糖尿病

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2022年 10月
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やさしくわかる病気事典

糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。

  • 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。

  • 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。

  • 糖尿病は血管の損傷をもたらし、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、および視力障害のリスクを高めます。

  • 糖尿病の診断は、血糖値を測定して下されます。

  • 糖尿病の人は、精製炭水化物(糖を含む)、飽和脂肪、加工食品の摂取量が少ない健康的な食生活を営む必要があります。また、運動を行い、健康的な体重を維持し、通常は血糖値を下げる薬を服用する必要があります。

糖尿病は、血液中の糖分の量が上昇する病気です。英語では通常「diabetes」と呼ばれる糖尿病ですが、医師はしばしば「diabetes mellitus」という正式名を使います。これは「diabetes insipidus:尿崩症」という病気と区別するためです。尿崩症は血糖値に影響を及ぼさない比較的まれな病気ですが、糖尿病と同様に排尿の増加を引き起こします。

小児と青年における糖尿病も参照のこと。)

血糖

多くの食物を構成する主な栄養素は炭水化物タンパク質、そして脂肪の3つです。糖類は、デンプンや繊維と並んで、炭水化物の3つの種類のうちの1つです。

糖類には多くの種類があり、構造が単純なものも複雑なものもあります。ショ糖(スクロース)は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)という2つの単純な糖からできています。乳糖(ラクトース)はブドウ糖とガラクトースと呼ばれる単純な糖でできています。パン、めん類、米などの食品のデンプンに含まれる炭水化物は、種類の異なる単純な糖分子が長くつながってできています。ショ糖、乳糖、炭水化物などの複雑な糖類は、体がこれらを吸収するために消化管の酵素の働きで単純な糖に分解される必要があります。

単純な糖は、吸収されると、通常は体の主な燃料源であるブドウ糖にすべて変換され、これは体にとって重要な燃料源です。ブドウ糖は血流に乗って運ばれ、細胞に取り込まれます。体はまた、脂肪やタンパク質からもブドウ糖をつくることができます。血糖の「糖」とは、血中のブドウ糖(グルコース)のことです。

知っていますか?

  • 「血糖」値は血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を測定したものです。

インスリン

インスリン膵臓(胃の後ろにある臓器で消化酵素も生産します)から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖の量をコントロールしています。血液中のブドウ糖は、膵臓を刺激してインスリンを生産させます。インスリンには、ブドウ糖を血中から細胞へ移動させる働きがあります。細胞に取り込まれたブドウ糖は、エネルギーに変換されてすぐに消費されるか、必要なときが来るまで脂肪や動物デンプン(グリコーゲン)として蓄えられます。

正常であれば、血液中のブドウ糖の量(血糖値)は1日を通して変動します。血糖値は食後に上昇し、食後約2時間以内に食事前の値に戻ります。血糖値が食事前の値に戻ると、インスリン生産量が低下します。通常の血糖値の変動幅は狭く、健康な人で約70~110mg/dL(3.9~6.1mmol/L)です。炭水化物を大量に摂取した場合、血糖値はより高くなります。65歳以上の人では、血糖値(特に食後)がやや高くなる傾向があります。

ブドウ糖を細胞内に移行させるインスリンが体内で十分につくられない場合、または細胞がインスリンに正常に反応しなくなった場合(インスリン抵抗性と呼ばれます)は、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が高くなるとともに、細胞内のブドウ糖の量が不足し、これらが合わさって糖尿病の合併症や症状が引き起こされます。

糖尿病の種類

前糖尿病状態(Prediabetes)

前糖尿病状態(Prediabetes)は、血糖値が正常よりも高いものの、糖尿病には至っていない状態です。空腹時血糖値が100mg/dL(5.6mmol/L)~125mg/dL(6.9mmol/L)の範囲にあるか、またはブドウ糖負荷試験の2時間後の血糖値が140mg/dL(7.8mmol/L)~199mg/dL(11.0mmol/L)の範囲にある人は、前糖尿病状態(Prediabetes)に該当します。前糖尿病状態(Prediabetes)では、将来的に糖尿病および心疾患が起こるリスクが上昇します。食事と運動によって体重を5~10%減量すると、糖尿病になるリスクが大幅に低下します。

