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前立腺癌

前立腺癌は、米国では男性がかかる癌の中で発症数が最も多く、癌による死亡の中でも第2位を占めています。前立腺癌は年齢とともに発症しやすくなるほか、アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系の人、近親者に前立腺癌患者がいる人、テストステロン補充療法を受けている人は、前立腺癌になるリスクが高くなります。前立腺癌は通常、きわめてゆっくりと増殖し、症状が現れるまでに数十年かかることもあります。このため、前立腺癌がある人は大勢いても、それが直接の死因となる人は、そのうちの一部に過ぎません。前立腺癌がある人の多くが、癌があることさえ知らずに死んでいきます。

前立腺癌では、まず前立腺に小さなこぶができます。ほとんどの前立腺癌は増殖が非常に遅く、症状がありません。しかし、中には増殖が速い癌や、前立腺以外の部位に転移する癌もあります。前立腺癌の原因は明らかになっていません。

症状

前立腺癌は進行期になるまで症状が現れません。尿が出にくくなる、排尿回数が増える、尿意が切迫するなど、前立腺肥大症によく似た症状が現れることがあります。ただし、これらの症状も、前立腺癌が大きくなって尿道を圧迫し、尿の流れが一部妨げられるようになってから現れるものです。その後、血尿が出たり、突然尿が出なくなるといった症状が出ることもあります。

患者の中には、前立腺癌が転移して初めて症状が現れる人もいます。前立腺癌は、骨盤、肋骨(ろっこつ)、脊椎などの骨や、腎臓によく転移します。骨の癌は痛みを伴い、容易に骨折するほど骨がもろくなります。また、前立腺癌が脳に転移することもあり、やがて発作、錯乱、頭痛、脱力などの神経症状が現れます。脊髄(せきずい)に転移することもよくあり、痛み、しびれ、脱力、尿失禁を生じます。癌が転移すると貧血がよく起こります。

スクリーニング検査

前立腺癌は多くの人にみられる病気なので、症状のない男性に対しても検査が行われます(スクリーニング検査)。しかし、専門家はその有効性に対して否定的です。スクリーニング検査を行えば前立腺癌の早期発見が可能となり、理論上はメリットがあるはずですが、この癌は増殖が遅く、特に症状を引き起こさないケースも多いため、検査とその後の早期治療の有効性を評価することは困難です。スクリーニング検査で見つかる前立腺癌の中にはおそらく、たとえ発見されないままでも臓器の損傷や死亡を引き起こさないものも含まれています。そのような癌を治療すると、治療せずにいた場合よりも体に大きなダメージを与えるおそれがあります。スクリーニング検査で得られるメリットが、不要な治療や検査のデメリットを上回るかどうかは明らかではありません。また、前立腺癌のない人がスクリーニング検査の結果、「前立腺癌の疑いあり」と判定されることもよくあります。スクリーニング検査で癌が疑われれば、癌を発見するための追加検査が必要です。こうした追加検査は費用が高く、体に悪影響を及ぼす場合もあり、患者にとってしばしばストレスとなります。

前立腺癌のスクリーニング検査では、血液検査と直腸診を行います。前立腺癌があると、前立腺にしこりを感じ、その多くは硬いしこりです。血液検査では、前立腺特異抗原(PSA)の血中濃度を測定します。前立腺癌があると、PSA値は上昇します。ただし、癌があるのに正常値を示したり(偽陰性)、癌がないのに高値となる(偽陽性)など、誤った結果を示すこともあります。PSA値は年齢とともに上昇するものですが、前立腺癌があるとその上がり方が大きくなります。また、癌以外の前立腺疾患(前立腺肥大症、前立腺炎など)がある場合や、過去2日以内に尿路の治療を受けた場合にも、PSA値がわずかに上昇することがあります。

診断

前立腺癌の診断は、患者の症状やスクリーニング検査の結果に基づいて行われます。癌が疑われる人には、まず第1段階として直腸診とPSA値の測定を行います。その結果、癌の可能性がある場合には、通常は超音波検査を実施します。この超音波検査で前立腺癌が見つかる場合もありますが、癌があるのに見つからないこともあります。

