妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある:
母体の既存疾患
以前の妊娠における異常(例,自然流産)
高血圧
高血圧疾患 妊娠中の高血圧 American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)から,妊娠中の高血圧疾患(妊娠高血圧腎症を含む)の分類,診断,および管理に関する推奨が公表されている [ 1]。 ( 高血圧も参照のこと。) 2017年,American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)は,高血圧の評価に関する新しいガイドラ... さらに読む は以下のように分類される:
慢性高血圧:妊娠前に高血圧であった場合または妊娠20週以前に発生した場合
妊娠高血圧:収縮期および/または拡張期血圧 > 140/ > 90mmHgの新規発症の高血圧で,タンパク尿および妊娠高血圧腎症の徴候を伴わない
妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む :新規発症の高血圧(血圧 > 140/90mmHg)に加えて,妊娠20週以降に原因不明のタンパク尿(> 300mg/24時間または尿タンパク/クレアチニン比 ≥ 0.3)が新たに起こるか,末端臓器の損傷の他の徴候(例,血小板減少[血小板 < 100,000/μL],肝機能障害,腎機能不全,肺水腫,または脳症状もしくは視覚症状)を伴う
慢性高血圧と加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia):既存の高血圧を有する女性において,20週以降にタンパク尿が新たに発生するか悪化する,または末端臓器損傷の他の徴候がみられる
重度の妊娠高血圧腎症またはHELLP症候群(溶血,肝酵素高値,血小板数低値)
慢性高血圧は妊娠20週以降に発生する妊娠高血圧とは区別される。どちらの場合でも,高血圧とは24時間以上の間隔を空けた2回の収縮期血圧が140mmHg超,または拡張期血圧が90mmHg超と定義される。
高血圧は以下のリスクを上昇させる:
胎児および母体の不良転帰
高血圧の女性は,妊娠を試みる前に妊娠のリスクについてのカウンセリングを受けるべきである。妊娠した場合はできるだけ早期に出生前ケアを開始する。 妊娠中の高血圧管理 治療 American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)から,妊娠中の高血圧疾患(妊娠高血圧腎症を含む)の分類,診断,および管理に関する推奨が公表されている [ 1]。 ( 高血圧も参照のこと。) 2017年,American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)は,高血圧の評価に関する新しいガイドラ... さらに読む には,ベースライン腎機能の測定(例,血清クレアチニン,血中尿素窒素[BUN]),眼底検査,および狙いを定めた心血管評価(聴診,およびときに心電図,心エコー検査,または両方による)が含まれる。各トリメスターで,24時間尿タンパク,血清尿酸,血清クレアチニン,およびヘマトクリットを測定する。胎児の発育をモニタリングするための超音波検査を妊娠28週目に行い,その後は4週間毎に実施する。発育遅滞は,母体・胎児医療の専門医が複数血管でドプラ検査を行って評価する。妊娠高血圧腎症のリスクが高い場合,医師は,妊娠12~28週から開始し分娩まで毎日服用する低用量アスピリン(81mg,経口,1日1回)を処方すべきである(1 高血圧に関する参考文献 妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある: 母体の既存疾患 身体的および社会的特徴(例, 年齢) 以前の妊娠における異常(例,自然流産) 妊娠中に発生する異常 さらに読む )。
妊娠高血圧腎症または妊娠高血圧の既往がある女性は心血管イベントの生涯リスクが高く,分娩後は適切な心血管リスク評価およびフォローアップのための紹介を行うべきである。
高血圧に関する参考文献
1.ACOG Committee Opinion No. 743: Low-dose aspirin use during pregnancy.Obstet Gynecol 132 (1):e44–e52, 2018.doi: 10.1097/AOG.0000000000002708.
