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出生前診断

出生前診断は、両親から受け継いだり、その他の原因などで生じた遺伝病がないか、出生前に胎児を調べる検査です。胎児の異常を検出するための検査としては、超音波検査、絨毛(じゅうもう)検査、羊水穿刺、経皮的臍帯血(さいたいけつ)採取などがよく行われています。こうした検査のほとんどは、子供に遺伝子異常(特に神経管の欠損)や染色体異常(特に母親が35歳以上の場合)が生じるリスクの高いカップルに対して行われます。超音波検査は、米国や日本では通常の妊婦健診の一環として広く行われています。

出生前に診断できる主な遺伝病

病名

発生率

遺伝形式

嚢胞性線維症 白人3300人に1人 常染色体劣性遺伝
先天性副腎過形成 1万人に1人 常染色体劣性遺伝
デュシェンヌ型筋ジストロフィ 男児の出産3500人に1人 X染色体劣性遺伝
血友病A 男児の出産8500人に1人 X染色体劣性遺伝
アルファ‐サラセミア、ベータ‐サラセミア 民族や人種によって大きく異なる 常染色体劣性遺伝
ハンチントン病 10万人に4〜7人 常染色体優性遺伝
多発性嚢胞腎(成人型) 3000人に1人 常染色体優性遺伝
鎌状赤血球貧血 米国では黒人400人に1人 常染色体劣性遺伝
テイ‐サックス病(GM2ガングリオシドーシス) アシュケナージ系ユダヤ人とフランス系カナダ人では3600人に1人、その他の民族では40万人に1人 常染色体劣性遺伝

ヨーロッパ中部を起源とするドイツ、ポーランド、ロシア系ユダヤ人。

神経管欠損: 脳または脊髄(せきずい)の先天異常である神経管欠損を調べるための出生前診断は広く行われています(先天異常: 脳と脊髄の異常を参照)。具体的な障害の例としては、二分脊椎(にぶんせきつい:脊髄が脊椎によって完全に囲まれていない状態)、無脳症(脳と頭蓋骨の大半が欠けた状態)などがあります。神経管欠損は、米国では出産500〜1000人に1人の割合で発生しています。こうした欠損の多くは複数の遺伝子異常によるものですが、単一の遺伝子異常や染色体異常、薬剤の使用によってもまれに発生することがあります。神経管欠損のある子供をもつリスクが1%以上あるカップルには、羊水穿刺と超音波検査による出生前診断が勧められます。

神経管欠損のある子供をもつリスクは、この欠損の家族歴(カップルの子供も含む)があると高くなります。二分脊椎や無脳症の子供が過去に生まれたことがあるカップルでは、これらの欠損がある子供が再度生まれるリスクは2〜3%です。この欠損がある子供が過去に2人生まれている場合は5〜10%のリスクがあります。なお、神経管欠損の約95%は家族歴がないカップルに生じています。

リスクは住んでいる場所によっても異なります。たとえば英国では米国よりリスクが高くなっています。リスクは葉酸の摂取量が少ない場合にも高くなります。このため妊娠可能年齢の女性には葉酸のサプリメント(栄養補助食品)を摂取することが推奨されています。

染色体異常: 染色体異常は出生児約200人に1人の割合で生じます。また、妊娠初期(12週まで)に生じる流産の半分以上は染色体異常が原因です。染色体異常のある胎児の多くは出生前に死亡します。染色体異常のある子供をもつリスクが高いカップルでは、染色体異常の出生前診断を受けることも検討します。ただし、出生前診断で行う検査は、ごくわずかですが特に胎児へのリスクを伴います。したがって、子供に染色体異常があるかどうかを知ることの有益性よりも、このリスクの方が重大であると考える場合は検査を行いません。

染色体異常のある子供をもつリスクはいくつかの要素により高くなります。ダウン症候群(出生した新生児に最も多くみられる染色体異常)の子供をもつリスクは女性の年齢とともに高くなり、特に35歳以上では急上昇します(卵子の数はいくつ?を参照)。普通、35歳以上で出産する女性には胎児の染色体異常検査が行われます。また、35歳未満であってもダウン症候群の子供をもつ女性にはこの検査を行うことがあります。女性の年齢にかかわらず、心配であれば出生前診断を受けることができます。

