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はじめに

細菌は顕微鏡でないと見えない単細胞の微生物で、世界中の至る所に数千種類が生息しています。土や水の中にすむものもあれば、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖器などに定着しているものもあります。このうち病気を起こす細菌はほんの数種にすぎません。

細菌はいくつかの方法で分類されます。1つは形による分類法で、球形の細菌(球菌)、細長い細菌(桿菌[かんきん])、らせん状の細菌(スピロヘータ)などに分類します。

主な細菌の形

主な細菌の形

2つ目はグラム染色といって、色素による染まり方で分類する方法です。青く染まる菌をグラム陽性菌、ピンク色に染まる菌をグラム陰性菌と呼びます。グラム陽性菌とグラム陰性菌では、起こす感染の種類だけでなく、有効な抗生物質の種類も異なります。

グラム陰性菌には特有の外膜があり、菌体内への薬剤の浸透を阻んでいます。このため、グラム陽性菌に比べて抗生物質が効きにくいという特徴があります。また、グラム陰性菌の外膜にはリポ多糖体分子が多く存在しており、これが血流に入ると、高熱や命にかかわる血圧低下が生じることがあります(菌血症、敗血症、敗血症性ショック: はじめにを参照)。このことから、細菌性リポ多糖体は菌体内毒素(エンドトキシン)と呼ばれます。

グラム陰性菌は同種の異なる菌株と、あるいは種の異なる菌株との間でも容易に遺伝物質(DNA)を交換し、菌のもつ性質を変えることができます。そのため、あるグラム陰性菌が遺伝子の変化(突然変異)を起こして抗生物質に耐性をもつようになり、そのDNAを別の菌株と交換させると、その株も耐性をもつようになります。

一方、グラム陽性菌は抗生物質に対する耐性を容易には獲得しませんが、炭疽菌ボツリヌス菌などのように、重い病気を引き起こす強い毒素を出すものがあります。

細菌を分類する3番目の方法は、酸素との関係で分ける方法です。大半の細菌は酸素があるところで生き、成長します。このような細菌を好気性菌といいます。逆に、低濃度の酸素でないと生きられなかったり、酸素が毒性に働く細菌もあり、これらは嫌気性菌と呼ばれます。嫌気性菌は体内の酸素レベルの低い部位、たとえば腸、壊死(えし)組織、汚れた深い創傷などで繁殖します。

皮膚や粘膜(口、腸、腟[ちつ]などの内壁)には何百種もの嫌気性菌が害を及ぼすことなく常在し、便1立方インチ(15.7立方センチメートル)の中には数千億個もの菌がいることもあります。嫌気性菌感染症の多くは、こうして体内に定着している細菌によって起こります。

嫌気性菌には、けがや手術で損傷を受けた皮膚や筋肉組織、特に血流の良くない組織に侵入しやすいという性質があります。癌(がん)がある場合や免疫力が低下している場合には、突発的に感染症を起こすこともあります。口の中に感染症を起こすことも多く、また慢性(急性ではない)の副鼻腔炎や中耳炎の原因となります。嫌気性菌感染症は膿(うみ)のかたまり(膿瘍[のうよう])をつくることが多く、重い感染症はしばしば周囲の組織にガスを放出します。

病気を起こす嫌気性菌には、人や動物の腸内、ほこり、土壌、腐った植物などに生息するクロストリジウム、口、上気道、大腸に常在している細菌集団(細菌叢[さいきんそう])のペプトコッカスペプトストレプトコッカスがあります。大腸の正常細菌叢のバクテロイデスや、口の中の正常細菌叢の放線菌、プレボテラフソバクテリウムも嫌気性菌の仲間です。

クロストリジウム属とは

クロストリジウム属は毒素をつくる嫌気性の細菌で、破傷風、ボツリヌス中毒、組織感染症をはじめ多くの重症疾患を起こします。

クロストリジウム属の細菌は通常、人間の腸の中、土壌、腐った植物などにすみついており、すべての種が毒素を産生します。ボツリヌス中毒やさまざまな下痢性の病気など、クロストリジウム属による病気の中には、細菌が組織に侵入することなく毒素だけで起こるものがあります。それに対して、破傷風や外傷性のクロストリジウム感染症では、組織への侵入と毒素産生の両方が起こります。

毒素のみによるクロストリジウム病の中で最もよくみられるのがウェルシュ菌による食中毒ですが、症状は比較的軽く、短期間で治ります。一方、重い食中毒を起こすクロストリジウム属細菌もあり、炎症を起こして腸壁を破壊し、ひどい血性の下痢を伴う壊死性腸炎を引き起こします。この感染は単発のこともありますが、細菌のついた肉を食べた人たちの間で集団発生することもあります。抗生物質を長期間服用している場合には、毒素産生菌であるクロストリジウム‐ディフィシル菌が増殖して起こる腸炎がみられます(抗生物質に起因する大腸炎を参照)。ボツリヌス中毒は、ボツリヌス菌が産生する毒素に汚染された食品を食べることによって起こり、筋肉が麻痺して死に至ることもあります(末梢神経の障害: ボツリヌス中毒を参照)。

