メルクマニュアル18版 日本語版
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下痢

(吸収不良症候群を参照 ,炎症性腸疾患も参照 ,小児の下痢については正常な乳幼児や小児の治療へのアプローチ: 下痢を参照 。)

便の水分含有量は60〜90%である。欧米では,便の量は健康な成人で100〜300g/日,乳児で10g/kg/日で,非吸収性食物(主に炭水化物)の量によって異なる。一般に,便の量が300g/日を越える場合に下痢とみなされる。しかしながら,一般大衆のこの用語の使い方は様々である。

病因と病態生理

下痢は主に便中の過剰な水分が原因となって起こるが,この過剰な水分は,感染性,薬剤性,食事関連性,外科的,炎症性,通過関連,吸収不良性の原因で生じうる。これらの原因は次の4つの異なる機序によって下痢を引き起こす:浸透圧の上昇,分泌の増加,炎症,および吸収時間の短縮。逆説的下痢は,宿便の周囲から漏れ出す便が原因で生じる。急性下痢(4日未満)は,主に食中毒または感染症(胃腸炎を参照 )などの自己限定性疾患に起因する。

あらゆる病因の下痢から合併症が起こりうる。時に,体液喪失による脱水,電解質喪失(Na,K,Mg,Cl)に加えて,血管虚脱も起こる。虚脱は,重症の下痢患者(例,コレラ患者),非常に若い患者,高齢の患者,衰弱した患者では,急激に起こりうる。HCO3 の喪失は,代謝性アシドーシスを引き起こしうる。低カリウム血症は,重症もしくは慢性下痢患者,または便に過剰な粘液が含まれている場合に起こりうる。長期下痢後の低マグネシウム血症はテタニーを引き起こしうる。

浸透圧性下痢 は,非吸収性の水溶性溶質が腸内に残留し水分を貯留させる場合に起こる。そのような溶質には,緩下剤として使用されているポリエチレングリコール,マグネシウム塩(水酸化マグネシウムおよび硫酸マグネシウム),リン酸ナトリウムなどがある。浸透圧性下痢は糖不耐症(例,ラクターゼ欠乏による乳糖不耐症)で起こる。ヘキシトール(例,ソルビトール,マンニトール,キシリトール)は,キャンディーおよびガムに砂糖の代用品として使用されているが,吸収されにくいため,大量に摂取すると浸透圧性下痢が起こる。緩下剤として使用されているラクツロースも同様の機序により下痢を引き起こす。特定の果物(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 下痢を悪化させる可能性がある食事因子表 3: 表)の過剰摂取によって浸透圧性下痢が起こることがある。

表 3

下痢を悪化させる可能性がある食事因子

食事因子

供給源

カフェイン

コーヒー,紅茶,コーラ,頭痛のOTC薬

果糖(腸管の吸収能力を上回る量)

リンゴのジュース,セイヨウナシのジュース,ブドウ,蜂蜜,ナツメヤシの実,ナッツ,イチジク,ソフトドリンク(特に果物風味)

ヘキシトール,ソルビトール,マンニトール

リンゴのジュース,セイヨウナシのジュース,無糖ガム,ミント

乳糖

牛乳,アイスクリーム,フローズンヨーグルト,ヨーグルト,ソフトチーズ

マグネシウム含有制酸薬

制酸薬

ショ糖

砂糖

Adapted from Bayless T: Chronic diarrhea. Hospital Practice Jan. 15, 1989, p 131; used with permission.

分泌性下痢は,腸の電解質と水分の分泌が吸収を上回った場合に起こる。分泌促進物質として,細菌毒素(例,コレラおよびクロストリジウム-ディフィシル 大腸炎),腸管病原性ウイルス,胆汁酸(例,回腸切除後),非吸収性の食事脂肪,多くの薬物(例,キニジン,キニン,コルヒチン,SSRI,コリンエステラーゼ阻害薬,アントラキノン下剤,ヒマシ油,プロスタグランジン)などがある。VIP産生腫瘍(血管作動性腸管ペプチド),ガストリノーマ(ガストリン),肥満細胞症(ヒスタミン),甲状腺髄様癌(カルシトニン,プロスタグランジン),カルチノイド腫瘍(ヒスタミン,セロトニン,ポリペプチド)など,様々な内分泌腫瘍が分泌促進物質を産生する。特に60歳以上の女性では,まれではあるが,顕微鏡的大腸炎(膠原性またはリンパ球性大腸炎)によって分泌性下痢が起こる。

