メルクマニュアル家庭版
米国メルク社とメルクマニュアル
メルクマニュアル家庭版
を検索
索引
記号
セクション

知っておきたい基礎知識

薬についての基礎知識

心臓と血管の病気

肺と気道の病気

骨、関節、筋肉の病気

脳、脊髄、神経の病気

心の健康問題

口と歯の病気

消化器の病気

肝臓と胆嚢の病気

腎臓と尿路の病気

栄養と代謝の障害

ホルモンの病気

血液の病気

免疫の病気

感染症

皮膚の病気

耳、鼻、のどの病気

眼の病気

男性の健康上の問題

女性の健康上の問題

小児の健康上の問題

事故と外傷

その他の話題

付録

解剖図

マルチメディア

単位の換算表

一般的な医学的検査

医薬品の一般名と主な商品名

情報源と支援団体

メルクマニュアル家庭版について

セクション

トピック

脳梗塞

脳梗塞は、脳に十分な血液と酸素が与えられないために、脳組織が壊死する病気です。

原因

脳梗塞は、脳に酸素と栄養を運んでいる動脈が閉塞して起こります。最も多いのが、内頸動脈の枝の閉塞です。血のかたまりである血栓や、アテローム動脈硬化によって生じたアテローマと呼ばれる脂肪沈着物の一部が、血管の壁からはがれて血流に乗って移動し、脳の動脈で詰まってしまうのが原因です。

血のかたまりは、動脈壁の中の脂肪沈着物が裂けるとできます。こうした脂肪沈着物が大きい場合(アテローム動脈硬化が起こるしくみを参照)、詰まった水道管のように、血液の流れを遅くして流量を減らします。血液の流れが遅くなるほど血のかたまりができやすくなり、その血のかたまりが動脈を狭めるリスクが高くなります。

血のかたまりは、他にも心臓や心臓弁膜などの場所にもできます。血のかたまりが動脈に詰まって起こる脳梗塞は、心臓の手術を行ったばかりの人、心臓弁膜症がある人、不整脈の中でも特に心房細動がある人に多く起きています。赤血球の数が過剰になる赤血球増加症などの病気では血液が濃くなるため、血のかたまりができやすくなります。

まれに、腕や脚の骨などの長い骨を骨折し、その骨髄の脂肪の小さな破片が遊離して血流で運ばれ、脳梗塞に似た症状が出ることがあります。小さな脂肪のかけらが寄り集まってかたまりになり動脈をふさいでしまった状態は、脂肪塞栓症候群と呼ばれています。

大量の血液を失ったり、ひどい低血圧のときのように脳に血液が十分に流れなくなっても、脳梗塞が引き起こされます。ときには脳に流れる血液の量は正常でも、血液中の酸素が不足しているために脳梗塞が起こる場合もあります。血液中の酸素濃度を低下させる病気には、重度の貧血による赤血球の不足、窒息、一酸化炭素中毒などがあります。このような病気によって生じる脳の障害は広範囲に及ぶことが多く、昏睡状態をもたらします。

脳梗塞は、炎症や感染症によって脳の血管が狭められたときにも起こります。コカインやアンフェタミンなどの薬は動脈を収縮させるため、脳の動脈が狭くなって脳梗塞を引き起こします。

症状

ほとんどの脳梗塞は突然に始まり急速に病状が進んで、数分から数時間以内に脳組織が壊死してしまいます。ほとんどの脳梗塞ではその後病状が安定して、損傷がそれ以上広がることはほとんどあるいはまったくありません。2〜3日で症状が安定するタイプは完成卒中と呼ばれ、塞栓によって突然動脈がふさがれるときに多く起こります。それほど一般的ではありませんが、症状が数時間から数日にわたって悪化し続け、脳組織が次々に壊死していく場合があり、このような脳梗塞は進行卒中と呼ばれます。病状が安定する期間を挟んで進行することが多く、その安定期間中は脳組織の破壊拡大も小休止して症状が幾分良くなります。このタイプの脳梗塞が起こりやすいのは、狭窄のある動脈にさらに血のかたまりができるときです。

血液と酸素が不足した脳の領域に対応して、多くのさまざまな症状が現れます。たとえば内頸動脈から枝分かれしている動脈が影響を受けると、片方の眼が見えなくなったり、左右どちらかの腕や脚に異常な感覚が生じて筋力が低下するのが一般的です。脳の後ろの椎骨動脈から枝分かれしている動脈が障害されると、めまいと回転性めまい、ものが二重に見える複視、左右の体全体の筋力低下などが起こります。ほかにも、ろれつが回らないなどの発話困難や、筋肉の協調運動ができなくなったりします。