1型糖尿病

1型糖尿病(以前はインスリン依存性糖尿病あるいは若年型糖尿病と呼ばれていたもの)では、体の免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を攻撃し、90%を超える細胞が破壊されて回復不能になります。そのため、膵臓はインスリンをほとんど、あるいは完全につくれなくなります。米国では糖尿病の人のうち約5~10%が1型です。多くの人が30歳前に1型糖尿病を発症しますが、それより後に発症する人もいます。

科学者は、小児期または青年期のウイルス感染症や栄養因子などの環境因子が原因となって、免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を破壊するのではないかと考えています。遺伝的素因によって、環境因子の影響を受けやすくなることもあります。

2型糖尿病

2型糖尿病(以前はインスリン非依存性糖尿病あるいは成人型糖尿病と呼ばれていたもの)では、多くの場合、膵臓でインスリンがつくられており、ときには正常値より高い場合さえあります(特に糖尿病の初期において)。しかし、体がインスリンの作用に抵抗性を示し、その結果、体内のインスリンだけでは体の需要を満たすことができなくなります。2型糖尿病が進行するにつれ、膵臓がインスリンをつくる力が弱まります。

かつて2型糖尿病は小児期や青年期ではまれでしたが、今ではよくある病気になってきています。とはいうものの、通常は30歳以上の人が発症し、年齢が高くなるにつれて多くなります。65歳以上の約26%の人が2型糖尿病にかかっています。

肥満は2型糖尿病発症の主な危険因子であり、この病気の人の80~90%が過体重もしくは肥満です。これは肥満によってインスリン抵抗性が引き起こされるためで、肥満の人は正常な血糖値を維持するのに大量のインスリンが必要になることがあります。

アフリカ人、アジア系アメリカ人、アメリカンインディアン、アラスカ先住民、およびスペイン系もしくはラテンアメリカ系の祖先を有する人では、2型糖尿病の発生リスクが高くなります。2型糖尿病は遺伝する傾向にあります。

特定の病気や薬が体内でのインスリンの使われ方に影響し、2型糖尿病を誘発することがあります。

インスリンの使われ方が損なわれる一般的な病態(疾患)の例には以下のものがあります。

  • コルチコステロイドの高値(プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]などのコルチコステロイドの使用またはクッシング症候群によるものが最多)

  • 妊娠(妊娠糖尿病

糖尿病は成長ホルモンが過剰につくられてしまう人(先端巨大症)や特定のホルモン分泌腫瘍がある人にも起こります。重症あるいは再発性の膵炎や、膵臓に直接損傷を与える他の病気も糖尿病を引き起こします。

糖尿病の症状

血糖値がかなり上昇している場合、1型糖尿病も2型糖尿病も症状は非常に似ています。

高血糖による症状には以下のものがあります。

  • のどの渇きが強くなる

  • 尿の量が増加する

  • 空腹感が強くなる

血糖値が160~180mg/dL(8.9~10.0mmol/L)を超えると、尿中にブドウ糖が出てきます。尿中のブドウ糖の値がさらに高くなると、腎臓が大量のブドウ糖を希釈するため水分を過剰に排出します。腎臓が尿を過剰につくるため、糖尿病の人は大量の排尿が頻繁にあります(多尿症)。排尿の増加により、異常なのどの渇きを覚えます(多飲症)。尿中に大量のカロリーが失われるため、体重が減少することがあります。その代償として、しばしば強い空腹感を覚えます。

その他の糖尿病の症状には以下のものがあります。

  • かすみ目

  • 眠気

  • 吐き気

  • 運動時の持久力低下

1型糖尿病

1型糖尿病では、しばしば症状が突然、劇的に始まります。糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる病態は、体が過剰な酸を生産する合併症で、急激に発生することがあります。糖尿病性ケトアシドーシスの初期症状には、強いのどの渇きと頻尿という通常の糖尿病の症状に加えて、吐き気、嘔吐、疲労のほか、(特に小児で)腹痛がみられることもあります。酸性に傾いた血液の状態を是正しようと、呼吸は深く速くなる傾向があり(アシドーシスを参照)、吐く息がマニキュアの除光液に似たフルーツ臭になります。治療しなければ糖尿病性ケトアシドーシスが進行して、昏睡や死に至るおそれがあり、ときには直ちにこういった状態につながることがあります。

