メルクマニュアル18版 日本語版
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中心静脈栄養

定義上,経静脈栄養とは静注による投与である。部分的な経静脈栄養は経口摂取を補うものであり,1日の栄養所要量の一部だけを補給する。入院患者の多くは,この方法によりブドウ糖またはアミノ酸溶液を補給されている。中心静脈栄養(TPN)は1日の全栄養所要量を補給するものである。TPNは病院または在宅で使用できる。TPN輸液は高濃度であり,末梢静脈の血栓症を引き起こすことがあるため,通常,中心静脈カテーテルを必要とする。

適応症: TPNは消化管が機能していない患者に適応とされる。一般的だが検査では確認されていない適応として,7日を超える低栄養(代謝要求の50%未満しか満たしていない)の場合が見込まれている。重度の低栄養患者で多量の経口栄養を摂取できず,手術や放射線治療または化学療法が予定されている人に対しては,治療の前後にTPNを実施する。TPNは,大手術,重度の熱傷,頭部外傷の後の,特に敗血症の患者において,合併症の発現頻度および死亡率を低下させる。腸管の完全な休養を必要とする疾患(例,クローン病の病期の一部,潰瘍性大腸炎,重症の膵炎)または小児の消化管障害(例,先天奇形,原因を問わず長期にわたる下痢)の患者は,TPNで改善することが多い。

栄養素含有量: TPNには,水分(30〜40mL/kg/日),エネルギー(エネルギー消費量に応じて30〜60kcal/kg/日),アミノ酸(異化の程度に応じて1〜2.0g/kg/日),必須脂肪酸,ビタミン,およびミネラルが必要である(栄養の補給: 中心静脈栄養のための成人1日当たりの基本必要量表 2: 表を参照)。TPNを必要とする小児の必要輸液量は様々であり,エネルギー(120kcal/kg/日)およびアミノ酸(2.5〜3.5g/kg/日)の必要量はより多くなる。

表 2

中心静脈栄養のための成人1日当たりの基本必要量

栄養素

水分(/kg体重/日)

30-40

mL

エネルギー*

   

一般患者

30

kcal

術後の患者

30-45

kcal

異化亢進状態の患者

45-60

kcal

アミノ酸(/kg体重/日)

   

一般患者

1.0

g

術後の患者

2.0

g

異化亢進状態の患者

3.0

g

ミネラル

   

酢酸/グルコン酸

90

mEq

カルシウム

15

mEq

塩化ナトリウム

130

mEq

クロム

15

μg

1.5

mg

ヨウ素

120

μg

マグネシウム

20

mEq

マンガン

2

mg

リン

300

mg

カリウム

100

mEq

セレニウム

100

μg

ナトリウム

100

mEq

亜鉛

5

mg

ビタミン

   

アスコルビン酸

100

mg

ビオチン

60

μg

コバラミン

5

μg

葉酸

400

μg

ナイアシン

40

mg

パントテン酸

15

mg

ピリドキシン

4

mg

リボフラビン

3.6

mg

チアミン

3

mg

ビタミンA

4000

IU

ビタミンD

400

IU

ビタミンE

15

mg

ビタミンK

200

μg

*体温が1℃上昇する毎にエネルギー必要量が12%増大する。

基本的なTPN輸液は,標準的な処方に従い,滅菌法を用いて通常リットル単位で調製される。通常,標準輸液2L/日が必要である。臨床検査結果,基礎疾患,代謝亢進またはその他の因子に基づき,輸液を補正する。必須脂肪酸およびトリグリセリドを補給するため,市販の脂肪乳剤を加えることが多く,通常,全カロリーの20〜30%を脂質として与える。しかし,脂質とそのカロリーを抑えられれば,肥満患者は内在する蓄積脂肪を動員し,インスリン感受性を高めることができる。

TPN輸液: 多くのTPN輸液が一般的に使用されている。電解質は患者の必要量に合わせて追加できる。透析を受けていない腎不全患者または肝不全患者には,蛋白含有量を減らし,必須アミノ酸の割合を高めた輸液が必要である。心不全または腎不全患者では,摂取量(液量)を制限する必要がある。呼吸不全の患者では,炭水化物の代謝によるCO2産生を最小限に抑えるため,非蛋白カロリーの大半を脂肪乳剤によって与えるものとする。新生児の場合は,ブドウ糖濃度を下げる必要がある(17〜18%)。

TPN開始にあたっての注意: 中心静脈カテーテルは長期にわたって留置する必要があるため,挿入と保持には厳密な滅菌方法を用いなければならない。TPN輸液ラインを他の目的に用いてはならない。外部輸液配管セットは24時間毎に取り替えるものとし,1日の最初の輸液バッグと同時に取り付ける。経路内フィルターについては議論の余地があり,有用ではない場合がある。包帯は滅菌状態を保持する必要があり,通常,48時間毎に厳密な滅菌方法を用いて交換する。病院外でのTPN投与に関しては,感染の症状を患者に教え,質の高い家庭看護ができるよう配慮しなければならない。

