したりするなど)がほとんどない場合もしばしばあります。飾り... さらに読む 、特に集中治療室(ICU)などの慣れない場所にいることが、せん妄の原因やきっかけになる場合があります。
ICUとは、隔離された部屋で、一般的に窓や時計がありません。すると、感覚からの刺激が少なくなり、見当識が失われる可能性があります。また、夜間に検査や治療のために起こされたり、大きな信号音を出すモニター、インターホン、廊下から聞こえてくる声、アラーム音などが邪魔になったりして睡眠が妨げられます。また、ICUに入っている人の多くは重篤な病気を抱えていて、せん妄を誘発しうる薬を投与されていることがあります。
ICUに入っている患者は、けいれんを伴わない 発作 けいれん性疾患 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む (非けいれん性てんかん発作と呼ばれます)を起こすことがあります。このような発作がせん妄の原因になることがありますが、けいれんや、その他の典型的な発作の症状を伴わないため、誰も発作に気づかないことがあります。誰も発作に気づかなければ、迅速かつ適切な治療を行えません。
手術
せん妄は手術後にも非常に起こりやすくなります。原因としては手術によるストレス、手術中に使用される麻酔薬、術後に使用される鎮痛薬などが考えられます。
手術を受けようとしている患者が、普段使用する物質(レクリエーショナルドラッグ、アルコール、タバコなど)を摂取できない場合にせん妄が起こることもあります。このような物質をやめようとするときに、せん妄を伴う 離脱症状 離脱症状 物質使用障害では一般に、ある物質(例えば、レクリエーショナルドラッグ)の使用により問題が生じているにもかかわらず、その使用を継続する行動パターンがみられます。 そのような物質は、以下のような物質関連障害の典型的な原因として知られる10種類の薬物のいずれかであることが多いです。 アルコール 抗不安薬と鎮静薬 カフェイン さらに読む が生じることがあります。
薬剤の使用
せん妄の原因で可逆的なもののうち、最も多くを占めるのは薬剤です。若い人では、違法薬物の使用と急性 アルコール 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む 中毒が一般的な原因です。高齢者では通常、処方薬が原因です。
向精神薬は脳の神経細胞に直接作用し、ときにせん妄を引き起こします。具体的には以下のものがあります。
せん妄を引き起こす可能性のある薬剤はほかにも数多くあります。以下はその例です。
抗コリン作用のある薬剤 処方薬の便益とリスク (多くの市販薬の抗ヒスタミン薬)
アンフェタミン類 アンフェタミン類 アンフェタミン類は、特定の病状の治療に使用される中枢刺激薬ですが、乱用されることもあります。 アンフェタミン類には覚醒作用があり、身体機能を高め、高揚感や幸福感をもたらします。 アンフェタミン類には食欲を抑える作用があるため、体重を減らす目的で不適切にアンフェタミン類を使用する人もいます。 過剰摂取により異常な興奮、せん妄、生命を脅かすほどの体温上昇、 心臓発作や 脳卒中が起こることがあります。... さらに読む と コカイン コカイン コカインは、植物のコカの葉から作られる、依存性のある中枢刺激薬です。 コカインは、強い覚醒作用があり、人々に多幸感をもたらし、自分たちには力があると感じさせる強い刺激物です。 大量に摂取すると、 心臓発作や 脳卒中など、生命を脅かす重篤な病態を引き起こす可能性があります。 診断は尿検査により確定します。 ロラゼパムなどの鎮静薬を静脈内投与すると多くの症状が軽減します。 さらに読む (中枢刺激薬)
シメチジン
血圧を下げる薬(ベータ遮断薬を含む降圧薬)
コルチコステロイド
ジゴキシンほか、心疾患に使用する特定の薬剤
レボドパ
筋弛緩薬
薬剤からの離脱
病気
血液中の 電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む (カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなど)の濃度が異常になると、神経細胞による代謝活性が妨げられて、せん妄が起こることがあります。電解質濃度が異常になる原因には、利尿薬の使用、脱水、腎不全や広範囲に及ぶがんなどの病気があります。
血糖値が極めて高い(高血糖)または低い(低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む )場合にもせん妄がよく起こります。
甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの生産が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む (甲状腺の活動が不十分になった状態)では、せん妄が起こり、かつ反応が鈍くなります(嗜眠[しみん])。逆に活動が異常に高まった状態(甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む )では過活動を伴うせん妄が起こります。
肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む または 腎不全 腎不全の概要 この章には、 COVID-19および急性腎障害(AKI)に関する新しいセクションが含まれています。 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく... さらに読む を発症したにもかかわらず、診断されていない場合、長年使用し続けている薬剤で、以前は問題のなかったものがせん妄の原因になることがあります。肝不全または腎不全になると、薬物が肝臓または腎臓で処理されず、正常に除去されません。その結果、体内に蓄積した薬物が脳に達し、せん妄を引き起こすことがあります。
若い人のせん妄の原因は通常、(薬物とアルコールでなければ)以下のものです。
脳に直接影響を及ぼす病態(例えば、 髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症です。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫系を抑... さらに読む や 脳炎 脳炎 脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。 発熱、頭痛、けいれん発作が起こることがあり、眠気、しびれ、錯乱をきたすこともあります。 通常は頭部のMRI検査と腰椎穿刺が行われます。 治療としては、症状を緩和する処置が行われ、ときに抗ウイルス薬が用いられることもあります。... さらに読む などの脳感染症)
高齢者では、しばしば以下のものが原因になります。
尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む 、 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む 、 インフルエンザ インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む などのよくある感染症
このような感染症は、脳に間接的な影響を及ぼすことがあります。
ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症 ウェルニッケ脳症は、 チアミン欠乏により錯乱、眼の障害、平衡感覚の喪失を引き起こす脳疾患です。 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB群の1つである チアミンの重度の欠乏が原因で発症します。体内にチアミンが少量しか蓄えられていない場合、炭水化物の摂取が誘因となることがあります。 重度の アルコール使用障害の患者は、長期にわたる過剰なアルコール摂取により、消化管からのチアミンの吸収や、肝臓のチアミンの貯蓄が妨げられるため、しばしばウェルニッケ脳症... さらに読む は、ビタミンB群の1つであるチアミンの重度の欠乏によって発生し、錯乱やせん妄の原因になります。治療しないでいると、ウェルニッケ脳症から重度の脳損傷、昏睡、または死亡に至ることがあります。
一部の病気(脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 、 脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む 、 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む など)は、脳に直接損傷を与えることでせん妄の症状を引き起こします。
せん妄は高齢者におけるCOVID-19感染の最初の症状である場合があり、COVID-19の他の症状はみられない場合もあります。
毒物
せん妄の症状
通常、せん妄は突然始まり、数時間から数日間かけて進行します。せん妄状態の人の行動は様々ですが、おおまかには、徐々に酩酊していく人に似た状態になります。
せん妄の目印は以下の症状です。
注意を払えない
せん妄状態の人は何かに集中することができなくなるため、新しい情報を処理できず、最近の出来事を思い出せなくなります。そのため、自分の周りで何が起こっているのか理解できず、見当識障害と呼ばれる状態になります。現在の時刻や場所が突然分からなくなった場合は、せん妄の初期徴候である可能性があります。重度のせん妄では、自分や他の人が誰であるかも分からなくなることがあります。思考が乱れ、当てもなく歩き回ったり、ときに支離滅裂な行動をとったりします。
覚醒(意識)レベルの変動が大きく、異常なほど覚醒していても、次の瞬間には眠そうになり外部の刺激に鈍くなることもあります。その他の症状もしばしば分刻みで変化し、特に夕方に悪化する傾向があります(日没現象と呼ばれます)。
せん妄状態の人は、睡眠中も落ち着きがなかったり、睡眠と覚醒のサイクルが逆転して昼間に眠って夜間に起きていたりすることもよくあります。
