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痴呆

痴呆とは記憶、思考、判断に関する精神機能が、徐々に失われていき、学習能力が損なわれる状態を指します。

米国には現在、推定約600万人の痴呆患者がいます。痴呆が起こりやすい年齢は65歳以上で、この年代の約6〜8%の人が痴呆を患っています。全人口の中で最も急速に増えている年代でもある85歳以上になると、痴呆の割合は30%を超えます。しかし、痴呆は決して正常な加齢現象ではありません。100歳を超えても痴呆にならない人は半数以上います。

年をとれば脳に変化が起こり、短期記憶がいくぶん衰えたり、学習能力が遅くなります。これらは正常な老化の過程で、痴呆と違い脳機能が障害されているわけではありません。高齢者の記憶力の低下は、良性の初老期もの忘れとか、加齢による記憶障害と呼ばれますが、必ずしも痴呆やアルツハイマー病の初期の徴候ではありません。痴呆はもっと深刻な精神機能の衰えで、時間とともに悪化していきます。健康な人でも年をとるとものの置き場所を間違えたり細かいことを忘れたりしますが、痴呆の患者は起こった出来事をすべて忘れてしまいます。車の運転や料理、金銭の管理など、日常の生活行動が正常にできなくなります。

高齢者の中には、実際にはうつ病なのに、痴呆のようにみえる場合があります。これは仮性痴呆またはうつ状態の痴呆と呼ばれる障害で、食事や睡眠をほとんど摂取せず、自分の記憶が失われていることをひどく気にして愚痴を言います。これとは対照的に、本当の痴呆の場合は、自分の状態に対する認識がなく、しばしば忘れたことを否定します。仮性痴呆の場合は、うつ病を治療すれば精神機能も回復します。うつ状態は痴呆の人にも起きるため、その場合にはうつ病の治療で精神機能が改善しますが、完全には回復しません。

原因

痴呆の原因として最も多いのが、アルツハイマー病です。このほかにレビィ小体痴呆や、脳卒中によって脳組織が壊されたために起こる脳血管性痴呆(多発脳梗塞性痴呆)が多くみられます。これらの痴呆を同時に複数もっている、混合型痴呆と呼ばれる状態も少なくありません。

より少ない原因としてはパーキンソン病、エイズなどの感染症、正常圧水頭症、薬やアルコールの乱用があります。痴呆のまれな原因にはピック病、クロイツフェルト‐ヤコブ病、汚染された肉を食べたことによって起こるBSE(異型クロイツフェルト‐ヤコブ病、いわゆる狂牛病)があります。痴呆はまた、頭部外傷による脳の損傷や、心停止によっても起こります。ときには、小児の白血病や成人の脳腫瘍で頭部に放射線療法を受けた後、数カ月から数年もたってから痴呆が起こることがあります。これは晩発性放射線障害と呼ばれる状態の一部です。

痴呆を修飾して悪化させる病気があります。たとえば糖尿病、肺気腫、心不全などで、適切な治療を受けないと痴呆を悪化させます。ほとんどの患者で、これらの病気の治療が実質的に役立ちます。痴呆の症状が完全に回復する患者も約10%います。

多くの薬が、痴呆の症状を一時的に悪化させます。それらの薬の中には処方せんがなくても購入できる市販の睡眠補助薬(鎮静薬)、かぜ薬、抗不安薬、一部の抗うつ薬も含まれます。飲酒は、たとえ適量であっても痴呆を悪化させるおそれがあるため、専門家のほとんどが痴呆の人には禁酒することを勧めています。

症状

痴呆の人の精神機能は、普通2〜10年かけて徐々に悪化するのが典型的です。しかし痴呆が進む速さは原因によって異なります。脳血管性痴呆の場合は段階的に症状が悪化していく傾向があります。つまり新たな梗塞が起こるたびに急に悪くなって、その間にはいくらか改善する期間があります。アルツハイマー病やレビィ小体痴呆の場合には、より着実に悪化する傾向があります。

