乳汁漏出症

執筆者:John D. Carmichael, MD, Keck School of Medicine of the University of Southern California
レビュー/改訂 2021年 3月 | 修正済み 2022年 9月
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やさしくわかる病気事典

乳汁漏出症では、男性や授乳期でない女性で乳汁が生産されます。

  • 乳汁漏出症の最も一般的な原因は、下垂体の腫瘍によってプロラクチンというホルモンが過剰に生産されること(高プロラクチン血症)です。

  • 高プロラクチン血症によって、乳汁漏出症、つまり男性および女性の両方で、普通では起こらないはずの乳汁の生産と不妊症が引き起こされます。

  • 診断は、プロラクチンというホルモンの血中濃度に基づいて下されます。

  • 原因の調査に画像検査が行われる場合があります。

  • 薬だけでプロラクチンの生産を制御し、腫瘍を縮小できない場合は、手術やときに放射線療法も行われます。

甲状腺の概要も参照のこと。)

男女とも、乳汁漏出症の最も一般的な原因は下垂体のプロラクチン分泌腫瘍(プロラクチノーマ)です。プロラクチンは、乳房の乳汁分泌を刺激するホルモンです。

通常、プロラクチノーマは非常に小さい状態で診断されます。女性よりも男性の方が大きい傾向がありますが、これはおそらく男性の方が気づくタイミングが遅くなるからだと考えられます。下垂体のすぐ上にできる腫瘍はプロラクチンを生産しませんが、これが下垂体の茎の部分を圧迫するとプロラクチンの生産が増加することがあります。茎の部分が圧迫されることにより、正常であればプロラクチン生産を減少させるドパミンというホルモンが下垂体に達しなくなります。

プロラクチンの過剰生産と乳汁漏出症は、フェノチアジン系などの薬、特定の降圧薬(特にメチルドパおよびベラパミル)、オピオイド、経口避妊薬の服用、下垂体以外の特定の病気でも起こることがあります。このような病気には、甲状腺機能低下症(甲状腺の活動が不十分になった状態)、慢性腎臓病、肝疾患、特定の肺がんなどがあります。

知っていますか?

  • 乳汁漏出症は男性と女性の両方で発生する可能性があります。

乳汁漏出症の症状

プロラクチノーマでは、正常ではみられない乳汁分泌が唯一の症状になる場合もありますが、多くの女性では月経が止まったり(無月経)、月経周期が不規則になったりすることもあります。プロラクチノーマの女性はエストロゲン量が減少し、これにより腟の乾燥が生じて性交が苦痛になります。一部の女性(およびまれに男性)には不妊症がみられます。男性のプロラクチノーマ患者の約3分の2は性への関心が失われ(性欲の減退)、勃起障害になります。一部の女性でも、性欲の減退や男性型多毛症(顔や体に過剰な毛が生える)がみられます。

プロラクチノーマが大きくなると、下垂体のすぐ上にある脳の神経を圧迫して、頭痛や特有の視野欠損が起こります。

乳汁漏出症の診断

  • 血液中のプロラクチン濃度の測定

  • CTまたはMRI検査

女性では月経回数が減る、無月経になる、あるいは突然乳汁が生産された場合にこの病気が疑われます。男性でも性欲減退がみられ、血液中のテストステロン値が低ければ疑われます(特に乳汁生産がみられる場合)。

血液中のプロラクチンが高値を示せば乳汁漏出症が確定します。

プロラクチノーマや下垂体に近い他の腫瘍を探すために、CT検査またはMRI検査が行われます。下垂体に腫瘍が見つからなくても、ほかにプロラクチン値が高くなるはっきりした原因(薬など)がなければ、依然として下垂体腫瘍が原因である可能性が最も高く、女性では特にこの傾向がよくみられます。この場合、おそらく腫瘍は検査で見つけられないほど小さいと考えられます。

画像検査でプロラクチノーマが大きい場合は、視野に影響がないか眼科医による視野検査を受けます。

乳汁漏出症の治療

  • プロラクチンの生産を阻害する薬

  • ときに手術または放射線療法

プロラクチンの生産を妨げる脳内化学物質であるドパミンに似た薬が投与されます。これにはブロモクリプチンとカベルゴリンという薬があります。これらの薬は経口で投与され、服用を続ける限り効果があります。なお、これらの薬剤の服用については、約20~25%の患者で3年間の治療後に安全に中止できる可能性があることが研究により示されています。

この薬を服用した多くの患者で、プロラクチン量は月経周期が正常に回復するレベルまで減り、乳汁漏出が止まり(女性および男性で)、女性ではエストロゲンが、男性ではテストステロンの量が増えます。この薬によってしばしば不妊症も治ります。また腫瘍が縮小して視覚障害も軽減されます。

小さなプロラクチノーマには手術も効果的ですが、薬物療法は安全で効果があり、使用法も簡単であるため、最初から手術を行うケースはそれほどありません。

プロラクチン値が極端に高くなく、CT検査やMRI検査でプロラクチノーマが小さいかまたは検出されない場合、医師は積極的な治療を勧めないことがあります。この判断は、プロラクチン値が高いものの、妊娠には問題がなく月経周期が規則的で乳汁漏出によるトラブルがない女性や、テストステロン値が低くない男性には適切です。女性はエストロゲン値が低いと、無月経を伴い骨粗しょう症のリスクが高くなります。男性はテストステロン値が低いと、骨粗しょう症になるリスクが高くなります。

小さなプロラクチノーマのある女性で妊娠を望んでいなければ、プロラクチノーマによるエストロゲン低値の影響を打ち消すために、エストロゲンかエストロゲンを含有する経口避妊薬が投与されることがあります。エストロゲン治療で小さなプロラクチノーマが大きくなることはないとされていますが、多くの専門医は、腫瘍が増大していないことを確認するために、年1回のCT検査あるいはMRI検査を少なくとも2年間は受けるように勧めています。

大きな腫瘍の場合は、ブロモクリプチンやカベルゴリンなどのドパミンに似た薬(ドパミン作動薬)の投与または手術による治療が行われます。薬でプロラクチン値が低下し症状が軽減される場合は、手術の必要はありません。これらの薬は概して安全ですが、パーキンソン病の治療において、プロラクチン増加に対する治療の場合よりも多い量を投与したときに、心臓弁に過剰な結合組織が形成されたこと(線維症)や心臓弁での逆流が発生したことが報告されています。プロラクチノーマに対する用量で治療を受けた患者を対象としたその後の研究では、心臓弁に対する同様の影響は示されていません。

手術が必要な場合でも、術前にドパミン作動薬を使用すると腫瘍を縮小させるのに役立つことがあります。多くの場合、手術後にこの薬が投与されますが、これはプロラクチノーマが大きいと手術による完全な治癒の可能性が低くなるためです。ときに、プロラクチノーマが小さくなってプロラクチンの分泌量が少なくなるため、プロラクチン値を再び上昇させることなく、ドパミン作動薬の投与を中止できることがあります。腫瘍が小さい人および妊娠後の女性では、ドパミン作動薬の投与を中止できるケースが増えます。

これらの治療法で効果がなかった場合、他の下垂体腫瘍と同じく放射線療法が必要になります。

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