奇妙で恐ろしい幻覚を見たり、実際にはいない人や存在しない物が見えたりすることもあります。なかにはパラノイア(迫害されているという根拠のない思い込み)や妄想(誤った強い思い込みで、通常は知覚や経験を誤って解釈してしまうことによって生じるもの)がみられる人もいます。
せん妄は人格や気分を変えてしまうこともあります。物静かで内向的になる結果、せん妄状態にあることを誰からも気づかれない人もいれば、イライラして、興奮状態で慌ただしく動き回る人もいます。鎮静薬の使用後にせん妄を起こした患者は、強い眠気を覚えて内向的になる可能性があります。アンフェタミン類を使用した人や鎮静薬の使用を中止した人は、攻撃的で過活動になることがあります。これら2種類の行動が交互にみられる人もいます。
せん妄は、重症度と原因に応じて数時間、数日間あるいはそれ以上続きます。せん妄の原因を速やかに特定して治療しないと、眠気と反応の鈍化が進行し、 昏迷 昏迷と昏睡 昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができず、刺激を受けても眼は閉じたままになっている状態です。 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。... さらに読む (非常に強い刺激を与えなければ覚醒しない状態)に陥ることがあります。昏迷は昏睡や死につながる危険性があります。
せん妄の診断
医師による評価
精神状態検査
血液検査、尿検査、画像検査により、可能性のある原因を調べる
医師は症状に基づいてせん妄を疑い、特に患者が注意を払えない場合や、注意力がころころと変動する場合、せん妄の可能性が高まります。しかし、軽度のせん妄は発見が困難な場合があります。入院患者のせん妄には医師も気づかないことがあります。
せん妄と考えられる人のほとんどは、入院させて評価を行い、本人と周囲の人のけがを予防します。入院させれば、診断を迅速かつ安全に行うことができ、何らかの病気が見つかればすぐに治療することも可能です。
せん妄は急速に死に至る重篤な病気によって起こる場合もあるため、医師はできるだけ迅速に原因を究明するよう努めます。多くの場合、原因を特定して治療を行えば、せん妄は消失します。
診断ではまず、精神機能に影響を与えるその他の病気と鑑別するため、患者の病歴に関する情報をできるだけ収集するとともに、身体診察と各種の検査を行います。
病歴
通常、せん妄状態にある人は受け答えができないため、医師は友人や家族など付き添いの人に質問をします。医師は以下のようなことを尋ねます。
錯乱がどのように始まったか(突然始まったか徐々に始まったか)
どのくらい速く進行したか
身体的および精神的な健康状態はどうだったか
どのような薬物(アルコールや違法薬物も含む[特に若い人の場合])や栄養補助食品(薬用ハーブも含む)を使用しているか
最近になって使用を開始または中止した薬剤はないか
このほかにも診療記録を調べたり、警察や救急隊から事情を聴いたり、薬剤のびんや特定の書類などの証拠を調べたりして、情報を収集します。家計簿、最近の手紙、未払いの請求書などの書類のほか、患者が約束を忘れた事実などがあれば、これらが精神機能の変化を発見する手がかりになることもあります。
せん妄に興奮、幻覚、妄想、またはパラノイアを伴う場合は、 躁うつ病 双極性障害 双極性障害(以前の躁うつ病)では、抑うつ状態と躁状態または軽躁状態(軽度の躁状態)が交互にみられます。躁状態は、過度の身体活動や、置かれた状況と著しく不釣り合いな高揚感を特徴とします。 ( 気分障害の概要も参照のこと。) 双極性障害の発症には、おそらく遺伝も一部関与しています。 抑うつ状態と躁状態は、別々に生じることもあれば、同時に生じることもあります。 過度に気持ちがふさぎ込んで人生に興味がなくなる時期と、気分が高揚し、極端に活動的に... さらに読む や 統合失調症 統合失調症 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む などの精神病との鑑別が必要になります。精神障害によって精神病症状が起きている人では、錯乱や記憶障害が起きることはなく、意識レベルも変化しません。高齢になってから初めて現れる精神病的な行動は、多くの場合、せん妄または認知症を意味します。
身体診察
身体診察では、感染症や脱水など、せん妄の原因になる病態の徴候がないかを調べます。 神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む も行います。
精神状態検査