直腸診やPSA検査の結果から前立腺癌の可能性がある場合は、前立腺から組織サンプルを採取して顕微鏡で調べます(生検)。生検を行う際には、まず直腸に超音波深触子(プローブ)を挿入して前立腺の画像を確認します(経直腸的超音波検査)。この画像をみながらプローブを介して針を挿入し、組織を採取します。組織サンプルの採取には数分しかかからず、局所麻酔の下で、あるいは麻酔なしでも行うことができます。

癌の経過を見極めて最も良い治療法を選択するために、医師は癌を、(1)顕微鏡でみた正常細胞との形態の違いの程度(異型度、すなわち癌の悪性度)、(2)癌がどこまで転移しているか(病期)―という2つの観点から分類します。

悪性度分類: 正常細胞との形態差が大きい前立腺癌細胞は、急速に増殖、転移する傾向があります。前立腺癌の悪性度を示すのに最もよく用いられるのが、グリーソンスコアによる分類です。生検で採取した組織の顕微鏡検査と生化学検査の結果から、2〜10のスコアで癌を分類します。最も多いのは4〜6で、数字が大きいほど悪性度が高く、癌が転移する確率も高くなります。前立腺内の狭い範囲にとどまっていて、グリーソンスコアが5以下と悪性度が低い癌では、診断から15年以内に死に至ることはめったにありません。この傾向は患者の年齢に左右されません。対照的に、グリーソンスコアが7以上の癌では、15年以内の死亡率が80%に達します。なお、大きな癌は、悪性度が低くても増殖や転移を起こしやすい傾向があり、治療が必要となります。

病期診断: 癌の診断が確定したら、病期を診断するための検査を行います。しかし、前立腺以外に転移している可能性がきわめて低い場合は、この検査は必ずしも必要ではありません。

前立腺癌の病期は、(1)前立腺内の広がりの範囲、(2)前立腺付近のリンパ節への転移の有無、(3)前立腺から離れた臓器への転移の有無という3つの基準により分類されます。直腸診、超音波検査、生検の結果から、前立腺内での癌の広がりの範囲がわかります。リンパ節への転移を調べるには、CT(コンピューター断層撮影)検査または放射性同位元素を使った骨盤部の核医学検査を行います。また、骨への転移は骨スキャンで調べます。大脳や脊髄への転移が疑われる場合は、CT検査かMRI(磁気共鳴画像)検査を行います。

治療

前立腺癌の治療法を複数の選択肢の中から選ぶのは難しく、患者のライフスタイルによって選択肢が違ってくることもしばしばあります。多くの場合、どの治療が最も効果的か、また個々の治療にどの程度の延命効果が期待できるかどうかは医師でも断言できません。治療の中には生活の質を低下させるものもあります。たとえば、大きな手術や放射線療法、ホルモン療法は、しばしば尿失禁や勃起機能不全を引き起こします。治療法を選ぶ際には、各方法の長所と短所を吟味する必要があります。こうした理由から、前立腺癌の治療法を選択する際には、他の多くの病気の場合に比べて、患者の希望が大きく考慮されます。

前立腺癌の治療方針としては、経過観察、治癒的治療(根治療法)、緩和療法(緩和ケア)のいずれかになります。

経過観察は、症状が現れるまでは特に治療をしないという方針です。これは、癌が前立腺から転移したり、症状が現れたりする可能性が低い患者に適しています。たとえば、癌が前立腺内の狭い範囲にとどまっていて、増殖が非常に遅く、グリーソンスコアも低いケースです。たいていの場合、このような癌は何年もの間、転移しません。高齢者では、このような癌が原因で死亡したり癌の症状が現れるより前に死を迎える方がはるかに可能性が高いとみられます。経過観察を選択すれば、さまざまな治療が引き金となって生じる尿失禁や勃起機能不全に悩まされることもありません。経過観察中に症状が出た場合は、必要に応じて治療します。また定期的に検査を行い、癌の急速な増殖や転移がないかをチェックします。患者はこうした検査で増殖や転移が見つかった時点で、改めて治療法を選択することもできます。