炎症性下痢は,感染症および粘膜炎症や潰瘍を引き起こす疾患(クローン病,潰瘍性大腸炎,腸結核,リンパ腫,癌)で起こる。結果として生じる血漿,血清蛋白,血液,粘液の滲出によって,便の容量および水分含有量が増加する。炎症を起こした直腸は,膨張に対してより敏感であるため,直腸粘膜が侵されると便意切迫および排便回数の増加を来しうる。

吸収時間の短縮による下痢は,糜汁が消化管の適切な吸収面に十分長く接触していないため便中に大量の水分が残留する場合に起こる。接触時間を短縮させる因子として,小腸または大腸切除術,胃切除術,幽門形成術,迷走神経切断術,腸管の外科的バイパス術,腸管平滑筋を刺激することによって通過を促進する薬物(例,マグネシウム含有制酸薬,緩下剤)または液性因子(例,プロスタグランジン,セロトニン)などがある。

吸収不良に関連した下痢の発生機序は,浸透圧性または分泌性であると考えられる。非吸収物質が大量に存在し,水溶性で,低分子量であれば,発生機序は浸透圧性であると考えられる。脂肪性下痢の発生機序は浸透圧性ではないが,一部の脂肪(脂肪酸,胆汁酸)は分泌促進物質として作用し,分泌性下痢を引き起こす。全身性吸収不良(例,非熱帯性スプルー)では,脂肪吸収不良が結腸の分泌性下痢の原因となり,炭水化物吸収不良が浸透圧性下痢の原因となる。吸収不良に関連する下痢は,狭窄腸管,強皮症の腸病変,手術によって形成されたループで起こるような,糜汁の通過が延長したり,小腸内で細菌が増殖した際に起こりうる。

評価

病歴: 下痢の持続期間および重症度,発症の状況(最近の旅行,摂取した食物,水の供給源,過去3カ月以内の抗生物質の使用をはじめとする薬物の使用など),腹痛または嘔吐,排便の回数およびタイミング,便の特徴の変化(例,血液の存在,色または硬さの変化,脂肪便の所見),関連する体重または食欲の変化,便意切迫またはしぶり腹に注意すべきである。

症状は腸の患部の同定に有用である。一般に,小腸疾患では,便は多量で,水様便または脂肪便である。結腸疾患では,排便回数が多く,便の量は時に少なく,おそらく血液,粘液,膿,腹部不快感を伴う。直腸粘膜の疾患では,直腸は膨張に対してより敏感で,便の量は少なく,排便回数は多いであろう。

身体診察: 体液および水分補給状態を評価すべきである。腹部を中心とした全身の診察,括約筋の機能を調べる直腸指診,便潜血検査は重要である。病因を示唆する腹部外所見として,皮膚病変または紅潮(肥満細胞症),甲状腺結節(甲状腺髄様癌),右心系雑音(カルチノイド),リンパ節腫脹(リンパ腫,AIDS),関節炎(炎症性腸疾患,セリアック病)などがある。

検査: 急性下痢(4日未満)は一般に検査を必要としない。例外となるのは,脱水,血便,発熱,重度の疼痛,低血圧,または毒性の徴候がある患者,特に非常に若い患者または非常に高齢の患者である。これらの患者については,CBC,電解質,BUN,クレアチニンの測定を行うべきである。顕微鏡検査,培養,便中白血球検査用の便サンプルのほか,最近,抗生物質を使用した場合には,クロストリジウム-ディフィシル毒素検査用の便サンプルを採取すべきである。