1型糖尿病を発症した後でも、インスリン分泌の部分的な回復のために、一時的にですが血糖値が正常値に近い期間(ハネムーン期)が長く続くことがあります。

2型糖尿病

2型糖尿病の人では、診断されるまで数年から数十年にわたり症状が現れないか、あってもごく軽い症状です。排尿の増加とのどの渇きは初め軽度ですが、数週間から数カ月かけて徐々に悪化します。やがて強い疲労を感じるようになり、かすみ目と脱水が進行します。

糖尿病の初期の段階では、低血糖と呼ばれる血糖値が異常に低い状態になる場合もあります。

2型糖尿病では、ある程度のインスリンがつくられているため、長く治療していない場合でも、通常はケトアシドーシスになりません。まれではありますが、血糖値が極めて高くなります(しばしば1000mg/dL[55.5mmol/L]を超えます)。このような高い値は、感染や薬の使用などのストレスが重なった場合によく起こります。血糖値が非常に高いと、重度の脱水症に陥り、精神錯乱、眠気、けいれん発作など、高浸透圧高血糖状態と呼ばれる病態を引き起こします。2型糖尿病の人の多くは、このような重度の高血糖になる前に、通常の血糖値の検査で診断されます。

糖尿病の合併症

糖尿病は血管に損傷を与えるため、血管が狭くなり、血液の流れが妨げられます。全身の血管が影響を受けるため、様々な糖尿病の合併症がみられます。多くの臓器が影響を受けますが、特に影響を受けやすいのは以下の臓器です。

高血糖では体の免疫系にも問題が生じるため、糖尿病の人は特に細菌や真菌に感染しやすくなります。

糖尿病の診断

  • 血糖値の測定

血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に高ければ糖尿病と診断されます。糖尿病のリスクがあるものの症状がない人を対象に、スクリーニング検査が行われます。

知っていますか?

  • 多くの人が、2型糖尿病になっていることに気づいていません。

血糖値の測定

のどの渇きや空腹感が強く、尿量が多いなどの糖尿病の症状がある患者に対し、医師は血糖値を測定します。そのほかに、頻繁な感染症、足の潰瘍、真菌感染症といった糖尿病の合併症の可能性がある症状がみられる場合も、血糖値を測定します。

血糖値を正確に測定するためには、通常、一夜の絶食後に採取した血液を使用します。空腹時血糖値が126mg/dL(7.0mmol/L)以上の場合に、糖尿病と診断できます。しかしながら、食後に採取した血液を使用することも可能です。食後の血糖値がある程度上昇するのは正常ですが、高すぎるのはよくありません。(絶食後ではなく)任意の時点で測定された血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)を超えると、糖尿病と診断できます。

ヘモグロビンA1C

血中タンパク質のヘモグロビンA1C(糖化ヘモグロビン)が測定される場合もあり、これは血糖値の急速な変化ではなく長期にわたる血糖値の傾向を反映しています。

ヘモグロビンは、赤血球中の酸素を運搬する赤い物質です。長期にわたって血糖値が高い状態が続くと、ブドウ糖がヘモグロビンに結合して糖化ヘモグロビンが形成されます。血液検査でのヘモグロビンA1C値は、全ヘモグロビンのうちヘモグロビンA1Cが占める割合を示します。

(自宅や診療所で使用される検査機器によるものではなく)認定された専門施設で測定されたヘモグロビンA1Cの値は、糖尿病の診断に使用できます。ヘモグロビンA1C値が6.5%以上であれば糖尿病です。【訳注:日本の糖尿病の診断では血糖値の基準も満たす必要があります】値が5.7~6.4%であれば前糖尿病状態(Prediabetes)があることを示し、糖尿病を発症するリスクがあります。

経口ブドウ糖負荷試験

その他の血液検査としては、経口ブドウ糖負荷試験があります。この検査は妊婦に対する妊娠糖尿病のスクリーニング時や、糖尿病の症状がある高齢者で空腹時の血糖値が正常な場合など、特定のケースを対象に行われます。ただし、非常に煩雑なため、糖尿病の検査として常に行われるものではありません。