進行の速さには個人差もあります。前年の悪化の速さから翌年の悪化傾向を予測できることも少なくありません。また痴呆の人が介護型老人ホームなどの施設に移ると症状が悪化することがあります。これは施設の規則や毎日の生活リズムを覚えなければならないことが、痴呆の人に大変困難だからです。また痛み、息切れ、尿閉、便秘などがあるとせん妄を引き起こして、急激に錯乱状態がひどくなります。ただし、これらが治れば、それが起こる以前の機能レベルにまで戻ります。

痴呆はいつの間にか始まって時間をかけて悪化していくため、発症した日を特定することはできません。特に最近の出来事に関する記憶は、最初に衰えに気づく精神機能の1つです。痴呆が悪化すると時間の経過を追う能力と、人や場所やものを見分ける能力が低下します。痴呆がある人は、適切な言葉を見つけて使うことができず、計算などのための抽象的な思考力も衰えます。感情の変化は予想がつかず、喜びから悲しみへ切り替わったりします。人格の変化も、よくみられる現象です。しばしば、特定の性格傾向がより極端になっていきます。たとえば、お金の心配ばかりしていた人はますます金銭に執着するようになり、心配性の人は常に不安を抱えているようになります。さらに睡眠のパターンも異常になってきます。

痴呆患者の中には、異常を隠すのが上手な人もいて、彼らは小切手の清算、読書、仕事などの複雑な作業は避けようとします。生活を変えようとしない人は、日常的な行動が以前通りにできないことにイライラします。重要な用事を忘れたり、やり方を間違えたりします。たとえば、請求書の支払いを忘れたり、照明や暖房器具のスイッチを消し忘れたりします。

痴呆がある人は引きこもりがちになり、行動をうまく抑制できないために、わめく、ものを投げる、たたく、徘徊するなどで、周りの人を戸惑わせることがあります。これらの行動には、痴呆のさまざまな影響が関係しています。痴呆になると、見たものや聞いたものを理解することが困難になり、手伝いの申し出を脅迫のように感じ、殴りかかったりします。短期記憶能力が失われるために、相手から話されたことや自分が取った行動を思い出すことができません。同じ質問や会話を何度も繰り返したり、相手の注意を常に自分の方に向かせようとしたり、食事などをすでに済ませたのに何度も欲しがったりします。要求をはっきりと、あるいはまったく相手に伝えられないために、痛みがあればわめいたり、寂しい思いや怖い思いをすると、うろうろと徘徊したりします。痴呆患者の約10%は、幻覚、妄想、パラノイアを伴う精神病を合併します。

最終的には会話を続けられなくなり、話ができなくなります。最も進んだ痴呆では、脳の機能がほぼ完全に破壊されます。他人に全面的に頼る生活となり、多くの人が寝たきりになります。最後は、食べものをのどに詰まらせずに飲みこめなくなるため、しばしば肺炎などの感染症で亡くなります。

診断

もの忘れは、家族や医師が気づく痴呆の最初の徴候です。診断は、本人や家族に一連の質問をして行います。精神状態を調べるためにものの名前を言う、短いリストに並べられた項目を暗記して思い出す、文を書く、同じ形を描くなどの簡単な問題と作業からなるテストも行われます(精神状態の検査を参照)。神経心理学的検査と呼ばれる精密検査が必要になるのは、障害の程度や精神機能低下の有無を判定するときで、気分を含むあらゆる重要な精神機能をカバーするため、通常は検査に1〜3時間程度かかります。

診断は年齢、家族歴、症状の発症や進行状況、神経学的検査(脳、脊髄、神経の病気の診断: はじめにを参照)、脳卒中による脳損傷、アルコール依存、栄養不足など別の疾患の有無に基づいて行われます。

医師は、痴呆を起こしたり助長する治療可能な病気がないかを探します。たとえば甲状腺の病気、血液中の電解質濃度の異常、感染症、ビタミン欠乏(特にビタミンB12)、薬物中毒、うつ病などです。血液検査も行い、処方されているすべての薬の中に、痴呆の原因になる薬が含まれていないかもチェックします。痴呆としてのうつ病の手がかりを得るために、特に高齢者には、情動面の健康状態に関する質問がされます。また脳腫瘍、正常圧水頭症、脳卒中を除外するため、CTやMRIによる検査を実施します。

