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ウイルス感染

ウイルス感染症はさまざまな炎症を起こします。髄膜(ウイルス性髄膜炎)、脳(ウイルス性脳炎)、脊髄(脊髄炎)、脊髄神経根(帯状疱疹)などです。ウイルス性脳炎の多くは、ウイルス性髄膜炎を伴います。ウイルス性脳炎は、髄膜よりも脳を直接障害するため、より重症です。

一部のウイルスは脳に直接感染して、突然脳炎を引き起こします。エコーウイルスやコクサッキーウイルスなどによるウイルス感染症は流行性です。ヘルペス、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、水ぼうそう(水痘)などの感染症は散発的に起こります。狂犬病による脳炎は致死的で、コウモリなどの動物にかまれると発症します。アルボウイルス脳炎と呼ばれる感染症は、蚊、マダニ、その他の節足動物が媒介します。リンパ球性脈絡髄膜炎などのウイルス性感染症は、げっ歯類が媒介します。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、急性脳炎のような炎症は起こさず、慢性の脳感染症を引き起こします。これはHIV脳症、またはエイズ痴呆と呼ばれています。

一部のウイルスは脳に直接感染せず、免疫反応を誘導して間接的に脳に炎症を起こします。このタイプの炎症は、傍感染性脳炎とか感染後性脳炎と呼ばれ、はしか(麻疹)、水ぼうそう、風疹などの感染に続いて5〜10日後に発症するのが典型的で、重度の障害を起こします。脊髄が侵されると、急性播種性脳脊髄炎を発症します(多発性硬化症とその関連疾患: その他の原発性脱髄疾患を参照)。

非常にまれですが、ウイルス感染後数週間、数カ月、数年もたってから脳炎を発症することもあります。1つの例が、亜急性硬化性全脳炎で、はしか感染に続いて起こることがある脳の炎症です。この病気にかかるのは、ほとんどが小児です(ウイルス感染症: 亜急性硬化性全脳炎を参照)。

症状

一部のウイルス感染は軽症で、発熱や全身のけん怠感など以外に特有の症状が現れないこともしばしばです。ウイルス性髄膜炎の症状は、細菌性髄膜炎のそれと似ていますが(熱、頭痛、嘔吐、脱力、首の硬直など)、通常はずっと軽症です。

ウイルス性脳炎は、人格の変化、けいれん発作、腕や脚の麻痺、錯乱、そして進行すると昏睡や死亡に至る眠気を起こします。単純ヘルペスウイルスによるヘルペス脳炎は、治療は可能ですが命にかかわる感染症で、初期の段階では、頭痛、発熱、インフルエンザ様症状があります。側頭葉の炎症を示唆する症状も起こります。これには、異臭、突然の出来事や過去の経験の鮮明なフラッシュバック、激しい情動などを伴うけいれん発作が含まれます。感染が進行すると脳が重度の損傷を受ける結果、錯乱、けいれん発作の頻発、昏睡などがみられるようになります。

ウイルス感染が脊髄に及ぶと、最初の症状は感染部位の背中の痛みです。侵された脊髄のレベルにより(椎骨の損傷領域とその影響を参照)、そこから神経が通っている体の部分にしびれと脱力が起こります。膀胱と腸の機能が損なわれることがあります。重症になると感覚が失われ、麻痺が起こり、膀胱と腸の調節機能が失われます。

診断

当初は症状が似ているため、ウイルス性の髄膜炎や脳炎と、細菌性髄膜炎や脳膿瘍などの病気と区別することは困難です。これらの病気のどれかの徴候が現れた時点で、医師は原因を特定しようと試みます。脊椎穿刺による脳脊髄液検査は、必ず行われます。ウイルス感染では、脳脊髄液中の白血球数が上昇し、細菌はまったく見つかりません。重大な炎症でなければ赤血球も検出されません。脳脊髄液サンプル中のウイルス抗体を検出するために免疫学的検査が行われますが、完了するまで数日を要します。この検査で特定の微生物を同定できる割合は半分以下です。脳脊髄液のウイルス培養は、難しい上に多くの日数を要するため、めったに行われません。ヘルペスウイルスなどの微生物の同定には、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が用いられます。

