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甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症は、甲状腺が働きすぎる状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、生命活動が加速されます。

米国では人口の約1%が甲状腺機能亢進症で、どの世代でも発症しますが、一般に更年期や出産後の女性に多くみられます。

原因

甲状腺機能亢進症の原因はいくつかあり、グレーヴス病、甲状腺炎、毒物や放射線照射による炎症、中毒性甲状腺結節、下垂体の亢進による過剰刺激などが挙げられます。

グレーヴス病(バセドウ病)は、甲状腺機能亢進症の最も多い原因で、血液中の異常なタンパク質(抗体)が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを過剰につくり、分泌させることで起こる自己免疫疾患です。この原因による甲状腺機能亢進症は、しばしば遺伝し、特に女性では、患者のほとんどは甲状腺が肥大します。グレーヴス病は自然に軽快します。治療を必要とするのは甲状腺の機能が亢進している期間だけです。

甲状腺炎は、甲状腺の炎症です。痛みのある亜急性甲状腺炎、痛みのない亜急性甲状腺炎、および起こる頻度は少ない橋本甲状腺炎があり、蓄えられたホルモンが炎症を起こした腺から放出されて、甲状腺の機能亢進が起こります。蓄えられたホルモンが使い尽くされると、続いて甲状腺の機能低下が起こり、最終的に腺の機能は正常に戻ります。

毒物や放射線による炎症は、甲状腺炎の主要な3タイプと同じように甲状腺機能亢進症を起こします。

中毒性甲状腺結節(腺腫)は、甲状腺内の部分的組織の異常成長です。この異常組織は甲状腺刺激ホルモンがなくても甲状腺ホルモンをつくります。結節は甲状腺を正常に制御するメカニズムから逸脱し、甲状腺ホルモンを過剰につくります。結節が多数ある中毒性多結節の甲状腺腫(プランマー病)は、青年期や若年層には少なく、加齢とともに増える傾向があります。

下垂体の機能亢進は、甲状腺刺激ホルモンを過剰につくり、甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こします。しかし、これは甲状腺機能亢進症の原因としてはまれです。

症状

甲状腺機能亢進症の人の多くは、甲状腺が肥大(甲状腺腫)します。腺全体が肥大する、あるいは特定部分に結節ができて、腺を押すと軟らかく、痛みがあります。

原因は何であれ、体のいろいろな機能が加速されるのが甲状腺機能亢進症の症状です。心拍数の増加、血圧の上昇、心拍リズムの異常(不整脈)、多汗、手の振戦(ふるえ)、神経過敏や不安、睡眠困難(不眠症)、食欲の増進にかかわらず体重が減る、疲労や虚弱にかかわらず活動量が増える、いつも腸の働きが活発だがときどき下痢をする、などの症状がみられます。高齢者ではこれらの特徴的な症状を示さずに、衰弱、眠気、混乱、無口、うつ状態になることがあり、無欲性あるいは仮性の甲状腺機能亢進症と呼ばれます。甲状腺機能亢進症では眼にも変化が生じ、凝視しているようにみえることがあります。

甲状腺機能亢進症の原因がグレーヴス病の場合は、眼の周囲がふくれる、涙が出やすい、炎症、光過敏といった眼の症状が現れます。眼球が突き出る(眼球突出)(眼窩の病気: 眼球突出症を参照)、ものが二重に見える(複視)という2つの特有な症状が追加されることもあります。眼球が前に出る原因は、眼の後ろの眼窩(がんか:眼球が入っているスペース)に蓄積される物質のためです。また眼球を動かす筋肉が炎症を起こすと、適切に機能できず、眼球が正常に動くよう調節するのが難しい、あるいはできなくなって、結果としてものが二重に見えます。まぶたは完全に閉じられず、眼は外から入る微粒な異物で傷ついたり乾燥します。これらの眼の症状は他の甲状腺機能亢進症の症状より早く現れてグレーヴス病の早期の手がかりになることがありますが、多くの場合は他の症状に気づいたときに起こります。眼の症状は、過剰な甲状腺ホルモンの分泌を治療して制御した後も現れたり悪化することがあります。

写真

眼球突出

眼球突出

グレーヴス病が眼に現れた場合、眼球後部の沈着物と類似の物質が、ときに皮膚に生じ、通常、向こうずねの皮膚にも沈着します。皮膚が厚くなった部分はかゆくて赤くなり、押すと硬く感じます。この症状は眼球後部の沈着と同様、甲状腺機能亢進症の他の症状に気づく前後に始まることがあります。

診断

通常、医師は症状から甲状腺機能亢進症を疑います。診断を確定するには血液検査を行います。多くの場合、まず甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定から始めます。甲状腺が亢進しているとTSH値が低くなります。しかし、まれなケースで下垂体が亢進していると、TSH値は正常あるいは高くなります。血清中のTSH値が低い場合には血液中の甲状腺ホルモンの値を測定します。原因がグレーヴス病であるか疑問がある場合は、血液中の抗甲状腺抗体の有無を検査します。さらに特定の抗体が検査できますが、必要になることはまれです。

原因として中毒性甲状腺結節が疑われる場合は、甲状腺の画像診断によって、結節の活動性が亢進してホルモンが過剰につくられているかどうかがわかります。こうした画像診断はグレーヴス病の評価に役立ちます。グレーヴス病の人では、画像から腺の一部ではなく全体が腫れていることがわかります。甲状腺炎の場合には腺の活性が低下しているのがわかります。

経過の見通しと治療

甲状腺機能亢進症の治療法はその原因によって決定されます。多くの場合、甲状腺機能亢進症の原因を治療するか、症状を取り除くか、大幅な症状の緩和を行います。治療をしないでいると、甲状腺機能亢進症は心臓や他の臓器に過度のストレスを与えます。