輸液は必要量の50%からゆっくりと開始し,5%のブドウ糖液により,水分出納を調節する。エネルギーと窒素は同時に投与しなければならない。レギュラーインスリン投与量(TPN輸液に直接加える)は血糖値によって決まるが,血糖値が正常であり,最終的な輸液に通常の25%ブドウ糖が含まれている場合,通常のレギュラーインスリンの開始用量はTPN輸液1L当たり5〜10単位である。

モニタリング: 経過はフローチャートで追跡するのが望ましい。可能であれば学際的な栄養チームを組織して患者をモニタリングするとよい。体重,CBC(全血球計算),電解質およびBUN(血中尿素窒素)は頻繁に測定する必要がある(例,入院患者では毎日)。血糖値は安定するまで6時間毎に測定する。水分の摂取量および排泄量は継続的に測定すべきである。患者が安定している場合は,血液検査の頻度を大幅に減らしてよい。

肝機能検査は実施すべきである。血漿蛋白(例,血清アルブミン,トランスサイレチンまたはレチノール結合蛋白),プロトロンビン時間,血漿浸透圧および尿浸透圧,カルシウム,マグネシウムおよびリン酸(ブドウ糖注入時を除く)は週2回測定する。全栄養評価(BMIの算出および人体計測を含む―低栄養: 身体診察を参照 および肥満および代謝症候群: 身体組成分析を参照 )は2週毎に繰り返し実施する必要がある。

合併症: 栄養チームによる厳重なモニタリングにより,合併症の率が5%未満になることもある。合併症は,中心静脈カテーテル(重症患者へのアプローチ: 中心静脈ライン関連の合併症を参照 表 5: 表)または栄養の処方内容と関連することがある。

ブドウ糖異常 は一般的にみられる。高血糖は,血糖値を頻繁に測定し,TPN輸液のインスリン用量を調節するほか,必要に応じてインスリンを皮下投与することによって回避できる。低血糖は,高濃度ブドウ糖の持続注入を突然停止することによって起こりやすい。治療は,低血糖の程度により,中心静脈カテーテルによるTPN再開前の24時間,50%ブドウ糖を静注するか,5%または10%のブドウ糖を注入する。

血清電解質およびミネラルの異常 があれば,その後の輸液を調整することにより補正し,緊急に補正が必要であれば,適切な末梢静脈輸液を用いる。輸液が適切に投与されている場合,ビタミンおよびミネラルの欠乏はまれである。BUNの上昇は脱水状態を反映しており,末梢静脈を介した5%ブドウ糖液により自由水を投与することによって補正できる。

1日当たりのエネルギー必要量が大きく,大量の輸液量を必要とする場合, 容量過負荷(1kg/日を超える体重増加によって示唆される)が生じる。

3カ月間以上TPNを受けている患者の中には,代謝性骨疾患または骨の石灰化減少(骨粗鬆症または骨軟化症)が発生する人もいる。このメカニズムは明らかではない。疾患の進行により,関節周囲,下肢および背部に激しい痛みが起きることがある。治療法としては,一時的または恒久的にTPNを中止する以外にはない。

脂肪乳剤の副作用(例,呼吸困難,皮膚のアレルギー反応,悪心,頭痛,背部痛,発汗,眩暈)がみられることはあまりないが,特に1.0kcal/kg/時を超える脂質を投与したときには,当初,副作用が起きることがある。一時的な高脂血症が,特に腎不全または肝不全の患者にみられることがあるが,通常,治療は必要ない。脂肪乳剤の遅延型の副作用には,肝腫大,肝酵素値の軽度上昇,脾腫,血小板減少,白血球減少のほか,特に呼吸促迫症候群の早産児に,肺機能異常がみられる。脂肪乳剤の投与を一時的または恒久的に中止するか,投与速度を遅くすることにより,このような副作用を防止し,最小限に抑えられる。

肝合併症には,肝機能障害,痛みを伴う肝腫大および高アンモニア血症がある。これらはいずれの年齢でも起こるが,乳児,特に早産児(肝が未発達である)に最も一般的にみられる。TPNの開始時には,トランスアミナーゼ,ビリルビンおよびアルカリホスファターゼの上昇が示す一時的な肝機能障害がよくみられる。遅延型または持続型の値の上昇は,過剰量のアミノ酸から生じるものである。病因はわかっていない。寄与因子はおそらく胆汁うっ滞および炎症である。ときに進行性の線維症が発現する。蛋白の投与を減らすと効果があることがある。痛みを伴う肝腫大は脂肪蓄積を示唆しているので,炭水化物の補給を減らさなければならない。乳児の場合は高アンモニア血症を来すことがある。徴候は,嗜眠,攣縮および全身性けいれん発作である。補正は,0.5〜1.0mmol/kg/日のアルギニン補給によるものとする。肝合併症を発症している乳児の場合は,アミノ酸を1.0g/kg/日に制限する必要がある。

胆嚢の合併症には胆石症,胆泥および胆嚢炎がある。このような合併症は,長期の胆嚢うっ滞から生じ,悪化することもある。カロリーの約20〜30%を脂肪により補給し,1日に数時間ブドウ糖の注入を停止することによって収縮を促進させるとよい。経口または経腸摂取も有用である。胆汁うっ滞患者に,メトロニダゾール,ウルソデオキシコール酸,フェノバルビタールまたはコレシストキニンによる治療が有用である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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