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臓器移植の原則

臓器移植は、輸血とは異なり大がかりな手術を必要とし、免疫システムを抑制する薬(免疫抑制薬)を使い、拒絶反応の可能性や深刻な合併症などを伴い、死の危険もあります。しかし、主要な臓器が正常に機能しなくなって治る見込みのない患者にとって、臓器移植が普通の生活を取り戻したり生き延びるための唯一のチャンスとなります。

組織の適合性

ドナーの組織はレシピエントの組織と適合していることが望ましいといえます。適合していなければ、免疫システムが移植組織を異物として攻撃してしまうからです(免疫システムのしくみと働き: はじめにを参照)。この反応が拒絶反応です。しかし、組織の適合性は、臓器移植の質を左右するさまざまな要因との兼ね合いで考慮する必要があります。たとえば、臓器がレシピエントに届く時間の問題があります。患者によっては、適合性の高いドナーを待つだけの時間の余裕がないこともあります。心臓のように、生存中の家族からの提供が不可能な臓器の場合、適合性の高いドナーにはなかなか出会えません。免疫抑制薬を使えば移植の成否に対する適合性の影響が少なくなります。そこで、腎臓のように適合性の高い家族から提供が得られる可能性のある臓器でも、適合性の低いドナーから提供を受けることもあります。いずれにしても、医師はできる限りレシピエントの組織型に合う組織型のドナーを見つける努力をします。適合性が高ければ拒絶反応は軽減し、レシピエントの長期治療成績も向上します。

組織型は、細胞の表面にあるヒト白血球抗原(HLA)あるいは主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる分子によって決まります。人は1人ひとり固有のHLAをもっています。臓器の移植を受けると、移植臓器の細胞のHLAがドナーの体に対してその組織が異物であるという信号を発し免疫システムを刺激します。

輸血の場合、縁組みの作業は比較的簡単です。赤血球は表面にA、B、Rhという3種類の抗原しかもっていないからです。一方、臓器移植では多数の抗原が関係してきます。

事前にドナーの組織に対し不適合な抗体がないか、レシピエントの血液を調べます。レシピエントの体は輸血、過去の移植、妊娠などの経験に応じて抗体をつくります。もしこれらの抗体があった場合には、重症の拒絶反応が即座に起こるので通常は移植は行いません。

免疫システムの抑制

輸血と違って臓器の移植では、たとえ組織型が十分適合していても、免疫システムを抑制しておかないと移植臓器に対して拒絶反応が起こります。その結果、移植臓器が破壊されるだけでなく発熱、悪寒、吐き気、疲労感、急激な血圧の変動などが出現します。拒絶反応は、通常は移植直後から始まりますが、数週間後、数カ月後、数年後に始まることもあります。軽症で容易にコントロールできる程度の場合もありますが、治療しても悪化していく重症の場合もあります。

拒絶反応は、異物を認識して破壊する免疫システムの能力を抑える免疫抑制薬と呼ばれる薬によってコントロールできます。この薬の使用で移植の成功率は向上することになりますが、免疫抑制薬は移植された臓器に対する免疫システムの反応を抑制するだけでなく、感染症と闘ったり癌細胞を破壊したりするための免疫システムの力まで弱めてしまいます。このため、移植を受けた人は感染症やある種の癌を発症するリスクが高くなります。

拒絶反応の予防やコントロールには、さまざまなタイプの免疫抑制薬が用いられます。コルチコステロイド薬をはじめ、免疫抑制薬の大半は免疫システム全体を抑制します。抗リンパ球グロブリン、抗胸腺細胞グロブリン、モノクローナル抗体は、免疫システムの特定の部分だけを抑制します。

免疫抑制薬は、一生使い続けなければなりません。しかし、高用量が必要なのは移植後の数週間または拒絶反応の症状がある間だけです。その後は、たいていの場合少量で拒絶反応を防ぐことができます。拒絶反応の徴候が現れたら免疫抑制薬の用量を増やすか、免疫抑制薬の種類を変えるか増やすかします。