流行性ではなく側頭葉の炎症を示唆する症状がみられるときには、ヘルペス脳炎が疑われます。MRI検査は、側頭葉の腫れを検出できるため、迅速な診断に役立ちます。CT検査は、通常は重度の損傷を受けた後でなければ変化を検出できないため、この診断にはあまり役に立ちません。重症のヘルペス性脳炎では(最終的にはそうなる)、脳脊髄液中に多くの赤血球が含まれます。単純ヘルペスウイルスが原因かどうかを判定するには、ときには脳組織の生検(顕微鏡で調べるための標本を切除する)が必要になることがあります。

CT検査やMRI検査は、脳膿瘍や脳卒中、脳炎と似た症状が現れる血腫、動脈瘤、腫瘍などの構造的疾患を除外するためにも実施されます。

無菌性髄膜炎とは

「無菌性」という用語は、通常の検査で細菌がまったく同定されなかった髄膜炎に使われています。無菌性髄膜炎の原因には、白血病、リンパ腫、脳の癌などの非感染性疾患、化学療法薬などの髄液内に直接注入される薬の使用、移植臓器の拒絶反応を防ぐための免疫抑制薬、非ステロイド性抗炎症薬などがあります。しかし無菌性髄膜炎の大半はウイルスが原因です。したがって、医師はしばしば無菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎を同じ意味で使います。

無菌性髄膜炎には、短期間で治る急性のものと、症状が長びく慢性のものとがあります。通常は軽症で治療は必要ありませんが、まれに生命にかかわる重症になることがあります。

治療と経過の見通し

ウイルス感染の症状が頭痛と熱だけの場合は、治療もアセトアミノフェンの経口薬と、経口もしくは静脈注射による水分補給だけです。ウイルス性髄膜炎と軽度のウイルス性脳炎の多くは、自然に治癒するため、特別な治療は必要ありません。

一部の重症のウイルス感染には、抗ウイルス薬が有効です。ヘルペス脳炎は、抗ウイルス薬のアシクロビルで即座に治療すれば救命できます。診断が疑わしい場合は、アシクロビルを投与します。脳炎患者のうち単純ヘルペスウイルスが原因である例は、最大で3分の1にも上るためです。アシクロビルは単純ヘルペスウイルスと帯状疱疹には有効ですが、他の多くのウイルスには効果がありません。ガンシクロビルは、サイトメガロウイルスに効果があります。その他の感染症には、特異的な治療法がありません。治療は症状の緩和と、必要な場合は生命維持処置が行われます。

HIV感染には、複数の薬を併用して(HIV感染症の主な治療薬を参照)免疫系の機能を改善し、感染の進行と痴呆などの合併症を遅らせます。

多くの人が完全に回復します。生存と回復の可能性は、ウイルスの種類と治療の迅速性に大きく左右されます。たとえば、単純ヘルペスウイルスによる脳炎患者が回復するには、悪化して昏睡状態に陥る前にアシクロビルで治療しなければなりません。乳児は、永久的なダメージが残る可能性が高くなります。

狂犬病

狂犬病は、動物によって媒介されるウイルス感染症で、脳や脊髄に炎症を起こします。

通常、狂犬病ではウイルスが脊髄や脳に達すると死に至りますが、それまでに少なくとも10日を要します。かまれた部位によっては脳に到達するまで30〜50日かかります。この期間中にウイルスを根絶できれば死を免れます。

狂犬病ウイルスは、世界中に生息する多くの種類の野生動物や家畜に存在します。狂犬病に感染した動物は発病してから数週間後に死亡しますが、その間に頻繁に病気を広げます。

狂犬病ウイルスは唾液中に存在していて、感染した動物にかみつかれると伝播し、非常にまれですが、他の動物や人間を舐めたときにうつることもあります。ウイルスは無傷な皮膚を通過できないため、かまれた傷口や皮膚の裂け目から体内に侵入します。米国では、狂犬病患者のほとんど全員がコウモリから感染していますが、かまれた跡がないため、おそらくウイルスを吸いこんだのだろうと考えられています。