さらに統合失調症などの、痴呆とは無関係な身体的、精神的な病気についても検査が行われます。これらの病気を治療すると、痴呆患者の全身状態も改善するからです。

治療

ほとんどの痴呆は、どのような治療を行っても精神機能の回復はまず望めません。しかし痴呆を悪化させている病気を治すことで、機能低下の進行を遅らせることができます。痴呆とうつ病の両方がある場合には、セルトラリンやパロキセチンなどの抗うつ薬(うつ病の主な治療薬を参照)とカウンセリングが、少なくとも一時的には効果があります。禁酒により長期的な改善が期待できます。

環境対策: 療養のための環境を整えることも、非常に大切な治療になります。軽度から中等度の痴呆患者は、慣れた環境にいるときが最も精神機能が良いため、通常は自宅で療養できます。訪問看護師が自宅の安全面を評価し、改良すべき点は直します。たとえば薄暗い照明は危険なだけでなく、ものを正しく見分けられない症状をさらに悪化させる傾向があるため、明るいものに取り換えます。

慣れた建物の造りと毎日の決まったスケジュールも、痴呆患者の見当識を安定させ、安心感を与えます。ストレスの少ない活動を、毎日規則正しく行うようにスケジュールを組んであげると、自立していると感じられるようになります。また楽しい生産的な作業に注意を向けさせると、自分が必要とされていると感じさせることができます。このような活動はうつ症状を軽くする効果もあります。身体活動は特に大切で、興奮や徘徊などの異常行動を防ぐ効果があります。趣味や、最近の関心事、読書などの精神活動を続けるように励ましていきます。過度の刺激は避けるべきですが、患者が社会的に孤独だと感じないようにします。毎日の決まった行動を単純にして、患者には現実的な期待をもち、患者が威厳と自尊心を維持できるようにすれば、若干の改善もみられるでしょう。

痴呆は進行性なので、将来の計画をあらかじめ立てておくことが必須です。その計画作りには医師、ソーシャルワーカー、看護師、弁護士のアドバイスも必要ですが、最も大きな責任は家族にかかってきます。より介護体制が整った施設に移すことを決めたときには、痴呆の人が安全に暮らせて、自立心をできるだけ長く失わずに暮らすことができるような施設を探します。この施設選びの際には、痴呆の程度、家庭環境、家族や介護者を頼めるか、費用、痴呆とは無関係な病気や身体的トラブルの有無など、多くの要素を考慮します。

痴呆の人に良い環境をつくる

痴呆の患者が環境から受ける利点とは

  • 安全性:
    特別な安全対策が必要です。たとえば「忘れずに暖房を消すこと」などの注意書きを、大きな字で書いて目立つ場所に貼ったり、電化製品や暖房器具にはタイマーを取りつけたりします。徘徊がある場合は、車のキーを隠し、ドアには出入りを知らせるセンサーを設置します。身分証明の腕輪も、役立ちます。
  • 親しみやすさ:
    痴呆患者の精神機能は、馴染んだ環境で最も良く働きます。新しい家や町へ引っ越したり、家具を移動したり、壁を塗り替えただけでも、症状を悪化させることがあります。
  • 落ち着き:
    入浴、食事、睡眠などの行動を、決まったスケジュールで行うと、痴呆患者に安心感を与えます。また、常に同じ人が接するようにするのも、効果があります。
  • 見当識を補助する計画:
    大きい日めくりカレンダー、文字盤の大きな時計、ラジオ、照明が明るい部屋、終夜灯などを使って、見当識がもてるようにします。家族や介護者は、なるべく頻繁に声をかけ、今いる場所や何が起きているかを患者に伝えます。

薬: ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、タクリンは、一時的に精神機能を改善しますが、痴呆の進行を遅らせることはできません。