染色体異常の家族歴(カップルの子供を含む)がある場合はリスクが高くなります。すでに典型的なダウン症候群(21番染色体トリソミー)の子供が1人いて、女性が30歳未満である場合、染色体異常の子供が生まれるリスクは約1%になります。

先天異常児を出産したことがある場合は、その子供が生きて生まれてきたかどうかにかかわらず、また子供に染色体異常があったかどうかが不明であっても、染色体異常のある子供が生まれるリスクは高いとみられます。染色体異常は、先天異常がある乳児の約30%と、見たところは正常な死産児の5%に存在します。

カップルの一方または両方に染色体異常がある場合には、その人が保因者に過ぎず、身体的な異常がみられない健康体であっても、リスクは高くなります。

何度か流産を繰り返している場合も、染色体異常のある子供をもつリスクが高くなります。最初に流産した胎児に染色体異常があり、次の妊娠でも流産した場合、その胎児にも高率に染色体異常がありますが、異常の種類は同じとは限りません。何度か流産している場合は、次の妊娠を試みる前にカップル2人の染色体検査を行います。異常が見つかった場合、次回の妊娠では初期に出生前診断を受けることも考慮します。

妊娠中の女性の血液検査で特定の物質が異常値を示した場合は、胎児に染色体異常がある可能性が高いことを示しています。このような物質のことをマーカーといいます。重要なマーカーの1つは、アルファ‐フェトプロテイン(胎児の体内でつくられるタンパク質の1種)です。マーカーにはこのほか、エストリオール(エストロゲンの1種)やヒト絨毛性ゴナドトロピン(胎盤でつくられるホルモン)などがあります。妊娠した女性では、定期的な妊婦健診の一環としてマーカー値の測定が行われます。

母体の年齢別にみた染色体異常の発生リスク

母親の年齢

ダウン症の子供が生まれるリスク

何らかの染色体異常をもつ子供が生まれるリスク

20 1667人に1人 526人に1人
22 1429人に1人 500人に1人
24 1250人に1人 476人に1人
26 1176人に1人 476人に1人
28 1053人に1人 435人に1人
30 952人に1人 384人に1人
32 769人に1人 323人に1人
34 500人に1人 238人に1人
36 294人に1人 156人に1人
38 175人に1人 102人に1人
40 106人に1人 66人に1人
42 64人に1人 42人に1人
44 38人に1人 26人に1人
46 23人に1人 16人に1人
48 14人に1人 10人に1人

Hook EB「母体の年齢別にみた染色体異常の発生率」(Obstetrics and Gynecology 58:282-285, 1981)およびHook EB, Cross PK, Schreinemachers DM「羊水穿刺および新生児検査における染色体異常の発見率」(Journal of the American Medical Association 249(15):2034-2038, 1983)のデータに基づき作成。

アルファ‐フェトプロテインの異常値の意味

妊娠すると、さまざまな先天異常を調べる血液検査を行うように医師から勧められます。マーカーと呼ばれる血液中の特定の物質を調べることで、胎児に染色体異常がある可能性が高いかどうかわかります。妊娠16〜18週に採血して調べると最も正確な結果が得られます。ただし、マーカーの値が正常であっても胎児が必ず正常とは限りませんし、異常な値が意味する内容はさまざまな場合があります。

妊婦の血液中のアルファ‐フェトプロテイン値が高いと、胎児に無脳症や二分脊椎といった脳や脊髄の異常がある可能性が高いと考えられます。ただし、この値は多胎妊娠や流産の可能性が高いとき、胎児が死亡しているときにも高くなることがあります。値が低い場合は、胎児にダウン症候群などの染色体異常がある可能性が高いとみられます。