ウイルスは体内に入ると神経に沿って脊髄まで進み、さらに脳へ移動して、そこで増殖します。脳からは、別の神経に沿って唾液腺へ、さらに唾液中へと移動していきます。

狂犬病は、最も一般的な感染源であるイヌと同様に、ネコ、コウモリ、アライグマ、スカンク、キツネなど、多くのさまざまな動物から人へ伝染します。狂犬病がマウス、ラット、ハムスター、リスなどのげっ歯類や、ウサギ、野ウサギに伝染することはまれです。米国では、これらの動物から人への感染例は知られていません。鳥や爬虫類は、狂犬病を発病しません。米国ではワクチン接種により、イヌの狂犬病はほぼ根絶されました。世界中では、最近30年間に狂犬病にかかった人のほとんどは、野生動物にかまれたことが原因でした。しかしイヌのワクチン接種が普及していないラテンアメリカ、アフリカ、アジアの多くの国では、イヌの狂犬病がまだかなり発生しています。

狂犬病に、狂暴型と麻痺型があります。狂暴型狂犬病に感染した動物は興奮して暴れますが、やがて麻痺が起きて死亡します。麻痺型狂犬病に感染した動物は、最初から体の一部または全身に麻痺が起こります。ただし野生動物の場合は、狂暴型狂犬病に感染していても狂暴には見えません。通常はもっと微妙に行動が変化します。たとえばコウモリ、スカンク、アライグマ、キツネなどの夜行性動物が日中に姿を現したり、人を見ても恐れないようになります。

症状

狂犬病ウイルスが脳や脊髄に到達すると、症状が現れますが、通常はかまれてから30〜50日後のことです。しかし、この潜伏期間は10日から1年以上の幅があります。かまれた場所が脳に近いほど、症状は早く現れます。

狂犬病は、一般的に短期間のうつ状態、落ちつきのなさ、全身の不調(けん怠感)、発熱などで始まります。しかし患者の20%は下肢の麻痺で始まり、それが次第に全身に広がっていきます。次第にひどく落ち着かなくなって興奮を抑えることができなくなり、唾液量が異常に増えます。狂犬病は嚥下と呼吸を調整する脳の領域を侵すために、のどや声帯の筋肉がけいれんします。このけいれんは耐えがたいほどの痛みを与えます。微風にあたったり、水を飲もうとしたりしただけでもけいれんが誘発されるため、患者は水を飲むこともできません。このため狂犬病は恐水病と呼ばれることもあります。

感染が脳へ波及すると、ますます錯乱が進んで非常に興奮します。最後は昏睡状態に陥り死亡します。死因は、気道閉塞、けいれん発作、消耗、広範囲の麻痺です。

診断

病気が疑われるペットや野生動物に人がかまれたときには、狂犬病の感染が最も心配されます。狂犬病ウイルスに感染したかどうかは、かまれた直後では検査を行っても判明しません。そのためかんだ動物の方を検査して、かまれた人の治療の必要性を判定します。人をかんだ野生動物は可能であれば射殺し、病気のペットは動物病院で麻酔をかけて安楽死させます。その後に、それぞれの脳を調べて狂犬病感染の徴候を探します。イヌ、ネコ、フェレットなどのペットは、元気そうであれば動物病院に10〜14日間入院させて獣医による観察が続けられます。その間にペットに何の異常も現れなければ、人をかんだときに狂犬病に感染していなかったと判定されます。それ以外のペットについては、元気そうであれば獣医や公衆衛生当局者に相談してください。

動物にかまれた後に、錯乱、興奮、麻痺の症状が悪化していくときは、狂犬病だと診断されるでしょう。この時点で検査を行えば、狂犬病ウイルスを検出できます。皮膚生検によって、頸部の皮膚サンプルが採取されます。サンプルの顕微鏡検査が行われウイルスが検出されます。

予防と治療

予防の基本は、動物、特に野生動物にかまれないようにすることです。見知らぬペットや野生動物には近寄らないようにします。人間を恐れなくなった野生動物の多くは、病気にかかっています。病気の動物を助けようとして、抱き上げたりしてはなりません。病気の動物はしばしばかみつきます。

狂犬病ウイルス感染のリスクが高い人は、狂犬病ワクチンを接種しておきましょう。ハイリスクの人とは、獣医、動物を取り扱う研究者、イヌの狂犬病が流行している開発途上国に30日以上居住または滞在する人、コウモリの洞窟探検者などです。ワクチン接種によって免疫ができるため、ほとんどの人がほぼ一生狂犬病にかからずにすみます。しかしワクチンの効果は時間がたつと弱まるため、感染リスクが高い人は、免疫を高めるために2年ごとの追加接種が必要です。