糖尿病
顕性 糖尿病 妊娠中の糖尿病 妊娠は,既存の1型(インスリン依存性)および2型(インスリン非依存性) 糖尿病を増悪させるが,糖尿病網膜症,腎症,または神経障害を悪化させることはないようである( 1)。 妊娠糖尿病(妊娠中に始まる糖尿病[ 2])は,過体重,高インスリン血症,インスリン抵抗性の妊婦,またはやせ型,相対的にインスリンの不足している妊婦に発生しうる。妊娠糖尿病は全妊娠の少なくとも5%に起こるが,特定の集団(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカンインディアン,... さらに読む は妊娠の6%以上で起こり,妊娠糖尿病は妊娠の約8.5%で起こる。発生頻度は肥満の発生率が増加するにつれて上昇している。
既存のインスリン依存性糖尿病は以下のリスクを上昇させる:
胎児死亡
重大な胎児奇形
巨大児の発生率は,一般集団の妊婦よりも既存の糖尿病がある妊婦の方が約50%高い。周産期死亡率も高い。
既存の糖尿病を有する女性は,産科的または医学的適応のために早期の分娩が必要になる可能性が高い。妊娠中の運動(適切な食事の変更を伴う)は,このような女性において帝王切開および鉗子・吸引分娩の必要性を低下させる(1 糖尿病に関する参考文献 妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある: 母体の既存疾患 身体的および社会的特徴(例, 年齢) 以前の妊娠における異常(例,自然流産) 妊娠中に発生する異常 さらに読む , 2 糖尿病に関する参考文献 妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある: 母体の既存疾患 身体的および社会的特徴(例, 年齢) 以前の妊娠における異常(例,自然流産) 妊娠中に発生する異常 さらに読む )。
胎児奇形を予防するため,受胎前の厳密な血糖コントロールが不可欠である。
インスリン必要量は妊娠中に通常増加する。
妊娠糖尿病は以下のリスクを上昇させる:
高血圧疾患
妊娠糖尿病は,妊娠24~28週でルーチンにスクリーニングされるが,妊婦に危険因子がある場合には第1トリメスターで行われる。危険因子としては以下のものがある:
妊娠糖尿病の既往
以前の妊娠における巨大児
インスリン非依存性糖尿病の家族歴
原因不明の胎児死亡
BMI(body mass index)> 30kg/m2
糖尿病の有病率が高い特定の民族(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカンインディアン,アジア人,太平洋諸島系の人)
妊娠糖尿病の可能性があるかどうか調べるために,まず随時血漿血糖値検査を行う医療従事者もいる。ただし,妊娠糖尿病のスクリーニングおよび確定診断は,経口ブドウ糖負荷試験の結果に基づいて判断するのが最善である(OGTT— 3時間経口ブドウ糖負荷試験を用いた妊娠糖尿病診断のための血糖閾値 3時間経口ブドウ糖負荷試験を用いた妊娠糖尿病診断のための血糖閾値* を参照)。2013年の米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)のコンセンサス会議の推奨に基づくと,スクリーニングは50gブドウ糖負荷試験(GLT)1時間値の測定から開始する;結果が陽性(血漿血糖値 > 130~140mg/dL[ 7.2~7.8mmol/L])であれば,100gOGTTの3時間値を測定する。
至適な 妊娠糖尿病の治療 治療 妊娠は,既存の1型(インスリン依存性)および2型(インスリン非依存性) 糖尿病を増悪させるが,糖尿病網膜症,腎症,または神経障害を悪化させることはないようである( 1)。 妊娠糖尿病(妊娠中に始まる糖尿病[ 2])は,過体重,高インスリン血症,インスリン抵抗性の妊婦,またはやせ型,相対的にインスリンの不足している妊婦に発生しうる。妊娠糖尿病は全妊娠の少なくとも5%に起こるが,特定の集団(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカンインディアン,... さらに読む (食習慣の改善,運動,および血糖値の綿密なモニタリングと必要時のインスリン)は母体,胎児,および新生児の不良転帰のリスクを軽減する。妊娠糖尿病の女性は心血管イベントの生涯リスクが高く,分娩後は適切な心血管リスク評価およびフォローアップのために紹介すべきである。
妊娠糖尿病の女性は,妊娠前に未診断の糖尿病であった可能性がある。そのため妊娠糖尿病の女性には,分娩の6~12週間後に,妊娠していない患者に用いるものと同じ検査と基準を用いて 糖尿病のスクリーニング 疾患のスクリーニング 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む を行うべきである。
糖尿病に関する参考文献
1.Artal R: Exercise: The alternative therapeutic intervention for gestational diabetes.Clinical Obstetrics and Gynecology 46 (2):479–487, 2003.
2.Artal R: The role of exercise in reducing the risks of gestational diabetes mellitus in obese women.Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 29 (1):123–4132, 2015.