この検査では、まず絶食状態で採血し、空腹時血糖値を測定します。次に、多量のブドウ糖を含む特殊な溶液を飲みます。2~3時間後に再度採血し、血糖値が異常に高くなっていないかを判定します。

糖尿病のスクリーニング

血糖値は、通常の身体診察の際にしばしば測定されます。高齢者では糖尿病がかなり多くみられるため、定期的な血糖値測定が特に重要です。糖尿病(特に2型糖尿病)になっていても、気づいていないことがあります。

1型糖尿病では、たとえ1型糖尿病のリスクが高い人の場合でも(1型糖尿病にかかっている兄弟姉妹や子どもがいる場合など)、スクリーニングのために決まった検査を行うことはありません。ただし、以下のような2型糖尿病のリスクがある人は、スクリーニング検査を受けることが重要です。

  • 35歳以上の人

  • 過体重または肥満の人

  • 体を動かさない生活習慣のある人

  • 糖尿病の家族歴がある人

  • 前糖尿病状態の人

  • 妊娠中に糖尿病になった女性または出生時の子どもの体重が4000gを超えていた母親

  • 高血圧がある

  • コレステロール高値などの脂質の病気がある人

  • 心血管疾患がある人

  • 脂肪性肝疾患がある人

  • 多嚢胞性卵巣疾患がある人

  • 高リスクと関連する人種的、民族的ルーツをもつ人

  • HIV感染症を患っている

これらの危険因子を有する場合は、少なくとも3年に1回、糖尿病のスクリーニング検査を受けるようにします。糖尿病リスクは、米国糖尿病協会(American Diabetes Association)のリスク計算ツールを用いて推定することもできます。医師は、空腹時血糖値とヘモグロビンA1C値を測定したり、経口ブドウ糖負荷試験を行ったりします。検査結果が正常値と異常値の境界であれば、スクリーニング検査をより頻繁に(少なくとも年に1回)行います。

糖尿病の治療

  • 食事

  • 運動

  • 体重減少

  • 教育

  • 1型糖尿病に対し、インスリン注射

  • 2型糖尿病に対し、しばしば経口薬、ときにインスリンまたは他の薬の注射

食事療法や運動、教育は、糖尿病治療の基本であり、軽度の糖尿病の人に対して最初によく勧められる治療です。過体重の場合は減量も重要です。生活習慣の変化にもかかわらず高血糖が続く場合や、血糖値が非常に高い場合、1型糖尿病(血糖値を問いません)の場合には薬も必要です。

糖尿病になっても血糖値を厳密にコントロールしていれば、合併症が生じる可能性が低くなるため、糖尿病の治療では血糖値をできるだけ正常値に近づけることを目標とします。

糖尿病の人は、医療従事者に糖尿病であることが分かるように、医療情報を記したブレスレットやタグなどを常に携帯するか身につけておくことが役立ちます。この情報があれば、医療従事者は素早く救命処置を始めることができ、特に大けがや精神状態の変化などの際に役立ちます。

糖尿病性ケトアシドーシス高浸透圧高血糖状態は、昏睡や死亡に至ることのある緊急の治療を要する事態です。いずれの場合も治療法は同じで、輸液とインスリンの投与が中心となります。

糖尿病の一般的な治療法

糖尿病の人が自分の病気について学び、食事と運動が血糖値にどのように影響するかを理解し、合併症の予防法を知ることはとても有益です。糖尿病指導に携わる看護師から、食事の管理、運動法、血糖値のモニタリング、薬の服用について情報提供を受けることができます。

糖尿病の人は禁煙し、アルコールも適量(1日に女性は1杯、男性は2杯まで)に抑えるようにします。

糖尿病患者の食事

食事管理はいずれのタイプの糖尿病の人にも非常に重要です。医師は健康的な栄養バランスのとれた食事と健康的な体重を維持することを推奨します。糖尿病患者は、栄養士や糖尿病療養指導士(diabetes educator)と相談して最適な食事プランを作成することが有益です。そのようなプランとしては、以下のものがあります。