せん妄が疑われる場合は、 精神状態検査 精神状態 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む を行うこともあります。医師はまず、主な問題が注意力の低下であるかどうかを判断するための質問をします。例えば、短いリストを読み上げ、それを復唱するよう患者に指示します。そして、患者が読み上げられた内容を記憶に取り入れている(記銘している)かどうかを判断します。せん妄状態の人はこれができません。精神状態検査では、ほかに短期記憶と長期記憶を調べたり、物の名前を言う、文章を書く、図形を描き写すなどの指示が与えられたりします。せん妄のある人は、この検査に反応できないほど、錯乱または興奮していたり内向的になっていたりすることがあります。
検査
血液と尿のサンプルを採取して分析し、疑われるせん妄の原因を調べます。例えば、電解質や血糖値の異常、肝疾患や腎疾患は、せん妄の一般的な原因です。そのため、医師は通常血液検査を行い、電解質濃度と血糖値を測定したり、肝臓や腎臓がどの程度機能しているかを調べます。甲状腺疾患が疑われる場合、甲状腺がどの程度機能しているかを評価するための検査を行います。特定の薬剤が原因であることが疑われる場合、血液中の薬物濃度を測定する検査を行います。この検査は、血液中の薬物濃度が有害な影響を与えるレベルであるか、患者が過剰摂取をしたかどうかを判定する上で役立ちます。
感染症の徴候がないかを調べるために 培養検査 微生物の培養検査 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や心... さらに読む が行われることもあります。せん妄の原因が肺炎であるかどうかを判断するために、胸部X線検査が行われることがあり、特に呼吸が速い高齢者では、発熱やせきがあるかどうかにかかわらずこの検査が行われます。
通常、脳のCT検査または脳MRI検査が行われます。
せん妄が、けいれん性疾患に起因するものでないかを調べるため、ときに脳の電気的活動を記録する検査(脳波検査 脳波検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む )が行われます。
心臓と肺の機能を評価するため、心電図検査、パルスオキシメーター(センサーを使用して血液中の酸素レベルを測定する検査法)、胸部X線検査が行われることもあります。
せん妄の治療
原因の治療
一般的な対策
興奮を管理する対策
せん妄がある人の大半は入院が必要です。ただし、せん妄の原因が容易に処置できるものであれば(例えば低血糖)、救急外来で短時間の経過観察を行っただけで帰宅できることもあります。
原因の治療
原因が特定できたら、速やかに是正または治療します。例えば、感染症であれば抗菌薬による治療を行い、脱水であれば水分と電解質を静脈内投与します。アルコールの離脱症状によるせん妄にはベンゾジアゼピン系薬剤を投与します(同時に、患者が再び飲酒しないようにするための対策も講じます)。
通常は、せん妄の原因疾患を速やかに治療すれば、恒久的な脳損傷を防止でき、完全な回復が得られます。
せん妄を悪化させる可能性のある薬剤は、可能であれば使用を中止します。
一般的な対策
一般的な対策も重要です。
できるだけ静かで落ち着ける環境を確保します。部屋に何があり誰がいるのか、そして自分がどこにいるのかが分かるように、十分な明るさを維持します。時計、カレンダー、家族の写真などを部屋に置いておくと、見当識を保つのに役立ちます。病院のスタッフや家族は、頻繁に話しかけて患者を安心させ、今何時か、今どこにいるのかを教えます。治療や処置の開始前と実施中には内容を患者に説明します。眼鏡や補聴器が必要な患者では、すぐに手に取れるところに置いておきます。
せん妄を起こしている人は 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む 、 低栄養 低栄養 低栄養とは、カロリーまたは1つ以上の必須栄養素が不足している状態です。 低栄養は、食べものを手に入れたり調理したりできない、食べものを食べたり吸収したりしにくくなる病気がある、またはカロリーの必要量が大幅に増えているということが原因で発生することがあります。 低栄養は、多くの場合、見た目にも明らかです。低体重で、しばしば骨が突き出ており、... さらに読む 、 失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは、自分では意図せずに尿が漏れることです。 尿失禁は、男女とも年齢を問わず起きる可能性がありますが、女性と高齢者でより多くみられ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%が尿失禁を起こしています。尿失禁は高齢者でより多くみられるものの、加齢に伴う正常な変化の一部ではありません。尿失禁は、利尿効果のある薬を服用した場合のように突然で一時的なこともあれば、長期にわたって持続すること(慢性)もあります。慢性の尿失禁であっても、ときに軽減... さらに読む 、 転倒 高齢者の転倒 転倒のほとんどは、身体的に動作やバランス能力に支障をきたす状態の高齢者が、環境内の障害物に遭遇したときに起きます。 多くの場合は転倒前に症状はないものの、めまいまたはその他の症状が現れている場合もあります。 転倒後、骨折または皮下出血がみられることがあります。 