性感染症(STD)
(性感染症 性感染症の概要 性感染症(sexually transmitted diseas:STD)(sexually transmitted infection[STI]と呼ばれることもある)は,いくつかの微生物によって引き起こされ,それぞれの病原体は大きさ,生活環,引き起こす疾患および症状,ならびに治療法に対する感受性が大きく異なる。... さらに読む および 妊娠中の感染症 妊娠中の感染症 最もよくみられる母体の感染症(例,尿路感染症[UTI],皮膚および気道の感染症)は通常,妊娠中に深刻な問題となることはないが,いくつかの性器感染症(細菌性腟症および性器ヘルペス)は分娩,またはその方法の選択に影響を与える。したがって主に問題となるのは,通常,抗菌薬の使用とその安全性である。 しかしながら,ある種の母体感染症は胎児に障害をもたらすことがあり,以下で起こる可能性がある:... さらに読む も参照のこと。)
子宮内における 胎児の梅毒 先天梅毒 先天梅毒は,梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を原因菌とし,胎盤を介して胎児に伝播する多臓器感染症である。初期の徴候は,特徴的な皮膚病変,リンパ節腫脹,肝脾腫,発育不良,血液が混入した鼻汁,口周囲の亀裂,髄膜炎,脈絡膜炎,水頭症,痙攣,知的障害,骨軟骨炎,および偽性麻痺(Parrot atrophy of newborn)である。晩期の徴候は,ゴム腫性潰瘍,骨膜病変,麻痺,脊髄癆,視神経萎縮,角膜実質... さらに読む は,胎児死亡,先天奇形,および重度の障害を引き起こしうる。
無治療の場合,妊産婦から児への HIV感染 伝播 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む のリスクは,分娩前で約30%,分娩時で約25%である。分娩時感染のリスクを最小限にするため,新生児には出生から6時間以内に抗レトロウイルス療法を行う。
妊娠中の細菌性腟症,淋菌感染症,および性器クラミジア感染症は, 切迫早産 切迫早産 妊娠37週前に始まる陣痛(頸管の変化を起こす子宮収縮)は切迫早産とされる。危険因子には,前期破水,子宮異常,感染,子宮頸管無力症,早産既往,多胎妊娠,および胎児または胎盤の異常などがある。診断は臨床的に行う。原因を同定し,可能であれば治療を行う。管理は典型的には,床上安静,子宮収縮抑制薬(陣痛が持続する場合),コルチコステロイド(妊娠期間が34週未満の場合),および場合により硫酸マグネシウム(妊娠期間が32週未満の場合)がある。レンサ球... さらに読む および 前期破水 前期破水 前期破水とは,陣痛発来前の羊水の漏出である。診断は臨床的に行う。分娩は妊娠34週以降の場合に推奨され,感染または胎児機能不全があれば妊娠期間にかかわらず一般に必須となる。 前期破水は,満期(37週以降)またはそれ以前に(37週未満であれば早期前期破水[preterm PROM]と呼ばれる)起こる場合がある。 早期前期破水は早産の原因となる。 いかなる時期の前期破水も以下のリスクを上昇させる:... さらに読む のリスクを増大させる。
初回の妊婦健診で行うルーチンの出生前ケアとして,HIV感染症,B型肝炎,梅毒,ならびに25歳以上の場合はクラミジア感染症および淋菌感染症のスクリーニング検査が含まれている。梅毒検査は,妊娠中(リスクが継続してあれば),および分娩時に全ての妊婦に対し反復して行われる。これらの感染症のいずれかに罹患している妊婦は,抗菌薬で治療する。
細菌性腟症,淋菌感染症,またはクラミジア感染症の治療は,破水から分娩までの間隔を延長し,胎児炎症を抑制することにより胎児の転帰を改善しうる。
HIVに感染している妊婦には,ジドブジンまたはネビラピンを投与する。この治療により 胎児へのHIV伝播のリスクが3分の2低下する 予防 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,レトロウイルスの一種であるHIV-1により(また頻度は低くなるが近縁のレトロウイルスであるHIV-2によっても)引き起こされる。感染すると進行性の免疫機能低下が引き起こされ,日和見感染症や悪性腫瘍が発生するようになる。末期には後天性免疫不全症候群(AIDS)となる。診断は,生後18カ月以上の小児では... さらに読む ;2~3種類の抗ウイルス薬の併用によっておそらくリスクはさらに低くなる(2%未満)。胎児および妊婦に毒性作用を及ぼす可能性はあるが,これらの薬物は推奨されている。
腎盂腎炎
(妊娠中の尿路感染症 妊娠中の尿路感染症 尿路感染症(UTI)は妊娠中には多いが,これは明らかに尿の停滞によるもので,ホルモンによる尿管拡張,ホルモンによる尿管蠕動の低下,および増大した子宮による尿管圧迫が要因である。無症候性細菌尿は妊娠の約15%に起こり,ときとして症状を伴う 膀胱炎や 腎盂腎炎に進行する。UTIが明らかとなる前に,必ずしも無症候性細菌尿が先行するとは限らない。 無症候性細菌尿,UTI,および腎盂腎炎は以下のリスクを上昇させる:... さらに読む も参照のこと。)
妊娠中は,細菌尿が繰り返し認められる頻度が比較的高く,腎盂腎炎の発生率がより高い。細菌尿がみられる場合,妊婦の20~35%に尿路感染症(UTI)が発生し,腎盂腎炎の可能性がある。