ハロペリドール、オランザピン、リスペリドンなどの抗精神病薬(主な抗精神病薬を参照)は、進行した痴呆に伴う興奮や感情の爆発を抑えるために用いられます。しかし、この目的にはあまり効果がなく、重大な副作用をもたらすことがあります。これらの抗精神病薬は、痴呆に加えて幻覚、妄想、パラノイアの症状がある患者に最も効果的です。

レシチン、メシル酸エルゴロイド、シクランデレートなど、いろいろなサプリメントが試されましたが、痴呆の治療効果が証明されたものはほとんどありません。記憶増強薬として市販されているサプリメントの「イチョウ」は、一部の痴呆患者にはいくぶん効果があるかもしれません(ハーブとサプリメント: イチョウ葉を参照)。ビタミンB12のサプリメントはビタミンB12欠乏症にだけ効き目があり、甲状腺ホルモン補充療法は甲状腺機能低下症にだけ効果があります。

終末期医療の問題: 痴呆があまり重症になってしまわないうちに、その先の医療と費用について取り決めておく必要があります。痴呆であっても判断力がまだ十分に残っている場合には、患者の法律上の正式な代理人として治療に関する決定を行う人を任命して、治療に関する希望があればその代理人や医師と一緒に話し合っておくようにします(死と終末期: 法と倫理の問題を参照、法的問題と倫理的問題: 事前指示書を参照)。

痴呆が悪化するにしたがって、治療は延命よりも、いかに患者の快適さを保つかに重点が移される傾向があります。たとえば代理人と家族は、人工栄養を許可するか、あるいは肺炎などの急性の病気を治療するか、について決定を下さなければなりません。これらの決定は、実際に決定が必要になる前に、できるだけ早く関係者全員で話し合っておくのが一番良いでしょう。

介護者のケア

痴呆患者のケアは非常にストレスが多く重労働なので、介護をする人は、つい自分自身の健康には精神的にも肉体的にも無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊したりします。介護者の状況を改善するために、以下のような対策があります:

  • 痴呆患者のニーズと、介護者への要望をうまく合わせる方法を学ぶ:
    たとえば、痴呆の人が間違えたり覚えられないことをしかっても、ますます患者の行動を悪化させるだけだと知っておく必要があります。そうした知識があれば、余計なストレスをためることもなくなります。日常の介護内容については、看護師、ソーシャルワーカー、社会福祉団体、出版物などから情報が得られます。
  • 必要なら応援を求める:
    患者特有の行動や能力、家族の状況、地域の受け入れ状況などによりますが、痴呆患者を24時間介護する負担を軽くする方法はあります。自治体の担当部署や病院のサービスを含む地域の福祉機関は、適切な介護支援組織を紹介しています。選択肢には、デイケアプログラム、訪問看護、パートやフルタイムのホームヘルパー、住みこみの家政婦などがあります。移動の援助や食事の宅配サービスなどもあります。フルタイムの介護を頼むと非常に費用がかかりますが、費用を補填するさまざまな保険もあります。介護者には、カウンセリングや支援団体のサポートが役に立ちます。
  • 介護者自身のケア:
    介護者は、自分自身の健康にも気を配る必要があります。たとえば、運動やスポーツをすると心身がリフレッシュされます。友人との交流、趣味、スポーツをやめずに続けましょう。

アルツハイマー病

アルツハイマー病は、進行性の容赦ない精神機能の消失で、神経細胞の消失、老人斑の発現、神経原線維の変化など、特徴的な脳組織の変性が起こります。

米国では、痴呆の最も多い原因がアルツハイマー病です。高齢者の痴呆の最大65%がアルツハイマー病によって起きています。60歳未満の人に起こることは非常にまれで、患者の数は高齢になるほど増えていきます。60〜64歳では人口の約1%に過ぎないのに対し、85歳以上になると30%にまで跳ね上がります。米国では約400万人ものアルツハイマー病患者がいます。