  • 単糖や加工食品を避ける

  • 食物繊維を増やす

  • 炭水化物が豊富で脂肪の多い食べもの(特に飽和脂肪)を制限する

インスリンを用いている場合は、低血糖を予防するため、食事と食事の間隔を長くあけすぎないようにします。食事に含まれるタンパク質と脂肪は摂取カロリー量に寄与しますが、血糖値に直接影響を与えるのは炭水化物の量のみです。米国糖尿病協会は、レシピを含む多くの食事のヒント(tips on diet)を紹介しています。適切な食事を摂取している場合でも、心疾患のリスクを低下させるために、コレステロール値を下げる薬がしばしば必要になります。

1型糖尿病の人や2型糖尿病の一部の人では、カーボカウントや炭水化物交換表を用いて、食事中の炭水化物の量とインスリンの量を合致させるようにします。食事中の炭水化物の量を「カウント」して、食事の前に使用するインスリンの量の計算に用います。ただし、炭水化物とインスリンの比(食事に含まれる炭水化物1グラム当たりのインスリンの量)は人によって様々であるため、糖尿病の人はこの手法を習得するにあたり、糖尿病における食事管理の経験がある栄養士とよく相談する必要があります。専門家の中には、急速に代謝される炭水化物とゆっくり代謝される炭水化物を区別するために、グリセミック指数(炭水化物が含まれる食べものが消化された際に血糖値に与える影響を数値化したもの)を用いることを助言している人もいますが、このアプローチを支持する科学的証拠はあまりありません。

糖尿病患者の運動

適度な運動(週に150分以上の運動を3日間以上に分散して行う)は、体重をコントロールし、血糖値を改善するためにも役立ちます。運動中は血糖値が低下するため、低血糖の症状に注意しなければなりません。長時間の運動中はスナックを少し食べたり、インスリンの投与量を減らしたりして対処しなければならないこともあります。

糖尿病患者の減量

糖尿病患者、特に2型糖尿病の患者では、過体重や肥満が多くみられます。2型糖尿病の一部の患者では健康的な体重を維持することで薬物療法の必要がなくなるか、その使用を遅らせることができる可能性があります。過体重は糖尿病の合併症につながるため、このような患者では、減量も重要です。糖尿病の患者で食事や運動のみでは減量が困難な肥満もある場合、医師は減量のための薬を投与するか、肥満外科手術(体重減少を引き起こす手術)を勧めることがあります。特定の糖尿病治療薬、特にグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)およびSGLT2阻害薬は体重減少を誘発する可能性があります。

ときに医師は減量に有用な薬剤を勧めることがあります。

知っていますか?

糖尿病の薬物療法

糖尿病の治療に用いられる薬には多くのものがあります。1型糖尿病の場合は、インスリンを注射して血糖値を下げる必要があります。2型糖尿病では、ほとんどの場合血糖値を下げる経口薬の服用が必要ですが、インスリンや他の注射可能な薬の投与が必要な人もいます。

膵臓移植

1型糖尿病ではときに、膵臓全体の移植またはインスリンを生産する細胞のみの移植が行われます。移植を行うことで、1型糖尿病の人が正常な血糖値を維持することができるようになる可能性があります。ただし、移植された細胞に対する体の拒否反応を防ぐために免疫抑制薬を投与する必要があるため、膵臓移植は通常、糖尿病による重篤な合併症がみられる人か、腎臓など他の臓器の移植を受けようとしていていずれにせよ免疫抑制薬の投与が必要になる人に限定して行われます。

フレイルな人または医学的問題がある人

高齢者や、重度あるいは多くの医学的問題を抱えている人の糖尿病管理も、若年者や健康な人と同じ原則(教育、食事、運動、薬)に従う必要があります。ただし、フレイルな人や複数の医学的問題を有している場合には、低血糖(血糖値が低い状態)になるリスクを冒して厳密な血糖コントロールを行おうとすることは害になる可能性があります。

視力が低下すると、血糖測定器やインスリン注射器の目盛りが見えにくくなります。関節炎もしくはパーキンソン病の患者または脳卒中の既往がある患者では、注射器の操作が難しいこともあります。