クロストリジウム属、特にウェルシュ菌は傷口にも感染し、皮膚壊疽、クロストリジウム性筋壊死、破傷風など、比較的まれですが致死性の高い病気を起こします。こうした感染は、菌で汚染された傷、深い刺し傷、組織がつぶれている傷などの場合や、注射針を使う麻薬常習者に発生しやすいといえます。死亡率は高く、特に高齢者や癌患者は死に至るおそれがあります。

その他の細菌性感染症

感染症

原因菌と感染源

症状と治療

備考

ブルセラ症

原因菌:ブルセラ菌

感染源:家畜、水牛、非殺菌乳、汚染された乳製品

症状:数カ月から数年にわたり繰り返す発熱。腹痛、嘔吐、下痢、骨や関節の痛み

治療:ドキシサイクリンの内服と併せてストレプトマイシンを毎日注射する

食肉処理業者、獣医、農業従事者、畜産業者は感染リスクが高い
ネコひっかき病

原因菌:バルトネラ‐ヘンセレ

感染源:飼いネコ

症状:ネコにひっかかれたあとに赤くかさぶたに覆われた水疱が生じる。リンパ節が腫れて膿がたまり、皮膚に穴が開いて排出される

治療:患部を温める。鎮痛薬、アジスロマイシンの投与も可

世界中のほとんどの飼いネコが感染している(大半が無症状)
エリジペロスリックス症

原因菌:エリジペロスリックス‐ルシオパシエ

感染源:動物関係のものを扱っている作業中の刺し傷

症状:外傷部分の皮膚が赤紫色になって硬くなる。かゆみ、灼熱感、腫れ

治療:ペニシリンを1回注射またはエリスロマイシンを1週間内服。通常は治療を行わなくても回復する

まれに関節や心臓弁に感染する
ナイセリア感染症

原因菌:髄膜炎菌

感染源:髄膜炎菌は人の体内にすむ常在菌の1種

症状:髄膜炎症状(頭痛、錯乱、傾眠、昏睡、死)

治療:セフトリアキソン

ほとんどの種類に対し有効なワクチンがある
 

原因菌:淋菌

感染源:淋菌は性感染する

症状:尿道または腟からの分泌物

治療:セフトリアキソンまたはアジスロマイシンの単回投与

 
ノカルジア症

原因菌:ノカルジア属(主にノカルジア‐アステロイデス

感染源:ノカルジア属は土中の腐食物にすむ。肺感染症は汚染したほこりを吸いこむことで起こり、皮膚感染症は刺し傷から起こる

症状:せき、脱力感、悪寒、胸痛、息切れ、発熱、肺膿瘍、皮膚のただれ

治療:トリメトプリム‐スルファメトキサゾール(ST合剤)、またはイミペネムとアミカシンを併用で数カ月から1年

慢性疾患のある人や免疫抑制薬の投与を受けている人はリスクが高い。感染例の3分の1で脳に感染が広がり膿瘍を引き起こす。死に至る場合もある
鼠咬(そこう)症

原因菌:ストレプトバチルス‐モニリフォルミス

感染源:野生のネズミ。ときに感染したげっ歯類を食べたイヌ、ネコ、フェレット、イタチなどの肉食動物。げっ歯類に汚染された食品

症状:悪寒、数カ月にわたり繰り返す発熱、嘔吐、頭痛、腰痛、関節痛、手足の発疹、関節の腫れ

治療:ペニシリンまたはエリスロマイシン

ネズミにかまれた場合は、予防目的で抗生物質を処方することが多い。米国ではストレプトバチルス‐モニリフォルミスによる鼠咬症が多い。アジアでは鼠咬症スピリルムが原因の場合が多い。症状は似ているが、後者ではかまれた部位が炎症を起こし、リンパ節の腫れ、疲労感、発疹がみられる点が異なる。この種の鼠咬症の治療にもペニシリンまたはエリスロマイシンを使用する
回帰熱

原因菌:ボレリア属の細菌

感染源:キモノジラミ、軟ダニ

症状:突然の悪寒から始まる高熱(発熱は1〜2週間間隔で繰り返す)。激しい頭痛、嘔吐、筋肉痛と関節痛。赤みを帯びた湿疹(胴体、腕、脚)。黄疸、肝臓と脾臓の腫大、心臓の炎症、心不全

治療:テトラサイクリン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン

米国では、感染は西部の州に限られる。合併症には眼の炎症、全身の紅斑(多形滲出性紅斑)、妊婦の流産などがある
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