広範な脳梗塞は、昏迷や昏睡をもたらすおそれがあります。また、小さな梗塞でも、うつ病になったり、感情が抑制できなくなって急に泣いたり笑ったりします。

脳梗塞は、脳内に水分がたまって腫れる脳浮腫の原因になります。脳の腫れが特に危険なのは、頭蓋骨は広がらないためです。その結果、脳梗塞を起こした範囲自体は拡大しなくても、圧力の上昇により脳が押されて組織の損傷が拡大し、神経学的な機能障害が悪化します。圧が非常に高くなると、脳は頭蓋の下に向かって押され、脳ヘルニアを生じます(ヘルニア:脳の圧迫を参照)。

脳梗塞で体を動かせなくなると、ある種の合併症が起こります。たとえば嘔吐物や刺激物を肺に吸いこんで誤嚥性肺炎を起こしたり、長時間同じ姿勢でいるために褥瘡(床ずれ)ができたり、脚を動かせないために脚や鼠径部(そけいぶ)の奥にある静脈に血のかたまりができる深部静脈血栓症を起こしたりします。

脳梗塞の見分けかた

脳卒中には早期治療が重要になるため、初期症状がどういうものかを知っておきましょう。

  • 突然、体の片側の腕や脚に筋力低下や麻痺が起こる
  • 突然、特に片方の眼がかすんだり、視力が失われる
  • 突然、錯乱が起こり、話すことも相手の話を理解することも困難になる
  • バランスと協調運動が失われ、転倒する
  • 明らかな理由がないのに突然ひどい頭痛が起こる
  • 体の片側の腕や脚の感覚が異常になったり、失われる

これら以外にも、多くの症状が現れます。一過性脳虚血発作でも同じ症状が現れますが、通常は10〜15分で、ときには1〜2時間で症状は消え、24時間以上続くことはありません。脳梗塞を示唆する症状が現れたときは、ただちに病院に行ってください。

診断

オーディオ

血流の乱れ

血流の乱れ

脳梗塞の診断は、通常病歴と診察所見に基づいて行われます。神経学的症状から、脳のどの動脈が詰まっているか特定することができます(脳の特定の領域が傷ついた場合を参照)。たとえば、左脚に筋力低下や麻痺がある場合は、左脚の筋肉の運動を調整している右脳領域の動脈閉塞を示唆しています。聴診器で内頸動脈の血流に雑音が聞こえる場合は、血管が狭くなっていることを示しています。

通常はMRI検査やCT検査を実施して、診断を確定します。MRI検査は、脳梗塞が始まってから数分以内に検出できます。また、CT検査でも発作から1時間以内には見つけ出せます。CTやMRIの画像は、脳出血、脳腫瘍、膿瘍などの脳の構造的病変と脳梗塞を識別する上でも有効です。脳血管造影は、脂肪沈着物や血のかたまりを手術で取り除く血管内膜切除術の適応のあるときや、血管に炎症が起こる血管炎の可能性が考えられるときに行われます。血管造影では脳の血流の状態を詳しく知ることができます(脳、脊髄、神経の病気の診断: 脳血管造影を参照)。磁気共鳴血管造影やカラードップラー超音波検査はともに、脳血管造影よりも体への負担が少ない検査です。これらの画像により、大きな動脈のどれが詰まっているかが明らかになりますが、血管炎に侵されている可能性がある中程度から細い動脈は映し出されません。

脳梗塞の原因を正確に特定すること、特に血管の閉塞が血のかたまり(血栓)と脂肪沈着物のどちらによるものかは重要です。閉塞が血栓による場合は、原因となる異常を修正しない限り、梗塞が再発しやすくなります。たとえば、拍動が不規則な心臓内には血栓ができやすいので、不整脈を治療することで新たな血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞の再発を予防できます。不整脈の疑いがあるときには、通常は心電図(ECG)を取ります。他にも心臓の病気の診断検査には、ホルター心電計(24時間連続して心拍数とリズムを記録する携帯型心電図監視装置(ホルター心電計による心電図の連続記録を参照))や、心室や心臓弁の画像を作成する心臓超音波検査(心エコー)(心血管系の病気の症状と診断: 心臓超音波検査とその他の超音波検査を参照)があります。

血液検査を行って、脳梗塞の原因が、貧血による赤血球不足、赤血球増加症、白血球のがんである白血病、感染症ではないことを確かめます。まれですが、単純ヘルぺスウイルスの感染症やくも膜下出血の確認が必要なときに、CT検査の実施後に脊椎穿刺(脳卒中: くも膜下出血を参照)が行われます。この検査は必ず事前に、CT検査やMRI検査によって脳が圧迫されていないことを確かめてから行われます。

治療

脳梗塞を示唆する症状は、緊急治療を要する状態です。迅速な行動が、損傷を減らしそれ以上の障害を食い止めます。

脳梗塞を起こした人が病院に運ばれると、まず最初に呼吸、心拍、血圧、体温を正常に戻す治療が行われます。血圧が低い場合は、輸液が行われます。心拍数が速すぎるときはベータ遮断薬(ベータ‐ブロッカー)などの薬で安定させ、遅すぎるときにはペースメーカーを埋め込むことがあります。発熱しているときは、熱を下げるためにアセトアミノフェン、イブプロフェン、冷却毛布が使用されます。体温上昇は、たとえ1〜2℃であっても脳梗塞による脳の損傷を劇的に悪化させます。フェイスマスクや経鼻チューブを使って酸素が投与され、輸液や薬を注入するための静脈ラインが確保されます。通常は170/110mmHgを超えていなければ、すぐには高血圧の治療は行われません。これは血圧が低くなりすぎてしまうと、脳組織が酸素を含んだ血液を十分に受け取ることができなくなるためです。