腎盂腎炎 慢性腎盂腎炎 慢性腎盂腎炎は,腎臓の持続的な化膿性感染症であり,ほぼ常に重大な解剖学的異常がある患者に発生する。症状はみられない場合もあれば,発熱,倦怠感,側腹部痛などがみられる場合もある。診断は尿検査,培養,および画像検査による。治療は抗菌薬投与と構造的異常の是正による。 ( 尿路感染症[UTI]に関する序論も参照のこと。) 通常の機序は感染尿の腎盂への逆流である。原因としては, 閉塞性尿路疾患やストルバイト... さらに読む は以下のリスクを上昇させる:
腎盂腎炎は,妊娠中における非産科的な入院原因として最も多い。
腎盂腎炎の妊婦は評価および治療のため入院させ,主に尿培養と感受性試験,抗菌薬の静注(例,第3世代セファロスポリン系薬剤を単独で,またはアミノグリコシド系薬剤と併用),解熱薬投与,および水分補給などを行う。解熱して24~48時間後から原因微生物に特異的な経口抗菌薬投与を開始し,抗菌薬療法の全過程を完了(通常7~10日間)するまで継続する。
残る妊娠期間中,定期的に尿培養を行いながら予防的抗菌薬(例,ニトロフラントイン,トリメトプリム/スルファメトキサゾール)投与を継続する。
緊急手術に関する問題
(妊娠中に外科手術を要する疾患 妊娠中に外科手術を要する疾患 手術治療を行う疾患の中には,妊娠中の診断が困難なものがある。強く疑ってかかる必要がある;腹部症状が全て妊娠に関連したものであると判断するのは誤りである。 大手術(特に腹腔内)により切迫早産および胎児死亡のリスクが増大する。しかしながら,適切な支持療法および麻酔(血圧と酸素飽和度を正常レベルに維持しながら)が行われれば,妊婦および胎児は十分手術に耐えられるため,医師は手術に対し消極的になるべきではない;外科的緊急事態の治療を遅らせる方がは... さらに読む も参照のこと。)
大手術(特に腹腔内)により以下のリスクが増大する:
胎児死亡
しかしながら,適切な支持療法および麻酔(血圧と酸素飽和度を正常レベルに維持しながら)が行われれば,妊婦および胎児は通常十分手術に耐えられるため,医師は手術に対し消極的になるべきではない;腹部の緊急事態の治療の遅れの方がはるかに危険である。
手術後,抗菌薬および子宮収縮抑制薬を12~24時間投与する。
妊娠中に非緊急手術を行う必要がある場合は,第2トリメスターが最も安全である。
性器の異常
子宮および頸部の構造的異常(例,中隔子宮,双角子宮)により,以下の可能性が高くなる:
第2トリメスターの自然流産
切迫早産または早産
子宮筋腫 子宮筋腫 子宮筋腫は平滑筋由来の良性子宮腫瘍である。筋腫は,異常子宮出血,骨盤痛や圧迫感,泌尿器や腸管の症状,および妊娠合併症を頻繁に引き起こす。診断は内診,超音波検査,または他の画像検査による。症状のある患者の治療は,患者の妊孕性および子宮温存の希望に基づく。治療法としては,経口避妊薬,筋腫を縮小させるための短期間の術前ゴナドトロピン放出ホルモン... さらに読む はまれではあるが胎盤異常(例, 前置胎盤 前置胎盤 前置胎盤とは,内子宮口またはその付近を覆って胎盤が付着している状態である。典型的には妊娠20週以降に痛みを伴わない鮮紅色の性器出血が起こる。診断は経腟または腹部超音波検査によって行う。治療法は,妊娠36週前で少量の性器出血には安静(modified activity)とし,36週~37週6日では帝王切開とする。出血が重度であったり再発性,または胎児の状態がnonreassuringである場合は,通常帝王切開による早急な分娩の適応となる。... さらに読む ), 切迫早産 切迫早産 妊娠37週前に始まる陣痛(頸管の変化を起こす子宮収縮)は切迫早産とされる。危険因子には,前期破水,子宮異常,感染,子宮頸管無力症,早産既往,多胎妊娠,および胎児または胎盤の異常などがある。診断は臨床的に行う。原因を同定し,可能であれば治療を行う。管理は典型的には,床上安静,子宮収縮抑制薬(陣痛が持続する場合),コルチコステロイド(妊娠期間が34週未満の場合),および場合により硫酸マグネシウム(妊娠期間が32週未満の場合)がある。レンサ球... さらに読む ,および 繰り返す自然流産 不育症 自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり,自然流産が生じた,または不可避と思われる場合は,観察または子宮内容除去術を行う。... さらに読む の原因となりうる。子宮筋腫は妊娠中に急速に成長または変性しうる;変性はしばしば重度の疼痛および腹膜刺激徴候を引き起こす。
子宮頸管無力症 子宮頸管無力症 子宮頸管無力症(かつての子宮頸管不全症)は,痛みを伴わずに子宮頸管の開大が起き,結果として第2トリメスターで生存児の娩出に至る病態である。第2トリメスターでの経腟超音波による頸管の観察がリスク評価に有用な可能性がある。治療として縫合材による子宮口の補強(頸管縫縮)がある。 子宮頸管無力症とは,頸管組織の脆弱性が推定されている状態で,その脆弱性が他の異常では説明できない早産に寄与するか,早産の原因となっているものを指す。推定頻度には大きな... さらに読む (不全症)により早産の可能性が高くなる。子宮頸管無力症のリスクは,以前の手技(例,治療的流産,器具による経腟分娩)の際に子宮頸管に裂傷または損傷があった女性でより高い。子宮頸管無力症は外科的介入(頸管縫縮術),腟内プロゲステロン,またはときに腟内ペッサリーにより治療可能である。