アルツハイマー病の原因はわかっていませんが、遺伝的要因も一役買っています。同じ親族に起こるケースでは、複数の特定遺伝子の異常が原因となっています。異常の1つは、血流中でコレステロールを輸送しているリポタンパクのタンパク部分であるアポリポタンパクE(apoE)に影響します。apoEには、e2、e3、e4の3種類があり、e4をもっている人はアルツハイマー病を発症しやすく、他のタイプよりも若いうちに起こります。対照的に、e2がある人はアルツハイマー病から保護されているようです。e3タイプの人は、アルツハイマー病にかかりにくいとも、かかりやすいともいえません。これらの関連は、主に白人を対象とした調査によるもので、他の人種にはあてはまらないかもしれません。apoEのタイプを遺伝学的に調べるだけでは、アルツハイマー病を発症するかどうかまでは判定できないので、検査は日常的には推奨されていません。

アルツハイマー病は、脳の複数の領域を変性させ、神経細胞を破壊します。さらに残った神経細胞についても、脳の信号を送っている神経伝達物質に対する応答を低下させます。脳組織に起こる異常には、アミロイドと呼ばれる異常な不溶性タンパク質を含む死んだ神経細胞のかたまりである老人斑と、神経細胞にねじれたひも状の不溶性タンパク質が現れる神経原線維の変化があります。これらの異常は、年をとればどの人にもある程度は現れますが、アルツハイマー病の人にはおびただしく発生します。

症状

アルツハイマー病による痴呆は、通常気づかないうちに始まります。会社に勤めているときであれば仕事に支障が出ますが、退職して家でじっとしている人の場合は、発症していても目立ちません。最初の徴候は最近の出来事を忘れることですが、うつ、恐怖、不安、感情の乏しさなど、人格の変化から始まる場合もあります。初期の段階では、判断力と抽象的な思考力が阻害されます。話し方にわずかな変化が出てきて、より簡単な単語や不正確な言葉を使ったり、適切な言葉を探せなくなります。標識の意味がわからなくなって車の運転が困難になります。アルツハイマー病の患者は、社会生活はできるものの、行動が普通ではなくなります。たとえば最近訪ねて来た人の名前を忘れたり、感情がめまぐるしく変化したり、買い物に出かけて道に迷ったりします。

アルツハイマー病が進行すると過去の記憶も失われてきます。食事、着替え、入浴、トイレに介助が必要になります。徘徊、興奮、イライラ、敵意、攻撃的な行動がみられるようになります。時間と場所の感覚がすべて失われるため、家の中ですらトイレへ行こうとして迷ったりします。こうした錯乱状態がひどくなると転倒しやすくなります。アルツハイマー病患者の約半数が、いずれかの時点で幻覚、妄想、パラノイアを伴う精神病を起こします。

最終的には、歩行や身の回りのことがまったくできなくなります。失禁するようになり、ものを飲みこんだり、食べたり、話したりもできなくなるため、栄養不足、肺炎、床ずれなどが起こりやすくなります。記憶は完全に失われます。こうなると全面的に他者に依存することになるので、特別養護老人ホームなどへの入居も必要になります。最終局面では、しばしば感染症を起こして昏睡から死亡に至ります。

病気が進む速さは予測困難です。診断確定後2〜10年は生存可能と考えられていますが、通常は3〜5年で亡くなります。平均すると歩けなくなってから6カ月以内に死亡しています。

診断

記憶が徐々に失われる高齢者の痴呆は、アルツハイマー病が疑われます。アルツハイマー病は、検査に基づいてほぼ正しく診断できますが、正しさが証明されるのは、死体を解剖し脳の組織を顕微鏡で調べて初めて実証されます。脳組織を調べると、脳のいたるところで神経細胞の消失、神経原線維の変化、アミロイドを含む老人斑がみられますが、新しい記憶形成にかかわる側頭葉領域で特に著しくなっています。脊髄液の分析とポジトロンCT(PET)検査(脳、脊髄、神経の病気の診断: ポジトロンCT検査を参照)が、アルツハイマー病の診断に一部で勧められていますが、発症リスクの予測やアルツハイマー病にかかっている人を正確に診断する精度はありません。