転倒の原因が病気か否かを判断するために、医師はしばしば検査を行います。... さらに読む 、 褥瘡 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫により皮膚に十分な血液が流れなくなることで生じる皮膚の損傷です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。 診断は通常、身体診察の結果に基づいて下されます。... さらに読む など多くの問題を起こしやすく、これらを予防するためのきめ細かいケアが必要です。したがってせん妄の患者、特に高齢の患者には、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、ソーシャルワーカーなど 複数の分野の専門家から成る集学的チーム 集学的ケア 高齢者のケアは複雑になりがちです。高齢者はしばしば異なる場所で複数の医療従事者にかかっています。年齢を重ねるにつれて移動や交通機関の利用が難題になります。また、メディケア(米国の高齢者医療保険制度)の処方薬プランでカバーされる薬が保険会社により異なり、頻繁に変更されます。このような複雑さに対応するには、かかりつけ医または高齢者のケアを専門... さらに読む が治療にあたることが有益です。
興奮の管理
患者が極度に興奮している場合や幻覚が起こっている場合は、自分自身や介護者にけがをさせる可能性があります。このようなけがを予防するためには、以下のような対策が有用です。
家族が患者に付き添う。
病室はナースステーションの近くにする。
必要に応じて付添人を手配する。
個々の患者の投薬計画はできるだけ単純化する。
点滴チューブ、膀胱カテーテル、抑制帯などの器具は、患者をさらに混乱または動揺させて受傷のリスクを高める可能性があるため、できるだけ使用しない。
しかし、入院中には、患者が点滴チューブを勝手に抜いたり転倒したりしないように、ときに抑制帯が必要になる場合もあります。拘束は患者を動揺させて興奮を悪化させるおそれがあるため、訓練を受けたスタッフが慎重に使用し、頻繁に外すようにするとともに、できるだけ早く使用を中止します。
薬剤は、他のどの方法でも効果が得られなかった場合にのみ使用します。興奮を抑える薬剤としては通常、次の2種類が使用されますが、どちらも理想的な薬剤ではありません。
抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む が最もよく使用されますが、興奮を長期化または悪化させるものもあり、なかには 抗コリン作用 抗コリン作用:どんな作用か? といって、錯乱、かすみ目、便秘、口腔乾燥、ふらつき、排尿の開始と持続困難、尿失禁などの副作用をもつものもあります。リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの比較的新しい抗精神病薬は、ハロペリドールなどの比較的古い抗精神病薬に比べると副作用は少ないです。しかし、これらの新しい抗精神病薬は、長期間使用すると、体重増加や脂肪(脂質)の値の異常(高脂血症 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む )をもたらすことがあり、 2型糖尿病 2型糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む のリスクを高めます。精神病症状のある認知症の高齢者では、これらの薬剤が脳卒中、そして死亡のリスクを高めるおそれがあります。
ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤(鎮静薬 不安症の治療に用いられる薬剤 の一種)は、鎮静薬またはアルコールからの離脱が原因でせん妄になっている人に使用されます。錯乱や眠気が強くなることがあるため(特に高齢者の場合)、その他の原因によるせん妄患者の治療にベンゾジアゼピン系薬剤は使用されません。
これらの薬剤が必要な場合、医師は慎重に処方し、患者が高齢の場合は特に注意を払います。用量もできるだけ少なくし、できるだけ早く使用を終わらせます。
せん妄の予後(経過の見通し)
原因を速やかに特定して治療すれば、せん妄を起こした人のほとんどが完全に回復します。治療が少しでも遅れると完全に回復する可能性は減少します。せん妄に対する治療を行っても、一部の症状は数週間から数カ月間続き、改善に時間がかかることもあります。場合によっては、せん妄から認知症に似た慢性の脳機能障害に発展することがあります。
入院患者でせん妄を起こした人は、入院中に合併症(死亡も含まれます)が起こる割合が、せん妄のない人と比べて最大で10倍高くなります。入院中にせん妄になった患者の35~40%が、1年以内に死亡しますが、死因はしばしば他の重篤な病気によるもので、せん妄そのものによって死亡するわけではありません。
入院患者でせん妄を起こした人(特に高齢者)は、入院期間が長くなり、治療費も高くなります。退院後の回復にも時間がかかります。