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はじめに

脳は頭蓋骨の硬い分厚い骨によって外傷から守られています。また、脳脊髄液を含む組織の層(髄膜)に覆われており、これがクッションの役目を果たします。このおかげで、頭をぶつけても脳はほとんど傷つくことがなく、ほとんどの頭部外傷は軽症ですみます。

それでもなお、頭部外傷が重症になる場合があります。50歳未満の死亡や身体障害は、他のどんな神経損傷よりも頭部外傷によるものが多くなっています。米国では自動車事故の70%以上で頭部外傷が起きており、35歳未満の男性の死因のトップに上がっています。重症の場合の死亡率は50%近くにもなります。

頭部外傷の原因は約半数が自動車事故で、その他に自宅での転倒、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故、職場での機械操作中の事故などがあります。

頭部外傷の種類には、頭皮外傷、頭蓋骨骨折、脳しんとう、脳挫傷、脳裂傷、脳の内部や脳と頭蓋の間に血液がたまる頭蓋内血腫などがあります。頭蓋骨が骨折しなくても脳がダメージを受けることもあります。脳の損傷の重症度は、外傷の程度とは必ずしも相関しません。

症状

頭皮の表面に近い場所には多くの血管があるため、頭皮が切れるとおびただしく出血します。そのため、頭皮の外傷は実際以上に重症にみえます。

脳しんとうが起こると意識を失いますが、通常は15分未満です。頭にこぶができて、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐の症状が現れます。これらの症状は、普通は数日から数週間で消えますが、中にはたとえ軽症でも頭部外傷後の症状が長く続くことがあり、これを脳しんとう後症候群と呼んでいます(頭部外傷: 脳しんとうを参照)。

ある種の症状は、頭部外傷が重症で、脳機能が悪化していくことを示唆します。たとえば、眠気や錯乱が強まる、嘔吐が止まらない、頭痛がひどい、腕や脚の運動機能や感覚が失われる、人が見分けられず周囲の状況が理解できない、平衡感覚が失われる、会話や視力に問題がある、協調運動ができない、血圧が上がる、脈拍が遅くなる、鼻や口から透明な液体(脳脊髄液)が漏れ出るなどの症状です。これらの症状は、外傷を受けてから数時間後に現れますが、ときには何日もたってから現れることがあります。頭部外傷の患者には、医師はどんな症状に注意すべきかを説明します。患者が小児の場合は、外傷後数時間はどんな症状に注目すべきかが両親に伝えられます。もし症状が現れたときにはただちに医師の診察を受ける必要があります。

ヘルニア:脳の圧迫

脳内の出血や腫れによって、脳を頭蓋の下方へ押し下げる圧力が生じます。その結果、脳を上下左右に仕切っている比較的硬いシート状の組織の小さな開口部から、脳の組織が外へ押し出されヘルニアが起こります(この仕切りは、脳を覆う硬膜が拡張したものです)。最も多いタイプのヘルニアがテント切痕ヘルニアで、側頭葉の一部が、テント切痕と呼ばれる側頭葉と小脳を仕切る層の開口部から押し出されます。テント切痕ヘルニアが生じると、麻痺、昏迷、昏睡、異常な心拍リズム、呼吸困難や呼吸停止、心停止、死亡などの破滅的な状況がもたらされます。

頭蓋内圧が上昇すると脳機能が悪化します。脳の内部や周囲にある血管や組織が裂けて血液や水分が漏れ出すと、頭蓋内圧が上昇します。血液や水分がたまって血腫や浮腫ができ、脳が腫れてきます。頭蓋内圧が上昇するのは、内部が腫れて大きくなっても頭蓋骨は広がらないためです。頭蓋内圧が高まると脳組織が破壊され、どの領域が損傷したかによって、いろいろな機能が失われます(脳の機能障害: 部位別の機能障害を参照)。頭蓋内の圧力上昇により、脳が下方に押し下げられると、脳の区域の開口部から脳組織が異常に突出する、いわゆる脳ヘルニアが引き起こされます。脳ヘルニアが起こると、心拍と呼吸などの生命維持機能をコントロールしている脳幹が圧迫されて、生命の危険が生じます。意識消失や昏睡に陥り、死亡することもあります。

重症の頭部外傷の見分けかた

ほとんどの頭部外傷は、深刻なものではありません。重症かどうかは、症状によって見分けられます。脳機能の悪化を示す症状が起きているケースは重症で、下記のような症状が現れている場合は、成人でも小児でもすぐに治療が必要です。