免疫システムを抑制するために、移植臓器と周辺組織に放射線を照射することがあります。白血病患者に骨髄を移植する際は、まず全身に放射線を照射して癌細胞をつくり出している骨髄を破壊する必要があります。全リンパ節照射は免疫システムを抑制する安全で効果的な方法だと考えられますが、まだ研究中です。

種類

薬剤名

予想される副作用

備考

コルチコステロイド薬(免疫システム全体を抑制する強力な抗炎症薬)

 
  • デキサメタゾン
  • プレドニゾロン
  • プレドニゾン
糖尿病のような高血糖、筋力低下、骨粗しょう症、水分貯留、胃潰瘍、ムーンフェース、皮膚の脆弱化、顔面多毛 移植時に静脈に大量投与し、その後徐々に減量して維持量の内服とし、通常は生涯服用する

グロブリン(免疫システムの特定部分を抑制する、体内で産生される物質)

 
  • 抗リンパ球グロブリン
  • 抗胸腺細胞グロブリン
発熱と悪寒を伴う重症アレルギー反応(アナフィラキシー反応)、通常は1〜2回の投与後に初めて起こる 静脈投与。他の免疫抑制薬と併用することで、他の薬の投与開始を遅らせたり、他の薬の減量を可能にして副作用を弱める

マクロライド系免疫抑制薬(免疫システムの特定部分を抑制する薬)

  シロリムス コレステロール値の上昇、高血圧、発疹、貧血、関節の痛み、下痢、低カリウム、リンパ腫のリスク増大 経口投与。腎移植を受けた患者にコルチコステロイド薬やシクロスポリンと併用
  タクロリムス ふるえ、頭痛 下痢、高血圧、吐き気、肝臓および腎臓障害、不眠症、心臓肥大、リンパ腫の危険増大 移植時に静脈投与し、以後は経口投与。肝移植患者にシクロスポリンの代わりに使用

有糸分裂抑制薬(細胞分裂を抑えて白血球の産生を抑制する薬)

  アザチオプリン 疲労感、感染症のリスク増大、出血傾向、吐き気、嘔吐、まれに肝炎発症、白血球減少 移植時に静脈投与または経口投与し、その後は生涯服用を続ける場合が多いが、使用量を減らせる場合もある。シクロスポリンと併用可
  シクロホスファミド 疲労感、感染症のリスク増大、出血傾向、吐き気、嘔吐、脱毛、出血を伴う膀胱炎、不妊症 静脈投与または経口投与。アザチオプリンの不耐性患者に使用。骨髄移植患者に大量投与
  メトトレキサート 疲労感、感染症のリスク増大、出血傾向、吐き気、嘔吐、口内炎、消化不良、体調不全、悪寒、発熱、めまい 経口投与、筋肉注射

モノクローナル抗体(免疫システムの特定部分を標的として抑制する物質)

 
  • バシリキシマブ
  • ダクリツマブ
  • インフリキシマブ
  • マウスモノクローナル抗体(OKT3)
重症アレルギー反応(アナフィラキシー反応)、発熱、ふるえ(硬直)、筋肉と関節の痛み、消化管過敏症、けいれん、薬物耐性(続発性の拒絶反応に対して薬が次第に効かなくなる)。重症な副作用は通常は、最初の数回投与した後に起こる 拒絶反応が起きた場合や移植時に、静脈投与

真菌類の代謝産物(真菌類によって産生され、Tリンパ球の作用を抑制する物質)

  シクロスポリン 肝臓と腎臓の損傷、高血圧、ふるえ、歯ぐきの腫れ、多毛症、癌のリスク増大 最初は経静脈投与し、その後は経口投与。アザチオプリンまたはプレドニゾロンと併用

その他

  酢酸グラチラマー 注射部位の炎症、胸痛、脱力感、感染症、痛み、吐き気、関節の痛み 皮下注射。肝移植を受けた患者に使用
  ミコフェノール酸モフェチル 下痢、敗血症、吐き気、嘔吐、リンパ腫のリスク増大 最初は経静脈投与し、その後は経口投与。コルチコステロイド薬またはシクロスポリンと併用
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