治癒的治療(根治療法)は、癌は前立腺内にとどまっているものの、やっかいな症状を引き起こしたり、死を招くおそれがある場合の一般的な方法です。急速に増殖している癌がそれに該当します。また、積極的に治療を行うことで患者がその後長く生きられる可能性があれば、増殖が遅い小さな癌の場合でも対象となります。ただし、このような癌による症状が10年以内に進行する可能性は低く、15年以上たっても症状が現れない場合もあります。癌が前立腺以外に転移し、比較的短期間のうちに症状が現れそうな場合にも、治癒的治療が役立ちます。なお、こうした治療が効果を示すのは、癌が前立腺付近の限られた範囲内にとどまっている場合に限られます。治癒的治療は患者の生存期間を延ばし、癌に起因するつらい症状を和らげたり、解消することができます。一方、こうした治療が原因で永久的な勃起機能不全や尿失禁といった生活の質を損なう副作用が生じてしまうリスクもあります。

緩和療法(緩和ケア)は癌そのものの治療よりも、むしろ症状を和らげる対症療法を主眼に行われます。この治療方針は、癌が広範囲に転移し、もはや治癒が望めない患者に適しています。癌の増殖や転移の速度を遅くしたり、一時的に進行を抑えることで症状の緩和を図ります。癌そのものの根本的な治療ではないため、いずれは症状が悪化し、最終的には癌が原因で死に至ります。

前立腺癌の治療には、手術、放射線療法、ホルモン療法の3種類があります。化学療法は通常はあまり行われません。

手術: 前立腺内にとどまっている癌には、前立腺を除去する前立腺切除術が有効です。この手術は増殖の速い癌には効果がありません。診断の段階ですでに癌が転移している可能性があるからです。前立腺切除術は全身麻酔による開腹手術で行われ、1晩入院しなければなりませんが、治療はこの1回の手術で完了します。前立腺切除術によって、永久的な勃起機能不全や尿失禁が引き起こされる場合があります。

前立腺切除術には、前立腺全摘除術、神経温存前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術の3種類があります。

前立腺全摘除術では、前立腺全体、精嚢(せいのう)、精管(輸精管)の一部を切除します。前立腺癌が治癒する可能性は最も高い手術ですが、この手術を受けた患者の約3%に完全尿失禁が生じ、約20%に不完全尿失禁または緊張性尿失禁が生じます。術後の一時的な尿失禁は大半の患者にみられ、数カ月間続きます。年齢が若いと、尿失禁が起こる確率は低くなります。前立腺全摘除術の後には、勃起機能不全もよく起こります。癌が前立腺内にとどまっている場合、前立腺全摘除術を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。治療の時点から10〜15年以上の生存が見込まれる若年者には、前立腺全摘除術が有効と考えられます。

推定される癌の大きさと発生位置によっては、勃起に必要な神経の一部を傷つけないように行う神経温存前立腺全摘除術も実施できます。前立腺の神経や血管が癌に侵されている場合には、この手術は適用できません。この方法では、神経の温存に配慮しない通常の前立腺全摘除術に比べて、勃起機能不全を引き起こす確率が低くなります。

このほか、腹腔鏡を使って行う腹腔鏡下前立腺全摘除術があります。手術の傷あとが小さく、術後の痛みが少ない点が長所ですが、手術費用が高く、手術に時間がかかるなどの短所もあります。この手術には専門の技術が必要とされ、実施できる施設は限られます。

放射線療法: 放射線療法の目的は、癌細胞を殺して正常な組織を温存することです。放射線療法では、前立腺にある癌だけでなく、前立腺周辺の組織を侵している癌も治療できます(ただし、前立腺から離れた臓器に転移している癌は治療できません)。放射線療法は、骨に転移した癌による痛みも和らげることができますが、癌そのものを治癒することはできません。

さまざまな病期の前立腺癌の患者に放射線療法を行った結果では、手術を行った場合とほぼ同程度の10年生存率が得られています。前立腺内にとどまっている癌の場合、放射線療法を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。ただし、手術の場合は1回で治療が完了しますが、放射線療法は数週間にわたり、何回にも分けて治療を行います。

これまで一般に行われてきた放射線療法は、放射線を体の外から前立腺と周辺組織に照射して行います(従来型外部放射線療法)。癌に侵された前立腺と周辺組織をCT検査で確認します。週5日の治療を5〜7週間続けます。患者の30%に勃起機能不全が起こりますが、前立腺切除術よりは低い発生率です。従来型外部放射線療法で尿失禁が生じる割合は5%未満です。患者の約7%に瘢痕組織によって尿道が狭くなり、尿の流れが妨げられる尿道狭窄が生じます。このほか厄介ですが一時的な副作用として、排尿時の焼けつくような痛み、頻尿、血尿、下痢(ときに血が混じる)、直腸の炎症と下痢(放射線直腸炎)、突然起こる切迫した便意などがあります。