  • 意識はあるが、嘔吐、顔面蒼白、神経過敏、眠気が6時間以上続いている
  • 意識を失った
  • 体の一部が動かなかったり、感覚がない
  • 人の顔が見分けられず、周囲の状況が理解できない
  • バランスを維持できない
  • 会話や視力に問題がある(ろれつが回らなかったり、ものがよく見えない)
  • 鼻や口から透明な液(脳脊髄液)が漏れ出る
  • ひどい頭痛がある

外傷後てんかんは、重度の頭部外傷による脳の損傷後、数カ月から数年で(通常は4年以内)起こります。けいれん発作(けいれん性疾患: はじめにを参照)は、脳まで貫通した重症の頭部外傷では約70%、脳まで達しなかった場合は約5〜30%で起こります。症状は、けいれん発作が脳のどの領域に由来するかによって異なります。前頭葉で発作が起きた場合は、体の反対側の腕や脚の筋肉がけいれんします。

経過の見通し

軽い頭部外傷であれば、ほとんどの人が数日以内に完全に回復します。

成人の重症頭部外傷では、最長で2年まで改善が続くことが期待できますが、ほとんどの回復は6カ月以内に起こります。小児の方がより完全に回復する傾向があり、外傷の重症度にかかわらず、より長期間にわたって回復が続きます。

重症の頭部外傷の最終的な経過は、完全に回復する場合から、さまざまな程度の身体障害が一生残る場合、そして死亡まであります。身体障害の種類と重症度は、損傷した脳の領域と損傷の程度によって決まります。ただし脳の無傷な領域が損傷した領域の機能を代行することがあり、その場合には部分的に機能が回復します。しかし、年齢とともに機能の代行能力は衰えてきます。たとえば言語機能は、幼い小児の脳では複数の領域で処理されていますが、成人では左右どちらかの脳だけに集中しています。左脳の言語野がひどい損傷を受けた場合、8歳未満の小児であれば右脳がほぼ正常な言語機能を代行します。しかし、成人が言語野に損傷を受けた場合、言語障害は一生残ります。

視力や、腕や脚の運動調節機能などの機能も、左右どちらかの脳の特定の領域でコントロールされているため、いったんこれらの領域が損傷すると障害が一生残ってしまいます。しかしリハビリテーションによって機能障害の程度を最小限にとどめることが可能です(リハビリテーション: 脳の傷害を参照)。

重症の頭部外傷によって意識が失われた後に記憶が回復するかどうかは、意識が戻るまでの時間の長さにかかっています。外傷後1週間以内に意識が戻る場合は、記憶が回復する可能性も高くなります。

診断と治療

頭部外傷が軽症で、患部に痛みがあるだけで他に症状がまったくない場合には、アセトアミノフェン(痛み: アセトアミノフェンを参照)(アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬[NSAIDs]ではありません)が使用されます。冷湿布は痛みを和らげる効果があります。負傷者には数時間付き添い人をつけて、新たな症状が現れないかを観察します。小児の軽度の頭部外傷であれば眠らせても構いませんが、一定の間隔をおいて起こし、目を覚ますかどうかを確かめます。起こす間隔は2〜4時間で、外傷の程度と小児の顔色や様子によって決めます。

頭部外傷によってたとえ短時間でも意識が失われたり、脳機能の悪化を示す症状が現れた場合には、ただちに医師の診察が必要です。

自動車事故による頭部外傷や、患者の意識がない場合には、救急車を呼びます。救急隊員は、頭部に重傷を負った人を移動する際には、外傷を悪化させないように非常に慎重に行います。意識が失われるほど重傷の場合には、そうでないことが判明するまで首の骨が折れているものと仮定して、患者の頭、首、脊椎を動かさないようにします。負傷者を硬い台に寝かせてベルトで固定し、体が動かないように慎重にパッドをあてます。

病院到着後、ただちに外傷の程度を調べるための診察が行われます。まず最初に心拍数、血圧、呼吸のバイタルサインがチェックされます。呼吸が弱いときには、人工呼吸器が必要になります。意識レベル、記憶、言語能力の状態がただちに調べられます(精神状態の検査を参照)。脳の基本的機能は、瞳孔の大きさと光への反応、熱さや針で刺された痛みなどへの反応、腕や脚が動かせるかどうかを調べて診断します。脳損傷の可能性がある場合は、CT検査やMRI検査を行います。従来のX線画像でも頭蓋骨の骨折場所はわかりますが、脳の損傷個所はほとんど映し出されません。これらの検査は、頸部骨折の判定にも利用されます。