もし狂犬病に感染した動物にかまれた場合も、適切な早期治療によって狂犬病を防ぐことができます。

かまれた傷口はすぐに治療します。傷口をせっけんと水で十分に洗い流し、傷が深いときにはせっけん水で噴射洗浄します。ときには、傷口の縁の皮膚組織を少し切り取ることもあります。

狂犬病ワクチン接種による免疫がない人には、動物の状態によって、狂犬病免疫グロブリンの注射が行われます。狂犬病免疫グロブリンには狂犬病ウイルスに対する抗体が含まれていて、すぐに防御できますが、効果は短期間しか持続しません。最初に免疫グロブリンを数回投与した後、3日目、7日目、14日目、28日目に狂犬病ワクチン接種が行われます。狂犬病ワクチンはウイルスに対する抗体産生を刺激して、狂犬病免疫グロブリンよりもゆっくりですが、はるかに長く持続する防御効果を発揮します。接種個所の痛みと腫れはわずかで、重大なアレルギー反応はめったに起こりません。

かまれた人がすでに予防接種を受けていれば、狂犬病の発症リスクは低くなります。しかし、かまれた直後の傷口の洗浄と、直後と2日後(かまれた日から数えて3日目)の狂犬病ワクチン接種は必ず行ってください。

発症してしまってからでは、ワクチンも免疫グロブリンもウイルスに対して効果的ではありません。発症した場合には、症状を和らげて少しでも体が楽になるような対症治療が行われますが、最終的には全員死亡します。

狂犬病ワクチンを受けるべき人

動物にかまれたとき、狂犬病ワクチンを接種するかどうかは、かんだ動物の種類と健康状態によって判定されます。

  • ペットのイヌ、ネコ、フェレットなどにかまれた場合:
    これらのペットが健康そうに見え、10日以上観察できていれば、その動物に狂犬病の症状が現れない限り、ワクチンは必要ありません。もしも狂犬病を示す何らかの症状が現れた場合には、ただちにワクチンを接種します。狂犬病の症状が現れた動物は安楽死させて、その脳の狂犬病ウイルス検査が行われます。
    ペットの動物が狂犬病にかかっていたり、あるいはかかっていると思われる場合は、かまれた人にはただちにワクチンが投与されます。
    もしこれらのペットが逃げてしまったりして、その健康状態が診断できない場合は、狂犬病発症の可能性とワクチン投与の必要性について、公衆衛生当局者に相談してください。
  • スカンク、アライグマ、キツネなどのほとんどの肉食動物やコウモリにかまれた場合:
    これらの野生動物は、検査を行って陰性であると証明されない限りは、狂犬病にかかっているとみなします。通常これらの動物にかまれた人にはただちにワクチンが投与されます。野生動物の場合は、10日間の観察期間は推奨されていません。
  • 家畜、小形のげっ歯類、大形のげっ歯類(ウッドチャックやビーバーなど)、ウサギや野ウサギにかまれた場合:
    かんだ動物別に検討が必要なため、公衆衛生当局者に相談してください。リス、ハムスター、モルモット、アレチネズミ、シマリス、ラット、マウスなどの小型げっ歯類、ウサギや野ウサギの場合は、かまれてもほとんどワクチンは必要ありません。

アルボウイルス脳炎

アルボウイルス脳炎は、蚊やマダニなどの節足動物が媒介する一群のウイルスが原因で起こる、重症の脳の炎症です。

米国では、ウイルス性脳炎の中で最も多いのがアルボウイルス脳炎です。患者は、蚊に刺されたり、マダニなどの節足動物にかまれて、アルボウイルスに感染します。アルボウイルスは、「節足動物が媒介するウイルス」という意味の英語を短縮して名づけられました。節足動物は、ウイルス感染した動物をかんだときにアルボウイルスに感染します。さまざまな種類の家畜や鳥が、アルボウイルスをもっています。人間での流行は、蚊や感染動物の数が増加する時期に周期的に起こります。感染が広がるのは節足動物から人間へであり、人から人にはうつりません。