心理教育

複数の医学的問題を抱えている患者の場合、糖尿病について学ぶことに加え、糖尿病の管理と他の病気の管理を調整する方法を習得する必要があります。特に重要なのは、脱水、皮膚の崩壊、循環障害などの合併症を避ける方法や、糖尿病の合併症の発生を促す高血圧やコレステロール高値などを管理する方法です。これらは糖尿病かどうかにかかわらず、加齢に伴って誰にでも生じる問題です。

食事

多くの高齢者にとって、バランスのとれた健康な食事で血糖値と体重をコントロールすることは困難です。長い間の好みと食習慣を変えることは簡単ではありません。食事から影響を受ける他の病気を患っていれば、病気毎に様々な食事が推奨され、それらを調整できないこともあるでしょう。

自宅や介護施設などで他の人が調理を行うため、自身の食事を管理できないケースもあります。糖尿病の人が自分で調理しない場合は、代わりに買い物や支度をする人も、どんな食事が必要かを理解していなければなりません。患者や介護者が栄養士に相談し、健康で実現可能な食事プランを作成してもらうことが通常は有益となります。

運動

患者の中には日常で運動の機会をもつことが困難な人もおり、特にこれまで活動的な生活を送ってこなかった人や関節炎などの動作を制限する病気を患っている人ではその傾向が強くなります。しかし、普段の生活の中でも運動はできます。例えば、車に乗る代わりに歩いたり、エレベーターに乗らずに階段を使用するとよいでしょう。

薬剤の投与

糖尿病の治療に用いる薬、とりわけインスリンの使用が困難な患者もいます。視覚障害やその他の障害があり、注射器に薬を正確に充填することが難しいときは、介護者が前もって注射器を準備し、冷蔵庫で保管しておきます。インスリンの用量が安定している人は、あらかじめ薬が充填された注射器を利用してもよいでしょう。身体動作が制限されている人は、充填済みのインスリンペンの方が容易に使えます。これらの器具には、数字が大きく、回しやすいダイアルが採用されているものがあります。

血糖値のモニタリング

視力低下、関節炎による手先の不自由、振戦(しんせん)、脳卒中やその他の身体障害により、一部の患者では血糖値のモニタリングが困難になる場合があります。しかし、特別な測定器を利用することができます。数字が大きく読み取りやすいものや指示や結果を音声で知らせるもの、血液サンプルを採取せずに皮膚の上から血糖値を測定できる装置もあります。適切な測定器について糖尿病療養指導士に相談するとよいでしょう。

低血糖

高血糖値の治療に伴う合併症で最もよくみられるものは、血糖値の低下(低血糖)です。フレイルである、もしくは頻繁な入院が必要な患者や、数種類の薬を使用している患者では、最もリスクが高くなります。糖尿病治療に用いられる薬のなかでも長時間作用型のスルホニル尿素薬や持効型インスリンは、重度ないし多くの医学的問題を抱えている患者やとりわけ高齢者において、低血糖を起こす可能性が最も高い薬です。これらの薬をそのような患者に投与すると、低血糖のために、失神や転倒などの深刻な症状や思考の停滞、あるいは身体各部の動作障害を起こすことが比較的よくあります。

高齢者では、若年者の場合ほど低血糖が明らかではないことがあります。低血糖による錯乱は、認知症や薬による鎮静作用と間違われることがあります。また、コミュニケーションが困難な人(脳卒中の後遺症として、または認知症結果として)では、低血糖になっても症状を伝えることができません。

糖尿病治療経過のモニタリング

糖尿病の治療では、血糖値の定期的な測定が不可欠です。血糖値の定期的なモニタリングを行うことで、薬物療法や食事、運動面での調整を行うために必要な情報を得ることができます。血糖値を確認するために低血糖または高血糖の症状が現れるまで待つことは、有害となる可能性があります。

糖尿病治療の目標

専門家は、血糖値を以下の値に保つことを推奨しています。

  • 空腹時(食事前)で80~130mg/dL(4.4~7.2mmol/L)

