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脂質代謝異常症

脂肪(脂質)は体にとって重要なエネルギー源です。体は蓄えた脂肪を分解して再合成し、必要なエネルギーと摂取した食べもののバランスを常に保っています。特定の酵素群が脂肪の代謝に役立っています。これらの酵素に異常がみられると、その酵素によって分解されるはずの脂肪が分解されずに蓄積します。長年このような物質が蓄積していくと、多くの器官に害を及ぼします。脂質の蓄積によって起こる疾患群をリピドーシスといいます。ほかにも酵素の異常によって、脂肪を適切にエネルギーに変換することができなくなるものがあります。これを脂肪酸酸化異常症と呼びます。

そのほかのまれな脂質代謝の遺伝性異常

ウォルマン病は、ある種のコレステロールとグリセリドが組織に蓄積して起こる病気です。この病気によって脾臓と肝臓が腫れます。副腎にカルシウムが沈着して石灰化します。脂肪性下痢(脂肪便)も起こります。多くは生後6カ月までに死亡します。

脳腱黄色腫症は、コレスタノールというコレステロールの代謝産物が組織に蓄積して起こります。やがて運動失調、痴呆、白内障、腱における脂質の増加(黄色腫)が起こります。30歳を過ぎると運動障害がよくみられるようになります。早期にケノジオールの投与を開始すれば、この病気の進行を予防するのに役立ちます。しかし、すでに起こった障害を取り除くことはできません。

シトステロール血症では、果物や野菜から取った脂肪が血液や組織の中に蓄積します。脂肪が蓄積していくとアテローム動脈硬化が起こり、異常赤血球や腱への脂肪沈着(黄色腫)がみられるようになります。治療は植物油のように植物性脂肪を多く含む食べものを減らすことと、コレスチラミン樹脂を投与することです。

レフサム病では、フィタニン酸という脂質代謝産物が組織に蓄積します。フィタニン酸が蓄積すると、神経障害や網膜障害、けいれん性運動などが起こり、骨や皮膚に病変がみられるようになります。治療は葉緑素を含む果物や野菜などを食べないことです。血漿交換で血液からフィタニン酸を取り除く方法も役に立ちます。

ゴーシェ病

ゴーシェ病では、グルコセレブロシドという脂肪の代謝産物が組織にたまります。ゴーシェ病はリピドーシスの中で、最もよくみられるものです。この病気は東欧などのアシュケナージ系ユダヤ人に最も多くみられます。この病気によって肝臓と脾臓(ひぞう)が腫れ、皮膚に茶色っぽい色素沈着ができます。眼にグルコセレブロシドが蓄積すると、瞼裂斑という黄色い斑点が現れます。骨髄にたまると疼痛と骨質の破壊が起こります。

ゴーシェ病患者のほとんどは1型(慢性型)を発病し、肝臓および脾臓の腫れと骨の異常が起こります。1型患者のほとんどは成人ですが、子供が発病することもあります。2型(乳児型)を発病するのは乳児で、脾臓の腫れと重症の神経系の異常を起こし、多くは1年以内に死亡します。3型(若年型)は小児期に発病します。3型の子供は肝臓と脾臓の腫れ、骨の異常が起こり、次第に神経系の異常が起こるようになります。青年期まで生き延びれば、その後何年も生存する場合があります。

ゴーシェ病患者の多くは、酵素補充療法で治療できますが、この場合、通常2週間ごとに酵素を静脈内投与します。酵素補充療法が最も有効なのは、神経系の合併症がない患者です。

テイ‐サックス病

テイ‐サックス病では、ガングリオシドという脂肪代謝の産物が組織に蓄積します。この病気は東欧のユダヤ人の家系で最も多くみられます。この病気の子供は非常に幼いうちに遅滞が進行しはじめ、筋緊張低下がみられます。痙縮(けいしゅく)に続いて麻痺(まひ)や痴呆が起こり、失明します。こうした子供は通常3〜4歳までに死亡します。テイ‐サックス病は絨毛穿刺か羊水穿刺により、胎児のうちに特定することができます。この病気の治療法はなく、治癒することはありません。

ニーマン‐ピック病

ニーマン‐ピック病では、ある特定の酵素の欠損によって、スフィンゴミエリン(脂質代謝の産物)やコレステロールが蓄積します。この病気には、酵素の欠損の程度が異なる複数のタイプがあり、スフィンゴミエリンやコレステロールの蓄積度に差がみられます。最も重症のタイプを発病する傾向があるのは、ユダヤ系の人々です。軽症のタイプはあらゆる人種でみられます。

最も重症の型(タイプA)では、子供は年相応に成長できず、複数の神経障害を発症します。これらの子供は普通3歳までに死亡します。タイプBの子供では、皮膚中の脂肪の増加、濃い色素沈着、肝臓や脾臓の腫れ、リンパ節の腫れが起こり、精神遅滞がみられることもあります。タイプCの子供では、小児期に症状が現れ、けいれんと神経障害を伴います。

ニーマン‐ピック病のいくつかのタイプは、絨毛穿刺や羊水穿刺により、胎児のときに診断できます。出生後は、肝生検(組織のサンプルを採取して顕微鏡で検査する)により診断します。いずれのタイプのニーマン‐ピック病も治りません。子供は感染症や中枢神経系の機能不全の進行により死亡する傾向があります。

ファブリー病

ファブリー病では、脂肪代謝産物である糖脂質が組織に蓄積します。このまれな病気の原因となる欠損遺伝子はX染色体で遺伝するため、男性だけに発病します(遺伝と遺伝子: 遺伝子の発現を参照)。糖脂質が蓄積すると、非癌性の皮膚の増殖(角化血管腫)が胴体下部にできます。また、角膜が濁るため視力が低下します。焼けつくような痛みが手と脚に生じ、発熱することがあります。ファブリー病の患者はやがて腎不全や心疾患を起こしますが、多くは成人期を過ごすことができます。腎不全によって高血圧が起こり、脳卒中の原因になります。

ファブリー病は絨毛穿刺や羊水穿刺により、胎児のうちに診断できます。この病気は治らず、直接的な治療法もありません。しかし現在、欠損した酵素を外から補う治療法の研究が進められています。鎮痛薬の投与は痛みと発熱には効果があります。腎不全を起こしてしまったら、腎移植が必要になります。

脂肪酸酸化異常症

脂肪はいくつかの酵素の働きによって分解され、エネルギーに換えられます。これらの酵素の1つが先天的に欠損したり欠乏すると、体はエネルギー不足になり、アシルCoAのような分解産物が蓄積します。欠乏することが最も多い酵素は、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)です。MCAD欠損症は最も一般的な遺伝性の代謝異常の1つで、特に北欧系の人にみられます。

症状は通常、出生後3歳までに現れます。症状が出ることが最も多いのは、エネルギーを使い果たした後に食べものを摂取しなかったり、運動や病気などのためにカロリーがさらに必要となったときです。血糖値が著しく下がるため、錯乱や昏睡が起こります。この病気の子供は元気がなくなり、嘔吐やけいれんを起こします。長い間には精神発達や身体発育の遅れ、肝臓の腫れ、心筋の衰弱、不規則な心拍などがみられます。突然死亡することもあります。

米国のいくつかの州では、血液検査によってMCAD欠損症の新生児スクリーニングを行っています。緊急時の治療はブドウ糖の静脈内投与を行います。長期的な治療としては、子供の食事の回数を増やして食事を抜かないようにするほか、高炭水化物・低脂肪の食事を取る必要があります。アミノ酸カルニチンの栄養補助食品は役に立ちます。長期的な経過は一般に良好です。

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