多くのアルボウイルスが、脳炎を起こします。それらの脳炎には、ウイルスが発見された地域名や、典型的に媒介する動物の種類が病名につけられています。

米国では、数種類のアルボウイルス脳炎が起きています。次に挙げる脳炎は、すべて蚊が媒介します。西部ウマ脳炎は、米国全土で発生し、あらゆる年齢層の人に発生しますが、多くは1歳未満の小児です。東部ウマ脳炎は、米国東部に多発し、主に幼い小児と55歳以上の人がかかります。東部ウマ脳炎は西部ウマ脳炎よりも致死率が高くなっています。どちらの脳炎も、1歳以下の乳児に重い症状を引き起こして、神経や脳に一生残る障害を起こす傾向があります。セントルイス脳炎は、米国全土にわたって発生しますが、特にテキサス州や中西部の州に多発し、死亡リスクが最も高いのは高齢者です。カリフォルニア脳炎は、主に小児が発症します。ウイルスの種類には、カリフォルニアウイルス(米国西部で最も多い)、ラクロスウイルス(中西部に最も多い)、ジェームズタウンキャニオンウイルス(五大湖周辺地域に多い)があります。西ナイル脳炎は、以前はヨーロッパとアフリカだけに発生しましたが、1999年に初めてニューヨーク市街地で発見されました。2000年までに東海岸に沿ってバーモント州からノースカロライナ州にまで症例が報告されています。このウイルスの宿主は、数種類の鳥です。この脳炎は主に高齢者がかかりやすく、感染者の約10人に1人が死亡します。

世界の他の地域でも、アルボウイルス近縁種の異なるウイルスによって脳炎が引き起こされています。たとえば蚊が媒介するベネズエラウマ脳炎や日本脳炎などです。

症状と診断

アルボウイルス脳炎は種類は異なりますが、症状は似通っています。初期症状は頭痛、眠気、発熱です。嘔吐や首の硬直はあまりありません。筋肉はふるえます。錯乱、けいれん発作、昏睡症状が急速に現れ、ときには腕や脚の筋力低下や麻痺が起こることもあります。

流行時には特に、アルボウイルス脳炎の疑いは症状に基づきます。診断を確定するには、発症中か回復直後に患者の血液か脳脊髄液を採取してウイルス抗体検査を行います。抗体のレベルが著しく上昇していれば、診断が確定します。あるいは、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)でDNAを自己複製させ、ウイルスの遺伝物質を検出する方法もあります。

予防と治療

脳炎の最良の予防法は、ウイルスを媒介する蚊への対策です。蚊に刺されないための注意、たとえば虫除けスプレーを使用したり、長袖シャツや長ズボンを着用したり、蚊が繁殖している水辺に立たないようにします。アルボウイルスのワクチンはありません。

特別の治療法もないため、通常の治療は症状を緩和することで、必要ならば感染症が治まるまでの1〜2週間、生命維持装置を使います。

リンパ球性脈絡髄膜炎

リンパ球性脈絡髄膜炎は、アレナウイルスが原因のインフルエンザに似た病気で、しばしば髄膜炎が続いて起こります。

リンパ球性脈絡髄膜炎の原因であるアレナウイルスは、特に灰色ハツカネズミやハムスターなどのげっ歯動物の体内にいます。これらの動物はウイルスに感染すると一生ウイルスをもち続け、尿、便、精液、鼻汁の中に排泄します。人には、一般的にこれらの排泄物に汚染されたちりや食物を介して感染します。リンパ球性脈絡髄膜炎は、野生のげっ歯類が寒さを避けて屋内に侵入してくる冬に多く発生します。

症状

症状は、2段階に分かれて現れます。第1段階では、ウイルス感染の5〜10日後に、インフルエンザに似た症状が現れます。典型的症状として、38.3〜40℃の熱が出て体がふるえます。ほかには全身のだるさ(けん怠感)、吐き気、頭がクラクラする、脱力、筋肉痛、明るい光で悪化する眼の奥の方が痛む頭痛、食欲不振、などがあります。咽頭痛、触覚が鈍るなどの症状が現れることもあります。