  • 食後2時間で180mg/dL(10.0mmol/L)未満

ヘモグロビンA1C値は7%未満に保つ必要があります。

一部の患者は、体に装着して血糖値を継続的に記録する体外装置である持続血糖測定(CGM)を使用します。この種の装置を使用する場合、医師は別の測定値を用いて血糖値がどの程度良好にコントロールされているかを判定します。ここではTime in range(TIR)と呼ばれる値が用いられます。Time in rangeとは、特定の期間内に血糖値が患者の目標範囲に達していた時間の割合です。通常の目標範囲は70~180mg/mL(3.9~9.9mmol/L)です。

このような目標を達成するために積極的な治療を行うと、血糖値が極端に低くなる(低血糖になる)リスクがあるため、高齢者のように低血糖が特に望ましくない人では、目標を調節します。

他の目標として、収縮期血圧を140mmHg未満および拡張期血圧を90mmHg未満に保つことがあります。糖尿病の人で、心疾患がある場合や心疾患のリスクが高い場合の血圧目標は、130/80mmHg未満です。

以下のように多くの因子が血糖値に影響を与えます。

  • 食事

  • 運動

  • ストレス

  • 病気

  • 時刻

気づかずに炭水化物の非常に多い食事をとったために、食後に血糖値が急に上昇することもあります。精神的ストレス、感染症、薬などは血糖値を上げる傾向があります。多くの人は早朝に血糖値が上がりますが、これは正常なホルモン(成長ホルモンとコルチゾール)分泌に由来する、暁現象と呼ばれる反応です。低血糖に反応して、ある種のホルモンが分泌されると、血糖値が急に跳ね上がることがあります(ソモジー効果)。運動により血糖値が下がることがあります。

血糖値のモニタリング

血糖値は自宅でもどこでも容易に測定できます。

血糖値のモニタリングには、指先採血による血糖測定が最もよく用いられます。たいていの血糖測定器では、まずランセットと呼ばれる小さな穿刺針で指先を軽く刺し、血液を1滴採取します。ランセットは指先を突く小さな針のことで、バネ仕掛けになっていて、素早く皮膚を突くことができます。多くの人は針を刺してもほんのわずかな痛みしかありません。次に、1滴の血液を試験紙に載せます。この試験紙には血糖値に応じて変化する化学物質が含まれています。その変化を血糖測定器が読み取ってデジタルディスプレーに結果を表示します。測定器によっては、別の場所(手のひら、前腕、上腕、太もも、ふくらはぎ)から血液を採取することも可能です。家庭用血糖測定器は一組のトランプより小さなサイズです。

持続血糖測定(CGM)システムでは、皮膚の下に血糖センサーを取り付けます。このセンサーで、血糖値を数分毎に測定します。CGMには以下の2つのタイプがあり、それぞれ目的が異なります。

  • プロフェッショナル

  • パーソナル

プロフェッショナルCGMは一定の期間(72時間から最大14日間)、継続して血糖値の情報を収集するものです。この情報をもとに医療専門家は患者に勧める治療を決めます。プロフェッショナルCGMは糖尿病の患者に情報を与えるものではありません。

パーソナルCGMは糖尿病の患者が使用するもので、小型の携帯用モニターまたは接続されたスマートフォン上に血糖値がリアルタイムで表示されます。CGMシステムのアラームを設定しておくと、血糖値が異常に下がった場合や上がった場合に音で知らせてくれるため、血糖値に懸念される変化が起きたときに速やかに把握できます。

CGMは最長14日間装着可能で、多くの場合は較正を必要とせず、指先採血による血糖測定をせずにインスリン投与に使用できます。また、CGMの機器とインスリンポンプ間の通信を行うためのシステムも存在し、血糖値が低下するとインスリンの注入を停止するか(threshold suspend機能)、または日々のインスリン注入を行うか(ハイブリッド型クローズドループシステム)のいずれかの機能を有しています。

CGMシステムは、1型糖尿病で血糖値に急激な変化がしばしばみられる場合(特に血糖値が大きく低下する場合)など、指先採血による血糖測定器で特定するのが困難な状況で特に有用です。CGMシステムでは、血糖値が一定の範囲内にある時間を測定することができ、医師はこの測定値を用いて治療の目標を設定し、インスリン投与量を調整します。