妊娠前に子宮筋腫核出術を受けて子宮腔が開放されていた場合は,以降の経腟分娩では 子宮破裂 子宮破裂 子宮破裂は,子宮の自然な裂傷であり,このため胎児が腹腔に排出されることがある。 子宮破裂はまれである。妊娠後期や有効な陣痛中に起こる可能性がある。 子宮破裂は最も頻繁には, 帝王切開の既往がある女性で治癒した瘢痕線に沿って起こる。その他の素因としては,先天性子宮異常および外傷のほか,子宮筋腫核出術や直視下母体胎児外科手術(open maternal-fetal surgery)など子宮に対するその他の外科手術などがある。... さらに読む のリスクがあるため,帝王切開が必要となる。
不良な産科転帰につながる子宮の異常では,しばしば外科的修正が必要となるが,それは分娩後に行われる。
母体の年齢
青年期の妊娠は,全妊娠の13%を占めるが, 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む , 切迫早産 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む ,および 貧血 貧血の病因 貧血では,赤血球数が減少し,その結果ヘマトクリットおよびヘモグロビン量が減少する。( 赤血球産生も参照のこと。) 赤血球量は,赤血球の産生と崩壊または喪失とのバランスで決まる。そのため,以下の3つの基本的機序のうち,1つ以上に該当すると貧血になる可能性がある( 貧血の原因別分類の表を参照): 失血 赤血球産生低下 溶血亢進(赤血球崩壊) さらに読む の発生率が高くなり,しばしば胎児発育不全につながる。青年が出生前ケアを怠り,頻繁に喫煙し,性感染症を有する率が高い傾向にあることが少なくとも一因にある。
35歳以上の妊婦では,妊娠高血圧腎症の発生率が増大するが, 妊娠糖尿病 妊娠中の糖尿病 , 分娩遷延 病因 , 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離とは,正常に付着した胎盤が,通常20週以降に子宮から時期尚早に分離することである。産科的緊急事態となりうる。症状として,性器出血,子宮の疼痛ならびに圧痛,出血性ショック,および播種性血管内凝固症候群を含むことがある。診断は臨床的に行い,ときに超音波検査を用いる。治療は症状が軽度の場合には安静(modified... さらに読む , 死産 死産 死産とは,在胎20週を超える死亡胎児の娩出である。原因を特定するために母体および胎児の検査を行う。管理は生児分娩後のルーチンケアと同様である。 その定義から,死産には胎児の死亡を伴い,死産は以降の妊娠における胎児死亡のリスクを高める( ハイリスク妊娠を参照)。 妊娠後期の胎児死亡は,母体,胎盤,または胎児に解剖学的または遺伝学的な原因がある可能性がある( 死産の一般的な原因の表を参照)。... さらに読む ,および 前置胎盤 前置胎盤 前置胎盤とは,内子宮口またはその付近を覆って胎盤が付着している状態である。典型的には妊娠20週以降に痛みを伴わない鮮紅色の性器出血が起こる。診断は経腟または腹部超音波検査によって行う。治療法は,妊娠36週前で少量の性器出血には安静(modified activity)とし,36週~37週6日では帝王切開とする。出血が重度であったり再発性,または胎児の状態がnonreassuringである場合は,通常帝王切開による早急な分娩の適応となる。... さらに読む も同様である。こうした妊婦はまた,既存疾患(例, 慢性高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む , 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む )をもっている可能性も高い。胎児の 染色体異常 染色体異常症の概要 染色体異常は様々な疾患の原因となる。性染色体(XおよびY染色体)の異常よりも常染色体(男女とも22対ある相同な染色体)の異常の方が多くみられる。 染色体異常はいくつかのカテゴリーに分けられるが,大きく数的異常と構造異常に分けて考えることができる。 数的異常としては以下のものがある:... さらに読む のリスクは母体年齢の上昇にしたがって増加するため, 遺伝子検査 遺伝学的評価 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む を勧めるべきである。
母体の体重
妊娠前のBMI(body mass index)が19.8kg/m2未満であった妊婦は低体重とみなされ,新生児の低出生体重(2.5kg未満)の素因となる。こうした妊婦には,妊娠中に最低12.5kg体重を増やすよう推奨する。
妊娠前のBMIが25~29.9kg/m2(過体重)または30kg/m2以上(肥満)であった妊婦は,母体の 高血圧 妊娠中の高血圧 American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)から,妊娠中の高血圧疾患(妊娠高血圧腎症を含む)の分類,診断,および管理に関する推奨が公表されている [ 1]。 ( 高血圧も参照のこと。) 2017年,American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)は,高血圧の評価に関する新しいガイドラ... さらに読む および 糖尿病 妊娠中の糖尿病 妊娠は,既存の1型(インスリン依存性)および2型(インスリン非依存性) 糖尿病を増悪させるが,糖尿病網膜症,腎症,または神経障害を悪化させることはないようである( 1)。 妊娠糖尿病(妊娠中に始まる糖尿病[ 2])は,過体重,高インスリン血症,インスリン抵抗性の妊婦,またはやせ型,相対的にインスリンの不足している妊婦に発生しうる。