近年の技術的進歩によって、三次元原体放射線療法と呼ばれる技術が開発され、癌に正確に的を絞って放射線を照射できるようになりました。現在のところ、従来型外部放射線療法と三次元原体放射線療法の治療成績を比較したデータはありませんが、後者の方が一時的な副作用は少なくてすみます。

小さな放射線源を前立腺に埋めこみ、癌のすぐ近くから放射線を照射する方法もあります(近接照射療法)。インプラント線源の埋めこみは、超音波またはCTの画像をみながら行います。近接照射療法には、正常な周辺組織を温存しながら高用量の放射線を前立腺に照射でき、副作用も少なくてすむなど多くの利点があります。埋めこみは脊髄麻酔のみを使用して数時間で完了し、何回も通院して照射療法を繰り返す必要はありません。ただし、近接照射療法では尿道狭窄の発生率が20%に達しています。現在のところ、近接照射療法と他の治療法の治療成績を比較したデータはありません。近接照射療法と外部放射線療法の併用が推奨されるケースもあります。

前立腺癌は放射線療法に対して抵抗性があり、治療後に再発する可能性があります。

ホルモン療法: 前立腺癌の増殖や転移にはテストステロンが必要なので、このホルモンの作用を妨げる治療(ホルモン療法)を行うと、癌の進行を遅らせることができます。一般に、ホルモン療法は癌の転移を遅らせたり、広範囲に転移した前立腺癌を治療するために行われ、他の治療法と併用されることもあります。転移性の前立腺癌に対してホルモン療法を行うことで、癌の増殖や転移を遅らせたり、一時的に癌を小さくすることができます。ホルモン療法には癌の症状を改善するだけでなく、患者の生存期間を延ばす効果もあります。ただし、ホルモン療法はやがてその効果を失い、その後は癌が進行します。

米国で前立腺癌の治療に用いられる薬にはリュープロレリンとゴセレリンがあり、いずれも下垂体が精巣(睾丸)を刺激するのを防ぎ、テストステロンの産生を妨げる働きがあります。これらの薬は1、3、4あるいは12カ月に1度の頻度で注射し、生きている限り注射を続けます。

テストステロン阻害薬(フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドなど)も用いられます。これらの薬は毎日服用します。しかし、服用によりテストステロン値が低下し、それに起因したさまざまな変化が現れます。体のほてり、骨粗しょう症、気力の低下、筋肉量の減少、むくみによる体重増加、性的欲求の低下、体毛の減少などがありますが、勃起機能不全や乳房の肥大(女性化乳房)もよくみられます。

古くからあるホルモン療法に、左右両方の精巣の摘出(両側精巣摘出術)があります。両側精巣摘出術のテストステロン値に対する効果は、リュープロレリンやゴセレリンの効果と同程度です。両側精巣摘出術で精巣癌の増殖速度は非常に遅くなりますが、テストステロン値の低下に伴う副作用が起こります。両側精巣摘出術による肉体的、精神的影響は、患者によっては受け入れ難いものです。

癌が広範囲に転移した患者の場合、ホルモン療法は3〜5年で効果がなくなります。ホルモン療法を続けていても癌が進行した患者は、ほとんどの場合1〜2年のうちに死に至ります。癌がホルモン抵抗性となって療法の効果が失われた場合には、他のホルモン薬か化学療法に切り替えます。

どの治療方法でも、再発リスクと治療の経過に応じて、定期的にPSA値を測定します(最初の1年は3〜4カ月ごと、翌年は6カ月ごと、その後は1年に1回)。PSA値が上昇した場合には、癌が再発した可能性があります。

前立腺癌の一般的な治療法と治療方針

癌の特徴

治療方針

治療法

小さく、増殖の遅い癌。病変は前立腺に限られる。患者の推定余命は長い 根治療法 手術あるいは放射線療法
小さく、増殖の遅い癌。病変は前立腺に限られる。患者の推定余命は短い 経過観察 治療は行わない
大きい、あるいは増殖の速い癌。病変は前立腺に限られる 根治療法 手術あるいは放射線療法
癌が前立腺周辺に転移しているが、遠くまでは広がっていない 根治療法 放射線療法
癌が広範囲に転移している 緩和療法 ホルモン療法
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