脳への血流の回復を早めるために、血のかたまりを溶かす組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)などの血栓溶解薬が静脈投与されます。血栓溶解薬は脳でもそれ以外の場所でも出血を引き起こすおそれがあるため、脳出血を起こした人には使用できません。そこで血栓溶解薬を使用する前に、CT検査やMRI検査で脳に出血がないことを確認します。効果を上げるためには、脳梗塞が起きてから3時間以内に血栓溶解薬の静脈投与を開始しなければなりません。しかし、患者のほとんどが脳梗塞が起きてから3〜6時間後に病院に到着するため、血栓溶解薬を静脈投与するには遅すぎます。一部の患者では、静脈からではなく動脈から薬を投与して、血栓に対して直接、より高濃度の薬を作用させます。動脈から薬を入れるときは、皮膚を切開して、カテーテルと呼ばれる細い柔軟性のあるチューブを動脈に挿入します。動脈に入ったカテーテルは、動脈の中を通って血のかたまりがある場所へ到達します。

進行卒中に対してはヘパリンなどの抗凝固薬が与えられますが、その有効性は証明されていません。ただし心房細動や心臓弁膜症がある人には、発作がすっかり治まってから脳梗塞の再発予防のために抗凝固薬が与えられます。抗凝固薬は脳出血のリスクを増やすため、薬の投与は血栓溶解薬による治療終了後少なくとも24時間たってから開始されます。抗凝固薬は、治療がなされていない高血圧の人や脳出血を起こした人には使用されません。

このほかにも、より治療効果を上げるための新しい試験的な治療法として、脳のある特定の神経伝達物質の受容体をブロックする方法があります。しかし、これらの方法は、まだ標準的には使われていません。

脳梗塞の発作が完了した段階では、一部の脳組織は壊死しているため、内頸動脈の閉塞を取り除く血管内膜切除術を行って血流を再開通させても、失われた機能を回復させることはできません。そのため通常は血管内膜切除術は行われません。しかし、軽い脳梗塞の後に、血管の閉塞を取り除けば、それ以後の再発のリスクを減らすことができます。

非常に重症の脳梗塞の場合には、脳の腫れを抑えて上昇した脳圧を下げるために、マンニトールなどの薬が与えられます。呼吸を確保するために人工呼吸器が必要になる場合もあります。

誤嚥性肺炎(肺炎: 吸引性肺炎を参照)と床ずれ(床ずれ(褥瘡): 予防を参照)を防ぐための処置は、早期に開始されます。深部静脈血栓症(静脈の疾患: 深部静脈血栓症を参照)を予防するためにヘパリンが皮膚下に注射されます。患者の膀胱と腸が正常に機能しているかを調べるために、病状のきめ細かなモニタリングを行います。しばしば、心不全、不整脈、肺感染症などの他の病気の治療が必要になります。高血圧の治療は、梗塞後の病状が安定した後に行われます。しばしば気分にむらが出て、特にうつ病になることが多いため、家族や友人は患者がうつ状態のようにみえたら、医師に知らせてください。うつ病は、薬物療法と心理療法によって治療できます(うつ病と躁病: 経過の見通しと治療を参照)。

脳梗塞の発作後、一部の患者には再発防止のために抗血小板薬や抗凝固薬のワルファリンが与えられます。

経過の見通し

脳梗塞を起こした人の約10%が正常機能をほぼ完全に取り戻していて、約25%は機能の大部分を取り戻しています。約40%の人は、特別の介護が必要な中等度から重度の障害が残り、残りのうち約10%の人が特別養護老人ホームなどの長期療養施設での介護が必要となります。中には肉体的にも精神的にも打ちのめされて、動くことも、しゃべることも、食べることも正常に行えなくなる人もいます。脳梗塞を起こした人の約15%は、入院中に死亡しています。死亡率は高齢者の方がより高くなります。

脳梗塞後の最初の数日間は、病状が改善するか悪化するか、医師にも予測がつきません。体の片側の麻痺がある人の約50%と、それよりも症状が軽い患者のほとんどが、退院時までに部分的に機能を回復して、最終的には必要な基本的動作は自分で行えるようになります。障害が起きた腕や脚の動きはぎこちなくても、考えたり歩いたりは問題なく行えます。脚よりも腕の動きが制限されることが多くなります。

ページの先頭へ

前へ: 一過性脳虚血発作

次へ: 脳出血

アニメーション
オーディオ
イラスト
写真
囲み解説
ビデオ
個人情報の取扱いご利用条件