妊娠糖尿病は全妊娠の少なくとも5%に起こるが,特定の集団(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカンインディアン,... さらに読む , 過期妊娠 過期妊娠 過期妊娠とは42週以上続く妊娠のことをいう。出生前サーベイランスは41週で検討すべきである。41週以降は陣痛誘発を検討すべきであり,42週以降には推奨される。 過期妊娠の診断を行うためには正確な妊娠期間の推定が不可欠である。規則的で正常な月経周期の女性では,妊娠期間は正常な最終月経の開始日に基づいて算出できる。期日が不確かであったり月経時期に一致しない場合には,妊娠初期(20週まで)の超音波検査が+/−7日間の幅をもって最も正確である。... さらに読む , 流産 自然流産 自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり,自然流産が生じた,または不可避と思われる場合は,観察または子宮内容除去術を行う。... さらに読む , 巨大児 在胎不当過大児(LGA児) 在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児は,在胎不当過大(large for gestational age)に分類される。巨大児とは,出生体重が4000g以上の正期産児をさす。主な原因は母体糖尿病である。合併症には,分娩外傷,低血糖,過粘稠度,および高ビリルビン血症がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの... さらに読む ,先天奇形, 子宮内胎児発育不全 在胎不当過小児(SGA児) 体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満の乳児は,在胎不当過小(small for gestational age)に分類される。合併症には,周産期仮死,胎便吸引,赤血球増多症,および低血糖がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの期間を指す。在胎期間は実際の胎齢とは異なるが,産科医および新生児専門医が胎児の成熟を議... さらに読む , 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む ,および 帝王切開 帝王切開 帝王切開は,子宮を切開する外科手術による分娩である。 米国では最大30%の分娩が帝王切開による。帝王切開率は変動する。帝王切開率は最近上昇しており,これは一部には帝王切開後の経腟分娩(VBAC)を試みる女性での子宮破裂のリスク上昇についての懸念による。 帝王切開における合併症発生率および死亡率は低いが,依然として経腟分娩のそれよりは数倍高い;したがって帝王切開は妊婦または胎児にとって経腟分娩より安全な場合にのみ施行すべきである。... さらに読む のリスクがある。理想的には減量は妊娠前に始めるべきであり,まず生活習慣の改善を試みること(例,身体活動を増やす,食習慣の変更)から始める。過体重または肥満の妊婦には妊娠中の体重増加を制限するよう推奨し,これは生活習慣の改善によるのが理想的である。Institute of Medicine(IOM)は以下のガイドラインを用いている:
過体重:体重増加を6.8~11.3kg(15~25lb)未満に制限
肥満:体重増加を5~9.1kg(11~20lb)未満に制限
しかし,全ての専門家がIOMの推奨に同意しているわけではない。多くの専門家が,体重増加のさらなる制限と生活習慣の改善(例,身体活動を増やす,食習慣の変更)を含む個別化したアプローチを推奨しており,これは特に肥満女性において当てはまる(1 母体の体重に関する参考文献 妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある: 母体の既存疾患 身体的および社会的特徴(例, 年齢) 以前の妊娠における異常(例,自然流産) 妊娠中に発生する異常 さらに読む )。大部分の女性には妊娠中,少なくとも週に3回,合計で毎週150分の運動を行うよう推奨すべきである(2 母体の体重に関する参考文献 妊娠中の合併症の危険因子としては以下のものがある: 母体の既存疾患 身体的および社会的特徴(例, 年齢) 以前の妊娠における異常(例,自然流産) 妊娠中に発生する異常 さらに読む )。
過体重および肥満の妊婦では,妊娠中の生活習慣の改善により,妊娠糖尿病および妊娠高血圧腎症のリスクが減少する。
適正な体重増加,食事,および運動について初回の来院時および妊娠中を通じて定期的に話し合うことが重要である。2016 ACOG (American College of Obstetricians and Gynecologists) obesity toolkitは過体重および肥満の管理に役立つ情報源である。
母体の体重に関する参考文献
1.Artal R, Lockwood CJ, Brown HL: Weight gain recommendations in pregnancy and the obesity epidemic. Obstet Gynecol115 (1):152–155, 2010.doi: 10.1097/AOG.0b013e3181c51908