アルファ‐フェトプロテイン値が高い場合は、超音波検査で胎児に異常がないか調べます。超音波検査で原因がわからなければ、羊水穿刺を行って胎児を取り巻く羊水中のアルファ‐フェトプロテイン値を調べます。同時に羊水中の染色体を分析することもあります。羊水中のアルファ‐フェトプロテイン値も高い場合はアセチルコリンエステラーゼという酵素も測定します。無脳症や二分脊椎があると多くの場合、羊水中のアルファ‐フェトプロテイン値が高く、アセチルコリンエステラーゼも検出されます。また羊水中のアルファ‐フェトプロテイン高値の場合、アセチルコリンエステラーゼの有無にかかわらず、胎児の食道や胃など、他の臓器に異常があることも考えられます。胎児の発育遅延や死産、胎盤早期剥離といった合併症を発症するリスクも高くなります。

検査方法

遺伝子異常や染色体異常を診断するにはいくつかの検査が行われます。

超音波検査

超音波検査は、妊娠中によく行われる検査です(婦人科疾患の症状と診断: 超音波検査を参照)。母体にも胎児にも、この検査によるリスクはないとみられています。妊娠3カ月以降になると超音波検査によって、胎児に先天的に大きな構造的異常があるかどうかを調べられます。妊婦のアルファ‐フェトプロテインが異常値を示したり、先天異常の家族歴がある場合には、胎児に異常がないか確認するためこの検査を行います。ただしどんな検査も完璧ということはなく、この検査の結果が正常だからといって、子供が必ず正常とは限りません。

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胎児超音波検査

胎児超音波検査

絨毛検査や羊水穿刺の前に、まず超音波検査を実施して妊娠期間を確認します。その上で、妊娠期間の適切な時期に絨毛検査や羊水穿刺を行います。また、超音波検査では胎盤の位置や、胎児が生きているかどうかもわかります。絨毛検査や羊水穿刺を実施する際にも超音波検査で胎児を観察し、器具の位置を確認します。

絨毛検査

絨毛検査では、絨毛(胎盤(妊娠8週の胎芽と胎盤の状態を参照)の一部を構成する組織)を少量採取します。これは胎児の病気を診断するための検査で、普通は妊娠10〜12週の時期に行います。絨毛検査は、羊水のサンプルが必要でない場合に羊水穿刺の代わりに使うこともあります。羊水のサンプルが必要になるのは、たとえば羊水中のアルファ‐フェトプロテイン値を測定する必要がある場合などです。

絨毛検査の利点は、羊水穿刺に比べて妊娠期間のより早い時期に結果が得られることです。このため結果に異常がなければ、早く不安を解消することができます。異常がある場合でも、診断が早いほど、単純で安全な方法で妊娠を中絶することができます。また、出生前に胎児に適切な治療を行うにも、異常の早期発見が必要な場合があります。たとえば女の胎児に先天的な副腎過形成がある場合は、男性的特徴が発達しないように、母親にコルチコステロイド薬が投与されます。先天性副腎過形成は遺伝病で、副腎が腫大して男性ホルモン(アンドロゲン)を過剰に分泌します。

絨毛を採取する前に、超音波検査によって胎児の生存、月齢、異常を確認し、胎盤の位置を確認します。

絨毛のサンプルは子宮頸部(しきゅうけいぶ)から(経頸管的ルート)、あるいは腹壁を通して(経腹的ルート)採取します。いずれの場合も超音波の画像で位置関係を確認しながら行い、カテーテル(細く柔軟な管)を通じて注射器に吸引した絨毛組織を分析します。

子宮頸部から組織を採取するには、腟(ちつ)から胎盤へカテーテルを挿入します。女性はあお向けになり腰と膝(ひざ)を曲げます。普通は内診のときと同様に、かかとや膝を支える形になった台の上で行います。検査時に受ける感覚はパパニコロー(パップスメア)検査(子宮頸部の細胞診)とほぼ同様ですが、より強い不快感を感じる女性もいます。この方法は、子宮頸部に異常がある場合や、陰部ヘルペス、淋菌感染症、子宮頸部の慢性炎症など活動性の感染症が生殖器にある場合は使用できません。