慢性下痢(4週間以上)がある場合は,評価を行う必要があり,免疫不全患者または重大な疾患と思われる患者では,これよりも短期間(1〜3週間)の下痢について評価を行う必要がある。初期の便検査として,培養,便中白血球(塗抹標本または便中ラクトフェリン測定によって検出),虫卵や寄生虫の顕微鏡検査,pH(非吸収性炭水化物の細菌発酵によって便のpHが6.0未満に低下),脂肪(スダン染色による),電解質(NaおよびK)の検査を行うべきである。標準病原体が見つからない場合は,ランブル鞭毛虫抗原,エロモナスプレシオモナスコクシジウム,微胞子虫の特異的検査を行う必要がある。続いて,炎症性原因を調べるために,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査と同時に生検を行うべきである。

診断が不明で,スダン染色が脂肪陽性である場合は,便中脂肪排泄量を測定し,続いて高位浣腸法による小腸造影または腹部CT(器質的疾患),および小腸内視鏡による生検(粘膜疾患)を行うべきである。評価で依然として陰性所見が確認される場合は,膵臓の構造および機能の評価(膵炎: 臨床検査を参照 )を行う必要がある。

便の浸透圧ギャップは,290 2 ×(便中Na +便中K)で計算され,分泌性下痢か浸透圧性下痢かを示す。浸透圧ギャップが50mEq/L未満の場合は分泌性下痢,それよりも大きなギャップの場合は浸透圧性下痢であることが示唆される。浸透圧性下痢患者には,マグネシウム緩下剤摂取(便中マグネシウム濃度によって検出可能)または炭水化物吸収不良(水素呼気検査,ラクターゼアッセイ,食事の点検によって診断)が隠れている可能性がある。

診断未確定の分泌性下痢は,内分泌に関連した原因を調べる検査(例,血漿ガストリン,カルシトニン,VIP濃度,ヒスタミン,尿中5-ヒドロキシインドール酢酸[5-HIAA])を行う必要がある。甲状腺疾患および副腎不全の徴候および症状を検討すべきである。ひそかに緩下剤を乱用している可能性も考慮すべきである。これは便の緩下剤アッセイで除外できる。

治療

重度の下痢では,脱水,電解質平衡異常,アシドーシスを治療するために,輸液および電解質の補給を行う必要がある。一般に,NaCl,KCl,ブドウ糖含有の非経口輸液が必要である。血清炭酸水素イオン濃度が15mEq/L未満の場合に,アシドーシスを補正する塩(乳酸ナトリウム,酢酸炭酸水素ナトリウム)の適応となることがある。重度の下痢でなく,悪心および嘔吐がほとんどない場合は,ブドウ糖電解質液を経口投与できる(脱水症および輸液療法: 溶液を参照 )。水分および電解質を大量に補給する必要がある場合に,経口および非経口輸液を同時に投与することがある(例,コレラ)。

下痢は一種の症状である。できれば,基礎疾患を治療すべきであるが,しばしば対症療法が必要となる。経口ロペラミド2〜4mg,1日3回もしくは1日4回,ジフェノキシレート2.5〜5mg(錠剤または液剤),1日3回もしくは1日4日,リン酸コデイン15〜30mg,1日2回もしくは1日3回,またはparegoric(カンフルアヘンチンキ)5〜10mL,1日1回から1日4回投与することによって,下痢が緩和しうる。

止瀉薬の使用によって,クロストリジウム-ディフィシル大腸炎が悪化したり,志賀毒素産生性大腸菌感染症では溶血性尿毒症症候群が起こる可能性が増大したりする恐れがあるので,原因不明の血性下痢に対して止瀉薬を使用してはならない。止瀉薬は全身毒性の徴候が認められない水様下痢患者に限定して使用すべきである。しかしながら,止瀉薬による病原菌の排泄の延長に関する先の懸念を正当化するだけの証拠はほとんどない。

オオバコまたはメチルセルロース化合物は便の容量を増加させる。膨張性下剤は,通常,便秘に対して処方されるが,少量では液状便の流動性を低下させる。カオリン,ペクチン,活性アタパルジャイトは液体を吸収する。浸透圧に影響を及ぼす食物中の物質(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 下痢を悪化させる可能性がある食事因子表 3: 表参照)および刺激性薬物を避けるべきである。.

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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