2.Mottola MF, Davenport MH, Ruchat SM, et al: 2019 Canadian guideline for physical activity throughout pregnancy.Br J Sports Med 52 (21):1339–1346, 2018.doi: 10.1136/bjsports-2018-100056
母体の身長
低身長(約 < 152cm)の女性は骨盤が小さい可能性が高く,胎児骨盤不均衡または肩甲難産を伴う 難産 胎児が原因の難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む につながりうる。低身長の女性ではまた, 切迫早産 切迫早産 妊娠37週前に始まる陣痛(頸管の変化を起こす子宮収縮)は切迫早産とされる。危険因子には,前期破水,子宮異常,感染,子宮頸管無力症,早産既往,多胎妊娠,および胎児または胎盤の異常などがある。診断は臨床的に行う。原因を同定し,可能であれば治療を行う。管理は典型的には,床上安静,子宮収縮抑制薬(陣痛が持続する場合),コルチコステロイド(妊娠期間が34週未満の場合),および場合により硫酸マグネシウム(妊娠期間が32週未満の場合)がある。レンサ球... さらに読む および 子宮内胎児発育不全 在胎不当過小児(SGA児) 体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満の乳児は,在胎不当過小(small for gestational age)に分類される。合併症には,周産期仮死,胎便吸引,赤血球増多症,および低血糖がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの期間を指す。在胎期間は実際の胎齢とは異なるが,産科医および新生児専門医が胎児の成熟を議... さらに読む も起こる可能性が高い。
催奇形因子への曝露
一般的な催奇形因子(胎児の奇形を引き起こす因子)として,感染症,薬物,および物理的因子がある。器官形成期である受胎後2~8週の間(最終月経後4~10週目)に曝露があると,最も奇形が生じる可能性が高い。また他の不良な妊娠転帰も生じる可能性がより高い。催奇形因子に曝露した妊婦には,リスクの増大についてカウンセリングを受けさせ,奇形を発見するための詳細な超音波検査に紹介する。
催奇形因子となりうる一般的な感染症には以下のものがある:
一般的に使用される薬物で,催奇形因子となりうるものには,以下のものがある:
一部の処方薬(妊娠中に有害作用を伴う薬物 妊娠中に有害作用を示す主な薬物 の表を参照)
第1トリメスター中の高体温または39℃を超える温度への曝露(例,サウナ)は二分脊椎と関連付けられている。
水銀への曝露
魚介類に含まれる水銀は胎児に有毒である可能性がある。FDA(Advice About Eating Fish: For Women Who Are or Might Become Pregnant, Breastfeeding Mothers, and Young Childrenを参照)は以下を推奨している:
メキシコ湾産のタイルフィッシュ(アマダイの仲間)のほか,サメ,メカジキ,メバチマグロ,マカジキ,オレンジラフィー,キングマカレル(サワラの一種)を避ける
ビンナガマグロの摂取量は4オンス(113g)(1回の食事の平均的な量)/週に制限する
地域の湖,河川,沿岸部で獲れた魚を食べる前にその地域の担当行政機関(米国)に魚の安全性について確認し,水銀量が低いかどうか不明な場合は摂取量を4オンス(113.4g)/週に制限し,その週は他の魚介類を避ける
専門家は,妊娠中または授乳中の女性は水銀含有量の低い様々な種類の魚介類を週に8~12オンス(226.8~340.2g)(2~3回の食事の平均的な量)摂取することを推奨している。このような魚介類には,カレイ科の一部の魚,エビ,ライトツナ缶詰,サケ科の魚,ポロック,ティラピア,タラ,ナマズなどがある。魚には胎児の成長と発達に重要な栄養素が含まれている。
死産の既往
死産 死産 死産とは,在胎20週を超える死亡胎児の娩出である。原因を特定するために母体および胎児の検査を行う。管理は生児分娩後のルーチンケアと同様である。 その定義から,死産には胎児の死亡を伴い,死産は以降の妊娠における胎児死亡のリスクを高める( ハイリスク妊娠を参照)。 妊娠後期の胎児死亡は,母体,胎盤,または胎児に解剖学的または遺伝学的な原因がある可能性がある( 死産の一般的な原因の表を参照)。... さらに読む とは,在胎20週を超える死亡胎児の娩出である。妊娠後期の胎児死亡は,母体,胎盤,または胎児に解剖学的または遺伝学的な原因がある可能性がある(死産の一般的な原因 死産の一般的な原因 の表を参照)。死産または妊娠後期の流産(すなわち,16~20週)の既往があると,その後の妊娠における胎児死亡のリスクは増大する。リスクの程度は以前の死産の原因により異なる。分娩前検査(例,ノンストレステスト,バイオフィジカルプロファイル)を用いた胎児のサーベイランスが推奨される。
母体疾患(例,慢性高血圧,糖尿病,感染症)の治療により,現在の妊娠における死産のリスクが低下する可能性がある。
早産の既往