血糖値を記録しておいて、医師や看護師に報告することは、医師や看護師がインスリンや経口血糖降下薬の用量調節に際してアドバイスを行うのに役立ちます。多くの人はインスリンの用量の調節を体得し、必要なときに自分でできるようになります。軽度もしくは初期の2型糖尿病で、1~2種類の薬剤で良好なコントロールが得られている場合は、指先採血による血糖値測定をそれほど頻回には行わずに済むかもしれません。

ヘモグロビンA1C

医師は、ヘモグロビンA1Cという血液検査で治療の経過をモニタリングします。血糖値が高いと、血液中で酸素を運ぶタンパク質であるヘモグロビンが変化します。この変化は一定期間の血糖値と直接の相関関係にあります。ヘモグロビンA1Cの値が高いほど、それまでの間、血糖値が高い状態が続いていることを意味します。つまり、ある瞬間の血糖値を示す血糖値測定と異なり、ヘモグロビンA1C値は血糖値が過去数カ月にわたりコントロールされていたかどうかを示します。

糖尿病の人は、ヘモグロビンA1C値を7%未満に抑えることを目標にします。この値を達成することはときに困難なこともありますが、ヘモグロビンA1C値が下がれば合併症になる可能性も低くなります。患者の健康状態に合わせて、医師はやや低めの値か、やや高めの値を目標値として推奨する可能性があります。ただし、9%以上の値はコントロールが悪いことを、12%以上は非常に悪いことを示します。糖尿病治療の専門医はヘモグロビンA1Cを3~6カ月毎に測定することを勧めています。

フルクトサミン

ブドウ糖に結合したアミノ酸であるフルクトサミンの測定も、2~3週間にわたる血糖コントロールの状態を知るための指標として有用で、鉄、葉酸、ビタミンB12の欠乏による貧血のある人、鎌状赤血球症サラセミアなどヘモグロビンの形に異常のある人など、ヘモグロビンA1Cの結果が信頼できない場合に一般的に使用されます。

尿中のブドウ糖

尿検査により尿中のブドウ糖も検査できますが、尿検査は治療のモニタリングや調整をする上で適した方法とはいえません。というのも、尿検査で示された尿中のブドウ糖の量は、その時点の血糖値を直接反映しているわけではないため、検査結果によって誤った方向へ導かれるおそれがあるからです。血糖値が大幅に低くなったり、やや高くなったりしているにもかかわらず、尿中のブドウ糖濃度は変化しないことがあります。

血糖値の維持が困難なケース

1型糖尿病では、インスリンがまったく産生されないために、血糖値の変動がより頻回にみられる可能性があります。感染症や胃からの食物の移動の遅延のほか、その他の内分泌疾患などによっても血糖値が変動する場合があります。血糖値の管理が困難なケースでは、医師は血糖値の管理を困難としている他の病気がないかを調べるとともに、患者に対して糖尿病をどのように管理し、薬をどのように服用するべきかについてさらなる情報を提供します。

糖尿病の予防

1型糖尿病

1型糖尿病の発症を予防するための治療はありません。初期の1型糖尿病においては、一部の薬剤によって寛解が得られる場合がありますが、これは、免疫系による膵臓の細胞の破壊が妨げられることによると考えられます。しかし、このような変化は一時的なもので、それら薬剤の使用制限が必要となる副作用が生じます。

2型糖尿病

2型糖尿病は生活習慣を変えることによって予防することが可能です。過体重の人が体重を7%ほど減らして運動量を増やせば(例、1日30分歩く)、糖尿病のリスクは50%以上低下します。糖尿病の治療に用いられる薬剤であるメトホルミンによって、耐糖能障害を有する人の糖尿病のリスクが低下する可能性があります。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国糖尿病協会(American Diabetes Association):糖尿病とともに生きる上で役立つ資料など、糖尿病に関する包括的な情報

  2. JDRF(かつての国際若年性糖尿病研究財団[Juvenile Diabetes Research Foundation]):1型糖尿病に関する一般的な情報

  3. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases):最新の研究や地域社会への支援プログラムなど、糖尿病に関する一般的な情報

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