メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

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Elias A. Giraldo, MD

脳卒中は,突然の局所的な脳血流遮断が関与する不均一な疾患群であり,神経障害を引き起こす。脳卒中は,典型的には血栓症や塞栓症に起因する虚血性(80%),または,血管破裂(例,クモ膜下出血,脳内出血)に起因する出血性(20%)である。脳卒中の症状が24時間未満持続する場合は,一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる。脳卒中は脳組織に損傷を与えるが,TIAではしばしば損傷が起こらず,起こっても脳卒中でみられるほど広範ではない。西洋諸国では脳卒中は3番目に多い死亡原因で,神経障害の原因として最も多い。

病因と病態生理

脳卒中は,脳の動脈系( 脳卒中: 脳の動脈系。図 1: イラスト参照),すなわち,内頸動脈の分枝からなる前方循環または,椎骨動脈と脳底動脈の分枝からなる後方循環のいずれかを侵す。

図 1

脳の動脈系。

脳の動脈系。

前大脳動脈は,前頭葉および頭頂葉の内側部と脳梁に血液を供給する。中大脳動脈は前頭葉,頭頂葉,側頭葉表面の大部分に血液を供給する。前大脳動脈と中大脳動脈の分枝(レンズ核線条体動脈)は,基底核と内包前脚に血液を供給する。

椎骨動脈と脳底動脈は,脳幹,小脳,後大脳皮質,内側側頭葉に血液を供給する。後大脳動脈は脳底動脈から分岐して,内側側頭葉(海馬を含む)および後頭葉,視床,乳頭体,膝状体に血流を供給する。

前方循環と後方循環はウィリス動脈輪で連絡している。

神経障害は脳の罹患部位を反映している( 脳卒中: 主な脳卒中症候群表 1: 表参照)。前方循環脳卒中は典型的には一側性の症状をもたらすのに対し,後方循環脳卒中ではしばしば両側性障害を引き起こし,意識レベルを侵す可能性が高い。

表 1

主な脳卒中症候群

症状と徴候

症候群

対側の片麻痺(下肢で最大),尿失禁,無関心,錯乱,判断力低下,無言症,把握反射,歩行失行

前大脳動脈(まれ)

対側の片麻痺(下肢よりも上肢と顔面でより重度),構音障害,片側感覚消失,対側の同名半盲,失語症(優位半球が侵された場合)あるいは失行と感覚無視(非優位半球が侵された場合),単眼の視力喪失(内頸動脈が侵された場合)

中大脳動脈(多い)

対側の同名半盲,一側性皮質盲,記憶喪失,一側性第3脳神経麻痺,ヘミバリズム

後大脳動脈

一側性または両側性の脳神経障害(例,眼振,めまい,嚥下困難,構音障害,複視,失明),痙性不全麻痺,交差性感覚および運動障害*,意識障害,昏睡,死亡(脳底動脈閉塞が完全な場合)

椎骨脳底動脈系

皮質障害を伴わない,一側性の純粋な感覚障害あるいは運動障害

ラクナ梗塞

*同側性の顔面感覚障害あるいは運動麻痺に,対側半身の感覚消失あるいは片側不全麻痺が伴う場合は,橋またはそれ以下の病変を示唆する。

神経障害は一般的に脳卒中のタイプを反映しないが,他の発現症状から示唆されることが多い。突然の激しい頭痛はクモ膜下出血に起因すると考えられる。頭痛,悪心,嘔吐をしばしば伴う意識障害あるいは昏睡は,頭蓋内圧上昇(頭蓋内および脊髄の腫瘍: 症状と徴候を参照 )を示唆するが,この上昇は大きな虚血性脳卒中から48〜72時間後に起こり,多くの出血性脳卒中ではこれよりも早く起こりうる;結果的に致死的な脳ヘルニアが生じることがある(昏迷と昏睡: ヘルニア症候群を参照 )。

脳卒中の危険因子は,過去の脳卒中,高齢,脳卒中の家族歴,アルコール中毒,男性,高血圧,喫煙,高コレステロール血症,糖尿病,ある種の薬物使用(例,コカイン,アンフェタミン)などである。一部の危険因子は,特定のタイプの脳卒中の素因となる(例,凝固性亢進は血栓性脳卒中の,心房細動は塞栓性脳卒中の,頭蓋内動脈瘤はクモ膜下出血の素因となる)。

評価

評価の目的は,脳卒中が発生したか否か,それが虚血性か出血性か,緊急治療が必要か否かを確定することである。

脳卒中は,ある動脈領域における脳損傷に一致する突然の神経障害,とりわけ突然の激しい頭痛,突然の説明のつかない昏睡,または突然の意識障害によって疑われる。このような患者は,出血性脳卒中と虚血性脳卒中を鑑別し,頭蓋内圧上昇の徴候を検出するため,直ちに頭部CTを受けるべきである。CTは特に,頭蓋内の血液に感度が高いが,前方循環虚血性脳卒中においては発症から1時間以内は,正常か,微細な変化しか示さないことがある。また,CTでは,小さな後方循環脳卒中の一部と,3%以下のクモ膜下出血が看過される。片側性の徴候がないまたははっきりしないにもかかわらず意識が障害されている場合には,脳卒中以外の原因についてさらに検査が行われる(昏迷と昏睡を参照 )。臨床的に脳卒中が疑われるがCTで確認できない場合には,MRIが虚血性脳卒中の診断に役立つことがある。

脳卒中のタイプを決定後,後述するように,そのタイプの脳卒中で最も多い原因を探索する。患者は,併存する急性全身性疾患(例,感染症,脱水症,低酸素症,高血糖,高血圧)についても評価を受ける。

治療

完全な評価の前に安定化が必要なことがある。昏睡あるいは昏蒙状態の患者には気道確保が必要なことがある(呼吸不全および機械的人工換気を参照 )。頭蓋内圧上昇(重症患者へのアプローチ: 頭蓋内圧モニタリングを参照 )が疑われるなら,脳浮腫(外傷性脳損傷: 頭蓋内圧亢進を参照 )を軽減するために頭蓋内圧モニタリングとその測定が必要になる。支持療法と併存する異常(例,発熱,低酸素症,脱水,高血糖,ときに高血圧)の是正が,急性期及び回復期には肝要である。個別の急性期治療は脳卒中のタイプにより異なる。回復期には,誤嚥,深部静脈血栓症,尿路感染,褥瘡性潰瘍,栄養不足の評価が必要である(例,寝たきりの患者で)。受動的運動,特に麻痺した肢の運動と呼吸訓練を早期に開始し,拘縮,無気肺,肺炎を予防する。ほとんどの患者は,機能回復を最大化するために作業療法と理学療法(リハビリテーションを参照 )を必要とする。追加療法(例,言語療法,食事制限)が必要な場合もある。脳卒中後の抑うつは抗うつ薬を必要とすることがあり,カウンセリングは多くの患者に有益である。リハビリテーションには多くの学問分野からのアプローチが最適である。生活様式の改善(例,禁煙)が勧められる。

最終改訂月 2007年1月

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