重傷で負傷者の様態が悪化している場合には、脳の急激な腫れを抑えて頭蓋内圧を下げるためにマンニトールが静脈投与されます。マンニトールには水分を脳から吸い出し、尿にして排泄させる作用があります。ときには、腫れを抑えるためにコルチコステロイドを静脈投与します。小型の圧力計を頭蓋内に埋め込んで頭蓋内圧を測定し、治療効果を判定することがあります。替わりにカテーテルを脳内のスペース(脳室)の1つに挿入することもあります。脳室内の脳脊髄液(のうせきずいえき)は、髄膜の間を通って脳の表面を流れています。カテーテルを使って圧を監視するとともに、脳脊髄液を排出して頭蓋内圧を下げます。

頭部外傷が重症の場合、ほとんどの医師は、けいれん発作を予防するために、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸などの抗けいれん薬(てんかん発作の治療に使われる主な薬を参照)を最長2週間使用することを勧めています。発作が起こらなければ薬の使用は中止しますが、もし発作が起きてしまった場合は、抗けいれん薬の使用は数年間あるいは無期限に継続されます。

小児の頭部外傷

頭部外傷の多くは軽症で、小児の場合はほとんどが完全に回復します。しかし、米国では毎年100万人近い小児が頭部外傷を起こし、約16万5000人もが入院治療を受けています。入院した小児の約20人に1人が死亡し、また約10人に1人の割合で中等度から重度の長期に及ぶ合併症が起こります。

頭部外傷が最も多い年齢層は、1歳未満の乳児と15歳以上のティーンエイジャーで、少年の受傷率は少女の2倍にもなります。重症の頭部外傷は、自動車と自転車の事故によるものが多く、一方、軽症の頭部外傷は、家の中や近所での転倒によって起きています。高層アパートに住んでいる小児に、高所からの墜落による死亡が多くみられますが、これは防ぐことができるものです。米国では、乳児の頭部外傷の3分の2近くは、虐待によって起きています。

頭痛は、たとえ軽い頭部外傷でも起こります。緊急の診察を要するのは、脳機能の悪化を示す症状が起きているときです。

乳児では、頭蓋骨骨折により脳を覆っている膜が突出したままになって、髄液がたまって袋状になる成長骨折が起こります。この袋は3〜6週間かけて生じますが、これにより頭蓋骨骨折が初めて確認できることもあります。

重症の頭部外傷によって脳の発育が障害されると、身体的、知的、精神的な発達が妨げられます。合併症には、外傷の直前に起きた出来事の記憶を失う(逆行性健忘症)、行動の変化、情緒不安定、睡眠障害、知的能力の低下などがあります。重症の外傷で24時間以上意識がない場合、その50%は長期の合併症があり、2〜5%は重度の身体障害が残ります。幼い小児、特に乳児では、年長の小児よりも重症の頭部外傷で死亡する危険性が高くなります。

重度の頭部外傷の受傷後1週間の間に、5歳以上の小児の約5%と、5歳未満の約10%にてんかん発作が起こります。受傷後すぐに発作が始まるケースの方が、7日以上たってから起こるケースよりも、けいれん性疾患が後々まで残る可能性は少なくなります。

重症ですが比較的まれな合併症が、頭蓋内出血と血腫です。硬膜外血腫が生じると、年少の小児では数分から数時間にわたって徐々に意識が失われる傾向がありますが、一方、成人では症状が遅れて現れます。頭部外傷の乳児を揺すると、しんとう乳児症候群と呼ばれる状態を引き起こし、眼球の奥に出血する網膜出血をもたらします。

軽い頭部外傷の小児は、ほとんどが帰宅します。両親には、小児の嘔吐が長びいたり、眠気が増したりしないかを観察するように指示がなされます。夜は、小児をずっと起こしている必要はありませんが、医師の指示に従って、たとえば2〜4時間おきに起こして目覚めるかどうかを確かめる必要があります。中には入院して様子をみることが必要な場合もあります。該当するのは、眠気、意識消失(短時間でも)、しびれ、筋力低下、左右の瞳孔の大きさが異なる、けいれん発作、特定のタイプの頭蓋骨骨折(たとえば後頭部の骨折)などです。小児の頭蓋骨骨折の場合、脳の損傷を示す証拠がなければ必ず入院するとは限りません。それとは対照的に、乳児の頭蓋骨骨折で、特に陥没骨折の場合は、ほぼ必ず入院して観察します。また、虐待の疑いがある場合も病院に留めおかれます。

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