早産 切迫早産 妊娠37週前に始まる陣痛(頸管の変化を起こす子宮収縮)は切迫早産とされる。危険因子には,前期破水,子宮異常,感染,子宮頸管無力症,早産既往,多胎妊娠,および胎児または胎盤の異常などがある。診断は臨床的に行う。原因を同定し,可能であれば治療を行う。管理は典型的には,床上安静,子宮収縮抑制薬(陣痛が持続する場合),コルチコステロイド(妊娠期間が34週未満の場合),および場合により硫酸マグネシウム(妊娠期間が32週未満の場合)がある。レンサ球... さらに読む とは37週未満の分娩である。切迫早産による早産の既往により,将来早産となるリスクが上昇する;以前の早産で新生児の体重が1.5kg未満であった場合,次の妊娠における早産のリスクは50%である。
切迫早産による早産の既往がある女性は20週以降,2週間の間隔で注意深くモニタリングすべきである。モニタリングには以下を含める:
16~18週での頸管長および形の測定を含む超音波検査による評価
子宮収縮モニタリング
細菌性腟症の検査
胎児性フィブロネクチン測定
切迫早産または頸管の短縮(< 25mm)や楔状開大による早産の既往がある女性は17α-ヒドロキシプロゲステロン250mg,筋注を週1回投与すべきである。
遺伝性疾患または先天性疾患を有する児の出産歴
胎児に染色体異常が伴うリスク 先天性疾患の危険因子 出生前遺伝カウンセリングは,将来親となる全ての者に対して提供されるものであり,理想的には受胎前に先天性疾患の危険因子を評価するものである。先天異常の予防に役立つ特定の予防策(例, 催奇形因子の回避, 葉酸の補充)を,妊娠を予定している全ての女性に勧める。危険因子を有する両親に対して,起こりうる結果および... さらに読む は,(認識されたまたは見逃された)染色体異常の胎児や新生児をもった経験のある多くのカップルで高くなる。多くの遺伝性疾患において,疾患が繰り返されるリスクは不明である。ほとんどの先天奇形が多因子性である;以降の妊娠で胎児に先天奇形を伴うリスクは1%以下である。
カップルに遺伝性疾患や染色体異常の新生児をもった経験がある場合, 遺伝子スクリーニング 遺伝学的評価 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む が推奨される。カップルに先天奇形の新生児をもった経験がある場合,遺伝子スクリーニング,高分解能超音波検査,および母体・胎児専門医による評価が推奨される。
羊水過多および羊水過少
羊水過多 羊水過多 羊水過多とは過剰な羊水のことである;母体および胎児の合併症と関連がある。診断は超音波検査による羊水量の計測による。羊水過多に寄与している母体疾患を治療する。症状が重度であったり痛みを伴う早期子宮収縮を認める場合は,治療として羊水量の用手的な減量を行うことがある。 羊水過多の原因としては以下のものがある: 胎児奇形(例,消化管または尿路閉塞) 多胎妊娠 母体糖尿病 さらに読む (羊水の過剰)により母体の重度の息切れおよび切迫早産が起こりうる。危険因子として以下のものがある:
コントロール不良の母体糖尿病
多胎妊娠
同種免疫
胎児の奇形(例,食道閉鎖,無脳症,二分脊椎)
羊水過少 羊水過少 羊水過少とは羊水量の不足である;母体および胎児の合併症と関連がある。診断は超音波検査による羊水量の計測である。管理には綿密なモニタリングおよび連続的な超音波検査による評価を含む。 羊水過少の原因としては以下のものがある: 胎盤機能不全(例, 妊娠高血圧腎症, 慢性高血圧, 常位胎盤早期剥離, 血栓性疾患,または他の母体疾患による) 薬剤(例,アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬,非ステロイド系抗炎症薬[NSAID])... さらに読む (羊水の不足)には,しばしば胎児尿路の先天奇形および重度の胎児発育不全(3パーセンタイル未満)が伴う。さらに,肺低形成や胎児の表面圧迫による異常を伴うPotter症候群が通常は第2トリメスターに発生し,胎児死亡を引き起こしうる。
羊水過多や羊水過少は,子宮の大きさが妊娠期間に比して大きいあるいは小さい場合に疑われるが,診察時の超音波検査によって偶然発見されることもあり,これにより診断に至る。
多胎妊娠
多胎妊娠 多胎妊娠 多胎妊娠では子宮内に胎児が複数存在する。 多胎児(多胎)妊娠は,最大で分娩30件当たり1件発生する。 多胎妊娠の危険因子としては以下のものがある: 排卵誘発(通常クロミフェンまたはゴナドトロピンによる) 生殖補助医療(例,体外受精) さらに読む により,以下のリスクが増大する:
先天奇形
周産期の罹病および死亡
多胎妊娠は妊娠16~20週におけるルーチンの超音波検査中に発見される。
分娩損傷の既往
大部分の 脳性麻痺 脳性麻痺症候群 脳性麻痺は,出生前の発育異常または周産期もしくは出生後の中枢神経系損傷に起因する,随意運動または姿勢制御の障害を特徴とする非進行性の症候群である。症状は2歳までに出現する。診断は臨床的に行う。治療法としては,理学療法,作業療法,装具,薬物療法またはボツリヌス毒素の注入,整形外科手術,バクロフェンの髄腔内投与,特定の症例における脊髄後根切断... さらに読む および神経発達障害は,分娩損傷とは関連のない要因により起こる。腕神経叢損傷などの損傷は鉗子や吸引器による分娩などの手技により生じる場合もあるが,分娩中の子宮内の圧力または妊娠の最後の数週間の胎位異常により生じることが多い。
肩甲難産 肩甲難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む の既往は将来の難産の危険因子であり,損傷の素因となったかもしれない修正可能な危険因子(例,巨大児,鉗子・吸引分娩)がないか,以前の分娩記録をレビューすべきである。