腹壁を通して組織を採取するには、腹部の皮膚に麻酔をかけて腹壁から胎盤へ針を挿入します。ほとんどの場合痛みは感じません。ただし採取後1〜2時間は腹腔にいくらか痛みを感じる場合もあります。

絨毛の採取後、血液型がRhマイナスでRh因子に対する抗体をもたない女性には、この抗体が生じないよう、抗D免疫グロブリンが注射されます(ハイリスク妊娠: Rh式血液型不適合を参照)。血液型がRhマイナスの女性では、胎児の血液型がRhプラスの場合、絨毛採取などの操作で、自分と胎児の血液が接触すると抗体が生じることがあります。この抗体は胎児に問題を起こすことがあります。父親もRhマイナスであれば、胎児もRhマイナスになるため、免疫グロブリン注射は不要です。

絨毛検査のリスクは羊水穿刺のリスクとほぼ同等ですが、胎児の手足を傷つけるリスクがやや高くなります。こうしたけがは胎児3000人に1人の割合で起きます。まれに、この検査を実施しても診断がはっきりしない場合があり、羊水穿刺が必要になることがあります。一般に、この2種類の検査の正確さは同程度です。

羊水穿刺

羊水穿刺(ようすいせんし)は、出生前に異常を発見する方法として特に多く行われている検査で、胎児を取り巻く液体(羊水)を少量採取します。羊水穿刺は妊娠14週以降に行います。妊婦の血液中のアルファ‐フェトプロテイン値が高いためこの検査を実施する場合には、妊娠15〜17週に行うのが最善です。羊水穿刺によって羊水中のアルファ‐フェトプロテイン値を測定すれば、母体の血液中の値でみるよりも、胎児に脳や脊髄の欠損がないかどうかをより正確に診断できます。

出生前診断

出生前診断

絨毛検査と羊水穿刺は胎児の異常を見つけるために行われる検査です。いずれの方法も超音波で位置を確認しながら行われます。

絨毛検査では胎盤の一部である絨毛を以下のいずれかのルートで採取します。1つは経頸管的ルートで、カテーテル(細く柔軟な管)を腟から子宮頸管を通して胎盤に挿入し、絨毛の一部を吸引します。もう1つは経腹的ルートで、腹壁の外から胎盤に注射針を刺して絨毛の一部を吸引します。こうして採取した絨毛を分析します。

羊水穿刺では、腹壁の外から子宮に針を刺して羊水を吸引し、分析します。

腹部の皮膚を麻酔した後、腹壁の外から針を刺し入れ、羊水を採取します。羊水穿刺は超音波の画像で胎児を観察し、針の位置を確認しながら行います。羊水を採取し、針を抜き取ります。結果が出るまでに1〜3週間かかります。血液型がRhマイナスの女性は、Rh因子に対する抗体ができるのを防ぐため、検査後抗D免疫グロブリンが投与されます。胎児の血液型がRhプラスであった場合、この抗体ができると胎児に問題を起こすことがあるからです(ハイリスク妊娠: Rh式血液型不適合を参照)。

羊水穿刺が母体や胎児に問題を起こすことはまれです。検査後1〜2時間はいくらか痛みを感じる場合もあります。この検査を受けた女性の約1〜2%では腟から出血や羊水の漏れが起こりますが、長く続くことはなく、普通は治療しなくても止まります。羊水穿刺が原因で流産するのは約200人に1人です。穿刺で胎児が傷つくことはごくまれです。胎児の数が2人以上であっても普通は羊水穿刺が可能です。

経皮的臍帯血採取

臍帯血とはへその緒の血液です。この検査は体の外から針を刺し、経皮的に臍帯血を採取するもので、染色体分析を至急必要とするとき、特に妊娠末期に超音波検査で胎児の異常が見つかったときに行われます。検査結果は多くの場合、48時間以内に判明します。

まず腹部の皮膚を麻酔します。超音波の画像で位置を確認しながら、腹壁からへその緒に針を挿入します。胎児の血液サンプルを採取し、針を抜き取ります。経皮的臍帯血採取は、母体と胎児の双方にリスクを伴う侵襲的な検査です。

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