これらのインフルエンザに似た症状は、感染の5日から3週間後には1〜2日程度治まります。第2段階では、第1段階の症状が再発し、さらに別の症状が加わります。指の関節が腫れて痛む、睾丸の炎症、抜け毛、嘔吐などです。髄膜炎を続発して、頭痛と首の硬直を生じます。髄膜炎患者のほとんどは、完全に回復します。ときには脳炎による頭痛、眠気が現れます。まれですが、脳炎のために脳が損傷して、一部の症状が持続することがあります。

診断と治療

病気の初期には、インフルエンザとの区別がつかないため、検査は行われません。髄膜炎を示唆する症状があれば、脊椎穿刺で脳脊髄液のサンプルを採取します。リンパ球性脈絡髄膜炎が起きていれば、患者の脳脊髄液中には白血球が多く含まれ、しかもその大部分はリンパ球です。脳脊髄液中にウイルスが確認されるか、あるいは血液中のウイルス抗体価が上昇していれば診断が確定します。

特別な治療法がないため、病気が回復するまでの1〜2週間、症状を緩和する治療が行われます。

進行性多巣性白質脳症

進行性多巣性白質脳症は脳や脊髄に起こるまれな感染症で、JCウイルスが原因です。

進行性多巣性白質脳症の原因はJCウイルス感染で、主に免疫系が衰えている人がかかります。たとえば、白血病、リンパ腫、エイズの患者、移植臓器の拒絶反応の抑制や、自己免疫疾患の治療に免疫抑制薬を使っている人などです。エイズ患者の約4%が、この病気にかかっています。

症状と診断

JCウイルスに感染しても、多くの人は何の症状も現れません。JCウイルスは、免疫系の障害などのきっかけにより、活性化して増殖できるようになるまで、不活性状態で残っています。

症状は、脳や脊髄のどの部位が侵されたかによります。症状の始まりはゆっくりですが、通常は急速に悪化します。麻痺は通常片側に起こります。両手の動きが急にぎこちなくなり、字が書きづらくなったり、ものがつかみにくくなったりします。約3人に2人の割合で、精神機能の低下が急速に進み痴呆が起こります。話ができなくなり、部分的に失明するのも特徴です。まれに頭痛やけいれん発作が起こります。多くは発症後1〜6カ月以内に死亡しますが、それ以上(約2年)生存する例も少数あります。さらに少なくなりますが、病状が数カ月間改善した後に10年も生存したケースもあります。

免疫系が大きく損なわれている人で、症状の悪化が進行する場合は、この病気が疑われます。CT検査やMRI検査などの非侵襲的な検査が診断の確定に役立ちます。しかしながら、診断はしばしば患者の死亡後に脳組織を検査したときに確定されます。DNAに自己複製させるPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)を使えば、患者の最大90%で脳脊髄液中のJCウイルスを検出できます。

治療

進行性多病巣性白質脳症の有効な治療法は見つかっていません。しかし免疫系を阻害している病気を治療することで、生存期間は長くなります。たとえば高活性抗レトロウイルス療法(エイズ治療に使われる抗ウイルス薬)などが用いられます。免疫抑制薬の使用を中止すると、進行性多病巣性白質脳症の症状が治まります。

熱帯性痙性麻痺

熱帯性痙性麻痺は、ゆっくりと進行する脊髄のウイルス感染症で、下肢の筋力低下をもたらします。

熱帯性痙性麻痺は、HTLV関連脊髄症とも呼ばれ、脊髄内部の神経束に感染を起こし、信号をやり取りする神経を包んでいる髄鞘(ずいしょう)が損傷、破壊されます(脱髄)。この病気の原因は、成人T細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)への感染です。このウイルス(レトロウイルス)は、ある種の白血病も引き起こします。熱帯性痙性麻痺は、性交渉や汚染された針から感染します。胎盤や母乳を通して母子感染も起こります。

症状は、ウイルス感染後何年かしてから現れます。HTLV-I感染に対する反応過程で、免疫系が神経組織に損傷を与えます。両脚の筋肉が徐々に衰えてこわばりが進みます。これらの症状は数年にわたり悪化します。足の感覚の一部がなくなります。また頻尿、切迫尿、失禁などの排尿トラブルも多く、腸の機能不全が起こることもあります。

治癒させる方法はありませんが、ステロイドの投与によって著しく改善します。また血漿交換を行うと一時的に改善します。

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