治療

アルツハイマー病の一般的な治療法は、すべてのタイプの痴呆に用いられる治療法と同じです(せん妄と痴呆: 治療を参照)。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの一部の薬が、アルツハイマー病の進行を妨げて遅らせる効果があるかは、現在研究中です。エストロゲンとビタミンEは病状の進行を遅らせるのに役立つようですが、研究結果にはばらつきがあります。これらの薬を使用する前には、そのリスクとメリットについて医師とよく話し合ってください。

ドネペジル、リバスチグミン、タクリン、ガランタミンは、神経伝達物質のアセチルコリンの濃度を上昇させますが、多くのタイプの痴呆でアセチルコリンの濃度は低下しています。これらの薬は認識機能を一時的に改善しますが、病気の進行を遅らせる効果まではありません。アルツハイマー病の人の約半数は、これらの薬による利益があり、6〜9カ月前まで時間を戻したような効果があります。薬が最も効くのは、病状が軽度から中等度の場合です。高価な薬で副作用もあるため、効果が期待できない場合には使用を続けない方がよいでしょう。最も多い副作用は吐き気、嘔吐、体重減少、腹痛、けいれんです。ドネペジルとガランタミンの副作用は通常軽度で、頻度も比較的少ないです。

イチョウ葉(通称EGb)のエキスは、すでに挙げた薬とほぼ同じ効果があるといわれていますが(ハーブとサプリメント: イチョウ葉を参照)、これについてはさらに臨床試験が必要です。

レビィ小体痴呆

レビィ小体痴呆は、脳の組織に起こる特有の変化により精神機能が徐々に失われる病気で、神経細胞にレビィ小体が現れ脳幹の一部が変性します。

レビィ小体痴呆は一般的な痴呆の原因ですが、その罹患率と重要性については専門家の間で意見が分かれています。女性よりも男性に多くみられます。脳の顕微鏡的な変化は、アルツハイマー病とは異なり、神経細胞にレビィ小体と呼ばれる異常な構造が見つかります。レビィ小体はパーキンソン病にも発生しますが、パーキンソン病では脳の一部分にしか発生しないのに対し、レビィ小体痴呆では脳のいたるところに発生します。

レビィ小体痴呆の症状は、アルツハイマー病の症状と非常に似ています。しかしレビィ小体痴呆患者の方が幻覚を見ることが多く、しかもより複雑で詳細な幻覚を見る傾向があります。また抗精神病薬の有害反応も、より重症になります(主な抗精神病薬を参照)。もう1つの顕著な特徴は、痴呆の初期段階で精神機能が日ごと劇的に変化することです。ある日、筋の通った会話をしていた人が、次の日には急にボーッとして、うとうとしたり、ほとんど何も話さなくなったりします。パーキンソン病の人にみられるように、レビィ小体痴呆の人も動作が緩慢で、腰を曲げ、足を引きずって歩きます。

発症後の予想生存期間は6〜12年です。レビィ小体痴呆に特有の治療法はなく、アルツハイマー病の治療に使われる薬が役立つでしょう。総合的な治療対策は、すべての痴呆の場合と同じです。

脳血管性痴呆

脳血管性痴呆(多発脳梗塞性痴呆)は、脳卒中による脳組織の破壊がもたらす精神機能障害で、少数の大きな梗塞によるものも、多数の小さな梗塞によるものもあります。

脳卒中の発作が何度も起こると脳血管性痴呆になることがあります。脳卒中は男性に多く、通常は70歳以降に始まります。脳血管性痴呆の危険因子には、高血圧と糖尿病があり、どちらも脳の血管を傷つけます。喫煙や以前の喫煙経験も危険因子になります。

脳卒中では、脳への血流が遮断され脳組織が徐々に破壊されます。破壊された場所は梗塞と呼ばれます。小さな脳卒中発作では、急激な筋力低下はほとんど起らず、大規模な脳卒中にみられる麻痺(まひ)もめったに起こりません。

