メルクマニュアル18版 日本語版
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呼吸窮迫症候群

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呼吸窮迫症候群(RDS)は,在胎期間37週未満で出生した新生児の肺における肺サーファクタントの欠乏によって引き起こされる。リスクは未熟性の程度に伴い上昇する。症状および徴候には,呻吟呼吸,補助呼吸筋の使用,鼻翼呼吸などがあり,出産後すぐに現れる。診断は臨床的に行われるが,胎児肺成熟度の検査により出生前にリスク評価が可能である。治療は,サーファクタント療法と支持療法である。

病因と病態生理

肺サーファクタントは,Ⅱ型肺細胞から分泌されるリン脂質とリポ蛋白の混合物(周産期の生理: 肺を参照 )で,肺胞を覆う水膜の表面張力を弱めて,肺胞の虚脱傾向と肺胞を膨らませるのに必要となる仕事量を減らす。

サーファクタントが欠乏すると,肺はびまん性の無気肺状態になり,炎症および肺水腫が引き起こされる。無気肺の部分を通過する血液は酸素化されない(右から左への肺内短絡が形成される)ので,患児は低酸素血症となる。肺コンプライアンスが低下して,これにより呼吸仕事量が増加する。重症例では,横隔膜および肋間筋が疲労して,CO2貯留および呼吸性アシドーシスが生じる。

サーファクタントは在胎期間の比較的後期になるまで十分な量が産生されないので,呼吸窮迫症候群(RDS)のリスクは未熟性が強いほど上昇する。他の危険因子には,多胎児妊娠および母体糖尿病などがある。リスクは,胎児の発育制限,子癇前症または子癇,母体高血圧,遷延破水,および母親のコルチコステロイドの使用に伴って低下する。まれに遺伝性の場合があり,サーファクタント蛋白(SP-BおよびSP-C)およびATP─結合カセットトランスポーターA3ABCA3)の遺伝子変異によって引き起こされる。男児および白人でリスクが高い。

症状と徴候

症状および徴候には急速な努力性の呻吟呼吸(出生直後または数時間以内に発症)があり,胸骨上下の陥没および鼻翼呼吸を伴う。無気肺および呼吸不全が進行するにつれ症状が悪化し,チアノーゼ,嗜眠,不規則呼吸,無呼吸が現れる。

体重1000g未満の新生児では,分娩室において呼吸の開始および/または持続ができないほどに肺が硬化している場合がある。

RDSの合併症には,脳室内出血,脳室周囲白質の損傷,緊張性気胸,気管支肺異形成症,敗血症,新生児死亡などがある。頭蓋内合併症は,低酸素血症,高炭酸ガス血症,低血圧,動脈血圧の変動,および脳灌流の低下との関係が示されている(周産期における問題: 頭蓋内出血を参照 ,乳幼児および小児におけるその他の疾患: 出血性ショックと脳障害症候群を参照 )。

診断

診断は臨床像によるが,危険因子の認識,低酸素血症および高炭酸ガス血症を証明するABG,胸部X線が含まれる。胸部X線ではびまん性無気肺(明らかな気管支気像を伴うすりガラス様陰影を有すると従来から表現されている)がみられ,X線像は臨床的重症度に大まかに相関する。

鑑別診断にはB群レンサ球菌肺炎および敗血症,新生児一過性多呼吸,遷延性肺高血圧症,胎便吸引症候群,肺水腫,先天性心肺異常などが含まれる。通常,血液および脳脊髄液の培養が必要であり,おそらくは気管内吸引物の培養も必要となる。B群レンサ球菌肺炎の臨床診断は極めて難しいので,通常培養結果が出る前から抗生物質投与を開始する。

RDSは胎児肺熟成度検査により出生前から予測可能であり,その検査では羊水穿刺か(破水している場合は)腟からの検体採取によりサーファクタントを評価し,適切な分娩時期を決定するのに有用となる。これらは選択的分娩に対しては,胎児心音,ヒト絨毛性ゴナドトロピン値,および超音波計測定値によって在胎週数を確定できないときは39週目までが適応となり,選択的分娩でないときは34週から36週目の間が適応となる。レシチン/スフィンゴミエリン比が2以上となり,ホスファチジルグリセロールが存在し,泡沫安定指数が47,および/またはサーファクタント/アルブミン比(蛍光偏光法によって測定)が55mg/gを超える場合は,RDSのリスクは低くなる。

治療

治療した場合の予後は非常によく,死亡率は10%未満である。十分な換気補助を行うだけでも,サーファクタントの産生がやがて始まり,一旦産生が始まればRDSは4〜5日で消失するが,一方で重度の低酸素血症では多臓器不全および死亡に至ることもある。

特異的治療はサーファクタントの気管内投与であり,これには気管内挿管が必要となるが,気管内挿管は十分な換気および酸素化を達成するためにも必要とされることがある。比較的未熟性の低い乳児(体重が1kgを超える)および酸素必要量が少ない乳児(吸気酸素濃度[Fio2]が40〜50%未満)は,酸素補給のみでよく反応する場合もある。

サーファクタントは回復を促進し,気胸,間質性気腫,脳室内出血,気管支肺異形成症のリスク,および入院中および1年後の新生児死亡率を低下させる。しかしながら,確立したRDSに対してサーファクタントの投与を受ける新生児は,未熟性による無呼吸のリスクが高まる。サーファクタント補充の選択肢には,ベラクタント(蛋白BおよびC,パルミチン酸コルホセリル,パルミチン酸,トリパルミチンを含有する脂質ウシ肺抽出物)100mg/kg,必要に応じて6時間毎,最高で4回投与;ポラクタントアルファ(リン脂質,中性脂質,脂肪酸,サーファクタント関連蛋白BおよびCを含有する改変ブタ由来肺ミンチ抽出物)200mg/kg,それに続いて100mg/kg,必要に応じて12時間毎に最高で2回投与;カルファクタント(リン脂質,中性脂質,脂肪酸,サーファクタント関連蛋白BおよびCを含有する子ウシ肺抽出物)105mg/kg,必要に応じて12時間毎,最高で3回投与などがある。投与後に肺コンプライアンスが急速に改善することがあるため,肺エアリーク症候群の危険性を減らすために,人工呼吸器の最大吸気圧を素早く下げなければならないことがある。人工呼吸器の他のパラメータ(例,Fio2,換気回数)も下げなければならないことがある。

予防

胎児を24〜34週で出産させなければならないとき,母親に対して少なくとも出産の48時間前に,ベタメタゾン12mg,24時間毎の2回投与,または,デキサメタゾン6mg,静注または筋注,12時間毎の4回投与を行うと,胎児のサーファクタント産生が誘発され,RDSのリスクが低下するか,RDSの重症度が軽くなる(分娩および出産時の異常と合併症: 早期陣痛を参照 )。

最終改訂月 2005年11月

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