プロプラノロールのようなベータ遮断薬(ベータ‐ブロッカー)は、甲状腺機能亢進症の多くの症状を制御します。この種の薬は心拍を遅くし、ふるえを少なくして不安を抑えます。したがって、ベータ遮断薬は、重度の甲状腺機能亢進症や、他の治療では効果がない、危険で難しい症状の人に特に有効なことがわかっています。しかし、ベータ遮断薬は異常な甲状腺の機能を制御するものではありません。そこで、他の治療でホルモンの産生量を正常に戻します。

プロピルチオウラシルやメチマゾールは甲状腺機能亢進症の治療に最もよく使用される薬で、甲状腺の甲状腺ホルモン産生量を減らす働きがあります。これらは経口薬で、最初は高用量で投与を始めますが、後に血液検査の結果をみて調節します。これらの薬によって通常、甲状腺機能は6〜12週間で制御できます。大量に使用すると速く作用しますが、副作用のリスクが高くなります。妊娠している女性がプロピルチオウラシルやメチマゾールを服用する場合に厳密に経過を観察するのは、これらの薬が胎盤を通過して胎児に甲状腺腫や甲状腺機能亢進症を起こすおそれがあるためです。ヨーロッパで広く使用されているカルビマゾールは体内でメチマゾールに変換されます。

ヨードは経口で服用し、甲状腺機能亢進症の治療に使用されることがありますが、救急処置が必要な場合の予備の方法です。また、甲状腺を取り除く手術をするまで甲状腺機能亢進を制御するためにも用いられます。長期間は使用されません。

甲状腺の一部を破壊する治療として、放射性ヨードが経口的に投与されることがあります。体全体としては受ける放射能はごくわずかですが、甲状腺がヨードを吸収して濃縮するので、その多くが甲状腺に運ばれます。入院はほとんど必要ありません。治療後、2〜4日は乳児や幼児に近づくべきではありませんが、職場では特別な予防策の必要はなく、パートナーと一緒に眠ることも問題ありません。ただし、妊娠は約6カ月間は避けるべきです。

甲状腺を破壊する放射性ヨードの量は、甲状腺機能を大きく損なわずに甲状腺のホルモン産生を正常に戻す程度に調整する医師もいれば、甲状腺を完全に破壊する大量の線量を使用する医師もいます。この治療を受けた人のほとんどが、その後一生ホルモン補充療法を受けなければなりません(甲状腺の病気: 治療を参照)。放射性ヨードと癌との関係は確認されていません。放射性ヨードは胎盤を通過し、乳汁に入って胎児あるいは乳児の甲状腺をも破壊するため、妊娠中と授乳中には投与されません。

甲状腺を手術で取り除く甲状腺切除術は、若年者にとって治療法の選択肢の1つになります。甲状腺腫の大きい人や、甲状腺機能亢進症の治療に使用している薬にアレルギーがある、あるいは重い副作用のある人にも選択肢になります。手術を選択した人の90%以上で、甲状腺機能亢進症は永続的に制御されています。手術後の甲状腺機能低下はしばしば起こり、その場合、以後生涯にわたり甲状腺ホルモンを補充しなければなりません。手術でまれに起こる合併症は、声帯の麻痺(まひ)と、副甲状腺(甲状腺の後ろにある血中カルシウム濃度を制御する小さな分泌腺)の損傷です。

グレーヴス病では、眼と皮膚の症状の治療も必要です。眼の症状には、寝床の頭の位置を高くする、点眼薬の使用、まぶたをテープで閉じる、場合によっては利尿薬(水分の排出を速める薬)の服用が役に立ちます。複視にはプリズム眼鏡を使用します。最終的に、眼の症状が重症の場合には経口コルチコステロイド薬、眼窩のX線治療、眼の手術が必要になります。ステロイド薬のクリームや軟膏は、かゆみや硬くなった皮膚の症状を和らげます。治療しなくても数カ月、あるいは何年かたてば解消されることもよくあります。

薬の種類

薬剤名

主な副作用

備考

チオナマイド

 
  • カルビマゾール
  • メチマゾール
  • プロピルチオウラシル
アレルギー反応(通常は皮膚の発疹)、吐き気、味覚の低下、白血球の減少による感染症(まれ)、肝機能の低下 甲状腺ホルモンの産生を減少させる

非金属元素

  ヨード 皮膚の発疹 甲状腺ホルモンの産生と放出を減少させる

放射性同位体

  放射性ヨード 甲状腺機能低下症を起こす 甲状腺を破壊する

ベータ遮断薬

 
  • アテノロール
  • メトプロロール
  • プロプラノロール
呼吸器疾患のある人に喘鳴を起こす、末梢血管疾患やうつ病の悪化、血圧の低下(低血圧) 他の臓器に対する過剰な甲状腺ホルモンの刺激作用の多くを遮断する
甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼは甲状腺が突然、極端な機能亢進を起こし、命にかかわる緊急事態です。全身の機能は危険なほど高まります。心臓が過度に緊張すると、致死的な不規則な心拍(不整脈)、非常に速い脈拍や、ショック症状を引き起こします。甲状腺クリーゼは、発熱、極度の脱力感と筋力低下、落ち着かなさ、気分変動、錯乱、意識の変容(昏睡を含む)、軽度の黄疸を伴った肝臓肥大(皮膚や白眼部分の黄変)なども起こします。

甲状腺クリーゼは甲状腺機能亢進症の治療をしないか、治療が不十分な場合に起こり、感染症、外傷、手術、コントロール不良な糖尿病、妊娠や出産、甲状腺治療薬の中断、他のストレスがきっかけになります。小児ではまれです。

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