アルツハイマー病による痴呆と異なり、脳血管性痴呆は段階的に進行していきます。突然悪化しますがその後はいくぶん改善し、再び悪化するのは、数カ月から数年後にもう一度脳卒中が起こったときだけです。記憶喪失、簡単な作業が行えない、徘徊を繰り返すなどの症状は、他の痴呆とほぼ同じですが、判断力と人格障害はアルツハイマー病の人ほど悪くなりません。症状は、破壊された脳の場所によって異なります。通常なら精神機能のいくつかは障害されませんが、脳卒中は脳の組織を部分的にしか破壊しないためです。

小さな卒中による神経学的徴候が見つかれば、脳血管性痴呆を確定する手がかりになります。これらの徴候には、視野が欠ける、話し方が遅く不明瞭になる、片方の脚に筋力低下もしくは麻痺がある、歩行困難などがあります。

脳血管性痴呆の一般的な治療法は、痴呆全般に対して行われる治療と同じです(せん妄と痴呆: 治療を参照)。糖尿病と高血圧をうまく治療すれば、脳血管性痴呆の予防や、進行を遅くしたり進行を止めるのに役立ちます。禁煙も推奨されています。

脳血管性痴呆に特有の治療法はありません。脳梗塞を起こした人には、それ以上の再発を防止するために、血液を固まりにくくする抗凝固薬が投与されることがあります。ワルファリンは強力な抗凝固薬で、不整脈のある人などに与えられます。不整脈があると心臓で発生した血のかたまりが脳へ移動し脳梗塞を引き起こすリスクが高いためです。アスピリンは、脳の血管が狭まって起こる脳梗塞に有効です。

その他の痴呆

痴呆は、さまざまな病気によって起こります。パーキンソン病患者の約15〜20%は遅かれ早かれ痴呆が現れてきます。

ピック病はまれな病気で、障害される脳の範囲がごく狭く、進行がより速いことを除けば、アルツハイマー病と多くの点で似ています。症状として無感情、記憶喪失、不注意、不潔になるなどがみられます。

正常圧水頭症は、正常な状態では脳を包んで外傷から脳を保護している脳脊髄液が、再吸収されなくなって起こります。そして脳を包む脳脊髄液量が増えて脳組織を圧迫し、珍しい痴呆を引き起こします。正常圧水頭症は、精神機能が消失するだけでなく、尿失禁や、脚を大きく開いてよろよろと歩く歩行の異常が起こります。正常圧水頭症は、診断が早ければドレナージ管で脳内にたまった余分な脳脊髄液を排出するシャント手術で治療できます。この治療を行った後は、精神機能よりも歩行障害と失禁障害が劇的に改善されます。

クロイツフェルト‐ヤコブ病は、異常タンパク質のプリオンによる感染症で、急速に進行する痴呆を起こすまれな病気です(プリオン病: はじめにを参照)。通常クロイツフェルト‐ヤコブ病の患者は、急速に痴呆が重度になり、しばしば1年以内に死亡します。治療法はありません。異型クロイツフェルト‐ヤコブ病(いわゆる狂牛病)は、汚染された牛肉を食べることによって起こると考えられており、クロイツフェルト‐ヤコブ病による痴呆と似た症状が現れます。この病気もプリオン感染によって起こる病気です。

エイズによる痴呆は、おそらくヒト免疫不全ウイルス(HIV)が脳に感染した結果と思われます。この痴呆は、初期のころは目立たないことが多く、数カ月から数年かけて着実に進行していきます。通常はエイズの他の症状が現れた後に起こり、症状には思考や表現の速度低下、集中力の欠如、無感情があります。動作も緩慢になり、筋力低下が起きて協調運動ができなくなります。ジドブジンなどのHIV治療薬によって、劇的に改善されることがあります。

ボクサー痴呆(慢性の進行性外傷性脳障害)は、頭部に繰り返し外傷を受けるボクサーなどに起こります。この病気はパーキンソン病に似た症状を起こし、中には正常圧水頭症に似た症状もみられます。

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